寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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通算UAが60000を超えました。半年という期間この作品にお付き合いいただけた読者様に、あらためて感謝を。

過去の魔界はほぼ全て独自設定。受け入れてもらえるか一番不安だったり。


第79話 善意で舗装された奈落への道

カタマサの部下と会季の研究所所員、暴走する次世代を危惧した同じ次世代…カタマサが集めてくれたとはいえ俺たちの戦力は100名にも満たない。つまり必然的に勝利を掴むためには策が要る。それも、速攻かつ奇襲になるもの…俺たち以外は全て敵となる可能性が高いのだから。

 

「我々の目標は二つ。パンデモニウムの制圧と、神綺様の確保」

「支配者の立場からは降りてもらうが、神綺様は魔界の安定に必要不可欠だ。内乱で戦力低下したところに異界からの侵略が開始なんてことになりゃオレ達がただのマヌケになっちまう。

――異界への対策のためには、神綺様に魔界の戦力を増強してもらうことが必要だろう。だから神綺様は討つんじゃなく確保しなきゃならねえ。

魔界人(オレたち)をこんな風に創った以上、真正面から出し抜けば認めてくれるだろうしよ」

 

カタマサは、あくまで魔界のために動いてくれている。神綺様の命を狙っているわけでは無いのに、正直言って安堵した。それに、神綺様なら…勝ちさえすれば認めてくれるというのには同感だ。

…神綺様を討ち果たせと頼まれても、その依頼を果たせる気はしない。実力差以上に俺の精神面の問題で。

 

「だがオレは神綺様に勝てるなんざ自惚れちゃいねえ。神綺様の相手は必然的にヒョウを頼ることになる」

「そうだろうな。だが俺も時間稼ぎは出来るが無力化は出来ないぞ。サリエル様の魔眼という切り札はあるが、神綺様はそれを知っている以上まず通用しない。どんな策を打つ?」

「いえ、その切り札を通します。むしろ、ヒョウさんが月で魔眼を得たことでこの策を思い付きました。

ヒョウさんは、ハルバートを口実に神綺様を訓練場に誘導してください」

 

パンデモニウムの離れに位置する訓練場。神綺様や夢子の奥の手のような【周囲に甚大な被害をもたらすレベルの禁呪】を試し撃ち出来る魔界唯一の施設だ。

簡単に言ってしまえば訓練場内で行使された魔法が外部に影響を与えないように、強力かつ難解な複合魔法による魔力遮断領域兼魔法無力化結界で覆われている建造物。この内部からは俺どころか神綺様であろうと空間魔法で外に出ることが不可能。施設内で空間魔法を発動しても結界外には移動できない。禁呪の破壊力に耐えつつ外部からの観察も防ぐこの結界は構築に丸一年かけて神綺様含む最高位の魔導士複数人で展開したもので、訓練より実験で使われることの方が多いほどだ。

 

「同時進行でカタマサ率いる別動隊…戦力の8割を割く予定です。これをパンデモニウム内で4班に分散させて制圧と同時に、中庭の召喚制御装置を切ります。これが合図です。

()()()()()()()()()状況の確認を装い神綺様に呼び掛けてください―――これなら、神綺様はヒョウさんと目を合わせてくれるでしょう。神綺様はヒョウさんを護衛として信頼していますから」

「…成程な、会季も恐ろしい策を思い付くものだ」

 

パンデモニウム中庭の召喚制御装置。その名の通り異世界の生物を魔界に召喚する際に使用され、城内の東西南北端の4部屋に置かれている。大概の生物であれば2部屋分の装置を切れば問題なく召喚できるので、3部屋以上切る場合は神綺様と管理者複数名の立ち合いが行使の条件になっており、4つ全てが切られると警報が鳴る。

 

この警報が鳴ったタイミングを狙えというわけだ。

 

ちなみになぜ神綺様の居城であるパンデモニウムにこんな装置があるかというと、パンデモニウムの謁見の間と中庭は元々異世界と接続する空間魔法を安定させやすいポイントだからだ。半月前は神綺様がサリエル様の危機を察知したため謁見の間から月へ侵入・撤退したが、あのような緊急事態じゃない限り異界との接続は中庭で行っている。想定外の事態が起こっても中庭であれば出入り口を封鎖した上で侵入者を袋叩きに出来るのだから。

 

「だが、それを実行するには戦力が足りないぞ?サリエル様の移住が一段落したから、休暇の関係で警備が薄くなってるとはいえ最低限の数は居る。それに夢子と鉢合わせたら誰も手に負えない…それこそカタマサ・会季・マイ総掛かりで相手しないとキツいだろ?」

「はい、そのために残りの2割は夢子さんをパンデモニウムから引き剥がすための陽動に回します。それとマイさんはここ…研究所に緊急時のバックアップとして残します。マイさん含めて3人です。

正確に言えば、ユキさんの監視(まもり)を務めてもらいます」

「ユキはヒョウのためなら後先考えず無茶するからよ、今やってる作業に集中させるって名目で部屋ごと保護する。他の待機組も女だけにしとくから安心しろ」

「…そうだな、今のユキに無理はさせられない。そこは感謝しておく。

 ただ、これに関しては全て終わり次第俺なりにケジメを付けさせてもらう」

「んなこたぁわかってるよ。言っただろ、オレだって使いたくはなかった手だって」

「覚悟の上ですよ。こうしなければヒョウさんは決心してくれなかったでしょう?

