寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第92話 戦力分散

「それじゃ、あらためて状況を確認しましょう。豹は夢幻館から離れて明羅のところに向かったけれど、夢子の接近を察知して雛のところに飛んだ。今のところ雛の家周辺にそれらしき魔力反応はないけれど…ユキ、魔力遮断領域が展開されてたのよね?」

「うん。確証があるわけじゃないけど、夢子から一度逃げたんならわたしを呼ぶ前に展開するはず。逆に聞くけど、わたしがアリスの前から消えた後にわたしの位置を補足できた?」

「いえ、見つけられなかったわ。つまりはユキの読みが正しいわけね」

 

豹が幻想郷に残る上での問題点ばかり指摘されてしまったけれど、明日以降私が動きやすい方向にはなってくれている。それに、豹が魔界で処刑されてしまうという最悪の事態になる可能性は低いということもわかった。

 

(逆に考えると、豹とユキ・夢子を接触させて豹が自分を許してしまうのが私たちにとって最悪のパターン。豹には悪いけれど、魔界に対する罪悪感は持ち続けてもらわないといけないのね…)

 

今までずっと助けられていた豹に、贖罪を許さないなんて自分勝手な行動になってしまう。

…自分のことながら、最低ね。内通者なんていう立場で動いていた以上今更なのだけれど。

 

それでも、豹を魔界に返したくない。この気持ちの方が、強いのだから。

 

「アリスでも魔力反応で兄さんを追うのは無理だから、雛さんの家を探知するのは止めちゃってだいじょうぶ。隠形・隠蔽系の魔法は空間魔法と並ぶ兄さんの得意分野。兄さんを魔力反応で追いたいのであれば、本気で相手せざるを得ない戦闘状態になるまで待つぐらいしか方法がない…と思ってたんだけど。

夢子、兄さんはその明羅っていうのと何やってた?」

「軽く話を聞いたけど、ルーミアという妖怪に封印を施していたわ。あんな幼い子に妖力封印なんて必要ないと思うのだけれど…ルーミア本人がその封印呪具をプレゼントとして大切に扱ってたから、何かしらの意味はあるのでしょうね」

「ルーミアに封印って…いや本当に必要ないわよ。意味が分からないわね…」

「ただ、先輩を慕ってるのは間違いないから私のレイピアを渡して目印にしておいたわ。先輩の魔力反応を追うときはルーミアのリボンに残る魔力も引っ掛かるでしょうから、私の魔力も同位置にあればそれは先輩ではなくルーミアってことよ。可能性は低いけれど、先輩がルーミアを頼る可能性もゼロではないしね」

 

あの宵闇妖怪に封印…?私でもそれは意味不明な処置に思えるわね。人食い妖怪ではあるから人里から警戒されるのはわからなくはないのだけれど、封印されるほどの強力な力を持つ妖怪じゃない。ただ、リリカが一つ気付いたことを口に出す。

 

「あの宵闇妖怪もルックスは豹の好みに入るじゃん、金髪に黒のロングスカート。むしろさっきのリスク的に面倒になるんじゃない?」

「そういえばそうだけど~…あの子は妖精ほど考えなしの子供じゃないから放っておいてもいいんじゃないかしら~。結構有名だけど、異変に首を突っ込んだって話は聞かないし。自分の身の丈は理解してるように思えるわ~」

「それは私も同感ね。下手に干渉して豹から敵視される方が問題になると思う」

「それじゃ、そのルーミアって子はあまり気にしなくていいのかな?」

「…そうね。有力な組織と繋がりがあるわけでもないし、ルーミアの方から私たちに接触してこない限りは気にする必要はないと思うわ」

 

そもそも気ままに幻想郷をふよふよと飛んでいることが多い少女だから、こちらから接触することも少し手間。

持っている情報量を考えると、優先順位は低いでしょう。

 

「ルーミアの他にはオレンジという妖怪と、里香という人間の少女がいたわね。オレンジの方は単なる通りすがりだったようだけれど、里香は明羅の関係者だったわ。先輩が急に去ったのが不満で追う気満々だったから、おそらく先輩が魔法絡みで協力していたのだと思う」

