またも幽玄魔眼クラスの独自設定キャラ投入。
「ここでっ!!」
「あら~?」
幾度となく実戦形式の訓練に付き合ってもらえていたからこそ、神綺様にも俺のクセは見抜かれている…だからこそ、新たな力を活かす最大のタイミングは―――神綺様が攻勢に回った直後!初弾は紫の魔法…仕込んでくれたのはカタマサだろうな!
だがその隙を狙い撃っても神綺様は悠々と避けきってしまう――いや、たしかに俺でも予備動作があれば避けきれはするんだが、被弾覚悟で俺狙いの連射を撃ち始めた直後に撃っても当てられないのかよ…!
「さすがはヒョウくん!はじめて使う武器だなんて思えないわね!」
「これを初見で躱せる神綺様の方が流石過ぎです!」
武器を得たとしても俺の戦闘スタイルは変わらない…いや、変えられない。今まで磨き上げた戦闘技術を武器のために捨てるのは不合理だ。必要なのは、いかに俺の闘い方にこのハルバートを組み込むか。
「それに、反応速度はどんどん研ぎ澄まされてる。瞬間的な判断はもう私よりずっと上ね」
「そうならなければ、俺は絶対に勝てませんから。回避こそが俺の命綱」
白翼から光弾をバラ撒き移動を制限しつつ、正確な狙いで俺に向け連射。正確な狙いだけあって最低限の回避だけで避けられる…とはいかないのが流石の神綺様。連射の中にあえて狙いを外してる光弾も混じっている。だからこそ余裕をもって避けつつ、移動制限弾をはたき落とすことで接近する。
あくまで手合わせだから、神綺様は予備動作なしでのテレポートなどは使わないでくれる。その油断があるからこそ、会季も俺なら神綺様の足をすくえると読んだのだろう。だが、今の交錯で思い知らされたように…やはり今の俺ではこのハルバートの射撃は当てられないだろう。使いこなすための修練が足りない。
(とはいえ、
そして次弾は、牽制としては有用過ぎる!
「次はこちらから撃たせてもらいます!」
「わざわざ断らなくてもいいわよ!私だって、たまには危機感を味わいたいもの!!」
やはり、神綺様も芯は【魔神】…!命のやり取りを楽しめる感性を持っている!
それならば、そんな相手と認めてくれている期待に応えるのが恩返しになるだろう!これから裏切る俺の、自己満足でしかないがな!!
「――らぁっ!!」
「ーっと!?ふふ…本当に、ヒョウくんは私の期待に応えてくれる!守勢に回るなんて、本当に久しぶり!」
次弾、赤の魔法!これは火炎魔法を得意とする会季が仕込んでくれたんだろうな…!神綺様に勝つために、二人とも俺に力を与えてくれている!手段に思うところはあっても、この期待には…漢として応えなきゃならねえ!!
守勢に回ると言いながらも、神綺様が乱射の手を緩める気配は無い…いや、この場合は翼を緩めるとでも言うべきか?神綺様も火ダルマになるのは避けたいのだろう、俺狙いの連射は精度と数が落ちている。
だが白翼からの移動制限弾は勢いが全く変わらない。戦闘状態で展開される神綺様の翼は単なる魔力タンクなどではない。それ自体を攻撃機関として自由自在に扱える―――同じく翼を持つマイからすれば「翼自体を攻撃機関に進化させるなんて、修行と研究にどれだけの時間がかかるか考えたくもない」だそうだ。
やはり、別格。創造された存在の
(だが、神綺様が俺に与えてくれた力で…ただ一つ神綺様を超えることが出来たものがある!)
単純な、腕力。護衛として、粛正請負人として、役目を果たすために鍛え続けてきた力。
それを活かすためには、接近あるのみ!!そして、新たな得物のおかげで《俺の間合いが若干伸びた》ことが、神綺様の隙となる!!
