寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により二()岩マミゾウを修正してます。
…マヨ()ガ以来のガチやらかしですねこれは…

加えて34話のルイズのセリフと92話のアリスのセリフも少しだけ修正してます。こちらは勢いだけで書いてることによる食い違いの辻褄合わせです。そろそろボロが出始めてます(汗)


第95話 留めたい少女たち

魔眼による睡眠魔法が解除され、完全敗北を思い知らされた。思わず言葉が漏れてしまったのだが…それに反応するように彼女は現れ、救いの手を差し伸べてくれた。

 

「紫さん、少し時間をください」

「構わないけれど…何かしら?」

 

集中していたとはいえ、ここまで至近距離に潜まれているのに気付かなかった。すなわち殺ろうと思えば殺れたのに会話を優先してくれたということは、紫さんが俺と敵対する意思は今のところないということだ。

それならば、俺自身の態勢を整えておきたい。

 

結局夢子を相手取る前に焦りから服用しそびれた魔力回復薬…俺とユキで精製したタブレットを未練を断ち切るように飲み込み、軽い止血処理だけした左足に回復魔法をかけていく。そこを貫いていた夢子のツヴァイハンダーは俺の血で傷み始めていた。この程度なら修復魔法で戻せるとはいえ、鞘はどうするか…

そして、会季のハルバートは残留魔力が破邪の門の暴走に巻き込まれた結果…俺の手から離れてしまい魔界からここに飛ばされる途中の亜空間に吸い込まれてしまった。これはもう、探し出すことは不可能だろう。

 

「…その血、豹のものだったのね」

「結局俺は勝てなかった…だが、これほどの業物を捨て置いてタチの悪い連中に悪用されるのもマズい。

鞘が無いので抜き身ですが、後ろから斬りかかることは無いので安心してください」

「いえ、移動するだけなら一瞬よ。だからもう大丈夫かしら?」

「はあ…?」

 

その言葉の意味を理解する前に、目の前の空間が開く。

 

「私のスキマで家に連れて行ってあげるわ。まずはお互いに状況を把握しましょう?」

 

………追放された先にも、とても敵わないであろう強大な存在が待っていた。

俺は慢心し過ぎていた、身の程知らずだったわけだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以降、俺は紫さんの幻想郷の拡充に表に出る必要がない面で協力していた。はっきり言ってしまえば、今の幻想郷を管理している大妖怪たちよりも俺の方が幻想郷に関わった時間は長い。紫さんが俺に甘いのはこの付き合いの長さのおかげだ」

「そう…あの時何の迷いもなく八雲紫が豹と私を庇ったのはずっと不思議だったけれど。豹がそこまで深く幻想郷に関わっていたからだったのね」

 

俺の逃走に協力してくれている皆のことの次に雛が聞いてきたのは、俺と紫さんとの出会いだった。八雲の隠者として活動していた以上、いくら親しい雛とはいえ詳しいことは語らずにいた部分だ。今となっては隠者としての活動を続けることは不可能だから、隠すことなく話せる。

 

「敗北し、すべてを失った俺だが…ユキが俺を呼び続けてるのはわかってた。わかった上で、応えずにいた。

それは、紫さんが俺に幻想郷での役割を与えてくれたからだ。豹という、新たな名と共にな。

紫さんは、俺に逃げ続け生き延びるための理由を作ってくれた大恩人だ。だからこそ、幻想郷にも迷惑をかけたくはなかったんだが…八雲の庇護の下で外の世界に逃げることだけは、選べない。

俺に期待して反逆した皆は、魔界のために動いたんだからな。俺一人が魔界に迷惑をかけて安住の地に落ち着くのは不誠実が過ぎる…漢としての最後の義理と意地だ。俺の最期は魔界と幻想郷にとって意味のあるものにしなければならない。

そのためには、魔界か幻想郷のどちらかには留まっている必要がある…どちらにも俺の末路が伝わるようにな」

 

幽玄魔眼に、なぜ生き続けているかと問われた時に…迷わず返せた俺の意志。

俺は何の利益も生まない場所でくたばるわけにはいかないのだ。敗者として、必要な場所で散らなければならない。

 

「死に急いでるわけじゃないけど、死にたがってはいるのね。

 悪いけど、私たちはそれを全力で止める。豹は、簡単に死なせないわよ?」

「わかってる。ユキと直接会って、あらためて思い知らされたからな…

 今求められてるのは、魔界人の兄としてのヒョウと、幻想郷で隠棲する豹だけ。

 反逆者のヒョウは、もうとっくにお役御免ってことだ」

 

だが、それが理解できても。俺にも曲げたくないものがある。

つまらない漢の意地でしかないが、俺自身が心の底からまだ貫きたいのだから。

 

「まあ、俺も未練がましいからな。まだくたばるつもりはないから安心していい。

そうじゃなきゃ、ユキの魔力が回復した時点で魔界に帰ってたさ」

「…少し、安心したわ。まだ、自暴自棄(ヤケ)を起こしてるわけじゃないのはわかったから」

 

…今日初めて、雛の柔らかい笑顔を見た気がする。随分と雛にも入れ込ませてしまったな…本当に俺は寂しがりや(似た者)に甘い。

 

「それじゃ、そろそろ動くか…陽も完全に落ちたしな」

「残念だけど、止めるわけにはいかないものね…

最後に一つ。明日私に話を聞きに来るであろうアリスたちには、どこまで話していいのかしら?」

「地底へ続く洞穴の監視小屋に向かったってことは伝えてくれ。あそこを情報無しで探し当てるのはそこそこの時間稼ぎにはなる。ただその後どこに向かうのかは決めてないように装ってくれるか?

