寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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ホーミングたくあんは優秀な魔法(作者のこだわり)


第86話 神よ今は眠れ

3発目、黄の魔法!あえて神綺様から外すことで回避先を制限し、再度俺の間合いに持ち込む!

 

「ーっ!本当にはじめて扱う武器とは思えないわ!移動制限に使うって発想ができるなんて!」

「俺が散々苦しめられた魔法の使われ方なので!どう使えば効果的かは誰よりも知っているつもりです!」

 

攻撃するために接近しなければならず、撃たれた後にこちらから撃って相殺という手段が使えない俺にとって移動制限弾は下手な大技より警戒すべき魔法。攻撃と防御どちらも俺自身が動かなければ取れる手段が一気に少なくなるからこそ、回避先や接近先を潰されるのがキツいのだ。

 

だからこそこの発想はすぐに浮かぶ。それこそカタマサの常套手段だ…空間魔法が不得手なカタマサは()()()()()ために攻撃魔法を扱っている、それは俺が一番よく知っているのだから。

 

「でも、それで斬られちゃうのはちょっと怖いから…離れてね!」

「――クッ!」

 

しかしこの程度で捉えられる神綺様じゃない。逆に俺が避けざるを得ない攻撃魔法――暗黒弾3発を時間差で3連射し俺の接近を防ぐ。

 

「白翼状態でも撃てるんですか、それ!」

「ヒョウくん相手だからね~、手札を伏せる必要ないもの!」

 

心底楽しんでいる笑顔で神綺様が言葉を返す。その笑顔のまま次の大技の準備が済んでいる――!?

 

「容赦ないな…!」

「これぐらいやられなきゃ満足できないでしょ?

 それを使って、どこまで通用するかを確認したいのなら♪」

 

緑の魔法…!ユキも威力重視の大技として習得している、追尾性能と威力に優れたホーミングレーザー。優秀な攻撃魔法である分魔力消費も大きいのだが、神綺様の魔力量であれば魔力消費を気にせず連射出来るのだ。これは流石に回避を優先せざるを得ない!!

だが、まだ余裕のあるうちにユキの弾丸をリロード。この連射はこの1発で凌いでやろうじゃねえか…!

後はユキの弾丸が4発、会季からのサンプルが2発だ。

 

「さあ、ヒョウくんも守勢に回って!空間魔法との併用は、この方が試しやすいでしょ?」

「お気遣いありがとうございます…!!」

 

白翼からの移動制限弾も収まらないままに、緑の魔法が連射される!だが、俺も4発目を射出!!

 

「ホント、よくできた妹だ…!」

「凄い、個人でアレンジした術式も撃てるの。

 停止術式を実用化させたヒョウくんの手に、これだけの逸品が渡るのは素敵だわ!」

 

ユキが俺との連携に主眼を置きアレンジしてくれた広範囲乱射魔法。最大の特徴は弾速…高速・低速弾も混ぜているので俺が利用出来る幅が広い…!このように!!

 

「フッ!!」

「――!ヒョウくん一人でこれが出来るようになるのね!」

 

避けきれないホーミングレーザーは短距離テレポートの出口にユキの光弾を利用し消費魔力を抑えつつ躱し、ハルバートを投擲して神綺様を狙う!当然のように避けられるも、避けた先のユキの光弾で再度神綺様を狙える位置にワームホールを創造、神綺様を再度狙いつつ俺の手元に戻って来るように!

 

「とはいえ、やはり直線的な投擲では命中精度に難があるか…!」

「それでも初見殺しよ~。ヒョウくんのことを知らない相手なら、どんな格上だろうとワンチャンあると思うわ!」

「そうだといいですが…!」

 

避けられた投擲物をワームホールで別方向から再利用するのは俺と一度でも手合わせした相手は警戒する。神綺様も当然のように読んでおり、一度避けたハルバートがどの光弾から飛んでくるのかを把握して難なく回避。逆にその軌道から俺のテレポート先を読んで集弾させてくる…!左手でハルバートをキャッチしつつ右手で邪魔な移動制限弾を叩き落とし回避行動に移る。

 

(時間を稼ぐのも限界がある…まだか!?)

