寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第49話 妖精の師匠

私の家に戻る前、留守番組の人形たちにまず用意させておいたことは。

 

「上海、とりあえず予備の服に着替えなさい」

「あ、わかりました!それじゃみんな、洗濯よろしくね」

 

メディとの戦闘で派手に汚してしまったから、このまま室内に入れたくなかったのよね。あくまで予備だから戦闘に耐えられるような服ではないのだけれど、今日はメルランも同行してくれているし、上海を前面に出す戦闘状況にしないよう立ち回ればいい。

 

「…え~っと、上海ちゃん?いや、気にする必要ないのかもしれないけど、何のためらいもなく外で服を脱ぎだすのはちょっとどうかと思うんだけど」

「うん…危ない趣味の男が見たらとってもまずいことになりそうね~…」

「――え?私何かおかしいことしてるのでしょうか!?」

「…ええ、人形である上海が持ち合わせてないのは仕方ないのでしょうけれど。

今後メディスンより大きくなることが増えるのなら、異性の視線と羞恥心は理解しないと駄目よ」

 

…いけない、私が先に気付くべきことをカナたちに突っ込まれてるわ。手のかからない人形である上海にも、欠点はやっぱりあるものなのね。まさか着替えろと命じたらその場で脱ぎだすなんて思いもしなかったわ。

 

「ええと、私のボディを性欲のはけ口として見る男性もいるということですね…考えたこともありませんでしたが、たしかに巨大化した私なら有り得ないわけではないですか。気を付けます」

 

これだけの説明で察してくれるあたり、本当に手のかからない子なんだけど。

 

「あ、アリスさん!?いい加減この人形たちどうにかしてー!」

「呼ばれて来たのにこの仕打ちはひどいですよー!」

 

…流石に妖精じゃ私の人形の監視は恐怖にしか感じなかったようね。

 

 

 

 

 

「待たせて悪かったわ。報酬のコーヒーは受け取ったのよね?」

「もらったけど、持ってきてくれた人形すらじーっと見つめてきて怖かったわ!」

「落ち着かなかったですよー!リリーが一体何をしたというのですかー!?」

 

ルナチャイルドとリリーホワイトがぷんすかと怒っているけれど、全く怖くない。そもそも私の人形たちに恐怖を感じるようではネクロマンサーなんかを相手にしたら卒倒するわね。所詮妖精なのだから仕方ないけど。

 

「ごめんねリリー、どうしても話を聞きたくて」

「あれ、カナさん?豹さんのお家以外で会うのははじめてですねー」

 

カナがリリーホワイトに好意的に見られてるのは助かるわ。妖精は思考能力に乏しい個体がほとんどなせいで、自身の弱さを理解せず悪戯を仕掛けてくる。私たちのように一蹴できるのであれば鬱陶しいだけで済むのだけど、人里の無力な人間からすれば冗談で済まない被害を被ることもある。

命に関わるほどのことは滅多にないとはいえ、物損に関してはそれなりに被害が出ているらしく人間が捕まえた妖精を私刑に処すことは珍しくない。というか人里の名家である稗田家当主が妖精はそのように扱うべきという方針を打ち出している。

 

その結果、ますます妖精は他種族に対して攻撃的になっている。要するにチルノのような妖精が圧倒的多数で、会話の通じる妖精の方が貴重。その貴重な妖精であるリリーホワイトから面倒なく情報を引き出せるカナがいるのは、余計な手間がかからないという点で運が良かったわね。

 

「その豹が出て行っちゃたのよ。リリーのところに逃げ込んでたりしないかな~?」

「ええっ、豹さんいなくなっちゃったんですか!?そんなー…外に出たからこれから会いに行くつもりだったので、リリーのところに豹さんは来てないですよー」

「そっか…じゃあやっぱり夢幻館ってところなのかなあ?」

 

とりあえずリリーホワイトは頼っていないと。そうなると逆に夢幻館に居なかった場合手詰まりになるわね…今思えばルイズは絶妙なタイミングでこっちに来てくれたわけか。

 

