寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

73 / 289
第73話 役者過密な主役の隠れ家

「…リリカ、飛ぶのは止めて。しばらくは歩くわよ」

「へ、なんで…って、あっぶな!」

 

寺子屋から出て豹の隠れ家へ戻ろうとしたところで、空に舞い上がる霊力を感知したわ。隠れ家は教えてくれなかったけれど、私と豹の出会った場所…あの名も無き霊場に豹が訪れたときに、私が会いに行けるよう豹が教えてくれた探知魔法。念のためと思って麟の家を出た時点で展開しておいて正解だったわ。

博麗の巫女が飛び去ったのが、この位置からでも視認できた。

 

「すぐ飛んでたら見つかってたじゃん…なんでルナ姉はわかったの?」

「豹に教わった探知魔法を行使してるからよ。…向かった先は魔法の森かしら」

「いつの間に…つかそれで豹を探せないの?」

「豹は魔力を隠してるから、魔法が《使えるだけ》の私では見つけられない。それこそ、アリスですら豹の魔力を追えていないのだから。魔力探知で豹を追える相手がいるのであれば、それはアリスに勝るとも劣らないレベルの魔法使いということになる」

「あー…なるほどね。話を聞けば聞くほど豹はとんでもない奴だったってのがわかるわ」

 

それにしても、博麗の巫女は流石ね…千里眼で見られていたのに気付いたからこそ、それを確認しに向かったということなのでしょう。やり方が迷惑極まりないだけで、しっかり幻想郷の秩序を守るために行動している。

 

…豹と共に在りたい私たちにとっては、もう敵としか言えないのだけれど。魔界人がここまで来てしまった以上、博麗の巫女が豹を見逃すことは無くなってしまった。

 

「………もういいかしら。ファンに囲まれても困るし、飛びましょう」

「りょーかい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「メルラン、ストップ!!」

「えっ?カナがどうして私のところに?」

 

うん、ユキのおかげで探知精度が増したから問題なくメルランと合流出来た!ユキも豹の妹だけあって凄いウィッチね。

 

「ユキが隠れ家に来て、状況を整理したらメルランが一番合流が遅れそうだったのよ!だから迎えに来たわ」

「よく一直線に向かってこれたわね~。やっぱり実体のあるなしは大きいのかしら~」

「ユキが凄いウィッチだから、豹の魔法の正しい使い方を教えてくれたの。わたしがすごいんじゃなくて、豹とユキがすごいんだわ」

「なるほど~、さすがは兄妹ってわけね。もう一人の魔界人の夢子が明羅のところに豹が居ないのを教えてくれたから、私は姉さんとリリカを隠れ家に呼び戻すつもりだったんだけど~」

 

ユキの話の裏付けになるわね。豹は明羅のところから離れてユキと会っていたということ。

 

「ユキは豹と直接会ってきたんだけど、魔界に帰るのは断られたって言ってたわ。詳しい話をするために先にアリスと合流したいからって、メルランを呼び戻しに来たってわけ」

「姉さんとリリカは呼び戻さなくていいの?」

「たぶんわたしたちより先に隠れ家に帰って来ると思う。そもそも孤立したルナサと合流するのがリリカの役割だったんだし、軽く聞き込んだら一度戻って来るでしょ?」

「それもそうね~。じゃあ、私たちも戻りましょうか」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――この辺りだったと思うんだけど…あれはアリスの家よね?)

 

ここのところ修行をサボってたツケが回る異変が続いたから、華扇の話に乗って真面目に手合わせをした。決してお昼ご飯奢りに釣られたわけじゃないわよ。

本気でやり合う直前だったからこそ、この辺りから私を見てた視線に気付けた。だから一応様子を見に来たんだけど…

 

「アリス!居留守使う気ならこの扉ブチ破るわよ!」

 

玄関扉を叩きながらアリスを呼ぶ。何が目的で監視なんてしてたのか聞かないとね!

…そのつもりだったんだけど。

 

「…本当に留守みたいね。あの半引きこもりは何処ほっつき歩いてんのよ」

 

家の中に人の気配が無い。魔力も感じない…無駄足じゃないの。

 

(カナは魅魔のこと言ってきたけど、なんかアリスが家に居ないっていう方が気になるわね。でも異変が起きてる様子は人里には無かったし…私の思い過ごしって可能性もあるか)

 

魔法の森まで来た以上、魔理沙のところに寄るって手もあるんだけど…魔理沙と魅魔じゃ腹ごなしの運動なんて軽いことにはならないわ。今日は華扇と本気でやり合ったんだから異変でもないのに連戦なんてしたくもない。老いぼれとあうんが魅魔に話を聞きに行くとか言ってたし、任せていいわね。

