またも独自設定ガチガチなキャラ登場。
「あれ、マイちゃん?随分と早いお帰りね~?」
「………神綺様、ご報告が」
まったく…あのブラコン量産ヤローは本っ当にロクなことをしない。つい昨日思い出したくない記憶を引っ張り出されたってのに、夜が明けて早速とんでもない相手に詳しく話す羽目になるなんて。なんで自分より格上の相手に兄らしく振舞えるんだか…私には未来永劫理解できないんだろうな。知りたくもないけど。
「夢幻姉妹が私に接触してきました。どうやらヒョウの過去を探っていたようです。
おそらく、つい最近ヒョウが彼女たちと遭遇したのではないかと」
「ええっ!?」
やれやれ…しばらく雛に会っていなかったのが裏目に出たか?椛という天狗側の協力者を得たことによって、ここ数百年は季節変わりの度に年4回は顔を合わせていたのだが。神綺様が幻想郷に姿を見せるようになってからは春と冬の2回に半減してしまっていた。今は冬が訪れたところ…半年以上雛と会っていない。そのせいで俺に厄が溜まっていたのかと思いたいぐらい、不運な偶然が起こりつつある。
なぜ夏と秋を避けたかというと、夏は虫による情報網から蛍妖怪のリグル・ナイトバグに見つかりかけたことがあるため。彼女は妖精ほどではないものの精神が幼く、口止めしても忘れてしまい俺の存在を広めてしまう可能性がある。魔力を使わず虫の使役という形で情報収集を行える彼女から逃げ切るのは存外に難しいのだ。それ故に直接顔を会わせることを徹底的に避ける都合上、虫が活発になる夏場はなるべく動かないようにしていた。
秋は秋姉妹が力を増すからだ。妖怪の山の麓で農園を営むこの姉妹、れっきとした神である以上神綺様と繋がりがある可能性が捨てきれない。面識があった場合に俺の事を知られると一発でアウトだ。そのため秋姉妹が幻想郷に滞在するようになってからは、秋に妖怪の山を訪れる際は椛に見張り役を押し付けてしまっていた。
「明羅、気付いてるか?」
「む?何かあったのか?索敵魔法はそれほど得意でなくてな…」
気付けない、か。まあそれも仕方ない。ハッキリ言ってしまえば、たとえ2対1での戦闘になろうと軽く追い払える程度の妖怪だ。俺でも明羅でも索敵どころか警戒する必要もなく、不意打ちを受けても十分対処できるだろう。
その程度の妖怪だからこそ、俺の索敵魔法でもそこそこ近付いてくるまで拾えなかったわけだ。
「大したことない妖怪なんだが、一直線にここに向かってきてるのが2ついる。片方は知らない妖気だが、もう片方は…状況によっては放置するわけにはいかない相手でな」
「大したことないのであれば、ここまで誘い込んだ方が良くないか?放置できない方を豹に任せて、もう片方を私が始末すればいいだろう?」
「その放置できない方がちょっと扱い辛い相手でな…おまけに利用価値があるから生かしておけと言う妹分もいる。始末せずに相手する気はあるか?」
「む…少々面倒だが、いいだろう―――って、ここまで近くに来ていたか。成程、これはそれなりに離れていると察知できないな」
明羅も妖気を感知できる距離まで寄って来たか。里香は…放っておいていいか。下手に構うと余計なことを頼まれかねない。
「ひえ~!誰か助けてください~!」
「おにーさん、見つけたー」
バトンを持った赤い長髪の妖怪を追いかけて、金髪赤眼の妖怪…ルーミアが姿を現した。
(―――私は本当に成長できていませんね…まさか、あんな大妖怪に目を付けられるなんて)
昨日買い切れなかった保存のきく食料を買い込んで。茨華仙様も妖怪の山の方へ飛び去るのを確認できたので、早々に家に帰ろうとしたのですが…
(化け狸の頭領…人の姿に化けていたので即座に特定できなかった。たったそれだけの隙で私が探っていたと確信を持たせてしまった)
誰が私を視ているのか…それを確認するために周囲を探っただけで、逆に私のことを特定されてしまいました。人里で騒ぎを起こすつもりはないようですが、後を付けられてしまっています。このままだと、私の家を特定されてしまいます。