「…リリー、豹って誰よ?」

「う~ん…リリーにとっては魔法の師匠なんですけど、ルナちゃんはあまり深く関わらない方がいいと思います。カナさんが話してくれたように逃げてる人なので、悪戯なんてしたら容赦なく反撃されます。前にチルノちゃんを素手で何もできないように黙らせてたので、ルナちゃんたちのいつもの考えだと同じ目に遭うと思うのですよー」

「怖っ!なんでそんなのを師匠なんて呼んでるのよ!」

「リリーは春を告げに行ったときに豹さんと出会ったので、最初から優しくしてもらえましたからねー」

 

…魔界人と思えない対応ね。そういえば魔界人でありながら随分と魔力を抑えてた以上、大掛かりな攻撃魔法を使えず自己強化魔法で肉弾戦を挑んだということでしょう。

―――いえ、それはおかしい。上海を相手にしたときは。

 

「そういえば上海、豹と戦闘になったとき空間魔法を使われたと言ってたけど…あれだけ魔力を押さえてたのに豹は空間魔法を使ったの?」

「あっ…!そういえば!」

 

空間魔法なんて高位の魔法、あれだけの魔力で行使できるはずがない!なぜ今まで見落としてたのかしら!

…でも、それに対する答えはあっさり出されてしまったわ。

 

「あ、それは豹さんの魔力を付与した魔法具を使ったんだと思うのですよー。いかに少ない魔力で空間魔法を行使するかというのは、豹さんがずーっと研究してたので」

「…あなた、妖精とは思えないことを知ってるわね」

 

リリーホワイトが答えを教えてくれたけれど、ルナサが思わずといった風に疑問を口に出したわ。私もまったく同感。

 

「そもそも豹さんがリリーに魔法を教えてくれるきっかけになったのが空間魔法なのですよー。リリーが短距離ならテレポートできることを豹さんにお話ししたら、妖精の魔力量でも連続使用できることが気になったみたいで。一緒に研究することでリリーも豹さんから魔法の知識を教えてもらったのですよー」

「豹らしいわね~。私や姉さんの音も研究のために聞かせてほしいなんて頼んできたこともあったもの~」

 

なるほどね。魔法の研究に関して必要なら、妖精にすら親身に相手していたということ。

…ルナサが悪人とは思えないと言っていたけれど、悪人どころかお人好しなのでしょうね。逃亡者とは思えないぐらいに。

 

「アリスさん…私、もう帰りたい…」

「そうね。一人だけ蚊帳の外になってるから仕方ないか。

―――ただ、最後に一つ手を貸しなさい。拒否権は無いわ」

 

ルナチャイルドでも隠し持てるサイズの小さな露西亜人形をその肩に座らせる。

 

「明日、霊夢が博麗神社から出るのを確認したらその人形に伝えなさい。それさえやれば私がその人形を回収するわ。報酬は今この場から何も手出しせず帰すこと。文句ないわね?」

「コーヒーだけで十分よ…リリー、後はよろしく」

「ちょっと…ルナちゃん!?リリーは今の季節一人で移動したくないですよー!!」

「あ、それならわたしが送ってあげるわ。そのかわりもう一件用事済ませてからになるけど」

「リリーはすぐに帰してくれないということですねー…」

 

疲れた顔でルナチャイルドが去っていく。あの人形すら霊夢に勘付かれたらお手上げになるけど、ここから先の話を聞いた状態で帰すリスクと比べるとこれが限界なのよね。

 

「あら~?あの妖精は帰しちゃって大丈夫なの~?」

「聞かせ過ぎる方が問題なのよ。知能が他の妖精より高いと言っても、広めてほしくないことをあっさり口に出されるリスクはある。特に仲間の二人、サニーミルクとスターサファイアに対してはね。

リリーホワイトと違って、豹を守る義理なんて無いのだから」

「…そういうこと。見張り以上の役目を振る気は最初からなかったのね」

「リリーでいいですよー。でも、リリーじゃ力になれることなんてないのではー?」

 

そんな言葉が出てくる時点で、リリーは当てにできる。豹のために動く意思があるということなのだから。

 

