寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第81話 決別の業火

「お疲れ様ですヒョウさん…?なんだか物騒なもの背負ってますけど、何かありました?」

「会季の新造品だが、俺にとってはかなり有用な武器でな。ちょっと全力で試したい…神綺様と夢子は?」

「神綺様は謁見の間で異世界と通信してるはずです。夢子さんは…面倒な次世代の対応してましたね…」

「…俺が対応した方がいいか?」

「いえ、あいつらに限ってはヒョウさんの方がマズいかなー…ヒョウさんが戻って来たことはわたしが伝えておきますから、神綺様のとこ行っちゃって大丈夫ですよ」

「そうか、ならお言葉に甘える」

 

正門の門番をしていたサラに二人の状況を聞いたが、都合のいいことに別行動していた。しかも俺の方がマズいという相手…会季の策通りに事を進められる連中だろう。この好機、逃すわけにはいかない。

 

…なるべく人的被害は最小限に抑えたい。魔界はまだまだ、創られたばかりの世界なのだから。

 

(命を捨ててまで刃向かわないでくれよ、サラ)

 

謁見の間まで、あとわずか。

 

 

 

 

 

「サラ、交代よ」

「あ、それじゃよろしく!わたしは夢子さんにヒョウさんが戻ってること伝えてから休憩するわ」

 

白い水玉模様の赤いスカートを翻して正門にやって来た金髪の同僚に後を任せて、夢子さんが応対してるはずの応接室に向かう。いい加減あいつらも理解してくれないかな…今の魔界上層部は欠員出して補充するなんて余裕ないってこと。

ヒョウさんを外そうとせずに新規部門設立ってだけなら何の問題もなく通りそうなのにね。

 

…応接室に近付くだけで不機嫌そうな夢子さんの魔力を感じられる。これを全く気にせず意味不明な理屈並べ立てられるんだから本当にメンタルだけは強い。夢子さんが爆発する前に魔界から追放した方がいいんじゃないかな…夢子さんだけじゃなくあいつらのためにも。

 

「夢子さん、いいですか?」

「ええ、入りなさい」

 

扉をノックして応接室に入る。邪魔するな!とばかりに4人揃ってわたしを睨んでくるけど…邪魔なのはお前らなんだよ、はよ帰れ。

 

「ヒョウさんが来ました。神綺様に会季さんの新造品をお披露目するみたいですけど、ヒョウさんだから通しちゃいました。休憩ついでに報告だけ上げときます」

「先輩だけ?ユキは居なかったの?」

「はい。全力で試したいって言ってたんで、巻き込まないために一人だったんじゃないですかね」

「…まあ、神綺様も昨日までで大半の仕事は片付けてたからいいでしょう。ただ、神綺様じゃないと騒ぎそうな来客が来たらサラが二人を止めて」

「ちょっ!?無茶言わないでください夢子さん!!」

「…私が止めに行ってもいいけど、替わってくれる?」

「………わかりました、頑張ります」

 

うっわー…とんでもないとばっちりだー。

役立たず共4人が今度は同情の視線を向けてきた。ふざけんなお前ら!お前らが来てなきゃ夢子さんが向かってくれるんだよ!

 

はあ…面倒な来客が来ないことを祈りますか。

いや、神綺様とヒョウさんを止める方がマシだと思える面倒な奴らが今ここに来てるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン、所詮は愚か者の縋りついた先か」

 

初手から問答無用で拠点に火炎魔法を撃ち込むと、私に向かってくるどころか我先にと逃げ惑い始めた。このザマで男性排斥などとよく宣えたものだ。

 

「放っておいても焼け崩れる。一人脱出したのは確認した、もう配慮は必要ない。

消耗しない程度には害虫どもを駆除しても構わん。ただし、周囲に延焼しそうであれば消火を優先だ」

「「了解!!」」

 

さて、私にとってはここからが本番。魔界人最強クラスである夢子さんを足止めしなければならない―――通信用の魔法具を起動。

 

「カタマサ、予定通り通信魔法具を持ち出したのを一人追い出した。手筈通り頼む」

『任せな!』

 

訓練場に入ってしまうと、この魔法具の通信魔法も切れてしまう。そのためヒョウさんには持たせていない…上手くやってくれよ、カタマサ。

 

 

 

「よし、分担を確認するぞ。オレは単独で警備を黙らせることを優先しながら北から東の順に起動する。A・B班が南、C班が西、D班が通信室だ。南を起動する際に抵抗が少なければA班は東の起動に向かいオレと合流するまで待機。B班は通信室でD班と合流。抵抗が激しければA・B班は別れず正門まで後退。C班は西を起動したら反時計回りで警備を無力化しつつ正門へ後退。D班は緊急通信用の魔法具を回収したら、B班と合流するか警報が鳴り次第正門まで後退だ」