 

「そういえば、あうんがアリスが来たとか言ってたわね」

 

あの妖精共に用があったとか言ってたっけ…あいつらの相手の方が楽だわ。今日はそれでお仕事終わりにするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

(兄さんらしい家だなー。強化魔法を家に使うことで、倒壊するのを防いでるのね)

 

カナちゃんがお友達を迎えに行ってる間に、外から家を眺める。入口は兄さんの魔力で施錠されてたから、わたしなら簡単に開けられるんだけど。カナちゃんがわたしを信じてくれたから、わたしもカナちゃんとの約束を守って中にはまだ入らない。

 

兄さんがカナちゃんにお留守番を頼んだんだし、わたしが勝手に入ってカナちゃんが兄さんに怒られちゃったらかわいそうだしね。

 

(あ、ここに向かってくる魔力が二つ。夢子とは方向が違うから、これがルナサとリリカかな?)

 

ほどなくしてカナちゃんももう一つ魔力反応を連れてUターンしてる。夢子とアリスもここに向かってるし、なんとかみんな集まれそう。

 

「…兄さんも、ここに加わってほしいのにな」

 

厄神だから難しいんだろうけど、雛さんとその雛さんが名前を出していた椛って子も含めて。兄さんを慕ってくれてる相手なら、わたしは仲良くしたいから。

 

わたしだけじゃ、兄さんを繋ぎ止めることが出来なかったから。

兄さんと共に過ごすために、力を貸してほしい。

 

(そういえば、ルイズが椛って名前出してたっけ。白狼天狗の椛さんっていうのが、雛さんの言う椛なのかな)

 

話の前後を考えると、椛って子も協力してくれてるはずだよね。話せる機会あるかなあ。

幻想郷に来てすぐにやり合ったわたしが言うことじゃないんだけど、わたしから兄さんを慕ってくれてる相手に会いに行くのはハイリスクだから。なんとかわたしと夢子のところに来てもらうことが理想的だからこそ、カナちゃんのように幻想郷で動けるみんなとは仲良くしなきゃ。アリス一人に動いてもらうのは負担が大き過ぎるからね。

 

(それに、カナちゃんと椛以外に雛さんが出してた名前――ルナサ)

 

兄さんは相変わらずだったから、ここ幻想郷でも何人も女の子をひっかけてるのは何も不思議じゃない。妹分としてしか見ないからこそ、兄として守るために力を尽くす。その結果尽くされた子は本気になっちゃうんだよね。ある意味、わたしは一番いいポジションにいるから余裕があるんだけど…本気になっちゃった子は、恩返しとして兄さんのために全力を尽くすことを躊躇わなくなる。

 

ルナサは、間違いなくその一人。傍から見ても雛さんは本気だったから、自分と並べた彼女も同じ気持ちを持ってるということ。

 

兄さんを過去の呪縛から解き放つために、力を合わせることが出来る仲間(いもうと)

 

「好意に付けこむ形なのは悪いと思うけど…わたしはずーっと兄さんを待ってたから。

 また兄さんの背中を守りたいから、力を貸してね。

 兄さんの隣に居ようとすることの、邪魔はしないからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

豹の隠れ家が見えてきたのだけれど、人里を出た時点でそれに気付いた私は混乱していた。リリカに感付かれるわけにはいかないから、必死に隠してたけれど…

 

(隠れ家に豹の魔力が…!?どういうこと!?)

 

麟の話だと少なくとも今日は動かないはずなのに、どうして…?

でも、ここまで来て足を止めるのは不自然。それに豹と直接会える機会なんて逃すわけにはいかない…豹の力になるために、私は何をすべきかを聞かないと。

 

なにより、久しぶりに豹に会えるというだけで。私の気持ちは期待に染まっていたから…辿り着いた先で落胆してしまったのを隠すことは出来なかったわ。

 

「お疲れさま!あなたたちがルナサとリリカね?」

「そうだけど…あんた誰よ?」

 

リリカが先に反応してくれたから、言葉を続けることは出来たけれど。

 

「…もしかして、あなたがユキ?魔力が豹とそっくりだわ」

「そう、わたしがユキ。…ごめん。兄さんが帰って来たってぬか喜びさせちゃったみたいね」

「へ?…って、ルナ姉はクールなようで相変わらず顔に出るなあ」

「悪かったわね…」

 

リリカはともかく、初対面のユキにも察せられるなんてね。自覚してるから否定できないけど。

 

