寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第93話 事態の悪化は止まらない

神社に帰ってくると、待っていたようにあうんが声をかけてきたわ。

 

「お帰りなさいませ霊夢さん!お待ちしてました!」

「え、何かあったのかしら?」

「玄爺さんに魅魔さんって方のところに連れて行ってもらいますので!霊夢さんが帰ってくるまでは、神社を動けないですから!」

「ああ、すぐに行く気だったの。なら行ってきていいわよ、今日は妖精どもに話を聞いたらもう出ないから」

「妖精…?あ、アリスさんのことですね。わかりました!

それでは、玄爺さん」

「ふむ、行くとしますかの」

「いってきますね、霊夢さん!」

 

…なんで老いぼれは魅魔の居場所なんて知ってるのかしらね。ま、私が出向いて余計な弾幕ごっこ…いや、魅魔じゃ戦闘になる可能性もあるか。そうならずに話だけ聞いて来てもらえれば楽できるから止める理由がないわ。

ま、魔理沙もいるならあうん相手に戦闘しようとしても止めるだろうしね。

 

(それじゃさっさとアリスの悪巧みを聞き出しますか)

 

 

 

「あれ、霊夢さん?ここまで来るなんて珍しいじゃん」

「ちょっと話を聞きたいのよ。アリスが来たらしいけど、何を企んでたわけ?」

「ちょっ…!?もうバレてるじゃない!ルナ、任せたわよ!」

「はあっ!?ちょっと待っ」ベタン

 

…二匹逃がしたけど、こけて逃げ遅れた一匹で十分。どうせ大したことは知らされてないだろうし。

 

「うぅ、またこのパターン…」

「こけるあんたが悪いわ。素直に話せばお仕置きはなしにしてやるから、洗いざらい話しなさい」

「はぁい…アリスさんに頼まれたことを話せばいいんですか?」

「そうよ。何を企んでたわけ?」

「私が聞いた限りだと人を探してたみたいですけど。最初はリリーを探して家に連れてきてって頼まれて。

連れて行ったら帰ってくるまでアリスさんのお家に閉じ込められて…」

「リリー?誰よそいつ」

「春告精って言えばわかります?」

「ああ、あの妖精か。それで、続きは?」

「帰ってきたアリスさんはリリーにヒョウって男を知らないかって聞いてて。リリーが言うには魔法の師匠って言ってましたけど」

「はあ?」

 

春告精の魔法の師匠?妖精に魔法を教えるなんてわけわかんないことする奴がいるの?

 

「リリーも知らないって言ってたんですけど、なんか数人でそいつを探してるらしくて。

魔法についてのよくわからない話を始めちゃったから帰りたいって言ったら、手出ししないかわりに今日霊夢さんが神社から出たら教えろって小さい人形を押し付けられたわ」

「今日…ってことはアンタ一日で春告精を見つけ出したの?」

「運が良かっただけ。偶然水汲みに出てたところを捕まえただけだから、結局家までは見つけてないし」

「まあそれはいいか。それで、私が出てからアリスは何をやったのよ?」

 

神社が荒らされた様子はない…それに来てたらあうんが言うはずよね。つまりここに今日アリスは来てない。

なら、なんで私が不在ということを知る必要があったのかしら?

 

「教えたらお礼だけ言って人形が勝手に飛んでっちゃたわ。アリスさんの家の方に」

「…何がしたかったのよアリスは。全然わかんない」

「私もサニーもスターもわかってないです。本当にこれだけ、話せるのは…ひっ!?」

 

軽く睨んでみるけど、この怯え方だと嘘は言ってない。つまり本当に何やってるのかわからない。

…面倒だけど本人に聞くしかないか。ヒョウって奴も心当たりないし。

 

「まあいいわ。あと一つだけ…数人っていったい誰がいたのよ?」

「え、えーっと…ライブやってる騒霊だっけ?その金髪と水色髪の二人と、カナって呼ばれてた金髪の子」

「はあ…?どんな集まりよそれ――って、カナが言ってたか。西洋繋がりかしら」

 

ということはそのヒョウって奴も西洋絡みの妖怪?でもそんな奴が居たら目立つのに心当たりがないってことは、元々隠れてるような奴か?

それにカナは今日魅魔のことを伝えに来てたけど…アリスと繋がってたってことよね。魅魔のところに私を向かわせるのが目的だった?

