寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第46話 雨曝しの人形劇

メディスンさんが私のことを心配してくれているのはわかります。ですが、隠れ家さんを悪と決めつけている言い方はちょっと許せません…どれだけの覚悟を決めて、私のボディに移ったのかを知っていますから。

 

「メディスンさん。私はもう乗っ取られているとも言えます」

「―――っ!?」

「私はこんな流暢に喋ることはできませんでした。豹さんと過ごした記憶なんて持っていませんでした。

こんなに強い魔力は貰っていませんでした。全て、隠れ家さんがくれたものなんです。

隠れ家さんが私のボディに宿らなければ、私は以前お会いした時と変わらずご主人様の傍に控えるだけの人形だったでしょう」

「…そうね。私の知る上海はアリスの操り人形だったわ」

「では、今の私をメディスンさんは上海と呼べますか?」

「―――呼べない。たしかに、もう乗っ取られてると言った方が正しいみたいだわ」

 

同じ自立意識を持った人形として、メディスンさんとは仲良くしたい。だからこそここで、お互いはっきりとぶつかり合っておかないと、これから先ずっとすれ違ってしまいます。

 

「では、乗っ取られた人形である私をメディスンさんはどうしますか?」

「………あんたが上海から出て行けば何もしないわ」

「私は上海です。ご主人様は私が上海だと認めてくれました。

 ご主人様が認めてくれたからには、私はこのボディを使って目的を果たします」

「アリス、どうして!?」

「問題なく耐えられる程度の負担だからよ。そうでなければ私が追い出してるわ。

 それに、上海としての記憶を失わずに私を主人と呼べるのなら何も変わらないのよ。

 私の創り上げた上海が、言葉と記憶と魔力を手に入れただけだわ」

「だけって!そんな一言で片付けないでよ!

 一つのボディに二人入るなんて、今大丈夫でも長くはもたないじゃない!!」

 

矛先がご主人様に向いてしまいましたが、今会話しなくてはいけないのは私―――術式を起動!

 

「私のことを心配してくれているのはわかります。ですが、お話ししたとおり大丈夫なんです。

 ですから、メディスンさん自身で確かめてください。納得するまで、付き合ってもらいます!」

「えっ…どうして、大きく!?」

 

さっきこの術式を試す機会があったのは本当に幸運でした…!私一人での戦闘行為はそれなりの強さを持っていて、かつやり過ぎてしまっても復活できるあの氷精で試してみるのが理想でしたが。メディスンさんには、私が向き合わなければなりません。同じ人形として…わかり合うために!!

 

「隠れ家さんの魔力だけを使ってお相手します。ご主人様の魔力だけが残るまで、メディスンさんが私の相手をしてもらえればお互い納得できますよね?メディスンさんの力で、私に宿った隠れ家さんを追い出したことになるのですから。

そのかわり、私も隠れ家さんの魔力が尽きるまでは全力を出させてもらいますが!」

「…やってやるわよ!人形に無理をさせる奴は、私が許さない!全力でそこから追い出してやる!」

 

たとえ隠れ家さんの魔力を使い果たしても、カナさんに隠れ家に残った魔力を私と繋いでもらえれば補充出来ます。そういう意味では、メディスンさんを騙すことになりますが…ご主人様の魔力だけで動く私を見せればメディスンさんも諦めは付くはずです。

ご主人様の魔力だけ残っていれば、同化した隠れ家さんが私を乗っ取ることは出来なくなる…それは、私と同じ人形であるメディスンさんにはわかることですから。私は隠れ家さんの魔力を使い果たすまで、メディスンさんの攻撃に耐え続ければいいだけです!!

