寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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主人公不在回。なので今までで一番短いです。



第5話 怨嗟の隠れ家

(…誘われてるわね)

 

逃げられた、そして上海を連れ去られた。この時点でもう弾幕ごっこみたいな遊びじゃない。

久しぶりに戦闘態勢を整えている途中で、上海の残留魔力をキャッチ出来るようになった。

 

「位置はさっきの森の中。隠れ家でもあるのかしら」

 

上海の反応が動かない。厳密に言えば動いてはいるけど、移動していない。おそらく室内に置かれてるわね。

意外なのはそれほど残留魔力を消耗していないこと。戦闘に敗れたとはいっても、完全自立に最も近い上海なら連れ去られそうになれば抵抗して魔力を消耗するだろうと思っていたのだけれど。

 

(まともに戦闘をさせずに無力化して格の違いを見せつけ、抵抗の意思を失わせた?)

 

あまり考えたくなかったのだけれど、ランスの残された草原の様子を見る限りこれが一番しっくりくる。ランスのほかに残されていたのは、反転するときの加速に使ったであろう地面の陥没だけ。それ以外に戦闘らしき痕跡はなかった。つまり、魔法の無駄撃ちを徹底的に避けて上海を黙らせている。

 

(幻想郷にそれほどの実力を持つ魔界人がなぜ…?)

 

一度断たれたパスを繋いで様子を見るかどうか。これほどの相手では再度繋いだ途端に気付かれてしまうから、直接乗り込んで奇襲を仕掛けるのなら避けるべきなのだけれど…

 

(位置関係が把握できれば戦闘を避けて救出だけ狙えるかもしれない)

 

どちらを取ってもリスクはある。でも…上海を破壊していない。ルナサは悪人と見ていない。私から即座に逃げ出した。

 

「好戦的には思えないのよね。それなら、戦闘を避けられる可能性はゼロじゃないわ…」

 

 

 

 

 

「…聞こえてるかしら?」

 

ビックリした。シャンハイちゃんから別の女の人の声がする!

 

「もしかして、あなたがアリス?」

「えっ…?」

 

なんだかアリス?も驚いてる。どうして?

あ、そっか。シャンハイちゃんを連れてきたのは豹だものね。

 

「わたしはカナだよ~、カナ・アナベラル。聞こえてるよね?」

「…ええ。なぜあなたが上海の前にいるのよ」

「豹に頼まれたからね。シャンハイちゃんをアリスに返してあげてって。あと、カナって呼んでほしいわ」

「………カナ。豹はどうして上海を攫ったのかしら」

 

あ~、これは疑われてるわね。

 

「え~っと、わたしは騒霊なの。豹のお家に取り憑いてるのよ。だから今日なんで豹がシャンハイちゃんを連れてきたのかはわからないわ」

「騒霊?ルナサと知り合いなの?」

「豹から話は聞いたことあるけど、会ったことはないよ。わたしはここに引っ越してきた新参者なの」

 

う~ん…わたしがやりたいことと、豹の頼みごとを合わせて終わらせるには、アリスにここまで来てもらわなきゃなんだけど。この状況罠にしか見えないよね…

しょうがない。正直に伝えてダメだったらわたしのやりたいことをあきらめよう。

 

「わたしが豹に頼まれたのは、シャンハイちゃんをアリスに返すことなんだけどね。

 騒霊として、アリスに頼みたいことができちゃったの。

 先にシャンハイちゃんをアリスに返すのは約束するから、わたしの頼みを聞いてくれないかな」

 

 

 

 

 

「………いいわ。その話、乗ってあげる」

 

パスを繋ぎ上海を使って豹と交渉する。視界をやられると絶望的な状況になるから音声だけで。相手が別人だったのは驚いたけれど、成果は悪くないわ。真正面から総攻撃するより被害は少なくなったはず。

 

豹には完全に逃げられたみたいね。でもそれは仕方ない。興味本位で素性を知ろうとするべき相手ではなかったということ。気にはなるけれど…上海を失ってまで知りたいとは思わない。それこそ母さんに聞いた方が安全でしょう。

 

上海を先に返す。口約束とはいえ、それを相手から言ってきたのは幸運。

それに、交換条件を出してきたあたり逆に信憑性があるのよね。口約束だから破られる可能性も高いけれど、それはお互い様。上海だけ救出して頼みごとを断るなんてこともできるわ。

 

いいでしょう、カナ。その罠、踏まずに抜けてみせてあげるわよ…!

