『ごめん!さっき話しそびれたことあった!!アリスもカナも聞こえてる!?』
家に着く前にさっそく
「聞こえてるわよ、何かしら?」
『わたしも聞こえてるよ~、どうしたのリリカ?』
カナに渡した方も問題なく使えてるわね。まあ、カナには上海が付いてるから使うのに問題はないでしょう。
『ルナ姉が慧音のところに来る前にさ、化け狸が来てたのよ。そしたらアイツも豹のこと探してるみたいだった!
豹の反乱の話ですっかり言うの忘れてた、ごめん!!』
「化け狸?もしかして二ッ岩マミゾウのこと?」
『そう!とりあえずテキトーにあしらうためにルナ姉と豹を念写したっていう姫海棠はたての名前出して、豹が取材受けてたって言っといたからさ。カナと上海から椛さんにこれも伝えといて!』
『わかった!わたしは知らない相手だけど、化け狸の二ッ岩マミゾウね!』
「ええ、私も頭に入れておくわ」
リリカもなかなか上手くやるわね。念写されたと取材を受けたでは情報量が違いすぎるけれど、後で問い詰められたところでそう思ってたという勘違いで押し通せる。
『そういえば夢子さんが明羅と直接会って来てたからわたしたちみんな言い忘れてたけど、香霖堂に豹は寄ってなかったわ。でも明羅が魔理沙の姉弟子ってことを知ってたから、里香のことも知ってるかもしれない!』
「え、そうなの?それならもう一度話を聞きに行くのもありか…」
『…それなら、私が明日聞いてみるわ。単独行動といっても心当たりはマヨヒガと今日スキマに放り込まれた地点ぐらいだから、先に香霖堂に寄っておく』
「そうね、ルナサ以外ははっきりとした目的地が二つあるのだし、お願いしていいかしら?」
『任せて。…それじゃ、お疲れ様』
『あ、ちょっと待って!もう一つ!アリスのお友達って言ってた成美さんって魔法地蔵さんもお店にいて、状況を聞いてもらったわ!
一応靈夢と魔理沙には言わないでって口止めはしといたけど、不安だったらアリスから直接頼んでおいて!』
「成美と香霖堂で鉢合わせたということね。わかったわ、余裕があれば私からも話を通しておく」
『よろしくね!それじゃ今度こそおつかれさま~!』
豹の過去話に聞き入り過ぎて、細かいところの確認をしそびれてたわね…まあ、
ただ、一つ気にすべきは…
「あの化け狸、命蓮寺を幻想郷での拠点にしてるはずよね…」
「アリス?なにか問題があるの?」
「ええ、ちょっと気になる点はあるけれど…お互いもう少し細かい話もしたいでしょう?私の家までもう少しだから、着いてから話すわ」
「…二ッ岩マミゾウさん、ですか」
「上海ちゃんは知ってるの?」
「直接の面識は無いですが…命蓮寺で過ごす妖怪の一人のはずです」
「え?そこってたしか…」
「はい、カナさんも一緒に来てくださったあのお寺です。ですが、リリカさんの口振りだと私たちに協力するためではないみたいですね」
相変わらずわたしが世間知らずってことを見せつけられるなあ…そういえば命蓮寺で過ごす妖怪が何人いるのかすら誰にも聞いてなかった。豹のことしか考えてなかったせいで、他の情報を細かく整理なんてしてない。それこそアリスに任せちゃってたからね。
でも、これからはそうもいかない。アリスは豹を…ユキと夢子と同じで魔界に帰らせる方向で動き始めちゃったから。わたしはそれを止めなきゃならないから、自分でやらないと。
「上海ちゃん、今日はまだ動ける?わかる範囲でいいからわたしが知らない交友関係とかを教えてほしいんだけど…」
「ここにいる限りは大丈夫です。ユキさんがとってもたくさん魔力を隠れ家さんに補充してくれましたので、戦闘にならない限りは10年以上ここで動けます」
「そんなに!?やっぱり豹の妹だけあってユキもすごいウィッチなのね…」
「はい、ユキさんは魔界全体でも有数の黒魔導士ですから」
妹だけあって豹とそっくりなユキの魔力は何の問題もなくこのお家に補充されて、その魔力を上海ちゃんが使うのがこんなにあっさり成功したのもびっくりしたけど。10年以上も上海ちゃんを稼働させ続けるだけの魔力量を補充してくれてたなんてね。わたしとは魔力総量が桁違いなんだなあ…
