寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第78話 第三者(おとうとたち)から見た忠臣(おれ)

地下の実験場に向かう途中で、研究所内に居る人数が普段より多いことに気付く。カタマサと会季の部下を総動員してもここまでは集まらないはずだが…実験場ではなく外で試射したのは何か別の実験に使う予定でもあったのか?そうなら俺とカタマサで実験場を戦闘訓練に使うのはマズいんじゃないのか?

しかしカタマサは何の迷いもない足取りで地下に降りていく。逆か…実験が終わったから俺たちで使えるようになったってことか。

 

何を話すでもなく実験場に辿り着くと、カタマサが真剣な表情で振り返った。だが、戦闘態勢に入っていない。先に話をする気か…研究より鍛錬を好むカタマサにしては本当に珍しい。これは思ってた以上に厄介事を持ってきたようだな。

 

―――厄介事どころでは、なかったのだが。

 

「まず、前提として確認したいことがある…結局、ヒョウは攻撃魔法を使えないんだな?」

「…ああ、月で無様を晒したからな。長所を伸ばすことばかりに時間を費やしたことを踏まえて、不得手だと後回しにしていた攻撃魔法と向き合ってみたが…お手上げだ。何一つ成果が上がらない。

唯一ハッキリしたのは…魔界人相手に有効打となる威力になると、どの系統もダメだということだ」

 

魔法に関しての鍛錬はユキと夢子、手が空いた時の神綺様を中心に様々な魔導士に付き合ってもらっていた。だが俺の格闘含む接近戦の鍛錬に付き合えるのはカタマサぐらいだ。その意味でカタマサは誰よりも俺と手合わせを繰り返した相手。成果は気にしてくれていたのだろう。

 

 

 

「そうか…なら、原因は一つしかない。神綺様だ。

 ヒョウ、オレ達が力を貸す。魔界を変えてくれ」

 

 

 

―――予想だにしなかった、言葉が向けられた。

 

「………本気か。カタマサを粛正なんてしたくない。考え直してくれ」

「ヒョウ自身では目を覚ますことが出来ないんだよ。そう創られたせいでな…!

 神綺様は、奴隷を創りたいわけじゃないと言った。だが、ヒョウはなんだ!?

 魔界を安定させるために縛り付けられてるじゃねえか!思考も、能力も制限された上で!!」

 

カタマサが、何を言っているのか理解できない。俺が、制限されている?

能力は解る、攻撃魔法が使えないことだろう。神綺様がそう俺を創ったというのが、最も高い可能性だとは俺自身でもそう予測している。

 

だが、思考が制限されている?意味が分からない。

 

「ヒョウの固有能力、精神的な影響・干渉を受けない。護衛役としては、これ以上なく有用な能力だよ。だがな、それがヒョウ…お前自身に悪影響を及ぼしてるのに気付いてないだろ。

ヒョウは、魔界のことを最優先に考えることを固定されてるんだよ!お前自身がやりたいことを伏せ続けることや、惚れられた女からの好意を理解できないのがその証拠だ!!」

「なっ…!?そんなこと「ヒョウがどう感じてるかは関係ねえ!

 ()()()()()()()()()()()()()()()のが問題なんだ!!」

 

反論を途中で遮ってまで、カタマサが激情のまま言い放つ。

元々感情の振れ幅が大きいヤツだが、ここまで感情に任せて言葉を出すところは初めて見た。

神綺様の側近(魔界の管理者)としての俺を一般魔界人(カタマサたち)がどう見ているかなんて、気にしたこともなかった。

皆、俺が支えるべき弟妹だと思っていたから。

 

「神綺様がヒョウを奴隷扱いしようなんて思ってないのは見りゃ分かる。それどころか、男の中では一番頼りにしてるだろうさ。

だけどな!そうやってヒョウに甘え過ぎた結果、ヒョウは魔界の奴隷になっちまってる!!

ヒョウの負担は異常過ぎる!それを負担と感じられないのはもっと異常だ!!