 

内乱で犠牲になる以上の無駄死には無い。だからこそ、オレ達には重い制限が掛かる…だが、これは徹底しないと復讐の連鎖で支配どころじゃなくなっちまう。

 

「なるべくトドメは刺すなよ。死なせずに負傷させた方が無事な奴を救護に回せて数が減る。外から施錠できる部屋がありゃそこにまとめて放り込んどくのがベストだ。

警報が鳴った時点で万が一ヒョウじゃなく神綺様が出てきたら、お前らは離脱して会季と合流。オレが神綺様を止めてる間に後ろから挟撃して夢子を捕らえろ…神綺様か夢子を捕らえれば人質として使えるからな」

「「「はっ!!」」」

「それじゃ夢子が動くまで臨戦態勢で待機だ。オレが突入したら後に続け!」

 

コイツらにまで恨みを向けさせる必要は無い。トドメまで刺して憎まれるのはオレ一人でいい―――今までヒョウばかり背負ってきた重荷を、オレも背負うことになるだけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ヒョウくん?ユキちゃんは大丈夫なの?」

「はい、会季の研究所でマイが付いてます。神綺様は今大丈夫でしょうか?異世界と通信していると聞きましたが」

「もう少しお話したかったんだけどね~、向こうも大変みたいで。だからもう大丈夫よ。

サリエルはもう出発したのかしら?」

「はい。神綺様もユキのために手を尽くしてくれたそうで、ありがとうございます」

「お礼なんていらないわよ~。私はほとんど力になれなかったし…もしヒョウくんが気にするならサリエルに返してあげて!とっても喜ぶと思うから!」

 

…違和感なく振舞えているだろうか?神綺様は放任主義なようで俺たち魔界人(こどもたち)のことをとてもよく見ている。俺の内心を見透かせても不思議じゃない。

だからこそ、普段通りに。今はまだ…俺が護るべき相手として。

 

「それでは、時間を頂いてもいいですか?会季が俺にとっての傑作を回してくれまして」

「ヒョウくんにとってのっていうのが会季くんらしいわね~。その背負ってるのがそうかしら?

 なんだか色々詰まってるみたいだけど」

 

流石は神綺様だ。弾丸に組み込んだ多種多様な魔法が判別できている。

 

「魔法を組み込んだ弾丸を射出できる近接武器。汎用性を求めた結果がこの形になったそうですが…

いつも通りというか、使い手が限られて量産する必要が無い逸品になっています」

「あはは、本当にいつものことね~。価値ある道具なんだけど、使える子がいない。

いっそのこと異世界向けの物品交換に回せば貴重なものとトレードできるかもしれないけど、それじゃ会季くんの目的からずれちゃうのよね」

「フッ、本当にそうです。魔界じゃない世界の方が、会季を必要としているでしょう」

 

…こんなお互い笑い合える会話も、おそらく最後。

 

「今の魔力でユキを付き合わせるわけにはいきませんし、夢子は面倒な連中に捕まってるようで。

 …神綺様、お付き合い頂けますか?」

「いいわよ~、私もいい気晴らしになりそうだし!

 訓練場開けてくるから、ヒョウくんは出勤してる誰かに二人で使うって伝えておいて!」

「わかりました、お願いします」

 

…やっぱ神綺様も多忙でストレス溜まってたみたいだな。随分と乗り気だ。

 

―――これ以上は考えるな。もう…決別の時だ。

 

「…サラか?」

「あ、はい。隠れてるつもりはなかったんですけど…」

 

どうやら休憩時間に入ったらしきサラが謁見の間の扉を開いて顔を出す。

 

「聞こえてたと思うが、しばらく俺と神綺様で手合わせして来る。休憩中悪いが、何人かに伝えておいてくれるか?あと、神綺様に客が来たら訓練場に来てくれ。入り口付近に流れ弾が飛ばないようにはしておく」

「あ、ありがとうございます…!夢子さんにそうなったら止めろと言われてどうしようかと思ってましたが、ヒョウさんがそこに気を使ってもらえると安心できますので!」

 

そのまま踵を返して行く。手間が省けたか…こう言っておけばサラ以外は訓練場に近付かないだろう。神綺様の気晴らしに付き合えることを「光栄です!」と引き受けた者は、その気晴らしに使う魔法の規模に度肝を抜かれる。そして気晴らし中の訓練場には近付かなくなる。

