寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第53話 雨の止んだ夜空の下で

雨の上がった夜空をリリーと並んで飛ぶ。この時間に外に出るのはいつ以来だったかな~。

 

「ところで、どうして豹さんはいなくなってしまったのですか?リリーにも教えてほしいのですよー」

「あ、リリーは何も知らないのね。簡単に言うと、アリスを…」

「―――カナさん、待ってください!」

 

口を開こうとしたら横から声が掛けられた。振り向くと、白髪の天狗が私に向かって飛んできたわ。

 

「あれ、椛さん?」

「今度は間に合いました…今朝、中有の道にいらっしゃったときに合流しようとしたのですが間に合わなくて」

「あ、そうだったの?気付けなかったわ…ごめんね」

「気にしないでください。ですが、この辺りも我々の領域です…春告精のお守りのようですが、私も同行した方が同僚に絡まれないでしょう。お供しますので、その道すがら私にもお話を聞かせてもらえますか?」

「いいわよ!でもちょっと明日のために、リリーをもう一度連れ帰らなきゃならないの。往復になるけどお仕事だいじょうぶ?」

「それこそカナさんと春告精を監視するという口実が使えます。今日の哨戒任務は終わっているので同僚に不審がられるとは思いますが…私がいるだけでも対応は変わってきますから」

「リリーと呼んでほしいのですよー。椛さん…ですか?豹さんを探すのを手伝ってくれてるのでしょうか?」

「はい。リリーも同じようですね」

「少しでも協力者はほしいからね~。リリーも椛さんも、聞きたいことがあればどんどん聞いて。情報の共有は大事だから、わたしが知ってることは答えるわよ!」

 

椛さんは一緒に動くことが難しそうだし、ここで会えたのはラッキーね。出来る限り情報を渡しておかないと。

 

 

 

「まずはリリーの質問だけど、豹がアリスを魔界からの追手と勘違いしちゃって逃げちゃったの。わたしはお留守番を頼まれたんだけど、上海ちゃんがああなっちゃったから豹と会わせるために追ってるわ」

「えーっと、別にアリスさんは豹さんを捕まえる気は無いってことですよね?」

「うん、でもアリスの故郷…魔界の人は豹を連れ戻そうとするかもしれないのよ。豹が話も聞かずに一目散に逃げたってルナサとアリスが言ってるから、豹がかなり恐れてるのは間違いないわ」

 

わたしが一番驚いたのはここなんだよね。リリーがわかりやすい相手だけど、豹は人間や妖怪どころか妖精にすら逃亡生活に助力してくれる相手にはしっかり会話して対応してるのに、アリスとは会話どころか目も合わせずに逃げ出した。魔界人に対する警戒心は異常だわ。

 

「私が違和感を感じているのは、豹さんと妖怪の賢者…八雲紫との関係についてです。

豹さんが八雲紫の庇護下にいたのであれば、逃げ出したとしても八雲紫であればすぐに見つけられると思います。―――本当に、豹さんの居場所を知らないのでしょうか?」

 

その疑念を持ったのわたしだけじゃなかったか~。

 

「わたしもそこは怪しいと思ってるんだけどね…タイミングが悪かったのよ。八雲紫…正確にはルナサに接触した八雲藍なんだけど。豹が姿を消した当日にルナサに話を聞きに来たから、次の日ルナサとアリスがすぐ情報交換で合流しちゃったのが今となっては失敗だった気がする。たぶんわたしたち一纏めで『魔界(アリス)に協力した』って見られちゃって、たとえ知っていたとしてもわたしたちにはもう教える気は無いんじゃないかなあ」

「そうなりますか…アリスさんと上海に直接会ってもらえれば誤解は解けそうですが、こちらからどうやって接触するかという話になってしまうのですね」

 

雛さんの話を聞いたときにわたしもこの可能性を考えたんだよね…アリスも気付いてるとは思う。ルナサは微妙でメルランと上海ちゃんはたぶん気付いてない。

豹から大天狗の部下に手を出したのに、大天狗と八雲紫が協力して後始末したってことは《豹のことはお咎めなし》にするよう取引があったってことだろうからね。たぶん八雲紫は豹のことを相当気に入ってる…そう簡単に手放すとは思えないわ。

