作者のネーミングセンスが皆無という証明でもあったり。
「危ないものは最初に終わらせた方がいいよね。《スラッシャーカーニバル》」
扉や窓の開け放たれた家から包丁やのこぎり、日本刀まで!?
魔法で撃ち落とす?でも外したり強化されていて壊しきれない可能性がある、全て確実に防ぐには。
「ゴリアテ!」
「…すご~い。お人形さんがおっきくなった」
盾にするような使い方なんてしたくなかったけれど最善手はこれ!初手から切り札の一つを切りたくはなかったけど!
「刃物はアリスに向けたくないから任せていいのかな。ごめんね、ゴリアテちゃん」
「自分の心配をしたらどうなの!」\シャンハイッ!!/\ホライッ!!/
ゴリアテで刃物を捌きながら、上海と蓬莱でカナを狙う。
「シャンハイちゃんもごめんね。今のわたしは制御で余裕がないから、手荒になっちゃうわ」
ランスを構えて突進させた上海は外れて飛んできた扉にぶつかり、蓬莱は射程距離に入る前に得物で叩き落とされた。でもそれは囮。本命は側面から私の緑の魔法!
「っ!!危なかったわ…凄いね、アリス」
「二本とも直撃させるつもりだったんだけど」
一本は避けられ一本は得物で防がれた。
「わたしを狙うことより避けることを優先してくれないかな?」
「あなたを倒さなきゃ終わらないじゃない」
「わたしが消えたらもっと容赦なくアリスの命を狙ってくるよ。八つ当たりしたいのはお家なんだから」
「さっきの話を信じろと言うの?」
「約束通りシャンハイちゃんを返しただけじゃ信じられない?」
…嘘は言っていないのだろうけれど。
「信じることと納得することは別よ。いきなりこんなことに巻きまれて素直に協力する気になれると思ったのかしら」
「それもそうね。わたしが狙われないぐらい頑張るしかないかあ…
《ダンシング・クリーナーズ》」
今度は掃除用具が出てきた。初手ほど危険は無いけれど…
「危ないものはもうないからわたしもアリスを狙うからね!」
「でもそれだけじゃ数が足りないわよ!」
隠れ家という都合上必要最低限のものしか置いていないようで、人形一体一体で十分対処でき「《クロストラップ》」
服やシーツ、カーテンといった布製品で人形たちが足止めされた!?真っ直ぐこちらを狙ってくる…っ!
「大江戸!」
「ええっ!?お人形さんが爆発した!?」
咄嗟の判断だったけれどこれは完全に悪手ね…まとめて吹き飛ばすために大江戸を使ってしまったけれど、殺傷力は低いものばかりなのだから魔法で撃ち落とすべきだった。
「ええ~…もったいないよ。かわいいお人形さんなのに」
「人形には宿りやすいのよ、あなたもよく知ってるんじゃないかしら。余剰分を放っておくのはリスクがあるから処理に価値を持たせてるだけだわ」
「…そうね。溜まる一方なのはよくない…このお家みたいに。たまには吐き出させなきゃ」
言葉を交わしつつ人形たちに絡みついた布を引き剝がし終えると、カナも次の準備を終えたよう。
「《アングリーインテリア》《ブックス・レイン》《バッドディナーショウ》」
…何でもありね!って魔導書が数冊混じってるじゃない!大切に扱いなさいよ!
「《リビングアーマー》《イーターポット》《パンクコンサート》」
鎧具足や古い壺といった骨董品店が欲しがりそうなものが一つだけ混じってたりと、使えそうなものを手当たり次第引っ張り出してきたようね…!傍から見れば面白い光景になりそうだけど、これは流石にカナを狙う余裕はない!
「ゴリアテ!一掃するわよ!」\!!/
でも他の人形たちと共にゴリアテを盾にして、魔力と操作をゴリアテに集中すれば防ぐのは問題ない、全部叩き落としてあげるわ!
…そう、防ぐのは問題なかった。
「やっぱりわたしじゃアリスにかなわないね。でも、まだ足りないみたい。もう一回付き合ってね」
へし折った刃物や砕いた清掃具、割れた食器…すべてカナの周りで元に戻っている。
「修復魔法ですって…!?あなた本当に騒霊!?」
「騒霊だよ。わたしはこんな高度な魔法使えない。
最初に言ったわよね。凄いのはわたしじゃなくて豹とこのお家なの」
「……あなた、その手」
カナの白い長手袋に、赤いものが滲み始めている。
「わたしには重すぎるね、豹の魔力は。掌握するどころか制御だけでこんななんて」
「…そうなってまで、カナはこの家を守りたいの?」
「うん。わたしなんかが取り憑くのは失礼なくらい、いいお家。
隠れ家だから、このお家には豹ひとりなのが当たり前で。その豹が資材を集めて、組み立てて、魔法で補強して。いつ崩れてもおかしくない造りなのに豹がずっと魔法で守ってたから、一度も崩れたことが無かったみたい。立派なお屋敷だったわたしの生まれた洋館も、災害でボロボロになっちゃったのにね。豹がどれだけ凄いのかわかるよね。
…そこまでされたらさ、このお家は豹のことが大好きになるよね」
家を見れば、外れた扉も何の違和感もなく元に戻っている。
「このお家は、豹が幻想郷に来てからず~っと共にある。とても永くあるのに、豹以外の訪ねてきた妖怪をこのお家はみんな覚えてたわ。滅多に豹が迎え入れないから、とても大切な記憶として。
そう、覚えてたの。豹を外で守ってくれてる相手だと思ってね」
カナも家を見上げる。
「このお家は、意思を持ち始めてるわ。豹を守りたい、豹に支えてもらいたい、いつまでも変わらずにって。