精神を護られ過ぎたせいで、奴隷扱いだと理解できてねえんだ!!」

 

俺が魔界のために力を尽くすのは当然だと思っていた。

それが他者から奴隷扱いに見えるなんて、想像もできなかった。

 

「それでもよ、ヒョウがそれに不満が無いのがわかってたから、口は出さなかった。

だがな…それだけ負担を強いたヒョウの、戦闘能力にまで枷を掛けるってのは納得できねえ!

裏切られるリスクを無くすために思考に制限を掛けておいて、裏切られた時のために能力に制限を掛けるのはやり過ぎだ!!豹の思考が固定されたこと自体が、神綺様にとっても計算外な副次効果だったとしてもな!!」

 

俺の目をハッキリと見据えて、カタマサが言い放つ。

 

 

「このままじゃ、ヒョウだけ不自由な世界になる」

 

 

「……だから、神綺様を引き摺り下ろすと?」

「ああ。ヒョウはもっと報われるべきだ…魔界の奴隷であることが変えられないならよ、魔界をヒョウのモノにすればいい!神綺様を蹴落としてな!!

こうでもしねえと、ヒョウは目を覚まさねえ。オレに出来る叩き起こし方だ」

 

理解できてしまった。カタマサは、もう退く気は無い。

神綺様を、支配者失格と断じてしまっている。

 

「…俺がそう見えているとしても、だ。神綺様に、その制限を解いてもらえば誤解は解けるだろ?」

「いえ、もう遅いのです。ヒョウさんより上の同胞(あに)たちが魔界を捨てたと見られたことで、神綺様と直接の面識が無い次世代の魔界人たちが邪推を始めてしまった」

 

会季も地下に降りてきた。乗り気ってことか…

そして、次世代の魔界人…神綺様によって創られた魔界人同士が結ばれて産まれたことから次世代と呼んでいる同胞(おとうと)たち。会季本人はカタマサと同様俺と同世代だが、研究所を運営する以上会季は次世代の魔界人と多くの接点がある。極端な話今この研究所に集まっている魔界人のほとんどが次世代だろう。

 

魔界全体で見ても、既に次世代の方が圧倒的多数。次世代同士で子をなすことも珍しくない。今では神綺様がゼロから魔界人を創造することは滅多にない…魔界人一人を創造するよりも、増え続ける次世代のために魔界を拡張する方が必要になっているのだから。

 

「今までは、ヒョウさんが神綺様の護衛として管理者側にいたことで誤魔化せていた。しかし、月から帰還したヒョウさんが攻撃魔法の習得に難儀していることによって、『神綺様はヒョウさんを意図的に弱く創った』ということが広まった。

―――そして、今現在魔界の管理者として数えられるうち、男性はヒョウさんただ一人」

「――ッ!?なんてこったよ…!」

 

神綺様のことをよく知っている、俺たちはそんなことないと言い切れるが。

面識のない次世代からすれば、俺のその情報は…!!

 

「神綺様は、男を軽く見ている。次世代はそう判断してしまった。

 すでに、次世代で劣等感を感じていた男性と優秀な女性は暴走し始めています。

 強い自我を持ち、己の意思を持って行動する魔界人は…もう簡単には止まらない。

 このままでは魔界は荒れる。だから、我々はカタマサに乗ることにしました」

 

俺が弱く創られたのは、都合の良い奴隷として扱うため。

同胞(あにき)たちが魔界を去ったのは、魔界では冷遇されることがわかったため。

 

「なんて勝手な思い込みだよ…!!」

「思い込みですが、そうとしか見えなかった。それが現実です」

「言っただろ?オレ達からはそうとしか見えねえのが問題だって。

神綺様の理想は、次世代には伝わらなかったんだよ。

護衛として創ったヒョウですら、制限を掛けてるんだ。神綺様自身も、無理があるとどこかで思ってたんだろうぜ。強い自我を持ち、己の意思を持って行動する魔界人(オレたち)を自由にさせたら…どこかで上手くいかなくなる。その時、魔界を最優先に動く手駒が要るってな」

 

神綺様に刃向かう奴、魔界の支配権を狙う奴…俺は粛正請負人としてそういった同胞(おとうと)たちを始末し、弔ってきた。それも俺に課せられた役目だと思っていたから。

…神綺様もユキも夢子も、魔界人をその手にかけるのは辛そうだったから。

 

「その上手くいかなくなったのが現在(いま)だ。そして、オレがやりたいことをやる千載一遇の好機だった…!

