寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第63話 マキョウ

エリス相手に遊ぶのはいつ以来かしらね?最後に顔を合わせたのすら千年以上前…ま、戦いを楽しめる相手には違いない。一昨日は姉さんだけ派手に暴れたのだし、今日は私が楽しませてもらいましょ。

 

「さあ、どれだけ強くなったのかしら!?」

 

まずは小手調べ、低速弾をバラ撒きながら肉弾戦に持ち込む。ヒョウが規格外なんじゃなく、私が衰えたという可能性もあるからね!

 

「まるで変わってないじゃない夢月は!この脳筋悪魔!!」

「失礼ね。肉弾戦に持ち込むために小細工してるわよ」

「肉弾戦嗜好なのが脳筋なのよ!」

 

貫手・肘鉄・ソバットと繰り出すけれど、ワープして逃げるだけで反撃してこない。というかワープするほど警戒されるとは思わなかった。…やっぱり、ヒョウの近接格闘は頭抜けてたのね。

 

「もうっ!離れなさい!!」

「へえ…」

 

接近戦に付き合う気は無いらしく、目からレーザーを撃ってきた。不意打ちとしては上々だけど、私に当てるには間合いが甘い。飛び退きながら撃つんじゃなく、撃ってから下がるべき。

 

「エリスも成長してないわね。接近戦の脆さを克服してない」

「わたしは魔法使いでもあるもん!脳筋とは違うの!!」

 

距離を取り星付きのステッキを振りかざして光弾を乱射して来る。ちょうどいい、試してみたいことがあった。

 

「はっ!!」

「うえっ!?危なっ!蹴り返した!?」

 

問題なく蹴り返せたけれど…調子に乗って繰り返すと靴をダメにしちゃいそうね。ヒョウは肉体だけでなく靴にまで強化魔法をかけてたと。

フフ、神綺が信頼しサリエルが求めるだけはある…次は素直に手を使って弾き返しましょうか。

 

「脳筋度合いが増してるじゃない!人の魔法弾を蹴り返すとかふざけないでよー!!」

「ふざけてないわよ。つい一昨日、私とやり合った相手を真似てみただけ」

「―――ヒョウと夢月で戦ったの!?なんでヒョウをやっつけてないのよ!!」

 

…ん?エリスもヒョウの戦闘スタイルを知っている?

 

「なぜ私がヒョウと戦ったのがわかるのよ?」

「あんなふざけた戦い方するのは初歩の初歩な攻撃魔法すら使えないヒョウぐらいじゃん!どうしてサリエル様はヒョウなんかにー!」

「…なるほど、エリスもヒョウにしてやられたの」

「うるさーい!負けてはいないもん!逃げられたけど」

 

それはそうでしょう。ヒョウと再戦したら私ももう負けない自信はある―――けれど、勝てるかどうかは別。

護衛役に相応しい技能…守りに専念されると攻めきれず取り逃がす可能性は十分ある。姉さん抜きの私に手こずる程度のエリスじゃ結果は明白。

 

「まあいいわ、射撃戦に付き合ってあげようじゃない。ただ、ハッキリ言っておいてあげるわ…

 私一人すら超えられないようじゃ、ヒョウを倒すなんて不可能よ」

「言われなくてもわかってるもん!そうじゃなきゃサリエル様に近寄らせてないから!

 ヒョウは好きになれないけど、その実力は認めてるわ!」

 

本当にいつまで経っても子供ねエリスは…あの幽玄魔眼とやらは使い魔の分際で悪知恵は回るよう。幼い精神を上手く利用して手懐けたか。エリスはもっと悪魔らしく振舞ってほしいわね。

 

「実力があるのに何が不満なんだか。ま、お喋りはこれぐらいでいいでしょ―――さあ、楽しませなさい!」

「その余裕、むかつく!半人前が調子に乗るなっ!」

 

交差弾で移動制限をかけつつショートレーザーを乱射。姉さんにすぐ終わらせてと言われたし、次で決める。

エリスは己の周囲に魔力円を展開し、さらに三角形を対に重ねた魔方陣から先ほどとは比べ物にならない量の光弾をバラ撒いてくる。しばらくは撃ち合いと躱し合い…ま、姉さんや幽香とやり合ってる私からすれば、まだまだ不足!