「ハァッ!!」
「きゃっ!?」
しかし、これも当てられない!この距離ならまだ物理攻撃は届かないと神綺様が読んでいる位置から、被弾を無視した突進…風魔法の噴射による加速とハルバートのリーチを加えることによって一回だけ使える奇襲だったが、ギリギリ届く間合いだからこそ神綺様が咄嗟に飛び退くだけで避けられてしまった。
「あ、危なかった!本当に豹くんはどんどん強くなってる!」
「おかげさまで!まだまだ、神綺様に届きはしませんが!」
追撃に3発目…黄の魔法だからカタマサか会季どっちが仕込んでくれたかは判別出来ないが、そもそも撃つ前に神綺様の近接防御で止められた。翼を近接戦闘に使うという神綺様の隠し技。
神綺様の莫大な魔力量ゆえに、展開した翼は魔力刃として十分な質量があるのだ。俺が腕力だけで魔界人の肉体を破壊できるように、この翼を攻撃の意思を持って操れば生半可な物体は簡単に切り落とせる。
すなわち、接近戦においても俺ではまだ神綺様を超えられない…腕力を活かす間合いまで近付かせてもらえないのだ。
「誇らしいわ~。サリエルが本気になっちゃったのもわかるわね~」
「お褒めに与り光栄です。神綺様の手合わせ相手としてはまだまだ不足でしょうが…!」
「そんなことないわ!私の子供たちでここまで食い下がってくれるのは、ヒョウくん以外に何人いるか…少なくとも今の魔界にはヒョウくんと夢子ちゃんの二人だけよ」
この評価は、素直に嬉しい。攻撃魔法を使えない俺だが…これまでの努力と鍛錬は、決して無駄じゃなかったということなのだから。
だが、わかりきっていたこと…今この時、俺だけでは神綺様を捕らえることは出来ないという現実でもある。ハルバートを得たことによる奇襲は全て防がれてしまった…
ここから先は、時間稼ぎだと見抜かれないよう…上手く俺が踊れるかどうかだ。
「それなら…少しでも足掻いた方が神綺様も楽しんでもらえますか。
次、行かせてもらいます!」
「うん!ヒョウくんの方が音を上げるまで、付き合ってね♪」
サラを連れてパンデモニウムに戻る。先輩の腕輪を受け取っているのは本当にごく少数…空間魔法の触媒同士が同調できる性質を持っていなければ仕込めないのだから、そんな貴重な魔法具を複数用意すること自体が普通に難しい。
先輩はその数を【職人を雇う】という手段で解決したわ。先輩が発掘した貴重な鉱物を、優秀な職人に複数作らせる。同じ鉱石から同じ職人に作らせることで、完成品の差異をなるべく少なくするという方法。
腕輪の形になった理由は二つ。依頼された職人が作り上げる上で最も差異が少なくできるからという理由が一つ。腕輪のサイズであれば、腕に填める形でなくともアクセサリーや暗器として持ち歩けば邪魔にならないというのがもう一つ。
そして完成したこの腕輪は、一つの鉱石をベースに加工・装飾して8つ存在している。先輩が渡した相手は神綺様・サラ・マイ・ルビー・サリエル様…そして私。先輩とユキはお互いの召喚魔法が使えるから持っていないそうで、残り2つを誰に渡したのかは聞いていない。つい最近サリエル様に一つ渡したということを教えてくれたから、渡すべき相手を見定めたら教えてくれるのだろうけれど…今はそれを気にするときじゃない。
「―――ルビー!?何があったの!?」
「う…夢子さん…?」
先輩が腕輪を渡した相手で唯一次世代の少女、ルビー。次世代の中では最年長クラスになる彼女は、年齢はサラやマイより上という珍しい存在。そして先輩を慕ってその背中を追うためにパンデモニウムへの配属を志願した数少ない子。私や先輩は当然のことだと思っているのだけど、パンデモニウム勤めは忙し過ぎるという評価をされていて志願者が少ない。
だから私も先輩もかわいがってるんだけど、その実力も中々。次世代たちの弱点となりがちな経験不足を誕生の早さで補えているわ。だから私たち生粋の魔界人と比べると劣る魔力量の少なさ、すなわち継戦能力に気を遣えば十分な戦力に数えられる。その彼女が気を失っているなんて、侵入者は只者じゃない…!