ヒョウを解放すること。もっと効率的に魔界を管理すること…どんな手を使ってでもな」

 

最後の一言で思い出し、理解する。

俺は、カタマサに負けていた。

 

「ユキも呼んだのはこのためだ。ヒョウが唯一特別扱いする妹…ユキ。

ユキを使えば、ヒョウは支配できる。ユキを使えば、ヒョウの始末さえできる。

奴隷の叛逆を防ぐための人質…ヒョウ最大の弱点だよ。この手は使いたくはなかったが…神に背くんだぜ?手段は選べねえ。

それに…誰よりも勝ちたいって思ってるヒョウなら、好手なのは否定できねえだろ?」

「―――ッ!?」

 

それは、ユキにすら隠していた…俺の渇望。

 

護衛として、守ることではなく。

粛正請負人として、一方的に葬ることでもなく。

 

一人の漢として、戦いに勝ちたいという…闘争本能の到達点。

全力を出し尽くし、使える策も全て打ち尽くした上での、勝利。

守るために逃走を図ることの多かった俺が、飢えていたもの。

 

俺と最も長く闘って(手合わせして)きたカタマサに、それを見抜かれていた。

 

「綺麗汚いなんてない、出し切れるすべてを使っての勝利。オレは今、そうしてヒョウに勝った。

 次はヒョウが勝て。オレと会季、それにここに集まったヒョウを慕う奴らを使え。

 神綺様に勝って、魔界を変えてくれ!それを、今ここに居る全員が望んでる!」

「我々は全ての準備を整えました。今の魔界を変えるため、ヒョウさんの力になります。

 ユキさんは、何があろうとヒョウさんの力になろうとするでしょう。

 無理をさせないよう、すべてが終わるまで我々が預かり(保護し)ます」

「………完敗だな。拒否権は無し、か。

 ユキも、神綺様も護りたいのであれば…勝って魔界を支配しろ。

 支配者として、二人を助ければいい。そういうことだな」

「そうだ!そのためにオレ達が全力を尽くす!

 わかりやすいだろ?ヒョウが勝てば、守りたい奴らを自由に救えるってことだ」

「ヒョウさんが支配者になれば、次世代の連中も大人しくさせられます。

 劣等感を感じていた男性の希望となり、優秀な女性を抑えられるのですから」

 

 

 

―――腹を括れ。覚悟を決めろ。

嵌められたから、反逆するんじゃない。

俺を信じてくれた皆の期待に応えるために、俺の意思で。

 

俺が与えてしまった神綺様への誤解を解くために。

俺の失態で囚われてしまったユキを救うために。

 

俺の心に燻る勝利への渇望を満たすために…!

 

 

 

 

 

「作戦を聞かせろ。準備を整えたと言う以上、無策だとは言わせないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――これが、ヒョウくんが反逆した経緯。

…ヒョウくんを守るために持たせてあげた精神守護能力が、私の洗脳と見られてしまったなんてこの会話を見るまで思いもしなかったの。あの頃の私は、サリエルが魔界を気に入ってくれたことで浮かれちゃって…別の世界から移住してくれる種族を探したり、出て行ってしまった皆に戻ってくる気がないか聞いたりしてばっかりで。肝心の魔界の子供たちのことがおざなりになっちゃってた」

 

