寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第74話 一時停戦

「さ、流石に狭いわね」

「あくまで豹1人で過ごすための家だからね~…わたしが取り憑いてから一部屋増築してくれたんだけど、そもそもこれだけの人数が上がり込むことは想定されてないだろうし」

「簡単に言ってるけど増築って…先輩は相変わらず無茶な魔法の使い方してるのね」

「それでこそ兄さんだけどねー。増築を繰り返した家を強化魔法で補強するなんて、兄さんじゃなきゃ思い付いても実行しないよ」

 

夢子・アリス・上海・カナ・ルナサ・メルラン・リリカにわたし。人形である上海を抜いても7名いるから、隠れ家なんて一人住まい前提の家じゃスペース足りるはずないよね…

 

「…アリスたちは座って、私たちは浮きましょう。実体を貰ってないのが逆に利点になることもあるものなのね」

「私はむしろ机に座った方が邪魔にならないでしょうか…お行儀が悪いですけれど、後でお掃除するので失礼しますね」

「上海は細かいところまで気が利くわね~。リリカなら何も気にせず座ってるわ~」

「失礼な!私だって座ったら掃除ぐらいはするっての!」

 

机を囲んでわたし・夢子・アリス・カナ。天井近くにルナサたち三姉妹。上海が机の上。全員が入れる部屋があっただけラッキーだと思わないと。

でも、兄さんは本当に変わらないなあ。一人で過ごす家にこれだけの人数が入れる部屋なんて必要ないのに造ってあるってことは、お客さんをここに迎え入れることもあったってことだからね。隠棲なんて言ってたけど、守る理由のできた相手を守るために動くことも普通にあったはず。そんな時の作戦会議に使ってた部屋なんだろうな。

 

ま、これで話をする空気にはなったし…まずはみんなが知りたいことを教えるべきだよね。

 

「それじゃ、情報交換をしたいんだけど―――とりあえずは兄さんの居場所だよね。わたしは兄さんと直接話してきたけど、兄さんのほかに雛さんって厄神が居たわ。アリスたちの知り合いだったりする?」

「え、雛のところに居たの!?弱ったわね…今から全速力で向かった方がいいかしら」

「待ってアリス、話を聞きに行くのは明日にして。そうしないと、()()()()()()()()()()()()()()と思うから」

「ユキさん、それはどうしてでしょうか?」

「雛さんは兄さんに対して本気だったから、兄さんも今頃ちゃんと事情を話してるはず。今からわたしたちがそこに割って入ろうとすれば、兄さんは話を中断してでも逃げちゃうよ。そうなると【わたしたちが雛さんを兄さんから引き離した】形になるわ。

 ―――ここにいるみんな、雛さんと同じ立場になったら素直に協力できる?」

「…そういうこと。豹が雛のところに留まるにしろ出て行くにしろ、豹から最後まで話を聞き終えれば雛はわたしたちに協力してくれる可能性が残るということね」

「逆に今から向かって豹がさっさと逃げちゃうと、次の行き先を聞いてても教えてくれなくなりかねないのか…たしかに今から雛さんのところに行くのは止めた方がいいね」

 

ルナサとカナちゃんは理解してくれたね。雛さんの言葉からするとこの二人が先走らなきゃ周りも引き摺られないだろうし、とりあえずは大丈夫かな。

 

「逆に弱ったってのはどういう意味なのアリス?」

「雛には一昨日私たちで話を聞きに行ったのよ。その時に答えられたのが『この先来てくれたとしてもアリスたちに伝えようとするうちに出て行ってしまう』だったわ」

「だいぶ前に豹が天狗を敵に回しちゃって、雛さんの家に長居するのはハイリスク過ぎるって言ってたわね~」

「天狗?つまり雛の居場所は妖怪の山?」

「あれ、何で知ってるの?夢子さんは幻想郷に来たことあったワケ?」

「これでも魔界の重鎮なので。八雲紫と顔を合わせた際に最低限の情報は渡されているわ。

 要するに、神綺様を魔界へ帰らせるのに幻想郷の戦力は割きたくないということでしょう」

「ああ、それはそうよね…」

 

アリスが物凄く納得した顔してる。あの大惨事の時、環境・物損被害は神綺様もかなり出してたからなあ…下手に喧嘩を買われたら幻想郷への被害がとんでもなくなっちゃう。

魔界人にはただの一人も流れ弾を当ててないのは流石神綺様だったけどね。

 

「…そうなると、今日は今後の方針をしっかり決めておいて、明日から豹をまた探すということでいいのかしら?」

「私たちとしてはそうしてもらいたい。先輩は私たちが来るのを読んでいて、足止め役を雇うまで手回しを済ませてた。これでは下手に私とユキが動けば魔界に強制送還されてしまうわ。だから、私たちがどう動くかも貴方達と調整したい。お互いを陽動として動けるように、今の先輩を取り巻く状況を詳しく教えてほしいのよ」

