「それで、状況を知りたいと言うけれど…何を話せばいいのよ?」
豹を魔界に連れ帰るのは阻止しないといけないけれど、少なくとも今はまだ彼女たち…ユキと夢子と決裂するのは早い。明日、麟と今後の動きを決める上でも魔界側の動向は知っておきたい。
だからアリスと上海が率先して協調する方向に動いてくれたのは幸運だった。アリスを差し置いて私がユキと夢子相手に話を進めるのは不自然だものね。
「できれば、兄さんがここ…隠れ家から逃げてからのことは全部聞きたい。さっき話した通り、わたしと夢子と兄さんは交戦するわけにはいかない相手が4人いる。博麗靈夢、魅魔、霧雨魔理沙、風見幽香…こいつらは問答無用で攻撃してくる可能性があるから、遭遇を避けるために単純に動く時間を少なくしたい」
「そのためには無駄な行動を取らないことを徹底するしかない。情報を整理して、私たちが直接出向くべき相手を見極めることが必要。だからこそ、私たちより先に先輩を追っていた貴方達が得た情報が欲しいわ」
「そうだね~…軽くまとめると、豹がこのお家を出ていくときにエリーを頼るって言ってたのよ。わたしたち全員知らない相手だったから、豹と付き合いのあった相手に話を聞いて回って居場所を突き止めるまでは出来たんだけど…今日アリスとルナサに上海ちゃんで会いに行ってもらったら、もうエリーさんのところから出て行っちゃっててね」
「エリーともう一人…くるみというヴァンパイアもいたのだけれど。昨日サリエルの使い魔を名乗る幽玄魔眼というのが襲撃してきたせいで、明羅という女侍を頼ることにして出て行ってしまったと聞いているわ」
「サリエル様…その話も詳しく聞きたいけれど、先に明羅の方ね。その明羅とはついさっき私が接触したわ。私とユキが先輩の魔力を探し当ててすぐ、空間魔法でどこかへ消えてしまったそうよ」
「たぶん、そのタイミングで兄さんが雛さんのところに飛んでる。そこで魔力遮断領域を展開して、わたしを呼んでくれたんだわ」
私が麟と接触している間に、明羅のところからも豹は離れてしまっていたのね。そうなると、私たちの知る豹の関係者はもう八雲紫と八雲藍だけになる…話を向けられる前に、私から誤魔化す方が良さそうね。
「それで、アリスと私は捕捉される危険性を下げるために分散して戻ることにしたのだけど…その途中で私はスキマ送りされて八雲藍と話してきたわ。私が孤立するタイミングを見計らってたそうよ」
「やっぱりそうだったのね。八雲紫は豹の居場所をすでに突き止めていたけれど、私たちに教える気は無かったと」
「…ただ、八雲が豹を追うことは無いと考えて良さそうだったわ。スキマ妖怪も九尾も、豹が手元から離れるのをだいぶ惜しんでるみたいで…豹が頼って来たらなんとか隠し通してくれなんて言ってきたわよ。
手駒として以上に友として、別れを惜しんでるようだった。そうじゃなければ、私なんかに頼むなんてしないでしょうから」
「そっか。兄さんは、あのスキマ妖怪さえも妹にしたのね」
「流石は先輩…と言いたいけど、逆に考えると八雲紫は中立を保つ腹積もりか。先輩を追うことも保護することもしない、私たちを排除する気もない。ただし先輩が逃げ切ればまた匿うと」
「それに、私がこのことを
「わたしはこういった心理戦は苦手だからさっぱり…夢子は?」
「私もあのスキマ妖怪の策を看破するのは無理でしょうね。推理するにしても情報が足りない」
現状で避けるべきは八雲と魔界で交戦することによる戦力の消耗だから、敵視されないような話をでっち上げたけれど…これで大丈夫かしら?
「でも~、少なくとも八雲紫と敵対する可能性は低いということじゃな~い?幻想郷と魔界の話と合わせて考えれば、あなたたちと巫女がぶつからなければ動かないってことよね~。それさえ避ければ放っておいても大丈夫ということになるんじゃないかしら~?」
「たしかに、メルランさんの言う通りかもしれないですね。豹さんを追う気が無くて、魔界との全面戦争を避けたい八雲の立場を考えると、博麗の巫女を抑えつつ傍観するというのが一番合理的に見えます。
…ただ、自立意思を持ったばかりの私にすら想像できることだけで妖怪の賢者が収まるとは思えないのが怖いですが」
「それは上海の言う通りだけど…少なくとも神綺様が来るまでは博麗の巫女にさえ気を付ければ、八雲紫がわたしたちを強制送還する可能性は低い気がする。下手にわたしたちを追い返して、神綺様と一緒に増援を連れて乗り込んでくる方が嫌がると思うから」
「あー、そういう手も魔界は使えるのか。っていうかさ、さっきから当然のように名前が出てるんだけど…神綺様ってアリスが言ってた魔界の創世神だよね?魔界神直々に豹を迎えに乗り込んでくるつもりなワケ?」
…メルランと上海のおかげで上手く話が進んでくれた。蒸し返されないように気を付ければ押し通せそうね。
「うん、兄さんはみんなが思ってるよりずっと大切な存在。神綺様が自らの護衛として創り出したんだよ?自分のそばで守ってもらうために。
神綺様でさえ、頼れる相手だったんだよ兄さんは。わたしとサリエル様が兄さんの生存を確信できてたから魔界神として魔界に留まってくれてたけど、後継者を見つけられてたら神綺様直々に異世界を渡り歩く旅に出てもおかしくなかったくらい」
「実際、既に魔界を出ていった先輩より年長の
「なによそれ。豹が魔界から去るのはそこまで大事だったの?」
「うん…正確に言うと兄さんが魔界を去ったことじゃなくて、神綺様に反逆したっていう事実が大問題でね…