「その里香も私は知らない名前なのよ。誰か知ってる?」

「わたしは知らないな~。相変わらず情報面では役立たずでごめんね…」

「私もご主人様が知らない以上、心当たりはないです…ルナサさんたちはどうでしょうか?」

「里香は知らないけど、明羅については慧音が一つ教えてくれたことがあるよ。白黒の魔法使いの姉弟子って言ってたから、明羅と一緒にいたっていうんなら里香もあの魔法使いの関係者じゃないかな?」

「ちょっと不味いわね、それ。霊夢だけじゃなく魔理沙にも豹のことが知られる可能性がある…!

霊夢は八雲紫が押さえてくれるかもしれないけど、魔理沙を止められるのはいないわよ」

 

思っていた以上に状況が動いてる…!まさか、魔界神より先に巫女と魔法使いの方を警戒しなきゃならなくなるなんて。

八雲紫はここまで想定してるのかしら?無策ではないと思いたいけれど…

 

「わたしが今日靈夢にやったみたいに、アリスから魅魔に干渉するって出来ない?魔界と全面戦争はあの悪霊も避けたがってる可能性は…?」

「その可能性はなくもないけれど、私が言ったところであの悪霊が素直に従うとは思えないわ」

「魔界で好き放題暴れたあの悪霊なら、むしろ戦場を求める可能性の方が高いでしょうね」

「なんとなく予想はできてたけど、あの魔法使いの師匠ならそうでしょうね~…」

「そうなるとやっぱり、わたしたちはまずアリスと一緒に巫女に説明するべきか。幻想郷の平和を乱す方向に魔法使いが動くなら、巫女と魔法使いで同士討ちしてくれるだろうし」

 

そうね、私にとってもそれが理想的。巫女と魔法使いの同士討ちと、魔界と別の管理者…摩多羅隠岐奈の交戦というのは豹にとって最善の状況でしょう。ここから私がその流れに持っていきつつ、明日麟と合流するために単独行動するためには―――

 

「…それなら、私は明日も単独行動したい。アリスが二人を連れて巫女のところに向かい、私が単独行動を取っていれば…八雲紫か八雲藍のどちらかは私と接触してくれると思う。ユキと夢子も交戦は避けたいという意思表示になっているのを、接触することで私視点から確認できると取れるはずよ」

「たしかにね…でも、対価として情報をくれるかは不透明。無駄足に終わるかもしれないけれど…」

「いえ、今日の接触で聞きそびれたことがあるのよ。向こうも余裕がないみたいで、私からの問いにゆっくり答える気は無かったみたいだから。

…冴月麟。彼女のことも、八雲なら知っているかもしれない」

「「あっ!?」」

 

カナと上海が声を上げるけれど、アリスと妹は怪訝な表情。ユキと夢子は知るはずがないから仕方ないとはいえ、本当に麟の状態は不思議ね…

 

「えーっと…その子も協力者なの?」

「ううん、そうじゃないんだけど…豹と関わりがあったことは間違いない。でも、覚えていられないっていう不思議な人みたいなのよ」

「ルナサさんはハッキリと覚えていられるようなのですが、私とカナさんは名前だけ。ご主人様たちに至っては名前も忘れてしまうという…とても強力な認識阻害魔法に囚われてしまっている方のようです」

「ああ、先輩ならそんな状況の子を見捨てることはしない。そういえば、先輩の能力については把握しているの?」

「そうよ~、私と姉さんはコントロールできない精神干渉能力持ちなの。その影響を受けないからこそ、豹を大切な相手として探してるわ」

「そうなの、なら話が早いわね。先輩はその冴月麟という存在を能力で忘れることが無いから、彼女を救うべく動いていたのでしょう。

おそらく先輩を相当慕っているでしょうから、彼女を頼る可能性は十分ある」

「そうだね、兄さんならその子が兄さんを頼った時点で切り捨てられなくなってる。少なくとも兄さんに関する何かしらの情報は持ってるよ」

 