「というか…豹がルナ姉に甘いワケがわかった気がするなー。二人並んでると私やメル姉よりずっと姉妹に見えるじゃん。ファッションセンスがそっくり」

「あ、たしかにそうだね!でもわたしは兄さんを真似ただけだから、センスが似てるのは兄さんとルナサだよ」

「そうなの…でも、言われてみれば豹が黒系統以外の服を着てるのは見たことないか」

 

隠れ家のクローゼットをチラッと見て気付いたけれど、黒のシルクハットや黒マントまで持ってるのよね豹。単に黒が好きなだけなのだろうけど…あの辺りはどんな機会に着てたのかはちょっと気になる。

 

「それで、ユキはどうしてここに?」

「兄さんがここに送ってくれたのよ。夢子もアリスと合流してここに向かってくれてる」

「えっ!?」

 

さらっとそれを口に出されて、思わず声が出てしまったわ。豹ともう会って来たって言うこと…!?

 

「あ、カナちゃんにも話したけど兄さんは魔界に帰って来る気は無いわ。だから慌てなくて大丈夫よ」

「そうじゃなくて…!豹と会って来たの!?」

「これもカナちゃんに話したけど、わたしと兄さんはお互いを呼び出す召喚魔法を使えるの。それを兄さんから使ってくれた。それだけで、わたしはだいぶ救われたから…みんなも、兄さんと会いたいんでしょ?協力してあげる!」

「うえ?豹を捕まえに来たんじゃないの?」

「あれ?もしかして兄さんが魔界から逃げてるってこと知ってるの?」

「魔界から、ということはつい最近知ったのだけれど。幻想郷に逃げ込んできたというのは、豹は誰にも隠していないはずよ」

「…そっか。兄さんは本当に、ここを気に入ってたんだね…」

 

ユキが寂し気な表情で隠れ家に視線を向ける。それとほぼ同時に、もう二人の魔界人もここに辿り着いた。

 

「皆さん、お待たせしてすみませんでした!」

「―――ここが豹の隠れ家よ。ただ、留守番してるはずのカナがメルランを呼びに出てるようだけど…まったく、やっと見つけたわよユキ。中に入って待たなかったの?」

 

アリスと上海が赤を基調にしたメイド服を纏う美少女を連れて戻って来た。

 

「カナちゃんが待っててって言ってたから、入るのは遠慮したわ」

「ユキ…先輩はやはり?」

「うん、帰ってくる気は無いみたい。今はまだ、連れ帰るのは無理そうね」

「ルナサも無事でよかったわ。急に反応が消えたけど…もしかして八雲紫が動いたのかしら?」

「…当たりよ。八雲藍が接触してきたわ」

「八雲藍ですって?貴方はあのスキマ妖怪と繋がりがあるの?」

 

アリスの読みの正確さも流石だけど、それ以上にメイド服の彼女が強い反応を示したわ。

 

「…繋がりと言うには、細すぎていつ切られてもおかしくないけれど。豹絡みで八雲から接触されたのは私だけね…今のところは」

「そう…。私は夢子、アリスの姉にして神綺様のメイドよ。ルナサ…でいいのよね?」

「ええ、ルナサ・プリズムリバーよ。それでこっちが妹のリリカ」

「よろしくー。でもなんか二人とも思ってたほど豹に敵意マシマシって感じじゃないじゃん。豹はなんであんな逃げまくってるのかわかんなくなってきたんだけど」

「ええ、それは私も同感。聞かせてくれるのよね…夢子も、ユキも」

「もちろん。わたしとしても、兄さんがここで何をしてたのかは聞きたいしね」

 

ユキと、夢子。豹の妹っていうユキだけでなく、神綺様…魔界神のメイドなんていう大物まで豹を追いにやってきた。予想よりは、ずっと穏健派の様だけど…

私にとっては、最も警戒しなければならない二人。怪しまれないように、気を付けないと。

 

「ただいま~!みんな揃ったみたいだね。ちょっと狭くなっちゃうけど、これでやっと落ち着いて話が出来そう!」

「姉さん!無事でよかった~…なんとか今日の作戦は成功と言っていいのかしら~」

 

そしてメルランとカナも帰ってきた。カナの言う通り、これで勢揃い。

 

「やれやれ…霊夢が私の家に寄ってから神社に帰ったのが不安要素だけれど、今日はなんとか凌いだようね。夢子、ユキ。中で情報交換しましょう」

「ええ、あらためて…皆、先輩のために力を貸して頂戴」

 

今日この舞台で踊った全員とはいかないけれど…半数以上はここにいる。

まだ、私の裏切りを見抜かれるわけにはいかない。情報を貰いつつ、慎重に会話をしないとね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。