 自分の行いに対する責任はしっかり取ります」

 

まったく…本当に俺のことを考えての暴挙なんだな。

後でシバくとしても、先に期待には応えねえと。

 

「それで、陽動の内容は?」

「私が残りの戦力を率いてマイナスにしかならない連中の拠点を潰しに行きます。次世代の優秀な女性の集まりの一つですが、あれはもうイカれた女尊男卑思想のカルト教団ですね。ヒョウさんを神綺様の護衛から外すよう署名運動を行い、代替案として女性のみの親衛隊設立を提唱してきたあの連中です」

「…ああ、たしかにいい機会だな。だがあんなんでもそれなりに腕は経つだろ?2割だと15人足らずだがいけるのか?」

 

兄として魔界人を支えようとした俺だが、神綺様に刃向かって来ないのに粛正したいと思ったのはあの連中ぐらいだ。実力は悪くないのだが、思想面と行動がどうしようもない。無力な男性を嫌うだけなら俺も放置したのだが、彼らを魔界から追放するための理由を探すことに時間と労力を割いているという魔界にとって不利益なことに精を出す役立たず共だ。

 

魔界を管理する側は常に人材不足。無力でも神綺様や夢子に忠誠を尽くせるのであればパンデモニウムで雇いたいぐらいなのだ。書類の整理や実験機材の運搬など雑用としか見えない職務だが、重要機密が多数混じっているので下手に優秀な野心家に悪用されると非常に面倒なことになるようなものもある。

こういった仕事は実力より機密保持を徹底できる忠誠心の方が重要になる。そして無力であるからこそ強者に庇護を求めるという形で忠誠を誓えるということもあるのだ。

 

そういった労働力としての価値を理解できない連中は実力があろうと戦力外だ。そして俺を護衛から外そうとした件で多数の女性からも反発を受け、相当叩かれたのにも関わらずいまだに活動を継続している。無駄にプライドとメンタルだけ強いせいで本当に厄介なのだ。

 

「問題ありません。拠点ごと潰すのであれば私一人でも十分ですので。

夢子さんを足止めするには、少々心許ない数ですが。そこはヒョウさんとカタマサ次第」

「あの女共懲りずにまたヒョウを神綺様から離そうと『攻撃魔法を使えない』という理由でパンデモニウムに意見しに行ってるんだぜ?攻撃魔法無しでヒョウに団員全員が一蹴されといて何を抜かしてやがるんだか」

「最初から理解できない連中だ、永遠に黙らせても誰も文句は言わんだろう。だが…その行動で夢子を釣るってワケか」

「その通りです。今日も無駄な行動に精を出していますが、その最中に拠点が潰されたとなれば夢子さんを現場の状況確認役として連れていくはず…あんな連中でも、女性である神綺様への忠誠心は持っていますので。夢子さんとしては断り切れないでしょうから」

「どうだかな…あの夢子すら怒鳴りつけて追い返したことあるんだぞあの連中…」

「それでも魔界の建築物に被害が出たとなれば動かざるを得ないだろ?夢子の立場ではよ」

「そうだな。連中を潰すことじゃなく、奴らの拠点を破壊することが主目的か。たしかにそれなら夢子が動くのが効率的だ」

 

夢子は現在の魔界において実質的な№2であり、神綺様が拡張した魔界のスペースをどう活用するかといった案件もこなしている。つまり現存する施設の倒壊などがある場合、現地の状況次第では新規開発の方針を変更する必要に迫られる可能性があるのだ。その方向ならたしかに動くだろう。

 

「私が夢子さんを引き付けている間に、ヒョウさんが神綺様を捕らえ、カタマサがパンデモニウムを制圧する。それを盾に夢子さんへ降伏勧告します。少ない戦力を分散させるのは悪手ですが、現状での勝率がこれ以上高くなることは無いでしょう。

―――何か、ありますか?」

「オレはねえ。元々オレと会季で詰めた作戦だからな…ヒョウ、どうだ?」

 

実際、勝率は低いだろう。だが、可能性はある。

これ以上の策を俺が出せるかと言えば…出せない。

なら、もう決まりだ。時間が経つほど、俺の覚悟は鈍るから。

 

「いや、俺はここ半月の魔界を知らなさ過ぎた。だからカタマサと会季頼みになる。

 これ以上の策は俺には無い…よろしく頼む」

 

もう後には退けないのだ。

 

「…それにしても、会季がここまで率先して動いてくれるとはな。そこまで、次世代はマズいのか」

「いえ、まだしばらくは現状のままで持つでしょう。ですが、反乱の成功率を高めるには今のタイミングしかありません。

サリエルが魔界から離れた今。ヒョウさんが魔界を支配した後であれば助力してくれる可能性もありますが、神綺様が支配者の座にいる限りは敵対してしまうでしょう」

「流石の情報収集能力だな…サリエル様のことまで把握してたか」

「エリスが自慢げに宣言して回っていましたので。むしろ戦力の結集が間に合うかの方が怪しかったですね。

…それに、私の野心はヒョウさんも知っての通り。ヒョウさんのためでもありますが、私自身の目的とも合致します。マイさんも主目的は私と同じでしょう。我々研究者にとって、パンデモニウムの資料を自由に閲覧できる立場は大きなリスクを冒しても狙う価値があります。

ここまで言葉にした方が、ヒョウさんも私を信じられるでしょう?」

「フッ、そうだな…それでこそ会季だ。

 カタマサも、頼むぞ」

「おう、任せろ。ヒョウも下手こくなよ?」

「当然だ。そうなった時点で終わりだからな」

 

 

 

魔界に噴出した問題を、俺の手で短時間且つ一度の反逆(こうどう)で一気に解決する。

―――逃げることの許されない大勝負だ。そして、敗北することも。

 

 

 

「準備にかかれ。時間差で動くことになる…俺はすぐにでも出るからな」

「お願いします。私も選抜した別動隊を集めて間もなく出撃します」

「おうよ!オレ達の一世一代の大勝負だ。―――勝つぞ!!」

 

反逆者たちの、終末は近い。

 

 

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