だとすると、その目的は知らないうちに阻止してたことになるけど…

 

(…なーんか引っかかるのよね。やっぱ魅魔よりアリスの方が怪しい。

 明日またアリスの家に向かうか…面倒だけど)

 

結論は出たわ。なら今日はもうこれで仕事は終わり!!

 

「ま、いいわ。お仕置きはなしにしてあげる。そのかわり、アリスがまた何か頼むようだったら隠さないで話しなさい」

「は、はーい」

 

さて、そうと決まれば晩御飯とお風呂ね。華扇にたらふくご馳走させたし、今日は少なめでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――四季様、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「久侘歌ですか。ここまで足を延ばすのは珍しいですね。

私も本日の業務は間もなく終わります、このまま聞きましょう」

 

今日のお仕事も異常なし。そのため報告のついでに四季様の元に顔を出すことにしました。ルイズのようにやり過ぎな行動を起こす者は多くないと思いますが、繰り返されるのは困ります。

未然に防ぐためにも、その原因は早めに突き止めておきたいですからね。

 

「昨日、中有の道で騒ぎがありまして。公休でしたので最低限の注意だけして見逃したのですが、その際に少々不穏な者の話を聞きました。

―――八雲の庇護下に置かれていたという、ヒョウという魔界人のことを四季様はご存じでしょうか?」

「…その名に辿り着く者が出てきましたか」

 

その四季様の返答で、私の予想も捨てたものではないと思えました。

ヒョウという者は、四季様が即座に個人を特定出来るほどの相手だということです。

 

「彼の名を出したのは何方でしたか?」

「白狼天狗の犬走椛と、魔界からの旅行者と名乗ったルイズという者です。ただ、彼女たちと情報を共有していたアリスという人形遣いと、カナとルナサという騒霊も彼のことを探しているようでした」

「それほどの数で?

…これは、警戒した方が良いかもしれませんね。久侘歌、就業時間外に申し訳ないのですが…その話、星熊勇儀に伝えてもらえますか?」

「別に構いませんが…よろしいのですか?地獄の旧都で過ごす彼女に地上の案件を漏らす形になりますが」

「簡潔に言葉にすると、彼は幻想郷と魔界を決裂させる可能性があります。そう事態が動いた場合、侵入方法の関係で幻想郷は後手に回らざるを得ない。

ですが、彼女はそれに際して侵入してくるであろう魔界人に対し戦闘面の天敵となり得る存在です。故に最悪の事態に備えての保険として管理者たちも黙認するでしょう。それこそ豹の名前と私の依頼ということを出せば支援に回る…もっとも、星熊勇儀がそこまで手回しするとは思えませんが」

 

そして予想以上の事態を懸念されていることに驚愕することになりました。幻想郷と魔界の決裂…冗談ではありません!

 

「隠棲していたと聞きましたが、それほどの人物だったのですか!?」

「いえ、豹自身とは無関係に問題があります。博麗の巫女の魔界に対する所業のせいで、魔界側にとって絶好の口実に使われる可能性が高いのです。そもそも八雲紫が私に彼の存在を明かしたのもこれが理由ですから」

「っ!?つまり、四季様すら彼の存在を知ったのはその時点ということですか!?」

「はい。そして星熊勇儀と伊吹萃香は私より前から彼の存在を知っていたそうですので。

 おそらく、久侘歌の知りたいことは私より彼女の方が詳しい」

 

私との会話はついでとでも言うように、淡々と仕事を終えた四季様がようやく視線を私に向けて。

 

「久侘歌、もし星熊勇儀が豹の名前だけで動く気になりましたらそのまま同行しなさい。そうなればこちらで久侘歌の代行を派遣しますので、地獄のことは気にせず彼女に助力し地上の状況を調べて来なさい。何か掴んだらサボってる小町を連絡役に使って私に報告を」

「――!了解です」

「私は時間を作り次第、直接八雲紫を問い質しますが…この状況であれば彼女もすでに動いているでしょう。もし私より先に貴方と星熊勇儀に接触してきた場合は、彼女の戦闘欲求の対象を八雲紫に向けないようにフォローをお願いします」

「む、難しいですが…努力はします」

 

妖怪の賢者の性分と勇儀さんの性格は水と油。その間を取り持てというのはとんでもない無理難題なのですが…今のお話を聞く限り幻想郷の維持を最優先に動く八雲の立場として、この案件で不要な仲間割れを起こそうとすることはないでしょう。…ないですよね?