 

「半人前でも、エリスには負けないわ」

「言ってくれるじゃない…言うだけあるのが悔しいけど!」

 

避け切れないと理解したエリスが姿を変える…小さな蝙蝠の姿で私の乱射を凌ぐことにしたようだけど…私の狙いはこのタイミング。

 

「一つ教えてあげる。姉さんに撃てるものが、私に撃てない道理は無い」

「―――まさか!?」

「《ムーンスパーク》」

「きゃあっ!!」

 

小さくなりバラ撒き弾を避け切るのは見事だけれど、小さくなったからこそ避けきれなくなる攻撃もある…こんな、極大のレーザーとかね!私への攻撃を続けるために、短距離ワープではなく蝙蝠状態での回避で済ませようとしたのがエリスの敗因。

―――小さくなったからこそ、全身を射線内に収められたのだから。

 

「こんなものね…それじゃ、エリスを回収しましょ」

 

 

 

 

 

「あれ、姉さん?マイは?」

「エリスと違って無駄な戦闘は避けたかったみたいね。私からは逃げられないと理解したら何一つ隠すことなく喋ってくれたわ」

 

気絶したエリスを捕まえて姉さんの方へ飛ぶと、姉さんが一人で戻って来た。拍子抜けね…神綺に近い白の大魔法使いなんて、楽しめそうな相手だったのだけど。

 

「ただ、ヒョウはこの結果で気を落とすでしょうね…ヒョウ自身は予想出来ているかもしれないけれど、私たちからすれば想像すらできない結末を聞かされたわ」

「物語が好きな姉さんがそう言うの?思った以上に面白そう」

「うーん…読めなかった展開だけど面白くはない。でもエリスに聞かせればヒョウへの誤解は解けるかもしれないわね。エリーとくるみも交えて話を聞かせて、サリエルへの伝手にさせてもらおうかしら」

 

姉さんが複雑そうな表情(かお)を見せてる…面白くないって言ってるけど、意外性はある話になりそうね。暇つぶしにはなるでしょう。

 

「それじゃ、エリスを夢幻館に連行するよ」

「そうね、ついでにお茶菓子も買いましょうか」

 

 

 

 

 

(…うわー。あのエリスを一蹴するかあ)

 

戦闘らしき魔力反応があったから様子を見てみたら、かなりの大物がやり合ってて驚いたわ。一昨日は姉の方が大暴れしてたけど…今日は妹の夢月がエリス相手に完勝を挙げてる。夢幻姉妹がこう続けて魔界に来てるのは珍しい。

 

「でも、余計な魔力は使いたくないし…マイとルイズに任せちゃっていいよね」

 

幻想郷に乗り込む前から消耗なんてしてられない。隠密行動に徹するつもりではあるけど、幻想郷の管理者は神綺様の異世界間移動に干渉できる程の相手。わたしが幻想郷に侵入したことなんて即座に察知される。

そのまま強制送還される可能性は十分にあるわ。

 

(でも、今回ばかりは引けない。兄さんが幻想郷にいる)

 

だからこそ万全の状態で突入したい。わたしの全盛期…兄さんに護ってもらいながら援護射撃に徹していた頃の力はもう出せないけど。最高位の黒魔導士として扱える魔法は練り上げてきた。また兄さんの背中を任せてもらうために。

 

それを邪魔する者は、わたしだけで乗り越えなきゃならない。幻想郷の管理者だろうが、博麗の巫女だろうが、魔界を荒らした猛者達だろうが。

わたしより上の相手でも、無理やり押し通らなきゃ兄さんに会えないのなら。今のわたしの全力を出し切るために、無駄な魔力は使えない。

 

「そういうわけだから…ごめんね、マイ。後は頼んだわ」

 

幻月に逃げ道を塞がれた、相棒の魔力に背を向けて。わたしはサラの守る扉へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは…カナさん、また明日お願いします」

「うん!今日はありがとうね椛さん!」

 

纏まって動くのを捉えられると問題になるかもしれないから、このお家を出る時点で別れることにしたわ。わたしはともかくメルランとリリカは幻想郷でもトップクラスに有名だから、目撃されると誤魔化しづらくなっちゃうからね~。

 

「それでは、リリーが力になれるときは呼んでほしいのですよー」

「もちろんよ~!その時はお願いね!」

「そうならないと楽そうなんだけどね。ま、お疲れー」

 

椛さんとリリーが妖怪の山に飛び去るのを見届けて。わたしたちも次の目的地に向かう。

 

「それで、香霖堂だっけ?2人は場所知ってるんだよね?」

「うん、あの店たまーに古い楽器が仕入れられることもあってさ。私らもたまに見に行ってるのよ」

「店主さん、楽器ということはわかっても音の出し方がわからないことがほとんどだからね~。私たちが教えてあげたりしてるのよ。どんな楽器であっても演奏でハッピーになってくれる仲間は増えてほしいから!」

「な、なんだかいろいろ不安になる店主さんなんだけど」

 

お客さんから使い方を教わるって、お店として大丈夫なのかなあ?

