寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第58話 レイセン/コウキョウキョク

『アリスさん!霊夢さんが神社から出て行ったわ!』

 

サニーミルクの声が響く。カナ、上手くやってくれたみたいね!

 

「ありがとう。その人形は私の方で戻すから、今日はもう付き合わないでいいわよ」

『え?それだけ?』

 

不満そうな声が聞こえたけれど、報酬はルナチャイルドにもう渡してある。今は時間との勝負、妖精の相手をしてる余裕なんてない。

湖と聞いていたけれど、正確には枯れた湖だったわね。上海は私の少し後方を飛んでいる。ルナサは判別できないけど…夢幻館で合流出来ればいい。信じて先に進みましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(…あれは、茨華仙様…)

 

保存のきく食料を確保するために人里に向かう途中で、歩く私を空から追い抜いていく茨華仙様と博麗の巫女を見かけました。茨華仙様も、かつて人里に居た頃の私にとって師匠と呼べる相手。豹さんから頼んでもらえれば、藍様のように思い出してくれるかもしれませんが。

 

(博麗の巫女と同行しているのであれば、私の独断では頼れない)

 

豹さんは博麗の巫女に関しては紫さんが対応してくれると言っていました。つまり紫さんの手回しで同行している可能性があるということです。私が茨華仙様を頼ることによって紫様の豹さんに対する援護を妨害してしまっては本末転倒になってしまいます。

 

「…ルナサさんと私以外にも、豹さんの力になってくれる方が居れば助かるのですが」

 

思わず口から零れてしまいました。すぐに忘れられてしまうとはいえ、人里で同じことをするわけにはいきません。気を引き締めなければ。

私のせいで、豹さんが窮地に陥ることだけは避けなければなりませんから………

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――くるみ、起きて」

「うぅん………まだ朝だよね…まだ寝させて……」

 

幽香がここを離れてから本当にくるみは睡眠時間が増えました。ですが、昨日と同じくこのまま寝させておくわけにはいきません。

 

「追手が来たわ。寝惚けてる場合じゃない」

「追手…?わかった、起きるー…」

 

豹さんにはとてもかないませんが、私も幽香に認められた門番です。隠形魔法を行使しても、探査魔法で察知できます。昨日の幽玄魔眼のように異空間越しに監視されるような異能ではなく単純に姿と魔力を隠すだけであれば、私だって感知できる…豹さんのアドバイスで精度が上がっていなければ気付けなかった可能性もありますが。

 

そして、修復途中の夢幻館を訪れるのにわざわざ隠形魔法を行使して近付いてくる相手なんて、追手以外にはあり得ません。私とくるみへの追手なのか、豹さんへの追手なのかはわかりませんが。

 

(どちらであっても、迷っている時間なんてありません。できれば、私たちへの追手であればいいのですが)

 

豹さんの追手であれば、不用意に死なせるわけにはいかないのですから。

 

 

 

 

 

(ここが夢幻館…思っていたより派手に崩壊してるわね)

 

薄暗い洞窟を進むと二階が八割方崩れた洋館に辿り着いたわ。これを修復魔法で修繕させてたというの…?

幽香は部下にすら鬼畜なのね。

 

隠形魔法を解除する。ルナサも問題なく突っ切って来れたようね。上海とほぼ同位置でこちらに向かっている…この距離ならすぐにでも追い付いてくるでしょう。

 

「今更隠形魔法を解いても遅いですよ?」

「っ!?」

 

不意に放たれた光弾を慌てて飛び退いて避ける!油断してたつもりはないけれど、遠慮なく先制攻撃されるとは思ってなかった!私も幻想郷に慣れ過ぎてたわね…カナとやり合った時に理解したはずなのに!

 

「今の私は不安定なので、死なせてしまうかもしれません。

 お引き取り願えないでしょうか?」

「…あなたが、エリーね」

「あら、私のことをご存じですか。

 それなら…狩ってしまっても問題ないですね」

 

外刃の大鎌を構える死神が臨戦態勢で敵意を向ける。参ったわね、霊夢を避けるための隠形魔法が、エリーには看破されたせいで襲撃者と勘違いされたか…!