「ご、ごめんなさい夢子さん…!私、何もできず…!」
「今は気にしなくていいわ、誰にやられたの?」
「カタマサさんです…いつもの感じでここに来たんですが、挨拶もなしに突き一撃でやられちゃって…」
「カタマサが!?」
「ええっ!?どうして!?」
予想外の名前にサラ共々声が出てしまう。どうして、彼が…!?
「う…どうにか動けそうです。何もできずに気を失えて、逆に良かったかもしれません。
魔力は全く消費してない…後方からの援護ぐらいは出来ます、お手伝いさせてください…!」
「本当に大丈夫?カタマサが本気で動いてるとすれば、相手は手練ればかりよ?」
「無理はしません、というより私じゃ夢子さんにもサラにもついていけないですから。
できることとできないことの判断は間違えません」
「うん、それが理解できてるなら大丈夫でしょ。夢子さん、手伝ってもらいましょ」
「そうね、思ってた以上に侵入者が危険。戦力はいくらでも欲しい…ルビー、力を貸してもらうわ」
「もちろんです…!」
どうやら正門を守っていたルビーを気絶させて開閉装置部屋に押し込んだだけのよう。閉じ込められていたわけでもなく普通にパンデモニウム内に入れたわ。即座に侵入者と思しき反応を探ると…
「――これは、召喚制御装置を切ろうとしてる?何をする気よ…?」
「へ?さっき夢子さんのとこに飛ぶ前に西の制御装置室を施錠して来ましたけど…もしかして結果オーライだったりします?」
「…!サラ、偶然だとしても大手柄。西制御室に侵入者らしき集団がまとまって動いてない…手間取ってるようだわ!目的が予測できない以上、開錠される前に私たちで制圧――!?」
「…っ!?カタマサさんがこっちに!?夢子さんが戻ったの、もう気付かれたのでしょうか!?」
東制御室からカタマサが…いや、これは好都合!
「サラ、施錠魔法をここから再強化できる?」
「出来なくは無いですけど、カタマサさんを相手にしながらは無理です!」
「施錠魔法の強化を優先して。ルビーはサラを護衛。私一人で相手するつもりだけど、流れ弾は向かうかもしれない。サラの集中が途切れないようにしなさい」
「はい!」
サラの施錠魔法なら、そう簡単には破られないはず。私が先にカタマサから事情を聞き出せばいいだけね…!
「反乱!?どうしてそんな極端なやり方で!」
「一度の行動で最大限の成果を上げるためよ。納得いかないのであれば、直接ヒョウたちに言いなさい。ユキから言えばヒョウは間違いなく止まるから」
マイから伝えられた衝撃の計画…神綺様を引退させて兄さんを魔界の支配者に据える。兄さんがそんな話に乗るなんて信じられない。
だからこそ、理解できてしまう。
「わたしが捕まったせいで…!」
「そういうこと。でも、強引に脱走するなんてヒョウどころかカタマサも会季も予想外でしょ…私も思わなかったし」
神綺様とわたしを天秤に掛けて、兄さんはわたしを取ってしまった…!
「はっきり言って、私は勝ち馬に乗れればそれで良かったわ。だけどユキを見捨てるとヒョウがマジギレするから付き合ってあげる。止める気でしょう?」
「当たり前よ…うぅ」
会季の研究所を出てパンデモニウムに向かう。あの二人の持ってた分と、この件において全ての行動を許容することを条件にマイがくれた魔力回復薬で3本。兄さんと作った回復薬は【飲みやすさ】も考慮して精製したタブレットだから大丈夫だったんだけど、それ以外の3本は回復効率優先の液体…正直、一気に飲むものじゃない。なんとかパンデモニウムまで飛ぶぐらいの魔力は確保できたけど、口の中に残る苦みで気持ち悪い…
「本調子じゃないのは理解できてるんでしょう?熱くならず大人しく飛んでなさい」
「うっ…」
マイの立ち回りにも言いたいことは山ほどあるけど、許容するって条件を飲んだんだから何も言えない。
飛行以外に魔力を回す余裕が無い分、戦闘から索敵までマイに頼り切りになる…情けないなあ、わたし。
―――そして、氷雪世界に入ったところで…事態は動く。
「………なんでこんなところにヒョウの魔力が?」
「えっ?」
マイの呟きを拾って、負担にならない程度に周囲を探ると…とても小さいけれど、兄さんの魔力を持つ何かがわたしの方に向かってきている。なんだろう?