ヒョウくん・カタマサくん・会季くんの記録。全てが終わった後で研究所跡の地下を調べたら、会季くんの作品がいくつか残されていて。その中に都合よく仮面があった。

会季くんの作品だけあって、仮面自体にまだ魔力が残っていたから。その魔力から過去を再現した結果、丁度三人が視界に入っていて会話も拾うことが出来た。

 

それを複写させたこの鏡は、パンデモニウム最重要機密の保管庫に時間停止魔法を用いて保存してあったもの。私の犯した大きな過ちを忘れないために。彼らを皆が許せたときは、伏せた過去と共に表に出すために。

 

「言い訳になっちゃうけどね…ヒョウくんに攻撃魔法の制限を掛けてたのも理由があったの。空間魔法や時空魔法のような膨大な魔力を消費する魔法を使いこなせても、いざという時に敵の殲滅を優先しちゃって魔力不足になってしまう可能性は捨てきれない。

そんなリスクを負わせるなら、最初から守ることと逃げることだけに魔力を使ってもらうために攻撃魔法を使えなくしてしまった方が護衛としての使命は果たせる。私の護衛なら攻撃魔法は私に任せてもらえればいいし、違う相手に派遣するときはユキちゃんと一緒に行ってもらえばいい。

役割分担させることで、魔力不足というリスクを避けるっていう目的があったの」

 

でも、攻撃魔法が使えるカタマサくんたちにはただの制限としか見えなかった。こんなこと、少し考えればすぐわかることだったのにね…

 

「そのー…知りたがった私が言うのもなんですけれど。これ、私が見てもよかったのですか神綺様?」

「ダメだったら保管庫から持ってきてないわ~。私の口から話すより、この方がヒョウくんの人となりがよくわかるでしょ?」

「それはそうですけれど…伏せられてた反乱のリーダーだなんて衝撃的過ぎますわ」

「………神綺様は、いつこれを?」

 

ルイズちゃんがヒョウくんのことを聞きたがったから、機密事項を保管庫にしまうついでにこの鏡を持ち出してきたのだけれど…そういえばマイちゃんにはこれの存在は教えてなかったわね~。知ってるのはユキちゃんと夢子ちゃん、サリエルに秘匿運搬を頼んだカムさんぐらいだったかしら?

 

「反乱を鎮圧してしばらくしたら、サリエルがヒョウくんの足取りを追いたがってね…私と二人で会季くんの研究所地下で見つけた仮面から複写したわ」

「……そうですか」

「でも、これだけだとマイが不満気なのが全くわからないわねー。まだ何かあるのかしら?」

「………ヒョウが私に迷惑かけたのは、終わった後だったから。神綺様、私はこれで失礼します」

「うん、お疲れ様!明日もよろしくね~」

 

マイちゃんが話もそこそこに切り上げちゃったわ。仕方ないわよね…一番しわ寄せを食わせちゃったのはマイちゃんだし。

 

「でも、マイも含めて皆ヒョウさんを許してますよね?なのにどうしてヒョウさんは逃げてしまったのですか?」

「逃げてしまったんじゃなくて、飛ばされてしまったの。そのまま帰って来てくれなかった…

すぐにでも追いかけたかった。でも、ヒョウくんもカタマサくんも会季くんも、魔界のために動いてくれたわけだから…魔界を放り出して探すわけにはいかなかった。私が不安定にしてしまった魔界なのだから。

それに、私にとって本当に大変だったのは反乱の戦後処理だったわ」

 

カタマサくんと会季くんは、後始末を自分で付けて逝ったから。私が放り出すわけにはいかなかった。

ヒョウくんの分まで、魔界の混乱を収拾しなきゃならなかった。

 

「あの反乱で、私は完全に負けちゃったの。

 鎮圧できたのは、マイちゃんと夢子ちゃんとサラちゃんのおかげ。

 だから、皆が許せないだろうけれど。私だけは認めてあげなきゃいけない。

 ヒョウくんもカタマサくんも会季くんも、魔界神には勝利したんだって」

 

 

 

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