「…朝か」
明羅の庵の片隅で覚醒魔法が起動する。寝室でいいと明羅は言って来たが、俺が性欲に負けたらどうする気だと返したら真っ赤になって引っ込めた。自覚してない上に無防備でウブとか、色々心配になるぞ。
そういうわけでサッと起きて外に出る。今日からしばらくは何も警戒せず熟睡なんてしてられなくなる。ゆっくり休ませてもらっておきながら捨て駒として切るのは申し訳ないが…余裕が無いのだから割り切らないとな。
庵の外に出て朝の空気を吸う。昨日の雨雲はすっかり晴れたが、冬の始まりを告げるよう日はまだ昇らず肌寒い。―――レティがそろそろ外に出てくる時期だが、お互い拠点を伏せた付き合いだったから居場所がわからない。当てにするには心許ないか。
そして里香は夜なべしたのか、食欲をそそる匂いが流れてきた。下心はともかく俺のために作業してるのを邪魔することもない…水筒に水を補給してくるか。ついでに食用になるキノコなり野草なりあれば朝食の足しになる。少し時間をかけて探してみよう。
日が昇り始めたので明羅の庵に戻ると、丁度外へ出てきたところだった。
「もう起きてたんだな…って、まさか朝食の具材まで調達してくれたのか?」
「寝床を貸してくれたんだからな、これぐらいするさ」
寝床という単語でまた顔を赤くする明羅。思ったより昨日の天然を引き摺ってるのか…余計なことを言ってしまったようだな。
「とりあえず、鍋か何かあるか?生食できるもんじゃないからなキノコは」
「そ、そうだな。用意しよう」
「その前に見るのです!改造完了なのです!!」
…と思ったところで里香が飛び出した。
「む、うむぅ……重い。豹!手伝うのです!」
昨日も聞いたぞそのセリフ。
「それで、これはどう使えばいいんだ?」
「見ての通りなのです。豹の魔力を充填したら引き金を引くだけでいいのです!」
「…簡単に言うがな。この重さの物体を手持ち武器として使えというのは無茶振りというのは理解しているか?」
「豹なら使えるはずなのです。昨日片付けた部品にはこれより重いものがたくさんあったのですから、そこから逆算して重量も調整してあるのです」
―――本当に里香は天才だな。そこまで見た上で造り上げるとは…まさか本当に一晩で仕上げるとは思ってなかった。どうも退路を塞がれた感がある。
「念のため、少し明羅の庵から離れるぞ」
「…気を遣わせてすまないな、豹」
「ふふん、試す気になりましたね!あたいの戦車技師としての腕を思い知るのです!」
(手持ちの武器は戦車と関係ないんじゃないか…?詳しくないからわからんが)
俺のために造ったことに違いは無いからな…とりあえず試すだけ試してやるか。
(参ったな…たしかに重くはあるが、俺なら十分実戦に使える程度に収まってる。里香を甘く見過ぎてたか)
ご機嫌でついてくる里香の視線を背中に感じながら歩く。顔を合わせて一日も経ってないのにここまで俺に合わせた武器を用意する…それだけ観察眼に優れているのか。そして渡された武器が俺に足りないものを補える代物なあたり、本気で俺を引き込もうとしている。
つまり、一度逃げたところで追ってきかねないということだ。
(ここに来て余計な追手を増やすことになるとはな。組織に属してるわけじゃないから上に対処させるという手も使えない…どうするか)
明羅の知り合いということは魅魔の指示には従う可能性があるが…隠居した魅魔に麟が接触してる以上俺から足を向けるのは避けたい。お互いに麟と魔理沙の件で相容れない部分があるので貸しを作りたくないのだ。
せめてもう少し余裕のある時に会えてれば、上手く誤魔化した付き合いが出来たんだが。
「――この辺りでいいか。何かしらに誤射しても問題ない方角となると…妖怪の山方面だな」
既に大天狗と面倒な新聞記者に目を付けられているのだ。人里や博麗神社、紅魔館や魔法の森方面に着弾して住人に敵視されるのは避けたいからな。
「まずは弾倉に魔力を充填するのです。それから――」
「大丈夫だ。無縁塚で廃れた銃器を拾うたび、紫さんに許可を貰って試射してたからな…
こう使えばいいんだろ―――っ………!?」
魔力を通して引き金を引くと、昨日明羅の庵を吹き飛ばしたのと同じような熱線が放たれた!?いや、手持ち武器の威力じゃねえだろこれ!!
…里香の技術を甘く見過ぎていた。火縄銃のように魔力を弾丸として射出するのを想像してたんだが、まさかレーザーとして放出されるとは思わなかった。流石は天才、俺に必要な武器ということに間違いはない。
だが、今の状況にはそぐわなさすぎる!!
「どうなのです!これなら攻撃魔法が使えない豹でも十分な火力を出せるのです!」
「………そうだな。たしかに俺でも攻撃に参加できるようになるだろうな。
…だが、こんな派手な武器使ったらすぐ見つかるだろうが!俺が潜伏中なの忘れてるだろ!?」
「……あー。そういえばそんなこと言ってたのです」
まだ日が昇り切る前で助かった…とはいえ目撃者はまずこっちに向かってくるだろう。明羅のとこまで逃げねえと!