たぶん、みんなも詳しく知りたいことだよね?兄さんが反乱の話を簡単にするはずがないから、まだ聞いてないと思ってるんだけど」
「ええ。何故豹がここに逃げてくることになったのか、何故反逆者である豹をあなたたちはそこまで好意的に見ているのか。一番気になっていることよ」
「わたしも知りたい。豹はあんな本気で逃げてるのに、ユキも夢子も豹を許してるどころか…わたしたちと同じ【妹】として豹を想ってるわ。
反逆者に対する扱いには、とても見えないよ」
―――カナの言う通り。実の妹であるユキは、反逆者となっても豹を慕い続けてもおかしくない。けれど、もう一人の侵入者である夢子は自ら魔界の重鎮を称したわ。それほどの魔界人が、反逆者として豹を蔑むどころか、先輩として慕い続けている。
とても、魔界神に反逆した豹への扱いとは思えない。
「私も気になるわ。母さんに対してそんな大規模な反乱があったことどころか、ユキに兄がいたことすら私は知らされていなかった。豹どころか魔界に関しても私は無知だったのよ…これから先どうするかも含めて、教えてもらいたいところだわ」
「豹さんが話したがらないことを聞いてしまうのは、少し気が引けてしまいますが…私も聞きたいです。隠れ家さんも、知りたがると思います」
「ここまで関わった以上、私も引けないからね~。聞かせてほしいわ~」
「私は別にいいんだけど…聞いとかないとこれから先話についていけなくなりそうじゃん。教えてよ」
豹を慕う妹分は、誰もが知りたがるであろう――反逆者としての過去。
それを当事者たちに、聞かせてもらいましょう。
「…それで、どうしてわたしがこんな廃屋に連れてこられてるの?」
「エリスが自分で条件を出したじゃない。私に負けたのだから、コキ使わせてもらう。拒否権は無い」
「うわーん!ごめんなさいサリエルさまー!」
は、廃屋ですか…否定できませんが、昨日のように私とくるみに幻月さん夢月さんが寝泊りするのには何も問題ないぐらい中は整理してあるのですが。
「そういうわけで、エリスにも協力してもらうことになりました」
「そ、そうですか…私はエリーです。よろしくお願いしますね」
「くるみです。よろしくね」
「うぅ…仕方ないわね。エリスよ。サリエル様の側仕えをしてるわ」
幻月さんと夢月さんはお茶菓子と小柄な悪魔――エリスさんを連れて帰って来てくれました。お茶菓子を持ち込んでくれたということは、長いお話になるということ…すなわち、豹さんの知りたがった反乱の結末を知ることが出来たのでしょう。
「私たちから先に話した方が良さそうですね。幻月さんと夢月さんが魔界に出向いてくれていた間に、ルナサとアリス、それに豹さんの隠れ家の意識を宿した人形が夢幻館にいらっしゃいました」
「へえ…その人形は興味深いわ。ヒョウの周りには面白そうなことばかり」
「エリーもくるみも無事だったということは、情報交換だけで納得して引き上げたってことかしら?」
「いえ、もっと突っ込んだ話が出来ました。藍さんから聞いてなかったみたいですが、ルナサは八雲の駒として動いてくれてるんです。だから豹さんとの連絡に使える繋がりができたということです」
「あ、それは助かりますね。機会があれば私と夢月も顔を合わせておきたいわ。
それで、問題のアリスはどうだったの?」
「思っていたよりは穏便に動いてくれています。ただ、今頃接触している魔界人たちの動向次第で行動指針が変化するかもしれませんので、信用し切ることは出来ませんね」
「それは仕方ない。マイとやらが今日は単独行動してたのを考えても、少なくともユキは幻想郷に行ったはずだもの。そのルナサに状況を調べてもらって、私たちと情報交換させてもらうのがいい」
「ですねー。とりあえず私たちの方にあった動きはこれだけです」
ルナサと幻月さん夢月さんを引き会わせたいのですが、お二人が幻想郷中心部に入り込むと余計な相手が釣れそうなのがネックです。上手くタイミングが合えばいいのですが…確実を期すなら私かくるみでルナサをここに呼び出すことも必要かもしれません。
「あのさー、わたしが置いてけぼりなんだけど…説明も何もしないなら帰らせてよー…」
「敗者は黙って待ちなさい。自分の出した条件ぐらい守りなさいよ、悪魔なのだから」
「うぅ、魔眼が回復するまで待つべきだったー…」
エリスさんが退屈そうにしていますが、それもここまでです。豹さんの伏せられた過去を、エリスさんの視点からも話してもらうのですから。
「それでは、マイから聞いた反乱の話を始めましょう。
正直に言って、面白くは無いのですけれど」
「緑茶と麦茶、どちらがいいかしら?悪いけど珈琲は常備してないのよ」
「気を遣わせてすまないな…雛の手間がかからない方で頼む」
「それなら麦茶ね。お昼に浸出しておいた分があるわ…冬なのに冷茶で悪いけど」
「出してくれるものに文句は言わないさ、ありがとな」
あまり長居するわけにはいかないが、俺にも落ち着く時間が必要だ。雛と話せる機会なんてこの先作れるかどうかは怪しい…こっちに来てからの付き合いの長さは紫さんに次ぐ雛なのだから、別れの前に雛の知りたいことに答えてやらないとな。
「それじゃ、話を聞かせてちょうだい。私が豹の力になるために、聞かなければならないこと…なぜ、豹は魔界から逃げてきたのかを」
「そうだな…俺も逃げずに過去と向き合うべき時だ。
長い昔話に付き合ってくれ、雛」
始めようか…魔界の皆を傷付けるだけに終わった、俺の