「サリエル、今大丈夫かしら~」
「神綺か。何の用だ?」
お仕事のついでにサリエルにも話しておきましょ。ユキちゃんと夢子ちゃんに次いでヒョウくんに会いたがってるはずだしね。
「ヒョウくんが幻想郷に居るみたいなの。急ぎのお仕事だけ片付けたら私もしばらく魔界から離れるけど、サリエルはどうする?」
「―――そうか、わざわざありがとう。だが、私の祈りは永い時を重ね過ぎた…もはや呪いとなるほどにな。この呪いをヒョウの負担にしないために、私から会いに行くわけにはいかない」
「そうなっちゃうか~…」
「だが、それ故に最悪の事態は私が必ず防ぐ。そんなことは望んでいないが…そうならなければ呪いは解けなくなってしまったからな。だから神綺は手を抜く必要などない。神綺が望むままに動いてくれ」
「わかった。連れ帰って来れたら、サリエルにも会わせるから」
「ああ、その時は頼む」
堕天使の呪い、か。妹の後悔に後輩の未練、私はヒョウくんに背負わせ過ぎてしまったわね……
(ヒョウ…魔眼の話は本当だった。ならやっぱり許せない…!
でも、なんで幻月と夢月は肩を持ったの?話を聞きに行かなくちゃ)
「―――スターサファイア?ルナチャイルドはどうしたのよ」
ミーティングを終えて行動開始と行こうとしたところで、アリスが皆を制したわ。どうやらあの妖精から連絡が入ったようだけれど…もしかしてあの巫女が出かけてくれたのかしら!
…そんな願望が届くはずもなく、苦い顔をしたアリスが椛にも渡していた露西亜人形をテーブルに座らせる。
『あ、スターが先につないでくれたの。…アリスさん、霊夢さんにお客さんが来てます。サニーと様子を見てきましたけど、あれは神社から出て行きそうにないです』
これ、
「ちなみに誰が来たのかまで判別できたかしら?」
『あれはたしか茨華仙よ!たまに神社に顔を出す仙人!」
『あ、霊夢さんに修行を付けに来たのかな?今、2人で外に出てきました』
「…茨華仙様ですか。アリスさん、私が様子を見てきます」
「お願いするわ。今話してる妖精の人形には椛に持たせた人形の声が伝わらないようにするから、気にせず状況を伝えて頂戴」
相変わらずアリスも凄いこと出来るわね…通信機として便利過ぎる人形。
「一応伝えてくれた礼は言っておくわ。ただあまりその人形を多用すると魔力反応に気付かれるだろうから、私から連絡するか霊夢が神社を離れるまではもう使わないでおいて」
『『『はーい』』』
まあ、何事も思い通りに行くはずはないけれど。早速厄介な状況になったようね…
「…と、いうことよ。これはすぐには動けそうにないわ」
「うわ~…せっかく椛さんが手伝ってくれたのに、なんでこのタイミングで」
「アリス、隠形魔法で茨華仙を欺ける自信はある?」
「正直に言うと無いわ。人形を伏兵として使う時に行使するぐらいだからあまり使い慣れてないのよ。私自身ぐらいの質量を持つ対象だと猶更ね」
「困ったわね~…巫女だけでなくあの仙人もなるべく敵に回したくないわ」
「そうなると帰るまで待つしかないじゃん。だったら人数自体はそれなりにいるんだから、椛さんが見てくれてる間に雷鼓あたり呼んできて手を貸してもらうってのは?」
「うう、やっぱりリリーじゃついていけそうにないですよー…」
いきなり手詰まりになるかと思ったけれど。
時間制限があるからこそ、椛が一番覚悟を決めていたみたいで。
『アリスさん、これはむしろ…強行する方がいいかもしれません』
「えっ…どういうことよ?」
今度は椛の声が人形から聞こえて来たわ。
『博麗の巫女と茨華仙様…かなり本気で手合わせをしています。始める前に二人とも私に視られていることを感じたのか、一度こちらに視線を向けました』
「ちょっと、それだけ集中してたら強行してもバレるじゃない」
『あれだけ集中しているからです。本気の手合わせで余所見なんてする余裕はない…決着が付く前に突入組とカナさん同時に動いてもらって、決着が早く着いてもそのままカナさんに話を向けてもらえば突入は出来ると思います。それに、これが上手くいけば帰り道でリリーに動いてもらうこともできる………私は、賭けに出るべきだと思うのですが』
帰り道。私はその時に分散して単独行動するつもりだったけれど、この方法だとそれが難しくなる。でも、今を逃すと夢幻館への侵入自体がどんどん遅れていく――私は、どっちを選ぶべき…!?
「時間が惜しいわ。リスクはあるけれど、椛が手を貸してくれるうちに私は済ませたい。それに、あの霊夢が修行に集中するなんて滅多にない機会だわ。
…私は椛の強行案に賛成。反対意見はある?」
アリスが、選択を強いる。迷う時間なんて無い、今聞かれているのは、突入組である私なのだから…!!
