寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第85話 カナシキニンギョウ

「ぬん!!」

「しつこい!」

 

光弾を多数被弾しながらも勢いを止めず正拳突きを繰り出すカタマサを横に回避、続いて繰り出してきた肘打ちも下がって回避、さらに土魔法による背後からの追撃を光弾で相殺。そこからショートレーザーを乱射して距離を取ろうとしたのだけれど。

 

「どりゃあっ!」

「っ!?先輩でもないのに無茶をっ!」

「無茶しねえと一気に押し切られるからなっ!!」

 

これも被弾前提で退がるどころか飛び膝蹴りで突っ込んでくる。先輩の不完全な真似事でしか無いのだけれど、私に押し切られないための最適解に違いは無い。これだけで嫌でも本気ということを痛感する。

両手に強化魔法をかけた上で障壁魔法を展開し受け止め、衝撃で後ろに飛び退くも――カタマサも移動制限弾で退路を塞いできた。執拗に肉薄して来るカタマサを振り切れず有効打を放てない。

 

(本気ね…己の命を賭さなければ、私には届かないからと捨て身の覚悟を決めている)

 

カタマサの戦闘スタイルを一言で評すると、攻撃に寄せた先輩。接近戦に持ち込み力押しで敵を黙らせるという魔界人らしからぬ闘い方なのだけれど、先輩よりは与しやすい相手。先輩は接近戦に持ち込むために空間魔法を駆使するのだけれど、先輩自身に作用する魔法が多いのでどうしても後手の対応になってしまう。いくら予測しようとも、先輩がどの魔法を使ったのかを即座に判別できないのだから。

 

それに対しカタマサは接近戦に持ち込むために攻撃魔法を利用する。単純に遠距離での撃ち合いにも対応できるという点で先輩の下位互換というわけでは無いのだけれど、空間魔法を行使しての急接近等は出来ないので接近される前にこちらから先手を打てるのだ。私に向けられた攻撃魔法なら、予測せずとも視認からの対応もできるのだから。

 

そして中長距離の魔法戦であれば私は魔界全体でもトップクラス。カタマサに後れを取ることは無い…それをカタマサも理解してるからこそ、被弾覚悟の特攻をかけてきている。

 

「いい加減、離れなさい!」

「冗談じゃねえ!勝ちの目をむざむざ捨てるかよっ!」

 

引き撃ちで三角弾を乱射するも、急所だけは守りつつ突進してくるカタマサ――でも先程の障壁魔法を砕かれた反動によって出来た隙で近接戦闘用のカッツバルゲルを取り出せた。単純な腕力では敵わない、接近戦であれば私は剣を使わせてもらう…!

 

「ふっ!!」

「その程度じゃなあ!!もっといい剣じゃねえとただの無駄だぜえ!!」

 

腕を斬り落とすつもりで振り下ろした剣閃は、左手の裏拳を側面に受けて止められるばかりかへし折られた。でもこれは囮!!

 

「足元がお留守!!」

「ごあっ!?」

 

背後からの剣弾で左足を刺し貫いた!これで少しは大人しく「甘えよ!片足ぐらいで止まると思ったか!!」

「っ!?」

 

―――それがどうしたと言わんばかりに右手で掴みかかってきたのを間一髪躱す。脅しじゃ効かない…!

ここを死に場所にする覚悟も出来ていると言うの!?

 

「どうしてそこまでの覚悟を!?」

「神に背くのに命を惜しむほどバカじゃねえぜ、オレはよ!」

 

即答。何故、ここまでの覚悟を…!?

刺さった剣を抜こうともせず私への接近を優先して来る。このまま消耗戦に持ち込めば被弾と出血で私の勝ちだけど、一瞬たりとも気を抜けない。そしてサラの妨害があるとはいえ、先に召喚制御装置を押さえた目的を果たされる可能性もある。

 

(無力化して目的を聞き出さなければならないけれど、この覚悟がある限り困難…!

 大技を使うには至近距離過ぎるけれど…そうでもしなければ止まりそうにない。

 今必要なのは、私自身も巻き込んで大技を放つ覚悟…!)

 

カタマサは決死の覚悟を決めている。なら私も、これぐらいの覚悟は必要ね…!

 

 

 

 

 

(クソッ、まだ開けられねえのかよ!?)