(私のかなう相手ではありません。ですが、逃げ切ることも出来ない…となると、いかに私の素性を誤魔化すかなのですが…)
二ッ岩マミゾウ。幻想郷の妖怪においては新参に入る方ながら、その実力と立ち回りですでに紫様ですら一目置く存在となっている大妖怪です。戦闘どころか会話でも私のような未熟者から情報を引き出すことなど簡単なことでしょう。
つまり、今の私が考えるべきは…いかに少ない被害で済ませるか、です。
(選択肢は三つ。今ここで…衆人環視のある人里内で会話する。
もう一つは、人里から離れた人気の無いところまで誘導して会話する。
最後に、敵拠点である命蓮寺に乗り込む)
今ここでやり取りする場合、人の姿に化けている点を突けます。相手も本性を隠しながら会話させることによる制限と、実力行使に出られる危険性を下げられるのが利点。逆に問題になるのが私も不用意な言葉を出せなくなること。忘れられてしまうとはいえ、多数の人間の耳には入ってしまう…それを噂として広められるのは避けられないのです。
人気の無い場所まで誘導する場合、八雲の名を抑止力として出せるのが利点。私のような人間の小娘一人のために八雲を敵に回すという選択は取れないはずです。その分核心を突いたことを聞かれる可能性が高くなることと、最初から話を聞く気が無かった場合に実力行使されるとその場で消されてしまう危険性があるのが問題点。今の私に救援は望めない以上、私自身の覚悟が要ります。
最後の手段は大博打です。命蓮寺の住職…聖白蓮の善性に賭けて、彼女に話を通すことで引き下がらせてもらうという他力本願な手段。聖白蓮が不在だったり、彼女と接触する前に命蓮寺に棲む妖怪たちに捕らわれてしまう危険性もあるので誘導する以上に危険な方法ですが…成功すれば私から情報を一切出さずに逃げることが出来ます。私が訪ねてきたことすらいつか忘れてしまうのですから。
(軽い私の命ですが、豹さんの役に立てないところでは捨てられません。今、生き延びるために取るべき選択は―――)
「私に何かご用でしょうか、
「ふむ、儂のことを知っておったか。少々甘く見ておったかのう」
私が取るべきは生存できる可能性が高い選択肢…すなわち衆人環視のある人里内で会話です。状況次第では、命蓮寺に乗り込む最後の大博打に移行する余地も残ります。
自信なんてありませんが、相手の大妖怪も制限が掛かる状況です。私が未だ重要な案件を知ることのできない無知な下っ端であることを逆用して、乗り切って見せましょう…!
「私は自分の身を自分で守らなければならないので。高名な方のことは聞かせてもらっていますから」
「成程の。儂の心配なんぞいらんかったようじゃが…一つ忠告しておいてやろう。
お主を守護しておるのが何者なのかは判別できんが、儂ですら興味が沸くほどには稀少じゃ。
火の粉が降りかかるのを避けたければ、もう少し上手く隠すことを覚えるのじゃな」
…私の授かった麒麟の加護を判別できたということですね。言われるまで、意識すらしていませんでした。
よく考えてみれば、私がはっきり【敵】として会話した大妖怪はマミゾウさんがはじめてです。私の霊力や魔力を妖怪は感知しているのだと思い込んでいましたが、麒麟の加護はそれらとは全く違うように感知されているということなのでしょう。気付かせていただいたことに、感謝しなければなりませんね。
「ご忠告、ありがたく受け取らせていただきます。失礼させていただきますね」
「ふぉっふぉっふぉ、素直な子供は嫌いじゃないぞい。この地は狭い幻想郷じゃ、いずれまた顔を会わせることもあろう。その時に成果が出ているかを見てやるとするかの」
―――その時に、まだ私を忘れていなければ。ぜひお願いします。
心の中で返事をして、私は化け狸の頭領から逃れるために歩き出しました。
(ううむ…違和感が拭えぬ。あの少女、儂は知っておったはず…なぜ、思い出せぬのじゃ?)