「…ここにいる以上、わたしと兄さんに仇なす相手じゃないと思うけど」
「………信じていいの?任せて不意打ちされるとか困るわよ」
真っ直ぐわたしの方に…要するにマイには目もくれてない感じ。
ただ、今のわたしじゃ振り切るスピードは出したくないんだよね。マイもそれがわかってるから合わせてくれてるんだけど。
「時間が惜しいから、進行方向は変えずあれの接近を待つ。それでいいわね?」
「うん…」
なんてやり取りしてる間にも、それはスピードを上げて向かってきて。あっさり辿り着いてしまった。
「………聞かせて」
「えっ…何を?」
蒼髪赤眼の亡霊…いや、地縛霊?
兄さんの魔力で姿を象られてるから、兄さんが呼び出したんだろうけど…
―――詳しく事情を聞こうとした、その時。
「なっ…!?会季がなんでこっちに!?」
マイが珍しく声を出して驚いている。そして、聞き捨てならない名前が出ているわ。
「会季が見逃してくれることは無いよね?」
「………ええ。まったく、本当に面倒な…!」
さっそくわたしを押さえに戻って来たってことか!信じたくなかったけど、本気なのね…!
なら、わたしも全力で抵抗しなきゃいけない。使えるモノは、ぜんぶ使って。
「あなたの名前は?」
「………(フルフル)」
…兄さん、本当にわたしには甘過ぎるよ。この子も一緒に、氷雪世界を守ってくれる存在にした―――反逆者として追われることになっても、わたしが一人にならないようにってことでしょ?せめて、魔力が回復するまではって。
「兄さんの代わりに、わたしが名付けてあげる。
あなたは、ツララ。
わたしたち兄妹と共に、ここを守って!」
「――はい、よろしく」
幽霊とか妖精とか、意識がはっきりしても名前が無かったり、思い出せなくなったりする存在がいる。
そんな存在に名前を付けることによって、自己意識を強くさせる…命名という、呪い。
兄さんが呼び出して、わたしが名付けた。勝手にしちゃって悪いけど、ここを切り抜けるための力になってもらうよ、ツララ!
もはやオリキャラに近いのでこちらでも紹介を。
ルビー
怪綺談五面中ボスの子。妖奈で覚えてる読者様もいらっしゃるかもしれませんが、独自設定ガチガチのため今作独自の名前を付けました。名前の元ネタは怪綺談五面背景、ルビンの壺から。
ヒョウとユキより年長の魔界人同士が結ばれて産まれた次世代の魔界人。ヒョウの毒牙に掛かった被害者で、護衛対象として守られ芽生えた感情を拗らせてブラック企業扱いされているパンデモニウム勤めに志願した。なお両親は異界に引っ越しており、その異界との通信役としても働いている。
現在でも想いは変わらず、ユキと夢子が揃って幻想郷に向かったことで察した彼女は必死に仕事を片付けています。果たして神綺様の出発に間に合うのか。
ツララ
怪綺談四面中ボスの子。妖奈と同様にルシアで覚えている読者様も(同上)。名前の元ネタはユキ→氷と来たのでそのまんま氷柱。
氷雪世界を彷徨っていた魂をヒョウが氷雪世界の守護者として顕現させ、ユキが名付けることによって自立意識がはっきりした地縛霊の少女。記憶はほとんど残っておらず、ただ言葉に従うことでヒョウの狙い通りユキの力となった。
現在も氷雪世界で気ままに過ごしている。なお魔界の大惨事においてはユキマイ共々幽香にズタボロにされるも存在は維持できた。