修復魔法もお家の力。このお家の中の道具はみんな家族だと思ってるから、わたしがお家と壊れたものを繋いであげれば簡単に直せるの。豹が困らないように、元に戻してるのよ。パイプになったわたしはこんなだけどね。
豹は、本当に物凄いウィザード。だけど、このお家のことに気付いてあげられなかった」
長手袋の赤い染みは広がっていく。
「豹はほとぼりが冷めたら戻ってくるとは言ってたけどね。とっても永い時を一緒に過ごしたから、気付いちゃったんじゃないかな。もう帰ってこないかもしれないって…ここを放棄するって。
はじめて、絶望っていうマイナスの感情を知っちゃったんだ。このままだと、絶望に染まって崩れてしまう…豹を追いかけるために、追いかけられる手段を持つために。今まで溜まりに溜まった大切な想いが大きすぎて、反転した感情も大きすぎた」
カナが私に向き直る。
「だからわたしが止める。豹の魔力をわたしが掌握して、お家の形を保つためだけに使えるように。
このお家の素敵な気持ちを、わるいことに使わせないために。
そのためには、一度落ち着いてもらわないとやっぱり難しい。だから付き合ってもらうね、アリス」
覚悟と、目的は理解できた。だけど。
「カナに掌握できるのかしら。ハッキリ言って、その様子じゃ魔力に耐えられるようには見えないわ。そもそも私相手に魔力を使い切ったらそのまま崩れそうなのだけれど」
「それはだいじょうぶ。ここに取り憑いてから、豹がここを支えるための魔法は教えてくれたの。アリスをここに閉じ込めた時点で、緩めちゃいけない部分にはわたしの魔力を送ってあるわ。
それにこのお家は優しいから、わたしのことも家族と認めてくれてるの。わたしがダメになったら、わたしを元に戻そうとする。アリスがここに来てくれなかったら、それを繰り返して落ち着いてもらうつもりだった」
踏まずに抜けてみせてあげるとか言っておいて見事に罠に掛かったのね。情けないわ…
「でもわたしだって好きで消えかけたりしたくないからね。豹が逃げることになったきっかけのアリスに付き合ってもらうことしたの。
豹の魔力をわたしが扱い切れるまで減らせれば、わたしが制御してお家を落ち着かせることもできるし、崩れないように維持もできる。そのためにはマイナスの感情を魔力を使ってぶつけられる相手が必要だったの。もうバレてると思うけど、豹はわたしと隠れ家を使ってアリスの足止めをしたのよ。わたしにとっては、このお家を守るために最高の状況。
耐えて見せるわ!ポルターガイストとして、家族として!このお家はわたしが守る!!」
まったく。本当に自業自得とはいえ、面倒なことに巻き込まれたものね。
でも…踊らされるだけなんてごめんだわ。私も好きにさせてもらおうじゃないの…!
「いいでしょう、協力してあげるわ。でも、長々と付き合う気はないわよっ!
《注力「トリップワイヤー」》!!」
「えっ…?」
命の危険はもう少なさそうなのはわかった。でも、ここまで見事に利用されたお返しに、少しだけ本気を見せてあげようじゃない!!
「驚いたわね…この魔力を騒霊が制御してたの。カナ、あなた自慢していいわ。魔法使いの才能あるわよ」
物凄く上質で、強い魔力。これ、
「お家の魔力を…吸い取ってる?それを、お人形さんたちに送ってる!?」
「私は遠慮なくこの魔力を使わせてもらうわ。だからあの家を守りたいのなら…
私と家を繋ぐパスを、丁度良いタイミングで断ちなさい!
私の人形はあなたたちを狙うけどね!!」
家と私をトリップワイヤーで繋いで、魔力を奪う。さらにそれを人形たちに送って強化する。
カナの目的に協力しながら、好き勝手やってくれたお礼をしてあげるわ!
「すごいね。ほんと、わたしとは格が違うんだね。
でも、ありがとう。これなら、わたしはこのお家を守り切れる!」
目の前のポルターガイストも、嬉しそうに応える。白かった長手袋は、終わりには真っ赤に染まるのでしょう。
隠れ家の家族たちがカナの傍に集う。
「それじゃあ、遊びましょ?お人形さんたち」
上海が鎧具足を貫く。蓬莱がタンスを真っ二つにする。ゴリアテが日本刀をへし折る。
魔法使いは人形たちの死角を狙うものを魔法で撃ち落とす。
しかし、壊れても壊れても、家は家族を元に戻す。
その行いを自らが傷つきながら助ける騒霊のことは気にしていないのか。
それとも、まだ大丈夫だと信じているから後回しにしているのか。
壊して、戻して。ひたすらに繰り返す
その終幕は、突然に。
「今っ!!本当にありがとう、アリス…!」
カナの道路標識が、トリップワイヤーを断ち切った。
「―――無事に終わったか。あまり心配させないでくれよ、カナ…」
スキマから飛び降りると、隠れ家の周囲…というか魔力遮断領域を展開していた範囲に結界が張られていて驚いた。預かりものの魔眼で覗いたところ、決着が付く直前。カナは隠れ家の補強に使った俺の魔力まで総動員してアリスとやりあい、アリスもその魔力を逆用するという大立ち回りを見せていた。足止めってレベルじゃないぞあの規模…
(しかし、アリスが俺の魔力を使いこなせるとはな。本来の彼女は人形遣いじゃなく、紫さんの言ったとおり魔法使いか)
あれだけの魔法使いが、人形遣いとして生きるのは。
やはりそういうことなのだろう。
役目を果たした魔眼を閉じ、豹は湖の底へ消えていった。
先週の時点で予想以上のお気に入り登録数があり、評価までしていただいた読者様もいらっしゃいました。ありがとうございます!
期待に応え続けられるよう頑張ります。