ボケが始まるほど年を食っちゃいないのじゃが。忘れておって思い出せぬというのをこれだけはっきり理解できておるのはどう考えても不自然じゃ。
「仕方あるまい。同じような欠落がある昨日の話相手に聞くとしようかの」
慧音殿か稗田の当主ならば、記憶絡みの案件は信用できるからの。
「えーっと…つまりこの子、わたしを追っかけてきてたわけじゃなかったの?」
「捕まえたら食べるつもりでいたけどねー」
「やっぱり怖い!なんなんですかこの子!?」
「単なる人喰い妖怪だが。というかルーミア、妖怪を食べても大丈夫なのか?」
「わかんない。でも妖精や毒人形よりはおいしくて安全だと思うのだ―」
「いや妖精は兎も角、毒人形を食べるという選択があるのがおかしい。豹、この妖怪大丈夫なのか?」
「生かしておけと頼まれたのが結構な無茶振りっての、これで理解できるだろ…」
ルーミアが追っていた妖怪はオレンジと名乗り、何があったのか説明してくれたのだが。
「悪食も行き過ぎると命にかかわるぞ…人間である私が妖怪の心配をするのもおかしな話だが」
「失礼ねー。流石に毒人形は他に食べられそうなのが何もない状況でもなきゃ食べないよー。
私みたいな弱い妖怪じゃ、なにかあったときに食べ物の選り好みなんてできないんだからー。人間なんて滅多に食べられないごちそうみたいになっちゃったしー」
「…もしかして、わたしが怖がり過ぎてただけ?」
「そうだな。オレンジが即座に逃げ出したのが俺としては不思議だ」
「その~…前に痛い目を見たことがありまして。軽いトラウマになっちゃってからはひたすら逃げるようにしてます…」
話としては大したことではない。オレンジが黒い球体となって移動するルーミアを目撃して近寄ったところ、中のルーミアが「あなたは食べてもいい妖怪?」と声を掛けた。それに驚いたオレンジは球体に向けて全力の光弾を一発打ち込んで一目散に逃走した…ということなのだが。
「
「あったのだー。今朝おにーさんの魔力を偶然見てなければ、ここにも来なかったよ」
ルーミアは闇を操る能力を持つ。吸血鬼異変でレミリアがその力を見せつけたことにより、この能力を吸血鬼に利用されるとまた厄介なことになると一部の有力者が言い出した結果。組織に属さない野良妖怪だったルーミアに弱体化の封印を施すことになる。
…俺からすれば要らん心配だろとしか思えなかったが。何故か博麗の巫女ではなく俺が封印を施すことになった。何故かは教えてくれなかったが、紫さんは霊夢に処置させるのを避けたかったらしく(そもそも俺と同意見で封印処置自体いらないと言っていた)幻想郷であまり解析の進んでいない魔界の魔法術式でルーミアの妖気を抑えることにした。
こんな上層部の勝手な理由で弱体化されることを俺は不憫に思ったから、せめて見た目だけでも違和感のないようにリボンを模した封印の札にしてやったところ、随分とルーミアは気に入って。ついでにこんな理不尽な扱いに納得できるのかと聞いてみたんだが。
「私じゃおにーさんに勝てないし。弱体化したらお腹が減るペースも遅くなると思うのー。
弱い私は中々食事にありつけないから、悪くない話なのよー」
ルーミアは、己の弱さを理解していて。その上で封印処置も受け入れていた。
弱者には弱者なりの生き方がある。俺にそれを実践して見せた数少ない存在がルーミアだ。精神がまだ幼いので深入りはさせていないが、偶然顔を合わせた時には食事を奢るぐらいはしてやる程度には気に入っている少女だ。
「わたしが逃げた方向が、この子の向かっている方向だっただけ…なんでこんなに偶然が重なるんでしょうか…」
「俺が聞きたい。まあ、封印し直すしかないんだが…ルーミアのためだけに組み上げた術式だから再現が無駄に面倒なんだよなあ。悪いが明羅、少し集中するから里香が作業を終えてもすぐに相手は出来ないことを伝えておいてくれ」
「ああ、伝えておこう。オレンジと言ったか?あんたはどうする」
「なんだかわたしのせいで手間かけさせちゃうみたいですし、なにか手伝えるならお手伝いしますけど」
「なら丁度いい。里香が妖怪の実験相手を探していたからな…豹の封印が終わる前に里香が騒いだら手伝ってくれ」
「あ、わかりました」
…明羅、それってあの烏天狗にやろうとした威力実験のことか?それは実験自体を止めてやれ。
とは言っても俺に矛先が向かうのも困るからな。オレンジには悪いが、犠牲になってもらうか…治療魔法は俺が使えるから許してくれ。
「えへへー、おにーさんが私だけのために作ってくれたんだ―」
「封印呪具を喜ぶなよ…ちょっと時間かかるだろうから、すぐ始めるぞ。今は俺も立て込んでるからな」
「そーなのかー」
やれやれ、精神の成長はリリーと同レベルなんだよな…巻き込まないためにも、なるべく急いで終わらせるか。
「ユキ、待たせたわね。行きましょうか」
「一応、確認してもらえる?足りないものは無かったはずだけど」
扉の前に辿り着いてそれほど待たないうちに夢子が追い付いてきた。わたしよりずっと片付けなきゃならないお仕事があったはずだから、睡眠時間も考えて回復薬や道具の準備はわたしがしたんだけど。こういったことは夢子の方が正確だから、しっかり確認してもらわなきゃ。
「………大丈夫よ。使い切るようなことは無いと思いたいけど、どうしようもなければアリスを頼りましょう」
「そうだね。それじゃ…兄さんのところに!」
「ええ…!」
「夢子さんもユキも気を付けてね!」
「わかってる!サラもごめんね、魔界をお願い!」
「基本的な業務だけで済むようにはしたから、なんとかなるはず。頼むわよ」
「はい!それじゃ、開けます!」
幻想郷への扉が開く。
さあ。わたしたちが過ごすはずだった時間を、取り戻しに行きましょう!!