「ただ、わたしたちの目的は兄さんを魔界に連れ帰ることに変わりは無い。神綺様が到着したら、強硬手段も取れるからね。

だから、兄さんをここ…幻想郷に留めたいというのであれば、わたしたちとは相容れないわ。それが嫌なのであれば、断られても仕方ない。だけど…兄さんの居場所は先に教えた。この分だけでも対価が欲しいわ」

 

こればかりはお互い譲れない一線になる。だからこそ最初にハッキリさせてもらわなきゃならない。

アリスも含めて、最後にはぶつかってしまう相手とは慣れ合うわけにはいかない。

兄さんが魔界へ帰る気が無い以上、同意なしで動くわたしたちは情が移ることによる隙は致命的になってしまう…ここにいるみんなだけでなく、侵入者として住人全てが敵と言えるのだから。

 

「…豹に危害を加える気が無いのは今までの態度と言葉で信じる。でも、豹を魔界に返すわけにはいかないわ」

「そうだね。わたしはこの家に豹を連れ帰るのが目的だから…今は上海ちゃんを豹と会わせることが最優先だけど、このお家を豹が捨てるという選択は取らせないわ」

「そうね~、そのために豹を追いかけてたのだし。雷鼓も連れ戻す気満々な以上、ユキたちとは目的がぶつかっちゃうわ」

「ま、乗り掛かった舟だし。私ももう引けないな」

「――ごめんなさい、ユキさん。私も…豹さんを魔界に帰らせることは見過ごせないんです。

 私に宿った、隠れ家さんのためにも…!」

 

宿った、か。そういうことね…

 

「上海に兄さんの魔力が混じってるのはそれが理由ね。兄さんの魔力を帯びて意思を持ったこの家は、兄さんを追うために上海と同化した…か」

「ええ、だから私も豹を追っていた。上海と引き会わせるためにね。

 …そこから先は、私はまだ何も考えてなかったのだけど」

「まあ、そうなるでしょうね。先輩がここで長く過ごした以上、貴方達がそう考えるのは仕方がない………でも、それを貫けるだけの覚悟と力は持ち合わせてる?

先輩をここに留めるなら、私たち以外にも敵を作ることになるわよ?」

「……予想は出来るけれど、詳しく話してほしい。

 たぶん、私とアリス以外は理解しきれてないから」

 

ルナサが返してきた言葉で、彼女が八雲…幻想郷の管理者側から情報を貰っていることが事実なのは確定。逆に、アリスは魔界側の状況を詳しく話してなかったってこと。

 

「…?姉さん、どういう意味かしら~?」

「…さっき、八雲藍から伝えられた言葉よ。『完全に八雲の傘下に入るのは豹から拒否された』。

 つまり、幻想郷の管理者も豹を保護する理由がもう無いということだわ」

「どうして…!?何を考えてるの豹は!?」

「今の状況だと、魔界と幻想郷が全面戦争になりかねないからだよカナちゃん。魔界で暴れ回ったアイツらのせいで、何か理由が出来たら魔界の強硬派はすぐにでも幻想郷に攻撃をかけてもおかしくないの。そうなったときに正式に幻想郷の一員と認められていると、兄さんはわたしたちと戦わなきゃならなくなる。

…兄さんは、それを繰り返したくないはずだから」

「話がデカ過ぎてよくわかんないんだけど、アンタたちがその魔界の強硬派を止めればいい話じゃん。なんで私たちに覚悟が要るのよ?」

「魔界人がここ幻想郷に現れた異変を覚えているかしら?」

「へ?なにそれ?」

「吸血鬼異変が起こる一つ前にあった異変のことじゃな~い。流石にこれぐらいはリリカも覚えておきなさいよ~」

「あ、あれか!でもそれがどう関係するのよ?」

 

聞いてた通り、幻想郷側ではあまり広まってない…魔界と違って上手く統制してる。このあたりは魔界と違って閉鎖的だからこそ出来ることだなあ。それだけこっちの世界だと妖怪や神々の存続は難しくなってるってことか。

 

「あの異変に魔界神である母さんやここに居る夢子とユキは関わってなかったのよ。当然私もね。

ある程度の魔力と空間魔法の知識があれば、魔界から幻想郷に乗り込むのは難しくないのよ。要するに魔界人…正確には魔界の住人達は、個人で幻想郷に来ることが出来る。創世神の命令を無視すればね。