 

 

 

 

 

(うーん…ヒョウくんにしては迷いが見えるなあ。武器に対する迷いじゃない、となると心の方?

…月のこと、引き摺っちゃってるのかも)

 

ここしばらくヒョウくんが私に手合わせを頼んでくることは滅多になくなってたけど、いざ手合わせとなれば戦闘だけに集中するのがヒョウくんの普通。武器をどう扱うかって迷いだったら気にしなかったんだけど、はじめて扱う武器とは思えないぐらい使い方には迷いが無い。

でも、私の魔法を捌き切ったり、武器から攻撃魔法の弾丸を撃って私がそれを対処し終えたりするタイミングでヒョウくんの集中が一瞬切れることがある。

 

(無事にサリエルを迎えられたんだし、ヒョウくんが気にすることなんて無いんだけどなー。

むしろあのレベルの神が雁首揃えてサリエルを捕まえに動いてた状況で、私が間に合うまで持ち堪えるなんてヒョウくんじゃなきゃ無理だったのに)

 

ヒョウくんとユキちゃん、サリエルも交えて月の戦況を聞かせてもらったけど…私が真っ先に向かってたらサリエルを助け出せなかった可能性もあったわ。単なる戦闘であれば切り抜けられるけど、気を失ったサリエルを抱えてまともに戦えるかと言われると正直に言って自信が無い。

サリエルを片腕で抱えて逃げ切るなんてヒョウくん以外には無理だった。魔界に戻ってくるまで片時も離さず戦闘と逃走をこなすなんて、単純な腕力の問題で私や夢子ちゃんじゃ出来ないからね。

 

(相手が悪かっただけで、ヒョウくんが無力を感じることなんて無いんだけど。

 …私からちゃんとお話ししてあげる時間を作ってあげるべきだったかなー)

 

 

 

―――この時ヒョウくんと二人きりで向き合ってようやく、私はヒョウくんの違和感に気付いてしまって。

ヒョウくんの無力感に気付くのが遅すぎたから、この手合わせにおいて見当違いなことを考えてしまっていた。

だから、この闘いにおける…ヒョウくんの決意を見抜けなかった。

 

もっと早く、ヒョウくんとお話しできていたら…ユキちゃんも夢子ちゃんも―――私も。永い永い時間をヒョウくんの傍で過ごせていたのかもしれない。

 

 

私は…ヒョウくんが裏切るなんて、欠片も思ってなかった。

だって…ヒョウくんは裏切ったと思ってるかもしれないけど、後から覚悟を知った私たちからすれば。

 

 

私が最初から、自覚無しにヒョウくんを裏切ってたんだから。

 

 

ヒョウくんの決意は、裏切りなんかじゃなくて、至極真っ当な判断。

最初から制限を掛けて創り出した私なんて、見限って当たり前。

 

 

 

そして、その報いを私は受けたのだけれど。

それにユキちゃんと夢子ちゃん、サラちゃんにマイちゃんにルビーちゃんにツララちゃんも。

カタマサくんと会季くんまでも、巻き込んでしまった。

 

 

ドォン!!

 

 

「「――!?」」

 

訓練場の外から爆発音!?内部で行使した魔法が外に影響しないように頑丈に結界を構築してあるから、逆に外の魔力も感知できなくなっちゃうのがこの訓練場。でもこれだけ近ければ魔力を感知できるし、何より密閉しているこの内部にも爆音と振動が伝わるほど。

 

何か起きちゃったの!?