上手くユキと夢子が興味を持ってくれた。そしておそらく明日には忘れている…

恐ろしいわね。八雲紫が切り札として使えると言っていた理由、私は今それを無自覚に利用してしまっていたわ。上海が一時的にアリスの下を離れるのなら、次の魔力補給の時まで麟のことをアリスたちが思い出す可能性は低いということ。

 

――これはたしかに、妖怪の賢者と称される八雲紫にとっては強力な駒だわ。

 

「そうね、ならルナサには単独で動いてもらいましょうか。それとカナはエリーとくるみにも呼ばれてたわよね?」

「うん、その冴月麟さんについてだね。でも椛さんとリリーにも状況を話しに行かなきゃならないから、向かうとしてもその後だよ」

「もちろんそっちが優先でいいわ。というより八雲紫が豹を匿うという可能性が低くなった今、リリーのところに向かう可能性は高そうなのよ。他に私たちが豹と接点があると確認できているのはもう霧の湖の大妖精ぐらいしか残っていないしね」

「あ、そうでした。ご主人様は察知できたと思いますが、先ほど夢子さんと合流する途中で私にあの氷精が攻撃してきましたので撃退しています。その時に私が氷精相手に試したいことは済ませましたので、私を霧の湖に連れて行くということにこだわる必要はなくなりました。

…むしろ、あの氷精が忘れずに覚えていると面倒なことになるかもしれません」

「あ、それなら上海とカナで動いてもらえばいいじゃん。残りの私とメル姉で霧の湖の大妖精と、妖怪の山の厄神を当たればうまく分担できるでしょ?」

「さすがはリリカ、一番楽そうなポジションを狙うわね~」

「いいじゃん別に!実際私たちが戦力的には見劣りするんだから無理できないもん」

 

私としても今のリリカの立ち回りは助かる。状況次第では明日以降、私は家には帰れなくなる可能性だってある…そうなったときにメルランが暴走してもリリカが止めてくれる。姉二人を同時に失うような真似はリリカは絶対に出来ない。末っ子だからこそ、私たち姉妹の繋がりを誰よりも大事にしているわ。

 

メルランが私と同じように…捨て駒として切られるような行動はリリカが取らせない。こういう方向ではメルランよりリリカの方が頼れる。リスクを避けるのが、リリカの行動指針なのだから。

 

「カナと上海、メルランとリリカの動きはそれで決まりね。夢幻館の二人とも上海は会ってるから丁度いいわ。エリーとくるみも問答無用で侵入者を排除するようなタイプではなさそうだったしね。

それなら、霊夢がすんなり引いてくれたなら私たちは白玉楼に向かうわよ」

「…どこ、それ。わたしは聞いたことないんだけど」

「冥界にあるお屋敷よ~。そういえば、あそこの庭師さんも関わってたんですっけ~?」

「冥界?…ああ、真っ先に私たちを止めに来た半霊ね?」

「そうよ。事情が聞きたいなら付いて来なさいと言ったのだけれど…追ってこなかったのよ」

「そういえばここに来てないんだ。でもあの子は大した情報持ってなさそうなんだよなあ」

 

私が橙に頼まれたことをアリスが先に言い出してくれたけれど、ユキが微妙な返事をする。

…ここで私が強く出るのは不自然よね。アリスが上手く押し切ってくれると助かるのだけれど。

 

「ユキ、それはどうしてかしら?」

「兄さんはわたしと直接会ってくれたから、あの子は夢子相手に差し向けられたってことだけど。だとすると素直過ぎるよ、あの子。たぶん兄さんが頼った相手から派遣されたんだと思うから、あまり情報は期待できない気がする」

「そういえば明羅も『豹のことは詳しく詮索しないのも依頼内容』と言ってたわね。先輩を支援している相手がいる…?」

「たぶんそれ八雲紫よ。直接手を出すわけにはいかないけれど、豹が逃げ切れるように援護したってことだわ。

白玉楼の主は八雲紫と親しいから、少なくとも妖夢を派遣した理由については聞き出せるはず」

「あ、そうなの?それなら行くべきだね。でも交戦の可能性はあるかな?」

「いえ、その場合は私がスペルカードルールで相手するわ。妖夢の方もそれを呑むでしょう。

 幻想郷で騒がれるのが困るのは八雲紫の方なのだしね」

「そう、ならアリスに任せるわよ。私とユキは目立つわけにはいかない…もう手遅れな気もするけれど」

 