 

 

 

 

 

「――アリス、前衛後衛に分かれましょう。霊体である私たちの方が毒が回り辛いから私とメルランで前に出る。アリスとカナは私たちで対処できなかった流れ弾を止めて」

「…お願いするわ。カナは障壁魔法使えるかしら?」

「無理よ!標識で叩き落とすぐらいはできるけど…」

「なら、ゴリアテをカナと繋ぐから最後の手段として連れて行って。ゴリアテにカナが魔力を送れば巨大化する。前やり合った時のように盾として使いなさい…この使い方は不本意だけど、幽香の機嫌を損ねるよりはマシだわ」

 

トリップワイヤーの応用――カナとゴリアテに魔力のパスを繋ぐ。上海は意外と冷静だったけど、メディはそうもいかない。さっき試したばかりのゴリアテ術式を使ったのはなるべく早く魔力を使い切るためでしょうけれど…随分とリスクの高い手段を使うわね。そういう意味では、あの隠れ家の意思による影響は間違いなく上海にも及んでいるか。

 

「うぅ、ごめんねゴリアテちゃん」\……/

「なるべく私と姉さんで止める努力はするけど、得意分野は精神干渉だからあまり自信は無いわ。あまり役に立てなかったらごめんね…!」

 

ルナサとメルランがメディと太陽の畑の間に陣取る。私とカナも早く移動しないとね…!

 

 

 

 

 

「この雨じゃ、毒霧は意味が無い。そもそも私と同じ人形に毒は効かないわ。人形解放のためには、毒が効かない相手とも戦わなくちゃならないっていうのを、よりによって同じ人形相手に思い知らされるなんてね!」

「メディスンさんが人間を信じられないのは仕方ないことです。ですが、人間の操り人形として過ごすことに満足している人形もいます。これから先も、人形同士でぶつかることは何度もあると思ってください!」

 

夜叉は使えません。メディスンさんを斬り捨てることは出来ませんし、せっかくの名刀を毒で腐食なんてさせたら豹さんと隠れ家さんに顔向けできません。それなら魔力消費の激しいこの姿になる必要なんて本来は無いのですが…今後夜叉に頼るとき、この姿での間合いや魔法の燃費悪化を知っておかなければ使いこなす前にやられてしまいます。

でも、メディスンさんなら…私のボディが修復不可能になるような攻撃はしたくないでしょう。私の魔力枯渇を目標にした遅延戦術がメインになるはず。その目論見を逆用して、私がこの姿での戦闘に慣れるための相手になってもらいます。

 

「でも、的が大きくなったとも言えるわよ!避けきれるかしら!?」

 

初手は牽制も含めた乱射。たしかに被弾する可能性は上がりますが、この姿になったことで力技という手段が取れるようになっています!

 

「避ける必要なんてないです。打ち返しますから!」

「えぇっ!?」

 

ご主人様の組み上げたゴリアテちゃんの術式は、ボディだけでなく装備にも作用します。

そう、使い慣れた私の騎槍(ランス)もこの姿と同じ倍率で巨大化し、今までと同じように扱えます。そして、今までは小さかったゆえに相手への直接攻撃にしか使えませんでしたが…大型化し質量が増えたことによって、乱射される程度の小型弾なら防ぐだけでなく打ち返すことさえできるようになっています!

 

「ちょっと!?弾幕ごっこでそれはどうなのよ!」

「弾幕ごっこなんて最初から言っていませんよ!私はスペルカードなんて持っていませんから!」

「そうだった。これは解放のための戦いだものね、もう私も遠慮しない!」

 

次は打ち返すと損傷してしまいそうな大弾の連射です。これは避けるしかないので、撃たれ続けるわけにはいきません。でしたら、こちらからも撃たなければ!

 

「《模倣・黒の魔法》!」

 

威力も弾数もご主人様とは比べるのが失礼なほど足りませんが、弾幕にはなっています!メディスンさんが回避行動を優先する程度には!

