寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

8 / 289
タグを1つ追加してます。今思えば、1話の時点で付けるべきだった気がする。


第8話 それぞれの協力者たち

「警戒するのも仕方ないが、危害を加えるつもりはない。私たちも情報が欲しくてな」

 

本当に、私の手に負える話じゃないようね。まさか、こんな大物が出向いてくるなんて…!

私との面識なんてゼロに等しい。冥界のお屋敷で演奏した際に、観客の一人として顔を合わせたことがあったぐらいのはず。

 

「時間が惜しいからな…単刀直入に行こう。豹が逃げることになった理由、アリスについて話を聞かせてもらおう」

「…え?」

 

傍らに化け猫を控えさせながら求められたのは、予想の逆。豹の事ではなく。

 

「私が役に立つアリスの情報を持っているとは思えないのだけれど…」

「いや、お前しか知らない情報がある。今日、豹が逃げ出した後にアリスと会話しただろう。その内容によって状況が全く異なってくる」

 

どうしてそんなことを知っているの…と思ったところで気付いた。私とアリス以外でそのことを知っているのは楽団以外で二人しかいないはずなのだ。一人は慧音、もう一人は。

 

「豹はあなたたちのところに?」

「そうだ。もう出て行ってしまったが…八雲は幻想郷で豹を保護していた側だ。ゆえにお前の知りたい豹のことも教えてやれる。ただし交換条件として、アリスが何を求めてきたのかを教えろ」

 

八雲紫に対して人妖問わず一致する見解がある。「胡散臭い」。

だけど、幻想郷の管理者の一人であることに間違いはない。なによりあちらから出向いてきた以上、私と敵対するつもりが無いのは本当なのでしょう。そして、私の知りうる豹の情報を整合すれば…

 

「わかった。そのかわり、豹のことも教えて…話せないこともたくさんありそうだけれど、私は知らなさすぎるから」

 

 

 

 

 

「―――としか聞いてないわ。おそらくだけど、アリスよりあなたたちの方が広い視点での状況を把握出来てるんじゃない?」

 

でも話せることは本当にほとんどないのよね。これだけで満足してもらえるとは思えないのだけれど。

 

「藍さま、これって…」

「ああ、状況が悪くなったことに違いはないが、最悪ではないようだ。アリスが食わせ者でなければだが…橙、先に紫様のところに戻って今の話を伝えてくれ。その後は紫様の指示に従え」

「わかりました!」

 

でも収穫はあったようで、化け猫が開いたスキマに姿を消した。

 

「さて…まずは礼を言おう。今の話で私には少し余裕が出来た。もう一つ聞きたいことがあるんだが、先に何かこちらから情報を出した方がいいか?」

 

気になることはたくさんあるけれど。

 

「私は後でまとめて聞いた方がいいでしょう。先に答えるわ」

「そうか。先程話を聞きに行くと言ったが、それは誰のことだ?」

「藤原妹紅。ライブに客として彼女が来てくれた時、公演の終わった後で豹と話してたことがあったのよ。豹に聞いたら古い付き合いとだけ返ってきたけど、私が知る豹の交友関係は彼女だけ」

「成程な…してやられたというのは彼女の事か」

 

…どうやら、私の番みたいね。

 

「情報を出すと言っておいてから条件を加えるのは不誠実だが、私たちにも事情があってな…

答えられることには答えよう。だが、今後は豹を守るために八雲の方針で動いてもらうことになる。そしてアリスに勘付かれることは許さん。その覚悟はあるか?」

 

大妖怪が、私に覚悟を問う。

本音を言えば、恐ろしい。けれど、あんな形で豹とお別れなんて嫌だったから。

 

「…私に腹芸とかを期待されても困るわ、努力はするけれど。

 でも、豹の力になりたいという覚悟は決まってる。扱いづらい駒になるでしょうけど、好きに使いなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

枯渇した湖を進む。元々妖怪すらあまり近付かない場所だ…念のため隠形魔法を使いながら駆けていたが、すれ違うものはなかった。

 

当然と言えば当然ではある。ここは妖怪が恐れる博麗の巫女の住む博麗神社の裏山に位置し、今でも幻想郷最強クラスと言われる大妖怪がかつて住んでいた館への侵入口なのである。興味本位でうろつくべき場所ではない。

 

(だからこそ潜伏先として真っ先に浮かんだわけだからな)

 

かつてはこのあたりで門番の一人が待ち構えていたらしいが、館の主が引っ越してからは門番に別の仕事が出来てしまい無人だった。…不信感を与えたくない以上、ここからは把握できるように動くべきか。隠形魔法を切って目的地へ駆ける。魔力を使わない範囲の全力で。

 

―――俺の目的地、夢幻館。正確には夢幻館跡とでも呼ぶべきなのかもしれないが。かつて異変が起きた後、盗賊のような理由で訪れた際、悪くない縁が出来た場所である。

 

「あれ、豹さんじゃないですか。お久しぶりです」

「くるみ、久しぶりだな。急で悪いが匿ってくれないか?」

 

半壊した夢幻館に残る二人の少女…吸血鬼のくるみと死神のエリー。条件次第で俺のような厄介者も受け入れざるを得ないぐらい、不幸な境遇にある少女たちとの再会である。

 