 

「頼みましたよ。手が足りないようでしたら小町も使って構いません。

状況次第では、サボった方が面倒になると判断して真面目に働く気になるかもしれないので」

「はい、それでは失礼します!」

 

―――また特命ですね。今回はとうとう地獄ではなく地上の案件です。

私を買っていただけるのは嬉しいですが、他に適任はいないのでしょうか…博麗の巫女だけでなく幻想郷の管理者たちからも目を付けられてしまいそうです。あまり悪目立ちはしたくないのですけれど。

 

 

 

久侘歌が是非曲直庁を出ていきました。私も仕事は終わりましたが…知った以上は放置出来ないことになっているようですね。

 

(あのスキマ妖怪の方から私に伝えてきた、つまり魔界からの侵攻という可能性があり得るということ。

そして不定期ながらも絶えず侵入を繰り返す魔界神。警戒すべきという声を上げながらも、自身の手で排除することに踏み込めない管理者)

 

結論の先延ばしも、そろそろ限界ということでしょう。

 

「…白黒つけさせねばなりませんか。魔界は管轄外ですが、管理者は私でも動かせる」

 

そのためには、事情を知るであろう八雲紫を捕まえなければなりませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――彼女たちが俺を手助けしてくれている。ただ、エリーとくるみは風見幽香からの指示があればそちらを優先せざるを得ないだろう。もし雛が風見幽香が動いたということを察知できたら、ルナサか藍に伝えてくれると助かる」

「四季のフラワーマスターね。まったく…あの恐ろしい妖怪の部下を口説き落とすなんて、豹は相変わらず隠者としての自覚が足りてないわ」

「口説いてはねえよ!タイミング的に依存させかけただけだ!」

 

雛のあんまりな言い方に思わず声を上げてしまった。くるみはともかくエリーがかなり危ういラインだったのは否定できないが。

 

「…ま、直接顔を合わせることがあれば真相がどうなのかはわかるし、楽しみにしておくわね」

「何がそんなに楽しみになるんだか…

ああそうだ、俺からも雛に確認したかったことがある」

「何かしら?」

「アリスはどうやって俺と雛に繋がりがあることを知ったんだ?それとも、雛とアリスに元々繋がりがあったのか?」

 

藍からアリスたちの足取りを聞いて浮かんだ疑問だ。カナには雛と付き合いがあることを教えていない…理由は単純、一緒に行きたいと言われても天狗の警備網を搔い潜る必要がある以上断りたかったからだ。カナの機嫌を損ねるぐらいなら、最初から教えないでおいただけ。

なのに、アリスたちの訪問先に雛の選択肢があったのは何故なのか。これは俺の中で答えが出せなかったのだ。

 

「…これは私から伝えていいのかしらね。本人から伝えさせてあげたいところだけれど」

「ん?どういう意味だ?」

 

逡巡するような表情を雛が見せる。だが、すぐに振り切ったようで。

 

「伝られないまま上海が記憶を失う可能性もある以上、伏せる方が不義理よね。

簡単に言うと、豹の隠れ家が持ち始めた意志と記憶がアリスの上海人形に宿ったそうよ。流し雛を私が直接渡しに行ったことを隠れ家が覚えていたから、豹と私が長い付き合いなのを知れたと上海とカナが言っていたわ」

「………は?」

 

いや、どういうことだそれ。

―――まさか、俺の隠れ家は付喪神のような存在になりかけてたってことか?

 

「信じられないでしょうけれど、直接上海と話した私が見ても嘘はないわ。

 だから、もしもアリスの人形を見つけても問答無用で破壊はしないであげて。

 上海は心の底から、豹に会いたがっていたから」

 

真剣な眼差しで雛が俺に伝える。

これは、疑う必要なんてない。

 

「ああ、元々アリスと対立すること自体避けたいからな。人形を破壊するって選択は最初から無い。

もし会えたら、ちゃんと話を聞くさ」

 

それに…隠れ家がアリスの人形の意識を乗っ取っているのであれば、俺に力を貸してくれるかもしれない。

それは歓迎できるし、神綺様の考えが俺の予想通りであれば…アリスにとって悪くない経験となるだろうから。

 

「お願いね」

「わかった」

 

麦茶を飲み終えて、陽も落ちてきた。

そろそろ雛とは、お別れだな。

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