 

「敵対するつもりは無いのだけどね。豹という男がここに来ていないかしら?」

「―――あなたのお名前を聞かせてもらえますか?」

「アリス・マーガトロイドよ」

「…そうですか。もう一度言います。

 今の私は不安定なので、お引き取り願えないでしょうか?」

 

何か知ってるわね…!なら、引くわけにはいかないか!

 

「悪いけど、私たちにはもう時間が無いのよ。力尽くでも話してもらうわ!」

「警告はしました。豹さんのためにも死なないでくださいね!」

 

戦闘は避けたかったけれど、相手がその気なのだから仕方ない!手早く終わらせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルナサさん!」

「っ!上海」

 

後ろから声を掛けられて驚いたけれど、振り向いた先にいたのは上海。ということは…

 

「アリスはもう夢幻館に着いたということね」

「はい。私たちも急ぎましょう!」

「そうはいかないかなー」

「「っ!!」」

 

目的地の方から大きな黒翼を羽ばたかせる金髪の少女が飛んできた。

エリーは、赤い服の死神と聞いている。だとすると、彼女は…

 

「もしかして、あなたがくるみ?」

「…私のことを知ってるんですか。手加減はいらないみたいですね」

 

…しまった。敵対者と判断されてしまったらしい。

 

「あなたがくるみさん…!エリーさんを知っていますよね!?エリーさんのところに豹さんがいらしてないでしょうか!?」

「………なにこれ?これだけ流暢に喋る人形が私とエリーを知ってて豹さんを追ってる?

状況が全然わからないわ…」

 

素直な上海のおかげで豹と面識があることは確定。なら、内通者(私の立場)を活かせる可能性がある…!

 

「上海、先行してアリスと合流して」

「え、ルナサさん一人で…!?」

「私じゃ上海に魔力を補充出来ないから。

 出来れば、すぐに終わらせてアリスと一緒に私を助けに来てほしい」

「―――っ!わかりました、お願いします!」

 

返事と同時に牽制の光弾をくるみに放つ!上海も意図を理解して動いてくれたけれど…

―――ここから、いかに上手く動けるかが重要。

 

「…あっさり上海を見逃してくれるのね?」

「あなたの名前を聞いちゃったからねー、ルナサ?」

 

…どういうこと?さっき向けて来た敵意が無くなっている。

 

「私の聞いてるルナサなら、この状況に持っていきたいんじゃないかなーって。

…あの人形のいない、私たち二人きり。こうならないと話せないことがあるんじゃない?」

「…ッ!?」

 

まさか、これは。

 

「豹さんと八雲藍の会話に出て来たルナサって、あなたのことかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓬莱っ!」\ホラーイ!/

「人形ですか…可愛らしいですが、真っ二つにしても文句は言わないでください!」

 

大鎌なんていう癖のあり過ぎる武器を見事に扱うあたりは流石死神。蓬莱を中心に懐に入り込ませようとしたけれど隙が全く無い。この辺りは専門じゃない私じゃかなわないのは当たり前だけれど。

 

「そんな余裕があると思うの?」

 

私の赤の魔法が本命!幽香の修理命令を無視してまで私を相手する気になれるのかしら!?

 

「せっかく直したのに、非道いですね…!私も怒るときは怒りますよ!!」

「なっ!?」

 

その大鎌を私に向けて投げつけてきた!?しかもこれ、誘導されてる!

 

「ゴリアテ!!」\!!/

「人形の巨大化!?恐ろしい人形遣いですね…!」

 

豹を追い始めてからはゴリアテはすっかり盾役だわ…!魔力消費も大きいし術式に耐える衣類や武具のコストも重いから避けたい使い方なのに!

