寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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59話の脱字を修正してます。いつも誤字報告助かっております。ありがとうございます。


第60話 同じ想いを持つのだから

「上海!左!」

「うっ!?」

「流石は人形遣い、よく見ていますね!」

 

ご主人様の指示で間一髪ショートレーザーを避けきれましたが、このエリーという死神さん強いです…!私一人で立ち向かったらあっという間にあの大鎌で戦闘不能にされてしまっていたでしょう。

 

当たれば真っ二つにされてしまう大鎌の投擲を、乱射による移動制限で避け辛くしてきます。投擲直後に騎槍での突撃を試みたのですが、避けられるどころか迎撃に放たれた光弾の直撃を喰らってしまいました。あくまで足止めの牽制弾でしたので行動不能にはならずに済みましたが、追撃のローキックで騎槍を蹴り落とされてしまっています。

そうなってから初めて蓬莱たちも射撃戦に専念しているのに気付いて、私が未熟ということを思い知ります。一人で私たち姉妹全てを操っているご主人様は、指揮官として戦場全体を把握して立ち回っている…とても真似できないです。はっきりと自立させてもらってから、ご主人様がどれだけ凄かったのかを理解させられっぱなしですね…!

 

「それにしても…上海ですか。これほど自立して行動できる人形は初めて見ます。伏せ札として最初から参戦されていたらしてやられていたでしょうね…」

「どうだか。貴方ならすぐに見破れたと思うけど」

「それこそ、ご主人様に操ってもらった方が戦力になれた気もします…!自立させてもらってからの戦闘経験は、全く足りていませんから!」

「それは違います。自立するようになったのはつい最近のようですが、操り人形のあなたの方が手強くなるなんてことは無いですよ。人形遣いである以上、操る人形は最適な行動を取ります…負担を減らし効率を高めるために。そうしなければ、人形遣いの方が情報過多で保たなくなる―――最適な行動であるからこそ、動きを読みやすい。自立しているあなたは、自身の判断で動ける…行動を読み辛いのですから」

「よくわかってるわね、本当に…!貴方ほどの死神がどうしてこんな廃洋館に留まってるのよ」

「このお屋敷が好きだったのと、幽香の命令を果たせる希望が見えてしまったからですかね…

 もし豹さんと出会えなければ、ここを捨てて逃げていたと思いますよ」

 

―――豹さんの名前を出したその表情は、とても穏やかながら。悲しそうにも見えました。もしかして、豹さんは…

 

「豹さんは、ここを…去ってしまったのでしょうか」

「――っ!?」

「…驚いたわね。上海がそんな予測を立てられて、それが図星なんて」

 

エリーさんの表情から、私の予想が当たってしまっていることがわかってしまいました。

つまり、もうここに豹さんはいない。私たちが来るのが、遅かったということです…!

 

「…私もまだまだですね。表情から簡単に読み取られるなんて。

 あらためて言います。豹さんはもうここに居ないのです…お引き取り願えないでしょうか?」

「つまり、ここに居たということね。私もこれ以上貴方と命のやり取りはしたくないわ。

 だから、知っていることを話してほしいのだけど」

 

無駄足になってしまったようですが、豹さんの足取りを追える情報があれば教えてほしい…!

いないからといって、簡単に諦められないのですから…!

 

「………アリスさん。あなたが魔界と繋がりがある以上、私はあなたを信用できないのです…!

 私も命のやり取りを続けたいとは思いません。だから…このまま帰ってください」

「…っ!?そういうこと…!」

 

――そうでした。豹さんは魔界から追われている。そしてご主人様が魔界出身であることを見抜いていた。

つまり豹さんは、ご主人様を信用できるだけの判断材料を持っていない…!だからこそ、エリーさんも豹さんのために引くことが出来ない……

話を聞かせてはくれないでしょう。

 

「…上海、帰るわよ」

「ご主人様…」

「私を信用できないのは当たり前だわ。でも、ここに居ないということに嘘はない…次の当てを探すわよ」

 

戦闘態勢の妹たちを下がらせてご主人様がエリーさんに背を向けます。エリーさんも構えを解いてくれました。背後から不意打ちするほど敵意を持っているわけでは無いようですが、友好的に見てはくれないようです…残念ですが、引き下がるしかないですね。