「――私も賛成。ユキという豹の妹を呼んでしまった以上、残された時間はもう僅かだわ」
「私も賛成です。ご主人様とルナサさんを信じていますので」
突入組の意見は一致…!そうであれば!
「アリスとルナサが賛成なら決まりだわ。わたしも博麗神社に向かうわね!」
「そうね~、下手にアドリブを入れる方が大変そうだし…計画通りの動きで済みそうな強行でいいんじゃないかしら」
「もう反対する意味ないじゃん。決まり!」
「リリーは皆様に助けてもらう立場ですので、お任せですよー」
「それじゃ、隠形魔法を行使するわ。後はそのまま全力で夢幻館…差し当たっては博麗神社の裏山の湖ね。脇目も振らず突っ切って頂戴。
椛、霊夢がこちらに向かったら即座に伝えて」
『はい。―――ご武運を』
「それじゃ姉さん、気を付けてね~」
「無理はしないでヤバくなったらすぐ逃げてよ?」
「皆さん、頑張ってくださいなのですよー」
「…ええ、行ってくるわね」
「皆様、後はどうかよろしくお願いします」
「それじゃ、わたしも行ってくる!」
決行。ここから先は、一瞬たりとも気が抜けないわ…!!
アリスのお家から一直線に博麗神社へ飛ぶ。わたしが一番楽な役回りなんだから、遅れや失敗は許されない。少なくとも、夢幻館に続く湖を見つけるぐらいの時間は稼がなきゃ。
運がいいことに、飛行中に絡まれることもなく神社に着地したけれど…椛さんの千里眼はすごいなあ。たしかにこれだけ本気のぶつかり合いなら余所見なんて無理だね~。
「霊夢さんにご用でしょうか?見ての通り、ちょっと取り込み中でして…」
「大丈夫よ、急ぎじゃないし待つから。それであなたは?」
「高麗野あうんと申します!あなたはどちら様でしょうか?」
「騒霊のカナ・アナベラルよ。この神社に来るのも久しぶりね~」
「そうなのですか。でしたら玄爺さんとお知り合いだったりしますか?」
「あ、あの亀さんね!巫女を乗せて飛び回ってた!」
「ふむ、呼びましたかの」
噂をすれば影…だったかしら。のそのそとしゃべる亀さんが寄って来たわ。
「たしか、カナ殿でしたかな?」
「よく覚えてたね~亀さん。古代遺跡の時に軽く話しただけだったのに」
「ご主人様を乗せて飛び回っていた頃は忘れられませぬよ。この爺も長く生きましたが、間違いなく最も輝いていた時期でしたからな」
「今ならその頃のお話聞かせてくれますよね玄爺さん!」
「あれ、話してもらってなかったの?」
「あの頃のご主人様は靈夢を名乗っておりましたからのう。今の幻想郷とは相容れない面も持っておりました。それを知らぬあうん殿には伏せていたのですが…カナ殿が補足してくれるのであれば大丈夫ですな」
「え、なんか責任重大じゃないそれ!?わたしはアリスや魅魔と違って靈夢との関わりはほとんどないんだけど」
「心配することなど無いですぞ。単に弾幕ごっこ―――スペルカードルールが制定される前の異変がどういうものであったのかを、この爺だけの視点で話したくなかっただけでしてな」
「う~ん…わたしの関わった異変って一回だけなんだけど。それでもいいのかなあ?」
「ぜひ聞かせてください!博麗神社を守護する狛犬として、私が来る前のお話も知りたいです!」
狛犬かあ。見た目からしてそうじゃないかとは思ってたけど、あうんは本当に犬っぽいわね。人懐っこい大型犬みたい。
「ならわたしが話すのは構わないけど…巫女に用があるからあっちが一段落したら話を中断させてね?」
「わかりました!よろしくお願いしますね!」
「―――というのがわたしが関わった唯一の異変よ。結局私はエレンっていう本物のウィッチと相討ちになる形で脱落しちゃったから、結末は亀さんの方が詳しいんじゃないかなー?」
「残念ながら、あの異変は魅魔殿が最後まで勝ち残りましてな。この爺も結末を見届けておらぬのですよ」
「ええっ!?霊夢さん負けちゃったんですか!?」
「ああ~、そんな気はしてたんだよね。結果的にあの悪霊とその弟子は共闘に近い形になってたし…最後の方はお互い遠慮なく撃ち合ってたけど」
「ですがの、あの遺跡が消え去った後に起こったことを考えれば魅魔殿は全てを知っておるはず」
「しばらく月が出続けてたのよね…それをいいことに魔法に縁のある人妖で調子に乗ったのは、片っ端から巫女に退治されてったけど」
「す、すごい異変だったんですね…」
今思うと月がしばらく見えっぱなしってのはとんでもないことだったのよね。あれがあったせいか永夜異変は【月がおかしくなった】時点で巫女やスキマ妖怪といった有力者達は動いてたってことを豹から聞いた。人里では夜が明けなかった異変として認識されてる…というより夜が明けなかったから異変だと気付いたってことなんだろうけどね。
