寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第71話 追手が集う場所

「―――意志を持ち始めた家、か。先輩は変わってないのね…」

「ええと…夢子さんから逆に聞きたいことは何かありますでしょうか?」

「上海の身に起きたことに関しては大丈夫よ。先輩については聞きたいことがいくつもあるけど、それはアリスとユキも合流してからの方が効率的。ユキはまだ話し込んでるようだし…先にアリスと合流するわ」

 

流石は夢子さんです。大きな驚きもなく私が隠れ家さんの記憶をいただいたことを受け入れてもらえました。先輩と呼んでいるのが豹さんで、ユキさんのお兄さんにして夢子さんの先輩なのだそうです。

…ですが、ユキさんと離れてしまったのに話し込んでるというのはどういうことなのでしょうか?そう感じたところでようやく私も気付くことが出来ました…ユキさんの魔力を感知できなくなっていることに。

 

「―――っ!?ユキさんは何処へ!?」

「先輩がユキだけを召喚(よびだ)したのよ。私を除け者にした以上、魔界に帰る気は無いということだわ。

私たちがそうさせてしまったのだから、仕方ないのだけど…寂しいわね」

 

どういうことなのでしょう…!?ユキさんがもう豹さんと会ってしまっている?夢子さんが除け者にされた?でも魔界に帰る気は無い?

…私の手が届かないところで、事態が急転してしまっているようです。でも、夢子さんは動揺してしまった私を気遣ってくれるようで。

 

「安心しなさい上海。私もユキも、問答無用で先輩を連れ戻すようなことはしない…というより実力行使で先輩を連れ帰るのは難し過ぎるから。少なくとも神綺様が来るまでは先輩が魔界に帰ることは無いと考えて大丈夫よ。

…魔界に帰る気があるのなら、すぐにでも帰って来てくれてたわ」

「…夢子さん?」

 

神綺様も幻想郷に出向くつもりということを夢子さんが口に出してしまっていましたが、それ以上に夢子さんの表情に気を取られてしまいました。

 

人形である私には無縁のものだからこそ、逆に皆様の表情というものは印象に残っているのです。それは、今まで見たことのない――後悔が滲み出てしまっている悲しげな表情。

豹さんが魔界へ帰ってこないことに、夢子さんはとても責任を感じているような…そんな表情に見えました。

 

「それじゃ、合流するわよ。アリスもこっちに向かってるし…さっきみたいに邪魔が入ると面倒」

「あっ…すみません夢子さん」

「気にしないでいいわ。今の時点で二つの魔力を宿しているのに、また別の魔力を注ぐのはリスクが無いとは言い切れないから」

 

夢子さんが私を抱えた状態でご主人様の方に飛んでいただけました。魔力残量が少ないことを私から話す前に把握できています。わかりきっていたことですが、私なんかとは格が違いますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

人里で情報を仕入れるなら、真っ先に向かうのは寺子屋の慧音。知らない相手じゃないし、数少ない人間にも妖怪にも伝手がある相手。ルナ姉もそう考えるだろうし、先回りして待つことにしたんだけど…

 

「―――ん?丁度いい来客だな。豹のことなら私より詳しい子が来たぞ」

「へ?…うわあ」

「なんじゃその反応は。失礼な小娘じゃのう」

「小娘言うな!たしかにアンタよりはとーっても若いけどさ!」

「ほう…いい度胸じゃの。喧嘩なら買うてやるぞ?」

「止めないか!せめて外でやれ!!」

 

先客として化け狸が居た。なんでコイツが豹のことを探ってるんだか。

 

「悪いけど喧嘩してる暇なんて無くてねー。そこらで腹ごなしの運動相手を探してるかもしれない巫女が居るはずだから、そっちの相手しといて」

「お断りじゃよ。あやつと理由もなくやり合う愚か者が何処に居ると言うのじゃ」

「ならちょっと席を外してもらえる?楽団関係者以外には伏せたい話でさ。そんな時間はかかんないし、終わったら呼ぶよ」

「待てい、儂の方がお主に用がある。豹とやらに懸想しておるという、冴月麟なる少女のことを豹からお主らは聞いておるか?」

「冴月麟?なんか聞いたことはある気が…」

 