 

ご主人様について行くため、私も夢幻館を後にします。エリーさんも豹さんをお慕いしているようですが…だからこそ、私たちには話せない。想いは同じでも、手を取り合うことが出来ない…悲しいです。

―――ですが、落としてしまった私の騎槍は回収しませんと…そう思って足を止めたところで。

 

「エリー、無事よね!?」

「アリス、上海も…間に合ったようね」

 

ルナサさんとくるみさんが、並んでこちらに飛んできてくれました。

 

 

 

 

 

「――まあ、そういう事情らしいから。アリスはともかくルナサは信じていいと思う」

「…そうですね。情報交換はしておくべきですか」

 

とりあえずエリーもアリスも目立った外傷は無し…絶妙なタイミングで合流出来たみたい。ある意味ここからが本番…アリスにルナサや八雲藍との関わりを感付かれないように情報交換。エリーに戦闘を押し付けた以上、私が前面で上手く立ち回らないとね。

 

「ルナサとしてはどうなのよ?この二人、信用できるの?」

「少なくとも、八雲紫よりは信じられるわ。豹自身が、潜伏先として選んだ時点でね。

それこそ、八雲紫なんて真っ先に頼るべき相手だわ。それを差し置いて豹は夢幻館に向かった…豹にとって、くるみとエリーが頼れる相手だったことは間違いないのよ」

「そういえば、そうですね…豹さんがここに居たということは、妖怪の賢者に庇護を求めることはしなかったということですものね」

 

ルナサも中々口が上手いなあ。腹芸は苦手だからフォローはあまり期待しないでって言われたけど、違和感なく誤魔化してる。それほど心配しなくてもいいかもね。

 

「帰り道を考えると時間を掛けたくないから手短に済ませるわよ。豹はどこへ向かったのかしら?」

「明羅っていう女侍を頼るって言ってたけど、私もエリーもルナサも心当たりが無いのよ。アリスはどう?」

「明羅?名前は聞いたことないけれど、女侍なんてそういないでしょう。人であれば慧音に、人外であれば妖夢にでも聞けばだいぶ絞り込めると思うわ。後で話を聞きに行きましょう」

「あー…それはたしかに。人里に話を聞きに行くという選択肢は私には出てこなかったなあ」

 

薄暗い夢幻館の周りなら問題ないんだけど、湖より外に出るとなると日傘を持って行かなくちゃならないし。出来ればエリーに頼みたい選択なのよねー。

 

「私からまず聞きたいのは、アリスが豹さんを追ってる理由。ルナサの事情は先に聞いたけど、アリスの事情はアリスの口から聞きたいわ」

「それは私のためです。私に宿った隠れ家さんの意思のために、ご主人様は手を尽くしてくれています」

 

――そういえば、ルナサと二人きりの状況を作るためにスルーしてたけど。この上海っていう人形…いろいろとおかしいよね。流暢に喋るし、はっきりとした意志を持ってるみたいだし。

 

「宿った隠れ家の意思、ですか。アリスさんの作った人形に、豹さんを慕う意思が宿って上海が自立した…ということでしょうか?」

「私自身にも正確なことはわかっていないのですが…そう納得していただけると助かります。厳密に言うと少し違うのですが、エリーさんとくるみさんにとっては大きな違いではありませんので」

「なんというか、家に意志を持たせるなんて流石は豹さんです。安心して休める場所だからこそ、大切に扱ってたんですねー…」

「まあ、そういうわけよ。私自身は豹と面識もないし取って食うつもりもないわ。上海を豹と引き合わせようとしてるだけ。そもそも魔界から幻想郷に移住してきた以上、そう簡単に魔界に帰るつもりもないし」

 

うーん…その言葉をどこまで信じていいのかがなあ。

 

「逆にエリーとくるみはどういう経緯で豹と知り合ったの?風見幽香に仕えていると聞いたけれど、その風見幽香は豹の名前すら知らないみたいだったわ」

 

ルナサからの疑問は豹さんとの出会い。これは偶然としか言えないんだけど…納得してくれるかなあ?