(今度あらためてお礼言わなきゃ…豹を魔界に連れ帰ることさえ諦めてくれれば仲良くしたいんだけど)
でも、これは望み薄。本気で豹を慕って、帰って来てほしいと思ってるのはよくわかっちゃったし。
だから今は…うまく出し抜くことを考えないと。
「それじゃ、まずは命蓮寺にいる妖怪のこと。上海ちゃんが知ってる限りでいいから教えてくれるかな?」
「はい、それでは話に出た二ッ岩マミゾウさんですが…」
やっぱり、一人じゃないお家はあったかいな。昨日はリリーと椛さん。今日は上海ちゃん。
豹も、早く帰って来てくれないかな。
「―――以上が、豹が鍵山雛に語った反乱の詳細です」
「…ありがとう、藍。できれば、豹の口から直接聞かせてほしかったけれど」
「豹から紫様に、一言預かりました。『直接話すことにならずすまない』、だそうです」
「その一言こそ、直接聞きたかったわ…」
敬語なしでの豹の言葉…結局私は直接もらえなかったのに。
すまない…じゃないわよ、もう。
「豹の処刑を誰よりも望んでいるのは豹自身、ね…
豹が逃げ切れなかったとしても、命を取られることはない。それが確定したのは喜ばしいことだけれど」
「神綺は本気で豹を連れ戻そうとするでしょう。今日侵入してきた夢子とユキも同様」
「ほとんど関わることのなかった私ですら、聞かせてもらった豹さんのお話だけで頼れるお兄さんって思ってますし…魔界神さまたちはなおさらですよね」
夢子とユキの侵入を乗り切って、明日接触することになるであろう幽々子に口裏を合わせてもらい。麟とルナサを引き合わせてくれた橙から詳細を聞き終えたところで藍が帰ってきた。
その口から語られた、反乱の詳細。私が魔界で調べた時は神綺に近い存在に目を付けられないよう隠密行動に徹した結果、反乱側が敗北し魔界から逃亡した生き残りが少数居たということしかわからなかったけれど。
豹がなぜ反逆という行動を取ったのか、なぜ幻想郷に辿り着いたのか。この二点を今日知ることが出来た。
「神綺どころか夢子にも豹は会わせられないわね…力尽くで連れ帰りかねない」
「そうでしょうね。我々も豹を何度も頼ったからこそ、その存在にどれだけの価値があるかが理解できる…
なにより、豹本人にも魔界への未練がある。一度帰ってしまえば、幻想郷に戻ってこれる可能性は低い」
「魔界神さまや妹さんだけじゃなくて、月を支配していた堕天使さんまで豹さんを頼ってるんですもんね…
豹さんが幻想郷に戻ろうとしても、行かないでって引き止められちゃいますよね、藍さまのお話を聞いた限り」
そう、私たちにとっての問題は何も変わらない。豹が魔界で生き延びることが出来ても、そのまま帰ってこないのでは処刑されてしまうのと意味は同じ。幻想郷で、私たちを支えてほしいのだから。
「…ついで、というのも変ですけど。紫さまと豹さんが初めて会ったときのお話も、聞いていいんでしょうか?
藍さまよりも前から豹さんは紫さまを手伝ってくれてるんですよね?」
「あら?藍は橙に話していなかったの?」
「紫様のことを私が話すと、紫様と違う解釈をしてしまう可能性もありましたから。
私自身が知る豹のこと以外は、橙には話していないですよ」
「そうなの…別に隠すことでもないから、聞かせてあげましょう。
藍、お茶を入れてもらえる?」
「かしこまりました」
(―――この辺りね)
私が一端の大妖怪と認識されたことで、私の理想郷を造ることを妨害する連中も大人しくなってきた。海が遠いこと以外は理想的なこの地に協力的な人妖を集め始め、まだ小さいとはいえ集落と呼べる程度には幻想郷が形成されてきたわ。だからこそこの一帯は手放せない…異常があればすぐに対処しないと。
そしてついさっき、一瞬とはいえ強大な魔力反応があったから、私直々に様子を見に来たのだけれど…
(…見つけたわ。これは、念のためにスキマで接近して正解だったわね。彼は、いったい何者…?)