 

「ただ、ルイズさんはわたしたちにとって最高のタイミングで来てくれたわ。明日夢幻館が空振りになると本気で八雲紫か八雲藍を探すしかなくなりそうだったから、魔界から情報を持ってきてもらうタイミングとしてはこれ以上ない。それもあってわたしは少し余裕を持てたってのはあるかな~」

「夢幻館、ですか。そこがエリーという方の?」

「ええ、これは確定したわ。だからちょっと賭けに出てでも向かってみる価値はある…リリーの出番が無ければ楽なんだけど」

「カナさんは気にしないでいいのですよー。リリーだけ何もせずに豹さんに会いたいっていうのはワガママなのですよー」

「…リリーは妖精とは思えないですね。このままでは私だけが我が儘になってしまいます。

カナさん、明日、私の哨戒任務は昼過ぎからです。午前中なら手伝うことが出来ますが、なにか力になれることはありますか?」

「えっ、ホント!?明日の計画を考えると椛さんの千里眼は凄く頼れるんだけど!」

 

博麗の巫女の動向を遠くから監視できる椛さんは、明日動けるなら手伝ってほしい…!

 

「それなら、ぜひ私にも手伝わせてください!合流方法など問題はありますが、私も皆様から情報を頂けるだけなのは…悔しいので」

「椛さん、お仕事終わってるって言ったですよー?それなら椛さんもリリーと一緒に豹さんのお家にお泊りすればいいんじゃないですか?」

「あ、そうすれば合流は心配ないわね。でも椛さん、山から一晩抜けて大丈夫?」

「一晩だけなら誤魔化せます。お願いしてもよろしいでしょうか?」

「それじゃ、リリーのお家に寄ったら次は椛さんに用意してもらって、そのまま豹のお家に案内するわ!」

 

明日はわたしたちにとって正念場になるかもしれない。椛さんの力も、貸してもらいましょ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりー、ルナ姉もメル姉も」

「ただいま~、ようやく動く気になったのね~」

「失礼な!昼過ぎぐらいからちゃんと動いてたっての!」

 

言葉通りある程度の家事はしていたようね。なら明日の方針も伝えないと。

 

「リリカ、明日は手を貸してもらうわよ。説明するから少し付き合いなさい」

 

 

 

「へえ、あの春告精がねー。豹は妖精もイケる口だったか」

「それならリリカにもチャンスあるってことになるわよね~」

「パス!豹はかっこいいとは思うけどいい意味で特別扱いしてくれないから私はパス!

でも甘えはしたいからルナ姉よろしく!」

「…リリカも豹のことよくわかってるじゃない」

 

豹は女性に対して一律で妹扱いということを、末っ子のリリカはとてもよく理解している。ある意味、豹を一番うまく操縦できるのは私たち姉妹ではリリカになるのでしょうね。

 

「でも正直乗り気はしないなー。なんか状況によっては魔界とスキマ妖怪だけじゃなくあの巫女も敵に回すことになるじゃん。人里まで春告精を連れてくぐらいならいいけどさ、そこから先はお任せしたいんだけど」

「結果がどうあろうと、私とメルランが関わってる以上リリカも共犯扱いされるでしょうね。散々私を豹のことで冷やかしてきた報いなのだから、諦めなさい」

「うぐぐ…その通りだわ。わかったわよ、でも状況次第で私は雷鼓のところに逃げるからね?」

「その雷鼓も割と豹を連れ戻す気満々なのだけどね~」

「雷鼓は私たちと違って営業戦略もしっかり考えてるから、裏方業務を手伝ってくれている豹のことは手放したくないのよ。そこは逃げ場にならないわ」

「なんてこったい…」

 

あれだけ私の色恋沙汰として楽しんでたんだから、豹のことには協力してもらうわよ。

 

「カナだけで済めば危険は無いのだから、そうなることを願えばいいわ。その後は香霖堂に寄って話を聞いたら豹の隠れ家で待っているだけ…頼むわよ」

「姉さんこそ気を付けてよ~?夢月…だっけ?と~っても危なさそうなのがいるかもしれないんだから」

「だよね。さっさと逃げることが必要になるのはルナ姉なんだから、無理しないでよ?」

「…わかってる。アリスも戦闘になることは望んでいないのだから、逃げるなり降参するなりの判断は間違えないわ」

 