 

「―――神綺様!!」

 

闘気を引っ込めてヒョウくんが私を呼ぶ。ちょっと惜しいけど、今日はここまでね…

 

「うん!一緒に様子を――!」

 

 

『寝ててください』

 

 

「え………?」

 

ヒョウくんと目を合わせてから、思い出す。

…サリエルが……預けた………魔眼…………

 

「――今だけは」

 

……そういえば…即死の邪視に……昇華出来なかった…って。

…でも……精神干渉…系の……魔法は…組み合わせられたって…教えて……くれてた………

 

飛行魔法が不安定になって、体が揺れる。

それを、目の前まで寄って来てくれたヒョウくんが支えてくれて。

 

「ゆっくり、休んでください」

「…ぁ………」

 

ヒョウくんの腕の中で、聞こえたその睡眠魔法が。

最後に聞けた、ヒョウくんの言葉だった。

 

 

 

 

 

(…軽い。こんな小さな身体で、魔界の全てを)

 

予定通りには行っていないようだが、会季の策は成功した…!

神綺様が、俺の腕の中で…静かな寝息を立てている。

 

(目が覚めたら、キツいでしょうけど…

 だからこそ、今だけはゆっくり眠ってください)

 

裏切り者たちに乗っ取られた魔界で、外敵への対抗戦力を創造し続ける…

ただそれだけのために存在させるつもりなんて絶対に無いが、創世神としての威信は地に堕ちてしまうだろう。

 

(ですが…俺が支配することになるのであれば。いつか必ず、元の鞘に)

 

俺だけじゃない。カタマサも会季も、神綺様を貶したいわけじゃないのだから。

魔界が落ち着いたら、神綺様も笑えるようになってほしいから。

 

「しばらくは…表舞台から去ってください」

 

聞こえていないだろうけれど、言わずにはいられなかった。

 

 

 

――この時、会季の策は成功したのに。

俺の判断ミスで、敗北を決定付けてしまった。

 

警報が鳴らないから、非常事態だと思った。

夢子が戻って来たんじゃなくて、外敵が入り込んできたという可能性もあった。

月でサリエル様を抱えながら戦おうとして、命を落とすところだった。

 

言い訳を探せば、いくつも出てくるが。

結局、俺は覚悟が決まっていなかったのだ。

 

 

ここまで来て、魔界を支配することより…

神綺様の護衛であることを、優先してしまった。

 

 

 

「…戻って来たら、起こします」

 

研究者用の簡易ベッドに神綺様を横たえる。入り口に施錠魔法をかけておけば、危険は無いだろう。カタマサと合流したら、すぐ戻るか誰かをここに向かわせる。

 

魔眼の効果は俺の意思で解除するまで続くようにはなっている。月で最後の最後…綿月依姫に左腕を斬り落とされた時に集中が途切れ、八意永琳を動けるようにしてしまったのは言い逃れの出来ない失態だ。

それを繰り返さないために魔眼は発動させると同時に俺の魔力だけで繋ぎ止め、神経からは独立するようにした。肉体の痛みや損傷で俺の集中が乱れようとも、痛覚神経と魔眼を切り離すことによって魔眼の効果には影響が出なくなるようにしたのだ。

 

第三者が俺の魔眼を塞ぎたいのであれば、俺の魔力を枯渇させる以外に方法は無い。俺が意識を失おうと魔力枯渇するまで効果は続く。肉体に作用しないものが効かない俺の魔力を枯渇させるのは、俺自身以外の存在には難しいだろう…即死の邪視としては使えないが、行動妨害の切り札としては十分すぎる。

 

そんな過信も手伝い…俺は神綺様をここに残して戦場に向かってしまった。

俺がその気にならない限り、神綺様は目覚めることが無い…そう思い込んで。

 

 

神綺様だけでなく、カタマサと会季の信頼すらも…裏切ってしまったのだ。

 

 

神綺様に勝利したことに酔っていた俺は、反乱で敗北することになり。

信じてくれていた皆…いや、魔界で関わった全ての者たちを失うことになる。

 

 

 

羽織っていたマントをキルト替わりとして神綺様に被せ、訓練場を後にする。

 

「さあ、もうすぐ終わりだ」

 

―――俺にとっての終わりは、永い時を経た今も…いまだ訪れていない。

 

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