金髪に黒服の男性が、右目だけ閉じて集中…おそらく何らかの魔法を行使している。それだけであればそのまま声を掛けるのだけれど、傍らに血塗れの剣が突き立ててあることでスキマ内から観察するだけに留めることにしたわ。下手に刺激すると問答無用で斬り伏せられそうなほど…魔法に集中しているはずなのに隙が無い。
(この辺りでは少ない髪の色に見慣れない服。何の魔法を行使しているのかが判断できないけれど、周囲に悪影響を及ぼしている様子はない…それなら、先に情報を集めるべきね)
これだけの実力者がこの辺りでは目立つ容姿をしているのだから、私より前からこの辺りに居を構える妖怪であれば何か知っているはず。
そう考えて、一度この場を私は離れたのだけれど。
(…まだ行使を続けているわね。それも微動だにせず)
翌日。当ては全滅で彼の情報は誰一人持っていなかったわ。つまり昨日の強大な魔力反応は、おそらく彼が異世界間移動してきたことによるものだと予測できた。そうなると彼が行使している魔法はおそらく元の異世界に戻るためのもの。
…なのだけれど、どうにも腑に落ちない点がある。
(ほぼ丸一日帰る方法を試しても進展がないのなら、一度諦めて周囲の状況を調べそうなものだけど。
何も変化がない…帰る方法を探しているわけではない?
でも、何か目的があってここに来たのであればそれこそ一人で集中し続ける理由が見当たらない)
どのような状況であっても丸一日同じ位置で微動だにせず集中し続けるというのは非効率…一人で大掛かりな魔術を行使するために時間をかけているのだとしたら、放置するわけにはいかないのだけれど。周囲に何も変化がないから私には何をしているのか見当がつかないのよね。念のために私自身がこの辺りに変化や異常が出ているかを調べたけれど、やっぱり何も起こっていない。
(一日かけても何も起こらないのであれば、魔法としては欠陥が過ぎる。そこを考えるとやっぱり帰るために集中しているという可能性が高い。でも、丸一日粘って成果が出ないのに、別の行動を起こさないというのも不自然…)
私から声をかけようかとも思ったのだけれど、これだけ集中しているところを邪魔したら敵視されてしまうでしょう。私の知り合いが彼を知らなかっただけで、それなりの立場や大妖怪との繋がりのある相手だったら…せっかく一歩踏み出した幻想郷に害が及んでしまう可能性を捨てきれない。
(その危険性を考えると私が彼の集中を途絶えさせるのは得策じゃないのよね…辛抱強く、待つべきかしら)
この判断は、正解だったのだけれど。
まさか、一日どころか三日間も待つことになるなんて思いもしなかったわ。
「―――――負け、か………」
彼が言葉を発したところに、スキマ越しとはいえ居合わせたのは幸運だった。私は三日間も彼を監視し続けるわけにもいかなかったから、手の空いた時間でこの場に戻ってくることを繰り返した。つまり、間が悪ければ彼はそのまま去っていたかもしれない。
「…随分と長く集中していましたね。大丈夫なのかしら?」
スキマを開いて、彼に私の姿を見せる。おそらく私と敵対する気は無いと踏んでの行動。
案の定、彼は驚きつつも敵意は無く。
「…あなたは?」
「この近くの集落を管理している者ですわ。三日前にこの辺りで強大な魔力反応を感知したから、手の空いた時に監視していたのよ」
「そうですか…迷惑をかけたようで申し訳ない。それで、俺に何か用が?」
「用があったわけではないけれど…貴方は、何者?」
「………俺は、反逆者。敗北し、魔界からここまで飛ばされたようです」
魔界…聞いたことが無い異世界ね。でも、たったこれだけのやり取りで理解できたことがある。
彼は、只者ではない。丸三日間飲まず食わずで集中し続けた直後でありながら、私を前にして全く隙が無い状態を保てている。少なくとも、敵に回すのは避けたい手練れ。
それなら、今の立場と状況を利用させてもらいましょう。
「そう。行く当てがないなら、私のところに来る気はないかしら?」
「は…?」
「まだ出来たばかりの集落だから、人手はいくらでも欲しいのよ」
「…逃亡者となった俺は、表に出ることはできません。役に立たないですし、いつかは追手との戦闘に巻き込むことになってしまうと思いますけれど。
行く当てがないのは、否定できませんが」
「なら、ついて来てもらたいわ。
幻想郷は全てを受け入れる。
それが、私の求める理想郷なのだから」
私の、遠い遠い理想。
でも、行き場のない彼には魅力的な言葉に聞こえたようで。
「…お世話になっても、いいでしょうか?」
「ふふ、こちらから誘ったのだもの。断るはずないわ。
あなたの名前を教えてもらえる?」
「………ヒョウと、呼ばれていましたが。この名は伏せた方が良いでしょう。この辺りで、成り代われるような存在はないでしょうか?」
「名を捨てることであなたが弱体化する可能性は?」
「おそらくは…無いと思います」
「可能性が零では無いのなら、同じ音の字を当てるだけに留めておきましょう。
豹。八将神たる豹尾神から一字取って、豹」
「…ありがとうございます。それで、あなたの名は?」
「八雲紫よ。これからよろしく頼むわね、豹」