少なくとも夢幻館までは、アリスを頼ることが出来る。私にとっての問題は、その後なんだから。

 

 

 

 

 

(気持ちの整理…か。私には、そんな簡単にできるものじゃない)

 

部屋に戻ってベッドに倒れ込む。倒れ込んでから着替えてないことを思い出して、立ち上がって着替えることにする。

 

(―――魔界からの追手…ユキがいつ来るかはわからないけれど。せめて夢幻館に辿り着くまでは来ないでほしい)

 

情けない話だけれど、アリスの助力無しで私が夢幻館に向かうのは危険すぎる。異世界の主である悪魔なんて、とても太刀打ちできない…それに、八雲紫の口振りからすると豹が夢幻館にいる可能性は高そうなのよね。無事なことは間違いないし、『アリスと豹が顔を合わせても影響はない』のであればむしろ接触させようとしてもおかしくないのだから。

 

「『カナとあの人形はこちら側へ引き込める』…つまり、上海のことはもう知られている」

 

いつから私たちを監視していたのかはわからないけれど、上海が隠れ家としての意識も持っていることに気付いていなければ上海を引き込むなんて言葉は出てこない。そこを考えると、早めに上海と豹を会わせるほど八雲にとって好都合になる。引き込むのか切り捨てるのかの判断を付けやすくなるのだから。

 

(…アリスも、こちらに引き込んでもらえれば気持ちは楽だった。でも、【魔界神の愛娘】が魔界を切り捨てることなんてできない、か)

 

豹の妹らしい、ユキがどんな相手か知らないけれど。兄であろうとする豹なのだから、妹のことを大切に思っていないはずがない。

そんな相手に豹が見つかれば、そのまま連れ立って魔界に帰ってしまっても何もおかしくない。

 

「夢幻館に居てよ、豹………」

 

雨の上がった夜空を眺めながら、思わず言葉が零れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ところで、サラはそのヒョウっていうユキのお兄ちゃんと面識があるのかしら?」

 

幻想郷への扉に戻る途中までだけど、泊まり込む用意をするために一度帰宅するルイズが隣について来た。まあ、聞かれるだろうなとは思ってたけど…

 

「どうして私に聞くのよ?」

「神綺様が仕事する気になってるのを邪魔はできないですし、夢子さんとユキは目が本気になってたんですもの。

マイは聞いても話してくれないから、消去法でサラに聞きに来たのよ」

 

なるほどね、たしかにさっきの状況じゃわたしかマイの二択よね。…ということは。

 

「マイからヒョウさんの名前を聞いたってことよね?」

「聞いたというより、思わず口に出しちゃったのを覚えてたのよ」

 

だろうねー。マイからすると面白くない話になるからなあ。

 

「わたしがどこまで話していいのかが難しいから、詳しいことは神綺様を手伝いながら聞くといいわ。とりあえず当たり障りないことだけは教えてあげるけど」

「それでいいですわ。私はユキとマイがペアを組んでからのことしか知らないのですもの。サラから見たヒョウさんのことを聞かせてちょうだい」

「とはいっても、わたしとの接点はあまり無かったんだけどね…」

 

でも、素敵なお兄さんだったのは今になっても鮮明に思い出せる。ユキがいまだに妹っぽい性格をしてるのも、ヒョウさんみたいな兄さんがいたら仕方ないよなーって思うぐらい。

 

 

 

「ユキの兄さんのヒョウさんは、神綺様の護衛役にして反逆者の処刑人だった。魔法に長けた魔界人を魔法無しで仕留められるように創られた、粛正請負人。

それなのにヒョウさん自身は優しいお兄さんだったわ。まあ神綺様を敵に回した相手には容赦なかったんだけど。その止めを刺した反逆者に対してすら、墓を掘って弔うまでやってたぐらい優しいお兄さん。

…その優しさを利用されて、今は存在を伏せられちゃってるんだけどね」

 

 

 

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