アリスのおかげ…というよりこれは八雲紫のおかげかしら。魂魄妖夢が関わっていれば、白玉楼は行き先に挙がるものね。このあたりの手回しは流石だわ。

 

「それじゃ、明日はそう動く。その先は各自で判断しましょう…お互いの居場所は決まっているのだしね。

…霊夢に私たちの繋がりはもうバレるでしょうし、カナとルナサ達で一つずつ持っていて。共有すべき情報があればすぐ教えて頂戴」

 

アリスが連絡用の露西亜人形(マトリョーシカ)を差し出す。今度は断る必要がない…メルランに持ってもらうのだから。

カナと私が受け取ったところで、ユキが思い出したように口を開いた。

 

「あ、そうだ。カナちゃん、上海、一つ試してみてもいいかな?」

「え?何を?」

「ユキさん?何をお試ししたいのでしょうか?」

「この家、兄さんの魔力で強化してるよね?もしかしてわたしの魔力も使えるかな?

 それができるなら、この家を経由すれば上海の魔力補充にわたしも協力できるけど」

「―――!

 カナさん、試してみてもいいでしょうか!?」

「うん、お願い!わたしがいれば受け入れられなくてもフォローできるし、やってみて!」

 

 

 

 

 

「…驚いたわね。三日前にはこの家の魔力と上海に同化した魔力は別物とされて上海は拒まれてたのに」

「このお家は上海ちゃんに宿ったとはいっても、まだここに残ってた意識もあったってことだろうね…

あれから毎日ここまで来てくれたから、豹を守ろうとしてるって判断してくれたんじゃないかな」

「――そうかもしれません。ありがとうございます、隠れ家さん…!」

 

ユキさんが隠れ家さんに魔力を補充するのは、問題なく受け入れてくれて。それを私が受け取ることが出来ました。

ついこの前は、鍵を開けてくれなかったのにです。この3日で、私を受け入れてくれたということでしょう。

本当に、隠れ家さんにはいくら感謝しても足りません。

 

「私もあの時この魔力を扱って、母さんの魔力に近いとは思ったけど…

 それ以上にユキの魔力にそっくりだったのね。気付かなかったわ」

「仕方ないよそれは。わたしは月と反乱で無理して純粋な魔力量が全盛期より減っちゃってるから、あの頃みたいにわたしの魔力だけでゴリ押しするとイメージより魔力枯渇が早く来ちゃう。だから周囲に漂うあらゆるものから魔力を抽出して補助に使うことを意識してるからさ…アリスの前でわたしの魔力だけで魔法を行使したことはそんなに多くないからね」

「言われてみればその通りね。姉妹の中で一番本気を隠してるのはユキってイメージがあるわ」

 

ご主人様とユキさんで私がまだ作られる前のお話をしています。ちょっと疎外感を感じてしまいますが…今日からしばらくはご主人様の傍を完全に離れることになります。寂しさに負けないようにしなければなりません。

 

「それじゃ、今日はこれで解散にしましょう。共有したい情報や、戦力不足による援護が欲しい場合は露西亜人形(マトリョーシカ)を使いなさい。

…カナ、上海を頼むわよ」

「わかってる!絶対に無理はさせない!」

「…それじゃ、しばらくは別行動ね。私が心配するのは実力的に失礼かもしれないけど。アリスたちも気を付けて」

「うん、ルナサも気を付けてね!八雲紫を相手しなきゃならないんだから!」

 

ご主人様と夢子さん、ユキさんはご主人様の家へ。ルナサさんとメルランさん、リリカさんはご自宅へ。

今日はここで、お別れです。

 

「あらためて、お願いするわ…先輩を、どうかよろしく」

「大丈夫よ~、私たちは豹に助けられてたんだから~」

「それじゃーねー」

「はい、皆様お気をつけてください」

 

挨拶を交わして、飛び去って行きました。

 

「それじゃ、上海ちゃん。あらためてよろしくね!」

「はい、お願いします。カナさん」

 

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