エリー本人もあっさり蓬莱たちを一蹴して赤の魔法もそれほどの被弾なく避けきっている。加えて光弾を広範囲に放つことによって人形の移動制限もかけられている。幽香に仕えているってのは伊達じゃないようね…!

 

「…やりますね。私としてはこれ以上続けたくは無いのですが」

 

ゴリアテすらへし折ることのできなかった大鎌をその手に戻しながら死神が宣う。

 

「そいつを回収しながらいうセリフじゃないわね」

「そうですね。また壊された以上、また利用します!」

 

何のこと?と頭をよぎった瞬間、赤の魔法の流れ弾が崩した館の外壁からタイルが私に向けて飛んでくる!再度大鎌を投げるおまけ付きで!

 

「くっ…ゴリアテ、大鎌は任せる!オルレアン!!」\!!/\…!/

 

大鎌なしでも蓬莱たちを一蹴された以上、接近戦は無駄。なら数で押す射撃戦でカタを付ける!

 

「うっ…見事な人形の扱い方。手加減されてるのがわかっていてこのザマは悔しいですね…!」

「私が魔法使いとして本気を出してないのを、見破れる相手が言うことじゃないわよ!」

 

赤の魔法を使ったとはいえ、人形遣いとしてより魔法使いとしての強さの方を理解されるのは流石としか言えない。このあたりも弾幕ごっこ慣れし過ぎた弊害かしらね…!

お互いに決定打を放てない中、膠着状態を打破する声が届く。

 

 

 

「ご主人様!!」

 

 

 

「上海!?ルナサはどうしたのよ!?」

「くるみさんを食い止めてくれています!なるべく早く助けに来てとも!!」

 

ルナサ…くるみの判断力は本当に私より数段上ですね。あえてルナサ…豹さんと繋がっている可能性のある相手と二人きりの状態になった。私たちがどう対応するべきかを判断するために。

 

それなら、私が果たすべきは時間稼ぎ。くるみが情報を引き出して戻ってくるまで、アリスとあの人形を足止めすること…!

 

「増援ですか。その言葉を聞く限り、特別な人形のようですね…

 もう手加減は出来ません。最初に言ったように、死なないでくださいね!!」

 

夢幻館の修復なら時間に余裕があります。今は豹さんのために、私の全力を尽くしましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

「…豹が、夢幻館にいるのね?」

「いたわ、昨日の朝までね。ルナサたちとは別の追手が来たせいで離れちゃったのよ」

 

――なんてこと。正解だったのに、遅かった…!

 

「私としては、そっちを倒すためにルナサとは共闘したいのよ。アリスってのは、ちょっと信用しきれないんだけど。豹さんと八雲藍の話を聞く限り、ルナサは信じて大丈夫そうだからねー」

「…その追手って、どこの誰よ?」

 

くるみ…彼女を私が信用するためには、くるみたちのことも聞かないと。

でも、返ってきた答えは…また私には遠すぎる相手で。

 

「魔界の堕天使、サリエルの使い魔…幽玄魔眼っていうらしいんだけど。

 私とエリーは蚊帳の外になっちゃったからこそ、情報と仲間が欲しいのよ」

「堕天使、サリエル…!?」

 

もはや伝説に近い存在まで豹は面識があるというの…!?たしかに幻想郷には名高かった神々も存在しているけれど、地理的な面もあるのか西洋の名高い天使や悪魔は見たことが無い。

でも、サリエルなんて…西洋出身の私たちであれば簡単に思い出せる存在。七大天使に列されている書すらある、大天使…!!

 

「とりあえずエリーがアリスの相手してくれてる間に、私とルナサで情報交換しておきたいのよ。

 お互い、アリスには伏せておきたい事情があるはずだからね」




私的な事情で申し訳ないのですが、原因不明の皮膚炎でしばらく通院することになってしまい…今後は更新頻度が落ちるかもしれません。
引き続き火・木・土の更新を目指しますが、その曜日に更新が無ければ次の曜日まで間が空くことになると思います。
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