 

夢子が派手にブッ放す腹を括っちまったみてえなのに、西の制御装置がまだ起動されねえ!サラが施錠魔法をかけた上で離脱したって通信があったが、夢子の言葉を聞く限り戻って来てる。つまり遠隔で施錠魔法を強化してるってことだろう…左フックを躱されながら内心でツイてねえと叫ぶ。

 

しかも接近戦で足止めをしてる以上指示を出すと夢子にも即バレる。だから確実に勝利の一手となる指示以外を出せないのもキツい…西制御室で足止めされてるC班と通信室で待機してるD班が遊んでる形になって、西側にいた警備人員の無力化が進んでいない。針弾をあえて背後に外して乱射することでバックステップを防ぎつつ、この状況で増援に来られるとオレ一人じゃ支え切れねえと判断する。

 

(夢子を全戦力で叩くか、西制御室前に2人残してCD班にサラを探しつつ警備を叩かせるか、だな…!どっちのが早い!?)

 

会季達はまだ時間が要る。ショルダータックルで障壁魔法を砕くも、夢子が戻って来た以上AB班はそろそろオレと合流しちまうと気付く。どちらにしろそのタイミングで指示が必要になるから時間の余裕は無い、さっさと決めろ…!

 

(いや待てよ?遠隔で魔法を強化できるなら、城内に居る必要は無い。探知魔法なんざ使う余裕ねえから、どっかしらに隠れてるだけかもしれねえが…外に出られちまってたら捜索はムダじゃねえか!

なら、夢子をエサに警備人員をこっちに纏めちまう方が不確定要素を潰せるか!乱戦になっちまうが、会季達の増援が間に合えば精神的に優位!決まりだな!!)

 

「カタマサさん!」

「っ!?新手!?」

「来てくれたか!

『各班に告ぐ、全員で夢子に総攻撃!オレを巻き込むのは気にしねえでひたすら撃ちまくれ!』」

「――ッ!?」

「「ハッ!!」」

 

ヒョウは誤射・誤爆上等で戦い続けてんだ…!オレもそれぐらいやれねえと、夢子に勝てねえからな!!

オレの背後で皆の魔力が膨れ上がる。さあ、()()()()()()()()()!!

 

 

 

 

 

「―――っ!?西制御室の集団も動いた!?」

「えっ!?まさか通信魔法!?」

 

2人で開閉装置部屋に籠って施錠魔法の強化に専念してたけれど、護衛に回ってくれてるルビーが状況の変化を察知してくれた。カタマサさんはわたしたちがここにいることを把握できてないみたいで、危険は無かったんだけど…いくら夢子さんでもあの数を一人で相手するのは無理がある!

 

「私たち以外に動けそうなのは30人ぐらい、敵は分散してるけど60人はいる…夢子さんの援護に行かないと!」

「もうそんなにやられてるの!?わたしも――」

「サラは強化を優先して!夢子さん一人に任せるわけにはいかないけど、サラがこの人数で狙われたら護衛しきれない。あっちの方が数が上、サラがやられたら誰かひとり制御室に駆け込めばいいだけなんだから!」

「っ!」

 

ルビーの状況判断の方が正しそうね。今見つかるとわたしは真っ先に狙われかねない。こういった経験はまだまだわたしも足りてないか…!

 

「サラ、走るだけなら強化しながらできるよね?」

「それぐらいなら行けるわ」

「私が隠形魔法をかけるから、単独で動いて」

「え、ルビーそんな魔法使えるの!?」

「ヒョウさんが私を護ってくれた時、直々に教えてもらった大切な魔法よ。

 今パンデモニウムで一番安全な場所まで逃げて状況を伝えて来て。

 神綺様とヒョウさんが、そこで一緒に居るんだから」

 

話しながらわたしに隠形魔法をかけていくルビー。ヒョウさん直伝って…何気にとんでもなく稀少な高位魔法よねそれ。使いこなせるルビーも凄いな…

 

「それじゃサラ、頼むわよ!」

「わかった、ルビーも気を付けて!」

 

夢子さんを狙う魔力が膨れ上がった!これで他の警備員も集まってくるはず…それでも数的不利は覆せないけど、神綺様とヒョウさんが加われば問題ない。急がないと!

 

 

 

 

 

「くっ…!」

「マジで凄えな夢子。これすら避けるかよ!?」

 

増援は40名足らず。カタマサと並ぶレベルの実力者はいないからわたし一人でも凌げるけれど、カタマサを相手しながら抑えられる数じゃない。命令通りカタマサごと私を狙って来た各種魔法、それを多数掠りながら凌ぎ切ったところでカタマサが紫の魔法を放ってきた。指示だけ出して自身が撃つのはワンテンポ遅れた最後、こういった手札の切り方は先輩に通じるわね…!

