寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第67話 シンクノショウジョ/ヤミノチカラ

「剣士にしては射撃戦もなかなか!でも、その程度じゃわたしには届かない!」

「くっ、ここまで押さえ込まれるなんて!」

 

わたしの元々の役目は兄さんの補助。攻撃魔法をほとんど使えない兄さんを盾に、剣として敵を倒すのがわたしの役割だと思い込んでるやつらは、兄さんのことを何もわかってない。

 

兄さんこそがわたしたち兄妹の攻め手。わたしが乱射で敵の足を止めたところを、兄さんが接近戦で片付けるというのが本来の戦闘スタイル。なのにこっちが奥の手みたいになっちゃったのは、兄さんのわたしへのガードが強固過ぎたから。並の相手じゃ兄さんを先に倒さないと勝負にならないと兄さんに意識が向く。その隙にわたしが狙い撃つだけで終わっちゃってた。

 

一撃の重さでは、兄さんの接近戦にわたしは遥かに及ばないのにね。

 

「ひたすら引き撃ちに徹する…魔法使いとしてごく当たり前の戦術なのにっ!」

「心配しなくても手加減はしてないわ!数と速度に極振りしたから威力が落ちてるだけで、今のわたしの本気には違いない!

あなたと違って、命を取るわけにはいかないんだから!」

「これで手を抜かれてると言われたら私の自信は粉々でしたね!近付く隙が全くない!」

 

だからこういった時間稼ぎの足止めはわたしの本領発揮とも言えるわ。兄さんはわたしの誤射程度じゃビクともしないから、とにかく広範囲にバラ撒く魔法を練り上げた。敵の移動を制限して、兄さんが仕留めやすくなるように。

 

そして、お互いに相手を討ったらマズいこの状況は。彼女が剣士ということもあってわたしが圧倒的に優位だった。

 

「半霊で不意打ちしたいなら、最初から攻撃に使わなきゃダメだよ!」

「っ!?これを読まれた!?」

「避けきれないとき盾代わりにしてたじゃない。盾が武器として使えないはずないもの!」

「いやそれは何かおかしい!?」

 

埒が明かないと切り札を切ろうとしたみたいだけど、伏せ札にはなってなかったからあっさり看破できた。これはつまり…

 

「あなた、戦闘経験はあっても命のやりとりはあまり経験ないみたいね」

「―――っ!」

 

切り札の伏せ方が甘い。動揺がすぐに出る。でも戦闘には慣れてる…とてもアンバランス。

スペルカードルール、だっけ。その経験ばかり積み上がったら、こうなるのかも。

 

「否定はしません。私はまだまだ未熟者ですから」

「そうやって素直に乗っちゃうところもなんだかね。これも時間稼ぎのうちって気付いてる?」

「あ」

「うーん…性格もあるみたいだね。

 あなた、誰に頼まれてわたしたちのところに来たのかな?」

「――っ!?」

 

わたしはこういう腹の探り合いは得意じゃないんだけど。戦況が優位で余裕があったのと、兄さんのことだから予測に自信があったから。言葉で揺さぶってみることにした。

 

「兄さんがわたしたち相手に向かわせる刺客としては、あなたはちょっと素直過ぎるわ。

 兄さんが頼る相手(・・・・)が派遣したのがあなたなんじゃない?」

「………」

 

迷ってるなー。でも少しでも手を抜けば一気に距離を詰められるから、会話に集中させるために乱射量を減らすわけにもいかないし―――と、思ったところで。

 

「ユキ!あんた何をやらかしてるのよ!?」

「あ、アリス!いいところに来てくれたわ!」

 

一番下の妹が、わたしのところにやって来てくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩―――って、やられた!今でも逃げに徹されると追い付けないのね…!」

 

ユキの誘導に従って直進すると、私も先輩の魔力を感知できるようになった。私がユキより先に先輩と顔を合わせることになるのは悪いけど…本人が譲ってくれたのだから、気にしてはいけない。

だからこそ、全速力で飛んできたのに。

 

「創造したゴーレムに魔力を残して自分は空間魔法で移動、か。流石は先輩…」

「成程な。豹が言っていた追手の片割れ…それがあんたか」

「ええ。――先輩がそこまで情報を把握していたのなら…ユキの予測は当たっていたようね」

 

人間の少女…よね?男装した少女が姿を見せる。そして、ヒョウ…先輩の名前を出した。間違いなく、ここ幻想郷に先輩はいる…!

 

「先輩はどこに向かったのか教えなさい」

「それは私が聞きたい。豹はどこに消えたんだ?」

 

―――嘘は言っていない、か。なら、交渉の余地はあるかしら。

 

「先輩のためにも余計な戦闘行為は避けたいわ。情報交換することでお互い手を引くというのは?」

「悪いが、交換に出せるような情報を持っていない。豹のことは深く詮索しないのも依頼内容に入っていてな」

「…そう、あなたは雇われただけと」

「そうだ。それに、これほどの相手と手合わせできる機会など滅多にないからな。

 私は明羅。侍として、一手所望する!」

「勇ましいわね。いいでしょう、遊んであげる!」

 

男装少女…明羅が日本刀を構える。回収の手間と時間を考えると、剣弾の多用は控えるべき…そうね、斬り合いに付き合ってあげましょうか。

 

「ほう、魔界人は魔法使いが大多数と聞いていたが、剣士も居るのだな。これは嬉しい誤算だ」

「――っ!」

 

先輩が雇うだけはある!近接防御としての剣術しか修めていない私より、剣腕はすでに上!