「力になれずとも、情報は共有できるでしょう?豹の向かった先に心当たりはないかしら?明日、私たちは夢幻館という洋館に向かうのだけれど」

「うう、リリーが教えてほしいぐらいですよー。せっかく豹さんと仲良くなれたのに、急に会えなくなるなんて…とりあえず、ノエルちゃんには聞いてみますけど」

 

…知らない名前が出てきたわね。

 

「…誰でしょうか、それは」

「あ…リリーから話すわけにはいかないのですよー。ノエルちゃんのことは、霧の湖の大ちゃんに聞いてください」

 

この情報も裏付けが取れたわね。霧の湖の大妖精も豹の関係者―――夢幻館が空振りに終わったら話を聞きに行きましょうか。

 

「…何か問題のある相手なの、そのノエルというのは」

「いえ、そういうわけではないのですが…大ちゃんに会ってもらえればわかります。ちょっとしたおまじないなのですよー」

「うーん、気になるけど仕方ないかあ。命蓮寺に行くことも考えると、明日のことも早く決めないといけないしね」

 

まあ…私とルナサと上海だけなら、隠形魔法で強行突破という手でも不可能ではないでしょうけれど。

少しでもリスクは少なくしたいから、打てる手は打っておきたいものね。

 

「そういえば、カナは魔理沙と面識があったわよね?もしかして魅魔ともあったりする?」

「あるよ~。あっちが覚えてるかどうかは知らないけどね」

「なら、それを使わせてもらおうかしら。カナ、明日霊夢に直接会いに行ってくれない?

 さっき魔理沙が言ってたことが本当なら、魅魔のことを伝えれば霊夢が動くかもしれない」

「あ~、たしかにあの悪霊は巫女としては放っておけないか!流石はアリス、よくそんなすぐに思い付けるわね」

 

まあ、霊夢のことだから気にせず放置する可能性も十分あるのだけど。

 

「…その魅魔って、誰?」

「魔理沙の魔法使いとしての師匠よ。かつて魔界に乗り込んで大暴れした4人のうちの一人だわ」

「へ~、ということはその4人は巫女と魔法使いにフラワーマスターとその悪霊なの~?」

「そうです。私にとってもご主人様にとっても、ちょっと思うところのある相手です」

「…あのですねー。やっぱりリリーに出来ることなんてないと思うのですよー…」

 

―――そうかもしれないわね。少なくとも明日に関しては。

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言うと、里香の持ってきた魔力回復薬は効果があった。保存状態も俺が思っていたほど悪くなかった。

だが、それ以上に問題なのが…

 

「なんというか、本当に在庫処分だったんだろうな…すまないな明羅、これ中々いい酒だろ?」

「気にするな。いい酒だからこそ機会がないと空け辛いものだ」

「そうなのです!わたしがいくら言っても明羅は空けなかったのです。まさか豹のおかげで私も飲めることになるとは思わなかったのです」

 

味が酷過ぎた。俺はあまりに渋い顔をしたらしく、見かねた明羅が酒を出してくれた。晩酌には早い時間だが、里香が狙っていた酒らしく修理を後回しにしてでも飲もうという話になった。

 

「この状態で3本飲む気にはなれないな。多少回復効率は落ちるだろうが、持ち歩くことも考えて多少は味をマシにした錠剤に精製し直すか…」

「…そこまで酷かったのか」

「というか精製し直すとか本当に何者ですか豹。簡単に出来ることじゃないのです」

「そういうことが出来るようになるぐらいには永く生きてるってことだ。見た目や言葉遣いでそう見せないようにしているだけで、内面は老害でしかないのが俺だ」

「老害なんて言わせないのです。今後はわたしの戦車のためにその知識を使うのです!」

「そうだな、私の修行相手としても老害などとは言わせんぞ」

「老骨に鞭打てと?まぁ、逃げ切れたら考えてやるさ…」

 

こんなゆっくり酒を飲めるのも、これが最後だろうな。最後の晩餐ならぬ、最後の晩酌か。

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