 

「うっ!?なによ、スペルカードできてるじゃないっ!」

「再現しきれていませんから!ご主人様の模倣をスペルカードにするのであれば、もっと完成度を高めてからでないと失礼になりますので!」

「ご主人様って、それだけ一人で戦えるのに、どうしてまだ操り人形でいるのよ!?」

「私一人で戦えているのは、二人分の魔力を貰えたからです!私一人では、メディスンさんにこうして食い下がることすら出来ません!」

「…今のままでは同志になってくれそうもないし、追い出したら操り人形に戻っちゃう。どうして、同じ人形を救おうと考えてくれないのよ!?」

「救うべき人形は私だって救いたいです。ですが、今のままが幸せという人形もたくさんいるんです、私の妹たちのように!

メディスンさんの理想を否定はしませんが、救う必要が無い人形まで開放するのは反対です!」

「―――本当に、どうしてそこまで人間を信じられるのよ!?」

「私には素敵なご主人様がいるからです!!」

 

メディスンさんは、製作者にも主人にも恵まれなかった。それが原因で人間を恨んでしまうのは仕方ありません。

ですが、私は周囲に恵まれていました。素敵なご主人様、大切な妹たち…みんなをメディスンさんの理想に巻き込むわけにはいかないのです!

 

「これで…っ!」

「きゃっ!?…でも、私にそれは間違いよ!」

 

黒の魔法…乱射したレーザーに身を隠すような接近で突きを繰り出しますが、追加の大弾を避けたことで軌道がぶれて躱されてしまいました。そしてそのまま掴まれてしまう…これは腐食される前に強引に押し切るしかないですね!

 

「術式解除!」

「なっ!?」

 

元のサイズに戻ることによって騎槍をメディスンさんの手から引き離します。そして、この至近距離なら外さない…!

 

「《模倣・青の魔法》!」

「霧符《ガシングガーデン》!」

 

でもお互い同じ考えでした…!至近距離での乱射、これは避けきれないっ!

 

「「きゃぁっ!」」

 

―――相打ちですか。ごめんなさい、ゴリアテちゃん。私は使いこなすのに時間がかかってしまいそうです……

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、メディスンさん。今の私なら、上海と名乗ってもいいですよね」

「…ええ。たしかに、アリスの魔力しか残ってない。でも、二人いる。

上海、本当に大丈夫なの?魔力を使い切られたのにまだ消えないなんて、私は怖いわ」

 

お互いに墜落した地面で言葉を交わします。雨と泥で洋服がひどいことになってしまいましたが、今回に限っては仕方ないですよね…

 

「信じてください。隠れ家さんは、私のボディを利用するのは確かですが…

その目的は、私もお手伝いしたいんです。もう一度、豹さんと隠れ家さんに会ってもらいたい」

「そう…わかった。もう私も止めないわ。でも、本当に気を付けてよ?

もし乗っ取られた時は、私はアリスを許さないからね?」

「…そこで私じゃなくてご主人様なんですか。メディスンさん、ご主人様は…」

「さんはいらないわ。メディスンかメディでいい。

アリスのことを信じてほしいなら、もっと私に話を聞かせて。ゆっくり話せるときでいいから」

「―――はい!メディ、時間があるときに、必ず」

 

 

 

 

 

「お疲れ様アリス~!ごめんね、半分ぐらい任せちゃったわ」

「これぐらいなら問題ないわ。私からすればメルランとルナサで半分止めてくれて助かったわけだしね」

「…蓬莱とオルレアンだったかしら。二人もありがとう」

\ホラーイ/\……♪/

「うう、結局わたしほとんど役に立ってないわ…」\……/「ゴリアテちゃんもごめんね…私が手を回しきれなかったせいで盾にしちゃって」

 

相打ちという結果だったけれど…上海は私の想像以上に独力で戦えていたわ。特に青と黒の魔法を模倣したのには驚かされた。純粋に魔力量を増やせれば、一流の魔法使いに手が届くかもしれないわね。

 

「それで…向こうから来てくれたけれど。上海の回収を急いだほうがいいんじゃない?」

「っ!……そうね。メディも一緒に連れてくるわ」

 

太陽の畑に建つ小屋から傘を差してフラワーマスターがゆっくりと歩いてくる。

本当に大変なのはこれからだわ。気を引き締めないとね。

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