覚悟も準備も終えた私は、敵地へ向け飛び立った。

 

 

 

 

 

―――そして。黄昏に染まる隠れ家の前で、人形を従えた魔法使いと、道路標識を携えた騒霊が対峙する。

 

「それじゃあらためて…はじめまして。わたしがカナ。ポルターガイストのカナ・アナベラル。シャンハイちゃん、戻っていいよ」\シャンハーイ/

「いいのかしら?私が約束を破るとは思わないの?」

 

上海が手元に戻ってくる。目立った外傷は見当たらないし、念のためパスを繋いだ時点で補充しておいた魔力もほとんど使われていない。このまま戦闘に使えるくらい。

 

「豹のおかげでね、ここまで来てくれた時点でもう破れないよ」

その言葉で一帯に結界が張られた。

 

「なっ…!?」

「ねえアリス、このお家、どう思う?」

 

油断していたつもりはない。でも…カナが想像以上に凄まじい!

 

「見た目からして、不格好でしょ。中もそうなんだ。ハリボテみたいな、継ぎ接ぎのお家。

 でもね、豹がずっと、ず~っと魔力で支えてたんだ。建築の知識が無いから、魔法で助けてた」

 

魔力に気付けなかったのはそれが理由ね…カナ自身の魔力じゃなくて、家に宿っていた魔力!

 

「わたしは騒霊だから、取り憑いた家の事ならだいたいわかるの。

 でもこのお家のことは、生まれた屋敷よりもよくわかっちゃったんだ。

 豹がこの家を大切にしてて、このお家も豹を頼りにしてて」

 

上海が、震えている。こんな形で一歩完全自立に近付くなんて、思いもしなかった。

 

「このお家の記憶の残滓…すぐにたくさん見つけられたの。

 だから豹のことを素敵に思えたし、引っ越すことに迷いもなかった。

 でもね、その豹が、出て行っちゃたんだよ」

 

…私は、本当にとんでもない相手を刺激してしまったのね。後悔してももう遅いけれど。

 

「アリスは悪くない。豹が誰かから逃げてるというのは聞いてたけど、アリスのことじゃない。

 でも、アリスの知り合いから逃げてるみたいなの。

 だから、これは八つ当たり」

 

冗談じゃないわよ…とばっちりってこと!?

 

「でもね、わたしはともかく、このお家はダメなの。

 八つ当たりでも、マイナスの感情を吐き出さなきゃ崩れちゃう。

 いままでプラスの感情しか知らなかったから、揺り戻しが大きすぎて。

 わたしごときが、こんなすごいことができるぐらい、不安定になっちゃった」

 

…ここまで命の危険を感じるのは、魅魔を相手にした時以来かしら。

 

「騒霊として、この素敵なお家を崩すわけにはいかない。

 豹が戻ってくるまで、留守番も頼まれたしね。

 だからアリス、わたしに付き合ってもらうね。

 大丈夫、八つ当たりで死なせることなんてしないからそこは安心して」

「安心できないわよ…っ!!」

 

…来るっ!様子見なんてしてられない!

 

「信用できないのは当たり前だけどこれは本当よ。

 シャンハイちゃんは気に入ったし、わたしも豹のことをもっと知りたいし。

 アリスとも仲良くしたいわ。だから、アリスのことも守るよ。

 本気で抵抗してね。隠れ家の魔力をわたしが完全に掌握出来るまで逃げ切ってね」




次の更新は月曜か火曜になると思います。
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