憎悪や恨み、復讐心の方が命令より大事と考える連中なんていくらでもいる。これは幻想郷の妖怪や神々も同じでしょう?異変と称して好き勝手やってるんだから」

「うっわ…そんなレベル高いの魔界人って。そりゃ豹が強いわけだ」

「そんな考え無しでも魔界の住人だから、被害が出るとわたしたちも幻想郷に対してそれなりの対応しなきゃならないのよ。神綺様でも手を焼くような悪霊や大妖怪が居るってのに、命よりメンツや復讐の方が大事だから乗り込もうとする面倒な奴らの尻拭いなんてしたくないのにさ」

「その面倒な連中にも家族や友人がいる。魔界人同士の絆が強いからこその弊害が、こういった状況になったときの遺族に対するアフターフォロー…今は抑えきれているけれど、次はもう無いわ。

その次になりかねないのが、今の先輩」

「…どうしてかしら~?豹は潜伏してひたすら逃げてたのでしょう?あなたたちはともかく、その魔界の強硬派が豹を理由に全面戦争に持ち込むのは苦しいんじゃないの?」

「うん、兄さんは理由にするには弱い。

 でも、博麗の巫女や悪霊、その弟子が兄さんに手を出したら?」

「―――ッ!やりかねない、特に巫女とソーサラーは!!」

 

これはわたしたちだけじゃない、八雲紫たち幻想郷の管理者にとっても最悪な状況。

あの考え無しのお子様二人だと、何かの拍子で魔界人である兄さんに手を出す可能性を捨てきれない。兄さんはそれを理解してるだろうからひたすら交戦を避けてくれるだろうけど、妹分を巻き込む形で絡まれたら兄さんは容赦なく応戦しちゃうから。

これだけ永く幻想郷に滞在してたのなら、少なくとも兄さんを保護していた管理者…ルナサの言葉を聞く限りおそらくは八雲紫よね。彼女は兄さんがそう行動することを理解できてるはず。

 

だからこそ、ルナサに伝えたんだと思う。兄さんが魔界(わたしたち)を捨てられない以上、管理者としては兄さんを魔界に差し出す選択を取るということを。

兄さん一人のために、魔界と幻想郷で全面戦争を起こすわけにはいかないから。

 

ちゃんとお別れをしたいなら、急げって。

 

「この先、幻想郷の管理者達も先輩を捕らえに来るでしょう。私たちが侵入したことによってね。

例の連中が先輩と接触する前に、魔界に先輩を送り帰す…悪いけれど、こうなることも見越して私たちは先輩を迎えに来たわ。先輩を捕まえるのは難しい。それなら、魔界以外の逃げ場を無くしてしまえばいい」

「兄さんだけなんだよ、魔界で過ごすことを許せないのは。わたしも夢子も神綺様も、兄さんと魔界で一緒にいたいの…ずっと、ずーっと探してたんだよ。

力を貸して、なんて言わない。ここ幻想郷の状況だけでも教えて…!わたしたちが兄さんに追い付いたら、みんなのところにもちゃんと寄るから!!」

 

カナちゃんたちからすれば、ずるいとしか言えないやり方。でも、わたしからすれば…兄さんと一緒に過ごせてたみんなの方がずるいから、お互い様。

 

「…ユキさん。一つだけ、先に約束してもらえないでしょうか。

神綺様がいらっしゃったら、もう一度ここにいる皆様…いえ、今ここにいない協力してくれている皆様もお呼びしてお話をさせてください」

「上海ちゃん!?」

 

返事を返してくれたのは、上海。カナちゃんが否定的な反応を見せたけど、アリスも続いてくれて。

 

「私も上海に賛成。流石に幻想郷の管理者まで敵に回して豹を追うのは厳しいわ。でも、母さんが協力してくれるのであれば多少の無茶を押し付けられる。それなら…今は情報収集を優先して、戦力が揃ってから動く方がいい」

「……それに、管理者も豹を切る方向で動くのであれば。ユキと夢子と繋がっていれば豹が引き渡されても話をする時間は作ってくれるということよね?」

「それは約束する!兄さんを探してくれてるみんなは、兄さんと離れたくないと思ってるんでしょ?お別れもさせずに連れ帰るなんてしないよ!」

「姉さんが納得してるなら、私はいいけど…本当にいいの、姉さん?」

「アリスとカナはともかく、私たちじゃ管理者を敵に回したらどうにもならないわ。それなら、力を貸してもらうべき」

「なんか本末転倒な気もするけど、状況的に仕方ないか。ルナ姉もメル姉もいいなら私は従うよ」

「…わたし一人意地張っても意味ないか。わかった、情報交換はしましょ。

 でも、わたしは最後まで諦めないよ。豹がこのお家に残るように動くからね」

 

ここに居るみんな、折れてくれた。

 

「ありがとう…!」

「助かるわ」

 

兄さんは、やっぱり兄さんのまま。これだけの【妹】に、慕われてるなんてね。

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