 

「私はそう簡単に負けられない…!」

「オレ達は負けたら終わりなんだよ!!」

 

至近の一本がカチューシャに掠り焼き切れた。衣類や装飾品を戦闘中に失うのは久しぶり…!大技を撃つタイミングを完全に逃したわ。

増援は指示通り容赦なく私に魔法を放ってくる。カタマサは相変わらず負傷や誤爆を恐れず肉薄して来る。

―――出し惜しみする状況ではない…!

 

「ようやく捕ま――!?んなのアリかよ!?」

 

首を掴み上げようとしてすり抜けたカタマサが驚愕する…私の切り札の一つ、透明化による完全回避。

使用している最中は私からも世界に干渉できなくなるけれど、誰も私に干渉できなくなる。先輩が護衛対象にこれを行使できないか研究してくれたけれど、魔法ではなく私の固有能力なので現状では無理と結論付けられた。

空間魔法に精通する先輩からそうお墨付きを貰えたこの能力は、長距離・長時間の使用が出来ない分、効果は絶大。剣弾を用意しつつ解除、そのままカタマサを切り伏せようとするけれど…!

 

「ぬっ!?」

「剣を使っても接近戦では後れを取るか…!」

「今度のは良い剣だが…えげつない剣も使うんだな!?」

 

フランベルジュを受け止めながらカタマサが指摘する。苦痛を与える剣と呼ばれる以上仕方ないけれど…

 

「今の私が持つ剣では最高クラスの名品だからよ!」

「むしろ折れやすいイメージなんだがな!」

 

援護の魔法が飛んできてお互い飛び退く、このまま距離を取ろうとしたけれどカタマサはまたも接近の一手。埒が明かない…!

けれど、最悪の状況を打破する時間は稼げたようで。

 

「うわあっ!?」「んごっ!?」「な、なんだ!?」

「なにぃっ!?何処からだ!?」

 

カタマサの援護に入った一団に緑色弾が乱射され数名が倒れる。続けざまに光弾が乱射されるが…

 

「そこだっ!!」

「ーっ!さすが、カタマサさん!」

「私から意識を逸らすなんて余裕ね!!」

「んなマヌケ晒すかっての!!隆起しろ!!」

 

乱射された弾道から逆算したのかカタマサが姿と魔力を隠していたルビーの位置を即座に把握、レーザーで狙い撃つ。ルビーもそれを避けると同時に隠形魔法を解除して再度緑色弾を乱射し私の元へ後退。その隙に私が剣弾をカタマサに連射するけれど、カタマサは土魔法で壁を作り剣弾の勢いを削いだことで射線から逃れる。先輩も使う防御方法、ただ精密性に劣るからかなり無駄な面積もあるけれど…!

 

「クソが、こうなったら…通じてくれよ!」

 

―――そのカタマサの呟きと行動は、土壁に遮られ私とルビーには把握できず。

ルビーの索敵魔法による感知もあり、それが起きるまで気付けなかった。

 

「えっ…?夢子さん、城外から20名弱向かってきています!」

「増援か…!?ルビー、他の警備員は!?」

「分散してますがこちらに向かってるのは30人ぐらい、ですが敵らしき集団も二つあります!それと遭遇せず合流出来るのは20人いるかどうか…」

「それだけいれば十分だわ!ルビー、増援を押さえて!何人かは回すから!」

「はいっ!」

 

再び隠形魔法を行使してルビーが増援に奇襲を仕掛けに行く。10名もいればカタマサを食い止めることは出来るはず、その間に私が数を減らせばなんとかなる。

ここからが、勝負の分かれ目…!

 

「させるかよっ!!」

「こちらこそ!!」

 

土壁ごと撃ち抜く紫の魔法でルビーを狙ったカタマサだけど、それを読んだ私が障壁魔法でルビーの背後を守る。そのまま拡散弾でカタマサごと後衛の一団を狙う!

 

「墜ちろっ!!」

「しまった!?避けろお前ら!」

「「「!?」」」

「ひっ!?」「わぁ!?」「っ!」「ぎえっ!」

 

大半が反応して避けられたあたり、彼らも侮ってはならない…!直撃させられたのは4人だけか!

部下に気を取られたカタマサの隙を突き、一気に剣弾を展開!

 

「死にたくなければ避けることよ!」

「全員一旦回避を優先しろ!!」

「「「はっ!」」」

 

剣弾を放ったのとほぼ同時。訓練場の方で爆音が轟いたことに、私が意識を向ける余裕は無かった。

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