なんだっけ?全然思い出せないや。

 

「うん、思い出せない!でも豹のことならルナ姉は覚えてるんじゃないかな?でもそんなライバルがいるんなら、もっと積極的になるべきだねー。言っておかないと」

「役に立たんのう。とはいえ…慧音殿の言う通りの様じゃな。冴月麟のことを知るには、豹とやらか八雲紫に聞かなければロクな情報は得られないということか」

「少なくとも今の麟が何をしているかに関してはな。麟が何故人里を離れたかは私と阿求でもう少し詳しく教えられるが、マミゾウが知りたいのはそこじゃないのだろう?」

「うむ、そもそも情報が欲しいのはむしろ豹の方じゃからのう」

 

余計な首を突っ込まれたくないし、テキトーにあしらっとくか。

 

「豹のことを知りたいなら、姫海棠はたてっていう烏天狗のとこ行きなよ。私が知らないところで取材されてたらしいからさ」

「姫海棠?聞かぬ名じゃのう…烏天狗であれば射命丸の方が事情を知っておるのではないのか?」

「あのうざい天狗は豹自身が徹底的に避けてたんだもん。私たちがちょっと目を離した隙に居なくなってるレベルで。だからこそ豹を取材できたはたては結構な話聞いてるんじゃない?まだ発刊してないみたいだけどさ」

 

念写で写真を撮られただけらしいけど、取材を受けたことにする。この化け狸たしか命蓮寺の一員でもあるはずだから、余計なこと知られると魔界神に情報が流れるかもしれないしね。

 

「ふむ…妖怪の山にまで足を延ばすのは面倒じゃな。伝手のあるやつに行かせるかのう」

「もういい?楽団の手伝いしてくれるって言うなら聞いてってもいいけど?いやむしろタダ働きさせる理由になるじゃん!聞いてけー!」

「ほざくでないわ。使い走りなら他を当たれ…慧音殿よ、邪魔をしてすまんかったの」

「いや、私こそまともな話が出来ずすまなかった。何か続報があれば伝えよう」

 

ありゃ…慧音は協力的か。豹と直接話したことなんてほとんどなかったからこそ事態の大きさをわかってない。でも今更口止めしても遅いみたいだし、カナたちと合流したら話しとかないと。

まあ、化け狸は帰ってくれた。これで私の話を進められる。

 

「それで、リリカは私に何の用だ?ライブの予定はしばらく入ってなかったはずだよな?」

「ちょっと探し人が出来てさ。あの化け狸は豹の味方と思えないから聞かせたくなかったのよ」

「味方って…そういえばこの前ルナサとアリスが豹を追いかけて行ったが、まさかまだ見つかってないのか?」

「そういうこと。オマケにかなり大事になっちゃってさ…あまり広めたくないのよ。もう遅いとは思うけど、豹のことはあまり広めないでくれる?」

「ルナサにもそう言われたから広めてはいないぞ。ただ、マミゾウに関しては阿求がやらかしてくれてな…

その場に居合わせた妹紅も困ってたが、豹のことを話さざるを得なくなったんだ。すまない」

「阿求…?あー、稗田の当主か。つか、豹はなんでよりによって忘れない稗田に知られてるのよ…ホント逃亡者としての自覚が足りて無さすぎじゃん」

 

私たちとしては助かってたけど、豹は何考えてたんだか。隠れ家で大人しくしてればいい話なのに、なんでわざわざ人里に出て来てたんだろ?ルナ姉はそのあたり聞いて…るわけないよねえ。豹をいつ横から掻っ攫われてもおかしくないレベルの奥手だし。思ってた以上にライバル多いし。

 