 

「まあ、見てみればわかるから~。ついてきて~」

 

メルランに促されてわたしたちも飛び立つ。まあ、豹が居ないことはわかってるし…アリスとの合流地点と思えばいいか~。

 

 

 

 

 

「ここよ…って、先客がいるみたい。珍しいなあ」

 

魔法の森の入口になるのかな?豹のお家のある森なんかとは比べ物にならない鬱蒼とした森…その入り口にお店があった。

 

「こんにちは~。店主さん、ちょっといいかしら~」

「あれ、お客さん?珍しいね」

「リリカと同じこと言ってる…ここのお店、大丈夫なの?」

「…初めて来る相手にそう言われるのは流石に堪えるなあ」

 

眼鏡をかけた男の人が悲しそうな声色で返してきた。ということは、この人が。

 

「あなたが霖之助さん?」

「はじめまして、僕が森近霖之助だよ。君は?」

「わたしはカナだよ~、カナ・アナベラル。豹のお家に取り憑いてる騒霊よ」

「ほう、豹の。それは初耳だ…彼の身内には初めて会うよ。引き取った魔法具が売れたから、機会があればまた顔を出すように伝えておいてくれないかい?」

「へー、この店に商品を卸す奇特な人もいるんですね」

 

うわ、ひっどい。

 

「…彼は金銭のやり取りでなく物品との交換で魔法具を提供してくれているんだ。君が思っているよりはお客さんがいるよ、僕の店には」

「売り上げは芳しくないみたいですけどね。なにか商談でここに来たのでしたら、私は席を外しましょうか?」

「だいじょうぶよ~。ちょっと人探しをしてるから、あなたも何か知っていたら教えてほしいわ~」

「え~っと、あなたの名前も聞いていいのかな?」

「矢田寺成美です。魔法の森で一人暮らしなので、あまり役に立てないと思いますが…それでも?」

「ちょっと訳ありの奴でさあ。手掛かりが少なすぎるから聞くだけ聞いてくれないかな?」

「わかりました、聞かせてもらいますね」

 

とは言っても、あくまで確認にしかならないんだけど。先に知りたいこと答えてくれちゃってるし。

 

「その豹がお家から出て行っちゃったの。資金を調達出来たらって言ってたから、一度ここに寄ってたりしないかな?」

「え、そうなのかい?僕の所には来ていないよ。最後に来てくれたのは…二ヶ月ぐらい前になるかな?その時引き取った魔法具も何点かの古ぼけた装飾品と交換したから、金銭でのやり取りはここ数年はしていない」

「そうなんだ…だとすると豹はどこで資金を調達したのかしら…」

 

エリーとくるみにこれ聞きそびれてたなあ。話した感じ、お金なんて無くても豹の力になってくれそうだったから、無償で協力してくれたのかもしれないけど。わたしが直接会う時に聞いておかないとね。

 

「そういえば、君たちのライブの手伝いを豹はしていただろう?報酬を払っている君たちなら豹の金回りも知っているんじゃないかい?」

「むしろ豹が会計処理を手伝ってくれてたのよ。私たちは演奏できればそれでいいんだもん」

「姉さんはほぼ無償で手伝ってくれてたって言ってたしね~」

「ふむ…それも豹らしいか」

 

手掛かりは無し…なら次に聞くべきなのは…

 

「今は明羅っていう人の所にいるらしいんだけど、この人に心当たりはあったりします?」

「…驚いた。豹は明羅とも知り合いだったのか」

「えっ!?店主さん知ってるの!?」

 

これはラッキー!こんなところで情報が出るなんて思わなかったわ!

 

「明羅さんは魔理沙の姉弟子ですよ。私も一度お会いした時に手合わせしましたが、剣技中心だったのにあっさり負けちゃいましたね…魔法使いの端くれとしては結構へこむ結果でした」

「あ、成美さんも魔法使いなんだ」

「正確に言うと魔法地蔵ですけどね。私の生命魔法で使役したゴーレムを一閃で真っ二つに出来るような凄腕の侍さんです」

「ただ魔理沙と同じで人里に留まる気は無いらしくてね。彼女は修行と称して常に幻想郷を放浪しているんだ。流石にこれから寒くなる季節は、庵を拠点に寝泊りするはずだけど。そこがどこなのかまでは僕は聞いていない…魔理沙か、魔理沙の師匠である魅魔さんなら知っているんじゃないかな」

「うげ、あの魔法使いか。知られたくない奴の筆頭じゃん…」

 

う~ん…ちょっと私たちの判断で聞きに行くべき相手じゃないよね。ルナサとアリスにも聞かないと。アリスがここに来るまでは待機、かな。




先週の後書きでお伝えしたように、次の更新は遅れるかもしれません。火曜日のうちに更新が無ければ、木曜日の更新になると思います。
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