 

「その若さでここまでの一閃。なるほど、先輩が喜ぶ相手だわ」

「やはり魔法使いではあるようだな。剣はあくまで魔法の補助…

 であれば、この期は逃さんぞ!」

「っ!?」

 

凄まじい連撃を繰り出してきた!これは、少し甘く見過ぎたかしら。

捌き切れてはいるけど、反撃する隙が全く無い!

 

「なるほど。あんたの剣は、守りのための剣か。

 ならば、このまま押し切るのみ!」

「ご明察。斬り合いだけに付き合ってはいられないようね!」

「むっ!?」

 

大弾をバラ撒いて距離を取り、針弾で牽制。正々堂々真正面から挑んできた明羅より先に撃ち始めるのは悔しいけど、私は剣士としては半端者なのだから仕方がない。私の剣は、遠距離攻撃の弾なのだから。

 

「くっ…!小手調べでこれほどか。魔法では足元にも及ばないようだな。

 出し惜しみせず全力で撃たないと、近付けないか!」

 

逆に魔法使いとしての差を瞬時に理解した明羅が、剣閃を弾としてバラ撒きつつ突進…いや、一対の光弾も放ちつつ距離を詰めようとする。私も遠慮なくショートレーザーも追加しながら避けたけれど。

 

「成程ね、跳弾…魔法使いとしても悪くはないわ」

「跳ねる前に見破られては効果も半減だが!」

 

3発目の一対弾が下方にも撃たれたことで跳弾と察知。そこを計算に入れても避け切れない程じゃない。そろそろ終わらせてもらおうかしら。

 

「悪いわね、あまり時間はかけられないわ!」

「なっ…!?」

 

レーザーで怯ませたところに剣を投擲、さらに背後からの剣弾!

 

「これで満足かしら?」

「――ああ、完敗だ。流石は豹の追手に選ばれるほどの猛者、私ではかなわないか…」

 

避けられた剣弾を私がキャッチしてそのまま喉元に突き付ける。それにしても、幻想郷の人間は本当に侮れない。あの巫女と魔法使い以外にも、ここまでの使い手が居るなんて、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリス!?彼女と知り合いなの!?」

「そうだよー、わたしはアリスの姉だから」

「姉を名乗るならもう少し考えて行動してほしかったわよ…」

 

どうやら二人とも戦意はそれほどでもなかったようで、私が割って入ると会話に応じてくれたわ。霊夢や魔理沙がこちらに興味を向けなければいいのだけれど。

 

「ごめんねー、兄さんを早速見つけたのに邪魔してくれたからさ。でも…夢子も逃げられたっぽいね、これは」

「え…って!?夢子も始めてる!?何を考えてるのよ…」

 

思わず頭を抱えてしまう。ユキはともかく誰よりも魔界の維持に力を尽くしている夢子が、こんな簡単に実力行使に踏み切ることなんて無いと思ってたのだけど。

 

「…姉ってことは、もしかしてアリスも魔界人?」

「妖夢には話してなかったかしら。その通りよ…私は魔界から幻想郷に移住してきたのよ。それでこっちはユキ、魔界で私を姉として育ててくれた中の一人だわ」

「そういうことだから、話を戻すけど。あなたは誰から指示―――って」

 

言葉を止めて、ユキが急に瞳を閉じた。

 

「兄さんは、変わってないな…やっと、会える…!

 アリス、また後でね。出来れば夢子と合流してくれると助かるわ」

「は?―――ッ!!?」

「…えっ!?アリス、今のユキってのはどこに!?」

 

今までそこにいたユキが、一瞬で姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃ!?」

「――っと、驚かせたな。すまない、雛」

 

緊急脱出口の一つ…雛に預けた水瓶。元はもう名も残っていない土着神を祀っていた祠に残されていたもので、埋没しながらも破損させずに盗掘されたものを俺が強奪した。水絡みの実験で残留魔力を使い切ったのちに俺の魔力を付与し、一方通行な空間魔法の出口にしたものの一つだ。

 

…まあ、置き場所に困ったところを用途を伝えて雛に押し付けたというのが真実だったりするんだが。

 

「豹…久しぶりね」

「ああ、急で悪いが事情は後で話す。この家の周囲にしばらく魔力遮断領域を張る。用が済み次第解除するから…構わないか?」

「好きにしていいわ。でも、後でちゃんと教えなさい。何も語らずに逃げたらアリス達に協力して追い詰めるわよ」

 

…本気だな。まあ事情はしっかり話すつもりだったから問題ない。むしろ雛が外に出ていなくて助かった…警戒を頼めば引き受けてくれるだろう。雛の優しさに付けこむ形になるのが情けないが。

 

(なら、早々に準備を済ませなければな…!)

 

今の時点で哨戒中の白狼天狗に目を付けられていれば詰みだが、雛は俺の頼み通り遮蔽物に隠れられる位置にこの水瓶を置いてくれていたおかげで目視された可能性はほぼ無いだろう。可能性としては魔力反応を感知できる椛や高位の天狗、山頂の守矢関係者が向かってくる場合だが…その魔力反応を出来る限り小さくするために魔法具に細工して脱出口にしたのだ。俺の魔法を信じるしかないだろう。

 

(よし、俺の準備は完了。ユキと夢子は分断できて、夢子の方が遠い位置になった。これなら、話す余裕がある)

 

さあ、ここからが俺にとって本当の勝負。ユキを俺の協力者に回せるかどうかだ。

 

 

 

(―――ユキ、来てくれ)

 

 

 




この作品を楽しんでいただいている読者の皆様、今回もありがとうございます。

申し訳ないのですが、12月はリアルの諸事情につき木曜日の週一更新になります。年が明けたら火・木・土の週3回更新に戻せると思いますので、しばらく更新ペースを落とす慈悲をお恵み下さい。
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