「随分と懐かしい顔が居るじゃない。老いぼれまで出てきて何を話してるのよ」
「霊夢、世話になった相手にその呼び方はやめなさい」
…話の途中だけど、わたしの目的がようやくやってきた。思ったより長々と手合わせしてたから上海ちゃんたちは湖を見つけるぐらいまではできたと思うけど…追撃させるわけにはいかないからね。上手く誘導しないと。
「わたしとしては覚えてたことに驚きよ。あのソーサラーは忘れてたしね」
「ソーサラー?………あ、魔理沙のことか。私も忘れてたわよ、そこで昔の話をされるまではね」
「えっ!?もしかして私が聞いたらいけないことでしたか!?」
「そうじゃないけどね。あまりペラペラと喋られたくはないわ」
「あ、それはごめんね~。ただ、わたしの用件とも関係ないわけじゃないから、見逃してくれないかな」
「用件、ねえ…まあ聞くだけ聞いてあげるわ。何の用よ?」
相変わらずだなあ、この巫女。何かあることに勘付いてるから、手合わせが終わってるのに戦闘態勢を解いてない。見透かされないようにしないとね。
「魅魔が動いてるみたいなんだけど、大丈夫なの?隠居したはずだよね?」
「っ!?魅魔がですか!?」
…あれ?隣のお姉さんの方が反応しちゃったんだけど。
「…なんで華扇が食いつくのよ。魅魔のこと知ってたっけ?」
「霊夢、私は貴方より長く生きる仙人ですよ。魅魔ほどの悪霊を知らないはずがないでしょう」
「魅魔殿はご主人様が思っているよりずっと高名な方ですぞ」
「あの迷惑な悪霊が?やっぱりちゃんと封印すべきだったわね」
そうなのね…わたしもまだ子供だからなあ。昔のことは全然知らないのよね。
「え~っと、華扇さんでいいのかな?」
「ええ、霊夢が先に名を出してしまった以上その名で構いません。貴方は?」
「騒霊のカナ・アナベラルよ。魅魔と同じで、スペルカードルールに上手く適応できないからひっそりと暮らしてるわ」
「そのカナがなぜ魅魔の動きを知ったのですか?」
「昨日アリスと人里に出たのだけど、そこであのソーサラーがアリスに絡んできたのよ。
『修行に付き合えよ!昨日久しぶりに魅魔様が顔出してくれてな!』って言ってたから、あれ?って思って確認しに来たわ」
「カナがアリスと知り合いってのは私も初耳ね。どんな付き合いなのよ」
「う~ん…言葉にするなら西洋つながり?わたしやアリスが使うような服とか家具とかって人里だとなかなか手に入らないじゃない。お互いに融通してもらったり、材料だけ用意して縫ってもらったりしてるのよ」
「ああ、なるほどね…」
―――嘘だけど不自然に感じては無さそうね。これ以上アリスとの関係を突っ込まれないといいんだけど。
「そうですか…カナ、ありがとうございます。霊夢、私は少し調べることが出来たから失礼するわ」
「待ちなさい!修行に付き合わせたのだから約束のお昼ご飯を奢るまでは帰さないわよ!」
「…そうでしたね、仕方ない。ですが、事情が変わりました。人里のお店までは付き合いますが、代金だけ払って帰らせてもらうわよ?」
「奢りさえすればいいわ、好きにしなさいよ」
…これは、昼までは大丈夫かな?一度椛さんたちと合流すべきかも。
「話した通り、わたしは弾幕ごっこ苦手だからね…下手に動かない方がいいと思うから話に来ただけよ。何が起こってるのかはわからないけど、伝えたからね?」
「気が向いたら魔理沙に聞いておくわ。魅魔のためにわざわざ動きたくはないから問題なさそうなら放っておくわよ」
「ふむ…隠居した同士、この爺も魅魔殿に話を聞きに行きますかの」
「あ、なら私も連れてってください玄爺さん!」
あれ~…なんか巫女じゃないみんなが食いついちゃったなあ。華扇さんのおかげで昼までは何とかなりそうだけど、作戦成功とは言えないよねこれ。
「用は済んだわね?じゃあ華扇、人里に行くわよ!」
「まだお昼には早いわ…お店が準備中でも文句を言わないでよ?」
「あ、霊夢さん行ってらっしゃいませ!」
あ、早速行っちゃった。まあ、失敗ではないよね。とりあえずは早く皆と合流してどうするか決めるべき…!
「済みませぬな、カナ殿…ご主人様は見ての通り相変わらずでしての」
「そうだね~…まあ、わたしの用は済んだから大丈夫よ。わたしも帰るわ」
「あ、カナさんもお疲れさまでした!機会があればまた色々教えてください!」
「わかった、あうんもまた今度ね」
博麗神社を後にする。まだ、始まったばかり…わたしにやれることをやらないと!