 

「ルナサとアリスは、幽香の起こした異変についてどこまで知ってる?」

「私は全く知らないと言っていいわ。その頃はまだ幻想郷に来ていなかったから」

「私もほとんど知らない。ただ、いつ起きた異変なのかは把握してるけれど」

「なら詳しく話さない方が手早く済むかな?簡単に言うと幽香の起こした異変をあの巫女が武力行使で解決した結果が今の夢幻館の惨状なの。おまけに幽香は私たちに修理を任せて出て行っちゃうし…」

「豹さんは、夢幻館が崩壊したという話を聞いて役に立ちそうな資材が残っていないかとここを訪れたんです。そこで幽香の無茶振りに困っていた私とくるみに現実的な解決案を出してくれて…ここに来てくれたのは片手で数えられるぐらいですが、豹さんにとって価値があるものを代価に修復を手伝ってもらっていました」

「そういうこと…風見幽香がこの館を離れた後で豹がここに来たから面識が無かったのね」

 

できれば幽香とも会ってもらいたいんだけど…夢月さんのことを考えると会わない方がいい気もする。会わせるなら幻月さんと夢月さんも一緒にいてもらわないと豹さんに迷惑かけちゃうかもしれないのが困りどころなんだよね…

 

「それで、豹はどうしてここから出て行ったの?」

 

―――来た。ここからが勝負…八雲の関与を伏せつつ(・・・・・・・・・・)豹さんが夢幻館に戻ることは無いとアリスに思い込ませる。それが出来れば幽玄魔眼を排除でき次第、夢幻館を豹さんの潜伏先に戻せる…!

魔界神を相手にすることになっても、幻月さんと夢月さんにサリエルと八雲の支援が期待できれば…私たちでも豹さんを守り切ることが出来るかもしれない。私もエリーも、豹さんの危機に何もできないのは悔しいから。少しでも、恩返しが出来るように…!

 

「ルナサには話したわね。幽玄魔眼っていうサリエルの使い魔が豹さんを襲撃してきたの。幻月さんと夢月さんが援護してくれたから豹さんも負傷無しで撃退したんだけど…」

「はぁっ!?サリエルって魔界の堕天使のこと!?」

「そうです。豹さんの話を聞く限りサリエル本人はむしろ豹さんの味方になってくれるかもしれないのに、使い魔である幽玄魔眼が独断で襲撃してきたようで…幻月さんと夢月さんはこの辺りの情報を集めるために魔界に向かってくれています」

「待って、ちょっと待って。豹はサリエルと関わりがある上に、夢幻姉妹も豹に手を貸しているということ!?」

「そうです。アリスは面識が無いから知らないようですけど、豹さんは只者じゃないですよ。私やエリーじゃまず勝てないです」

「……私は豹と鉢合わせなかったのは運が良かったみたいね」

「豹、そこまでだったの……」

 

アリスだけじゃなくルナサも驚いてる。まあ、豹さんは常に魔力を隠してるからねー…幻月さん夢月さんとやり合った時に本気を出してたけど、私もあの時は本っ当に驚いたからなあ。

 

「問題なのは、その幽玄魔眼が魔界に豹さんの居場所を広めてしまうことだったの。空間魔法でここに直接魔界の戦力を連れてこられてしまうと、私たちだけじゃ防ぎようがない…」

「私たちで豹さんを守り切るなんて、とても言えませんでしたから…見送ることしか出来ませんでした」

「そう、ですか…」

 

上海が気を落としてるわ。本当に人形なんて思えない。

 

「なるほどね…でも、私たちにとって収穫はあったわ。先にこちらの話を伝えられれば、豹と交戦状態になる可能性は低い。もし豹と連絡が取れたら、上海のことを豹に伝えておいてくれる?私のことは信じられないでしょうけど、上海のことは信じてあげてほしい…ってね」

「それぐらいはいいけど、望み薄ですよ?」

「構わないです。どうか、お願いします!」

 

上海が素直に頭を下げる。いい子だねー。

 

「わかった、約束する。そのかわり、アリスたちが先に豹さんを見つけたら、私たちにも教えてね」

「もちろんです。豹さんに会いたいという想いは、同じですから」

 

小さな人形との約束。伏せてることがたくさんあってちょっと気が咎めるけど。

そして都合のいいタイミングで、割って入る声があった―――アリスが私たちにも見えるように動かした人形から。

 

『アリスさん。今、大丈夫でしょうか?』

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