「まあそれは今更か。慧音、明羅っていう女侍知らないかな?豹はそこに逃げ込んでるらしくてさ」

「明羅なら庵に居るんじゃないか?私も正確な場所までは知らないが」

「庵?なにそれ?」

「修行の拠点として寝泊りできる質素な小屋と言えば通じるか?私は自警団に誘ったのだが人里に常駐するのが嫌だそうでな…幻夢界とやらの近くに庵を構えてそこで過ごしているそうだ」

「幻夢界も知らないなー。その言い方だと慧音も場所までは知らない感じ?」

「ああ、悪いが心当たりがない。豹本人以外だと、魔理沙に聞くのが確実だろう…明羅と魔理沙は姉妹弟子だそうだからな。あとは霊夢も知っているんじゃないか?明羅の関わった異変を解決したのは霊夢だったはずだ」

「その二人には豹のことを知られたくないんだよねえ…どうし「慧音、居るかしら?」

 

あ、ルナ姉が来た!とりあえず無事で良かったー。

 

「ルナ姉、大丈夫みたいね。これで一安心かな」

「…まあ、魔界人が来た以外にも動きがあったわ。皆と合流したら話すけど…リリカ一人?」

「アリスから指示があって分散したんだよ。というかルナ姉が孤立して危険かもって話だったんだけどさ」

「そういうこと。ならアリスも含めて合流しましょう。明羅のことは、先に聞いてくれたのよね?」

「む、ルナサも同じ用件だったのか?」

「ええ、豹の行き先らしいから聞きに来たのだけど」

「すまないな、顔見知りではあるのだが…居場所までは知らないんだ」

「そう…手詰まりかしら」

「それがさルナ姉。その明羅っての白黒の魔法使いの姉弟子なんだって。だから手掛かりはあるんだよ」

「――ハイリスクな相手から話を聞く必要があるわけか…慧音、手間を取らせて悪かったわ。時間に余裕が無いから、これで失礼するわね」

「いや、大した時間を取られたわけじゃないから気にするな。私も豹には助けられてたから、追いついたら寺子屋にも顔を出すよう伝えておいてくれ」

「…ええ、伝えるわ」

 

…うん?なんかルナ姉が複雑そうにしてる?なんでだろ。

 

「それじゃリリカ、行きましょう。集合先は豹の隠れ家でいいのよね?」

「あ、たぶんそうじゃないかな?カナはそこで待機って言われてたし」

 

なんかちょっとルナ姉がおかしい気もするけど…今ここに無事でいるんだし大丈夫だよね?

合流したらどうせ話すだろうし、今はいいかー。

 

 

 

 

 

 

 

 

(…落ち着けるわけないよね)

 

わたし一人隠れ家に帰って来たけど、何もできないのがもどかしくてたまらないわ。自分で使ってみて思い知ったのだけれど、上海ちゃんはアリスの間近で魔法を見てきただけあって下手な魔法使いよりずっと魔法を理解し使いこなせてる。わたしも探査魔法でみんなの位置だけでも把握しようと思ったんだけど、探知範囲が狭すぎてほとんど意味が無かったわ。

 

「ここで行使しても人里にすら探知範囲が届かないんじゃ――って、あれ?」

 

急に探知範囲に魔力反応が一つ出てきた…?それにこれ…

 

「ルナサだよね…?どういうこと?」

 

ここからそう離れてない…方角としては東南東でルナサの魔力が突然キャッチできるようになった。そのまま真っ直ぐ人里に向かってるから、リリカと合流出来そうだし無事なのは間違いないけど…もしかしてアリスと別れる前にもう一回隠形魔法をかけてもらったとか?でもそれだとエリーとくるみ相手に情報交換するのに邪魔だよね?

 

…うん、考えてもわからないわ。とりあえず危機は脱したみたいだし、直接聞けばいいよね!

―――そう結論を出した時だった。

 

「――ッ!?豹!?」

 

突然すぐ近く…いや、上!?豹の魔力が現れた!帰って来てくれたの!?

大急ぎで外に出たんだけど、そこにいたのは。

 

「あ、はじめまして!あなたが兄さんに留守番を頼まれたカナちゃん?」

「…えっ?」

 

どこか豹と似た雰囲気の少女が、屋根から降りてきたわ。

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