後はサラが様子を見に来る前に、合図が出ることを待つだけだ。

 

下手に警備員と顔を合わせて覚悟を鈍らせるわけにはいかない。訓練場に向かうとしよう。

 

 

 

 

 

「夢子様も来てください!」

「お願いします!私達の同志が、家が…燃えているんですよ!見捨てるのですか!?」

「私達の崇高な使命を理解しない愚か者は、魔界から消し去るべきでしょう!」

「夢子様なら、それが出来ます!!」

 

…頭が痛い。本音を言えば、見捨てたい。

この連中の拠点が襲撃を受け、炎上していると脱出した一人が通信魔法で伝えて来た。

 

サリエル様を魔界にお迎えして半月。その戦闘で力量不足を感じたという先輩が攻撃魔法の習得を目指すも、何一つ捗らないことが魔界に広まると。この連中はここぞとばかりにまた騒いできた。

よりによって先輩を神綺様の護衛から外せなんて巫山戯たことを抜かす連中。先輩がどれだけ神綺様と魔界に尽くしてきたのかを欠片も理解できない連中なんて、生かしておいてもなんの役にも立たない。襲撃者の増援に向かいたいぐらい。

 

(サリエル様にお伝えすれば根絶やしにしてもらえるでしょうか…)

 

神綺様の供として言葉を交わさせて頂いた際に、月での状況も聞かせて頂きましたが…先輩でなくてはサリエル様の救出は不可能だったでしょう。そのサリエル様がこの連中の愚行を知れば、躊躇いなく排除して頂ける気がします。

 

でも、この迷惑な集団の拠点が全焼しかねない火災となると延焼する可能性がある。それに関しては看過できない…せっかく整備されてきた魔界の都市部まで被害を受けるのは止めなければ。

 

「仕方ないわね…被害状況の把握はします。ただし襲撃は身から出た錆よ。犯人の追跡に割く人員の余裕は無い。追撃は勝手にやりなさい」

「「「「どうしてですか!?」」」」

 

まあ幸いなことに、手合せとはいえ先輩が戻って来たなら私がパンデモニウムを空けても問題はない。ある意味ユキと別行動してくれていて助かったわ…今のユキが同行していると先輩はユキの護衛以外の行動が取れなかった。でも先輩一人なら神綺様の護衛に回ってくれる。

やかましい4つの声を聞き流しながら応接室を出る。手早く終わらせて戻って来ましょう。

 

―――この時点での私は、見事なまでに策に嵌ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――兄さん…?」

 

それは、遅過ぎた予感。

胸騒ぎがして、仕分けの手を止める。そうしてようやく気付く。

 

「―――ッ!?閉じ込められてる!?」

 

いつの間に…!?誰が何の目的で!?

 

兄さんが最高位の空間魔導士なのは魔界で周知の事実。だけどわたしは空間魔法はあんまり得意じゃない。兄さんの攻撃魔法ほどじゃないけど、わたし自身が移動できるサイズのワームホールを作るレベルになると無理。兄さんに頼り切りだった。

 

唯一わたし自身が空間移動できる魔法はわたしと兄さんだけの召喚魔法なんだけど…これは距離や時間によって消費魔力が増加することは無いかわりに根本的な消費魔力が莫大。わかりやすく言うとわたしの全回復した魔力のほぼ4割を使う。要するにここ半月の魔力じゃ足りない。

 

つまり、今ならわたしが脱出できないことを理解して閉じ込められたってことになる。何か起こってるのは間違いない…!!

 

(今の魔力が回復しきってないわたしに利用価値はあまりないはず。だとすると、わたしを捕まえた目的はまず間違いなく兄さん…!)

 

索敵魔法も兄さんに頼ってたから、封鎖されたこの部屋の外に展開させることが出来ない。だから外に誰か残ってるかすら確認が取れない。

 

(でも、どうしてここで?会季が兄さんを嵌めるなんてことは…無いと思う。

 まさか、私が気付かないうちに闇討ちでもされてた!?)

 

どちらにしても魔力枯渇寸前のわたしが下手に動く方が危険。それはわかってる。

でも、この胸騒ぎは…絶対に何かを警告してる…!

 

「迷ってなんていられない…!」

 

ある意味、わたしはまだ運に見放されてなかった。この部屋は、魔力で封鎖されてるから。

魔力さえ足りれば、強引にこじ開けられる…!

 

「最高位の黒魔導士を、甘く見ないでっ…!!」

 

 

 

―――これが、反逆者たちの誤算の一つ。

 

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