 

 

 

 

この館はかつて幽香…今では太陽の畑で風見幽香と名乗っている大妖怪が住んでいた。彼女はかつて異変を起こし、例によって博麗の巫女に解決されたのだが…その過程でエリーとくるみは盛大に被害を被ることになる。

 

最初の不幸は魔法使いの方が先に館に到着したことだ。その後から博麗の巫女が追撃に来たような形になり、障害として二人は魔法使いと巫女相手に連戦する羽目に陥る。その結果ボロボロにされて夢幻館への侵入を許してしまう。

続いてなぜか巫女と魔法使いは夢幻館内部で戦闘を開始。お互い共闘していたわけでもないので仲間割れとは違うのであるが…侵入者二人が屋内で大暴れしたことにより館内は大荒れ。その状況でも寝起きの悪い主は熟睡しており止めに来なかった。そして巫女が勝利し魔法使いは撤退する。

そのまま巫女は進み寝起きの幽香と激突。引き続き夢幻館内部で。幽香も暴れ回り寝室付近は完全に崩壊。結果は巫女が競り勝ち異変は解決…となったのだが、敗北した二人に幽香から追い討ちが入る。

 

 

 

「季節の花を楽しむ旅をしてくるから、その間に館を修理しておきなさい。

 何かあれば太陽の畑の向日葵たちに伝えなさいな」

 

 

 

資金も建築技術もない二人に対してこの無茶振りである。

 

それから間もなく俺はこの洋館が半壊したと聞き使えそうなものが残っていないかと調べに来た。そこで途方に暮れる二人と知り合ったのである。

 

 

 

「なにかあったんですか?私たちとしては断る理由無いですけど…あ、でもちょっと待ってくださいね。今日エリーは人里に出てて、まだ帰ってきてないんです」

「そうなのか、ならとりあえず外で待つ。くるみだけで判断できそうなところだけ準備しておいてくれ」

「わかりましたー」

 

エリーが人里に出るのは珍しい。おそらくは太陽の畑に用があったついでだとは思うが。

そう考え崩れた正門脇に背を預けると、すっかり闇に包まれた湖からこちらに向かってくる魔力反応をキャッチした。俺にとっては運がいいタイミングだったな…館にたどり着く前に合流して勘の良い巫女に襲撃されてたら潜伏どころじゃなかった。

 

「あら、豹さん?私たちに何か用ですか?」

「厄介事を持ち込みに来た。くるみには先に伝えたが、しばらく匿ってくれないか?」

 

 

 

「簡潔に言うと追手に存在を知られたから、潜伏しなきゃならなくなった。資金の援助と修復の手伝いをするからしばらくここに置いてくれ」

 

中に入れてくれた二人に要件と対価を伝える。断られることは無いと踏んだからここに来たわけだが、俺の事を詳しく知っていれば断りたくなるだろう。

 

「構いませんよ、むしろお願いしたいぐらいなの。豹さんと会えなければ私たち見捨てられてもおかしくなかったですし…」

「そうです、幽香の横暴に対して少しでも希望を与えてくれただけで豹さんは私とエリーの恩人なんですから」

 

隠し事だらけの俺に随分と不用心だよなあ。それを気にする余裕がないほど主人であるフラワーマスターは凄まじいのか…

 

「すまないな、頼む。とりあえず当面の資金だが…バレた時のために俺も少し持っていてもいいだろうか」

「いえ、資金に関しては資材の搬入が決まってからお願いしますよ。ただ、使えそうな部屋はあっても掃除する余裕がないので、任せていいですか?」

「ああ、それぐらいやらせてくれ…迷惑をかけるからな」

「それこそしばらく手伝ってくれるだけで作業効率上がるでしょうから気にしないでください。とりあえずこっちの部屋にどうぞ!」

 

とりあえず、しばらく休むことは出来るらしい。後はどうやって状況を把握するか…だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…これでもう大丈夫ね!わたしか豹が定期的に魔力を補充すれば崩れることはないわ」

「結果的に大掃除したことになるのかしら?」

 

久しぶりの《戦闘》を終えて。魔力の掌握に成功したカナは引っ張り出してきた道具を家の中に戻している。私は戦闘中に数冊確認した魔導書が気になったので協力の謝礼として要求したところ、豹が返せと言ってきたら返すという条件付きで持ち帰って良いと言われたので回収して軽く目を通していた。

 

理解できたのは、豹はやはり只者ではないということ。魔導書の内容は稀少というわけではないが、魔導書自体が相当古いもので価値がある。少なくとも私とは文字通り桁の違う時を過ごしていることは、カナの話と合わせて間違いないようね。

 

「それでなんだけど…アリス、もう少し時間もらっていい?ちょっと信じられないことになっちゃったみたいでね…」

「時間に関してはもう今更ね。どうしたのよ」

 

こちらへ戻ってきたカナは私の後ろに向けて話しかけた。

 

「大丈夫?シャンハイちゃん…シャンハイちゃんのままでいられてるかな?」

「えっ…?」

 

そして、返事が返ってきた。

 

 

 

「その…私は大丈夫なのでしょうか…?」

 

 

 

上海がはっきりと、返事をした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。