「…何をやってるんだ豹は」
「手持ちの大砲みたいなものだと思ってたんだよ…」
「里香がその程度の威力で納得するはずがないだろう」
「当たり前なのです」
案の定明羅はしっかりと視認していた。つまりこの早朝でも活動しているであろう白狼天狗あたりは確認しに来る可能性がある。索敵魔法を行使しつつ明羅の用意してくれた朝食を食べる羽目になった。
「まあ、この時間ならそれほど目撃者は多くないだろう。庵の中で大人しくしてもらえれば私が追い返してやる」
「可能性としては白狼天狗だな…流石に人間がここまで来ることは無いだろう」
「まあ、これで豹はわたしから逃げる必要がなくなったのです。遠慮なくこき使わせてもらうのです!」
「どうしてそうなる…」
たしかに俺にとって有用な武器だが、逃走の役には立たない。
「俺は追手を始末したいわけじゃない。追い返すか逃げ切りたいだけなんだよ。威嚇射撃には威力が過大で使いようがない」
「それを先に言うのです!それならこれで十分なのです!」
そう言うと里香が俺に拳銃を突き出してきた。なんでこんなもの持ってるんだ…紫さんが幻想郷に流通させるはずがないぞ。
「科学的な拳銃ではないのです。弾倉に魔力を充填すれば魔力弾を撃てるので、豹ほどの魔力持ちなら弾切れの心配は無いはずなのです」
「それを先に渡してくれ…」
受け取って構造を見るが、元々里香の護身用なのだろう、軽い。となるとさっきと逆で威力が気になるところだが…
「―――丁度いいな」
弾倉に魔力を充填し、都合よく飛んできた鳥を狙う。
「っ!」
「はぁ!?」
鳥なら俺の魔力でも撃ち落とせるか。それに術式はそれほど複雑じゃない。追加で時間魔法を組み込めば弾速を強化して威力増加を見込める。逆に威嚇射撃なら解除すればいい…なんだよ、さっきのレーザー砲より余程使い出があるぞこの銃。
「狙って撃ち落とした?どうしてそんな芸当が出来るのです!?」
「…そんなに驚くことか?」
「わたしが使ってもまず当たらないのです。優秀な照準関係の機構を組み込めるような大きさではないので、明羅や理香子にも試してもらいましたが命中率の関係でそれこそ威嚇射撃ぐらいにしか使えなかったのです」
「里香の言った通り、私も里香ほどではないとはいえ十発撃って四・五発当たるかどうかだ。それを飛行する鳥相手に一発で当てるのは驚きでしかない。偶然だとしてもな」
「なるほどな…何発か試してみるか」
すっかり葉を落とした枯れ木に狙いを定める。狙うは枝分かれの根本…
―――一発も外さず枝を撃ち落とせた。
「…偶然ではないようだ。豹と相性の良い武器らしい」
「問題は、実戦で使って通用する威力なのか…だな」
「よしなのです!その銃くれてやるのでわたしに協力するのです!」
「―――いいだろう。この銃は俺にとってそれだけの価値がある。まさか俺の魔力をそのまま質量弾に変換できるとはな…」
「言質を取ったのです!もう逃がさないのです!」
「そのかわり、俺にもこの銃の機構や整備を教えてくれ。荒く使えばすぐに壊しそうだからな」
まさか、俺に遠距離攻撃の手段が出来るとはな。攻撃魔法にはとても及ばないが、接近戦しか出来ない俺にとっては貴重過ぎる代物だ。長居するつもりは無いが…ユキと夢子が来るまでは、里香の戦車に協力してやろう。
「………あの辺りですね。豹さんらしくないですが、何かあったのでしょうか」
窓から一筋の光が見えただけでしたが、あれは間違いなく豹さんの魔力でした。ですが、別に戦闘状態にあるわけでは無いようで、それっきり何も魔力反応を感じ取れません。
(……心配ですけれど、いざとなればまだ二つも私のところに出口が作れます。であれば下手に私が動くより、豹さんを信じて私がすべきことを為すべき)
藍様がはっきりと私に取るべき行動を示してくれたおかげで、私には少し余裕が出来ています。最初から独断で動いて豹さんに迷惑をかけてしまったのですから、これ以上勝手な行動は控えなければなりません。
「ですが、まだ人里は眠っている時間ですね…豹さんが気分よくここで過ごせるように、隅々までお掃除しましょうか」
私は戦闘で足を引っ張ってしまうでしょう。それは今から努力したところで間に合わない…それならば、私に出来ることで豹さんの力になるしかありません。
豹さんの負担を少しでも減らすために。
(―――無事に私のところへ来てください。少しでも豹さんを癒せるように準備しておきますから…)
それは、冬の訪れを告げる朝日と共に。逃亡者の終末が見え始める。
主人公強化イベント。なお、また抱え込んだ模様。