実際、麟と一度接触した後はどう動くか決めてないからな…」

 

ユキと夢子がどう動くかにもよるが、そろそろ本格的に逃げ場の数が心許ない。割と本気で夢幻姉妹に幽玄魔眼を排除してもらって夢幻館というのが理想的になりつつある。ユキの話だとサリエル様も俺を許してくれているようだから、直接会っても見逃してくれそうだからだ。

 

今日は監視小屋で凌ぐとして明日以降どうするか…残りの心当たりはリスクがある相手と場所しか残っていない。リリーは雛と同じで天狗の監視網に引っかかる可能性がゼロじゃない。妹紅はサリエル様と接触するまで頼るのは避けたい。ノエルは精神の成長していない妖精多数の対処が困難。藍に伝えられた夢殿大祀廟は入り口が人里になる以上、協力者に空間魔法の出口を持って行ってもらう形でもないと向かうこと自体にリスクがある。最後の手段は行ったが最後、派手に動くのを止められないから本当に万策尽きた際にしか頼れない。

 

…夢幻姉妹に頼み込んで夢幻世界に匿ってもらうという選択肢すら候補に入ってくる。夢月から戦闘を挑まれることが前提になる上、幻月に何を要求されるかわかったもんじゃないのが怖いが。

 

「わかったわ。それ以降は怪しまれない程度に霧雨魔理沙の動向を調べておいて、豹から指示が出るのを待てばいいのよね?」

「ああ、迷惑をかけるが…頼む」

「迷惑だなんて思わないわ。だから…また私に会いに来なさい」

「…そのつもりだ」

 

俺の味方と言い切ってくれた雛は、頼りにさせてもらうことになるだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

「ふぅ…メルランもリリカもお疲れ様」

「予定より穏便に済んでよかったよホント。アリスが大慌てで通信してきたときはどうなるかと思ったけど」

 

プリズムリバー邸に帰り着いて一息つく。明日のことも含めて、私は上手く動けていたと思いたい。

ユキと夢子…直接会って、私一人でどうにかなる相手じゃないというのを思い知らされたわ。アリスの姉というだけあって、いざ戦闘となれば私なんかでは一蹴されてしまうでしょう。

そんな二人と敵対することを避けられた。そして皆が納得した上で明日単独行動することが出来る。理想的な展開に持って行けたと思っていいはず。

 

「そういえばリリカ~、あの化け狸は命蓮寺にいるはずよね~?誰に豹のことを調べるよう言われたのかは聞かなかったの~?」

「へ?…ってそうか!命蓮寺にはルナ姉とメル姉で行ってたんだっけ!」

「…忘れてたの。つまり詳しくは聞いてないのね」

「いやごめん、完全に忘れてた。でも私はあの寺に行ってないし、あいつ割と外の世界に戻ったりしてるじゃん?あの寺住まいなんて覚えてないって」

 

まあ、それは仕方ないか。

 

「ぶっちゃけその後の稗田の方に気を取られたし。慧音から稗田の当主は豹のことを知ってるってのは先に聞いてたからさ」

「…そうだったの?その割にアリスがそこに気付いたときリリカも驚いてたけれど」

「だってその理由が【妖精のために脅しをかけに行った】だなんて思わないじゃん。潜伏のせの字も無いやらかしだし」

「それはそうね~。まあユキと夢子の話を聞いた限り、リリーを妹扱いしちゃった時点でどうしようもなかったみたいだけど」

 

私自身も理解していたことは、当然のように私より豹と付き合いの長いユキと夢子も理解していた。

豹は、妹として扱う相手を見捨てることが出来ない。それで自分に火の粉が降りかかるとしても。

 

「でも、逆に言えば稗田阿求も豹のことを知っているということになるわ。豹が幻想郷で敵視している相手は永遠亭と天狗しか知らなかったけれど、稗田阿求であれば敵に回しても実力行使で黙らせることが出来なくはない…後が怖くはあるけれど。

そういう意味では、豹の敵としての視点で情報を持っているかもしれない。ユキか夢子が稗田阿求から話を聞き出すというのはありじゃないかしら。

ただ、アリスが今後も幻想郷に留まるつもりだと断られそうだけれどね」

「ああ、そういう考えもあるか。むしろユキと夢子以外でも、人里と関係が拗れても問題ない奴に協力してもらえれば話を聞きに行ってもらうって手はあるわね。今後はあまりアリスを頼れそうにないしさ」

「…衣玖さんならそれ、引き受けてくれるかもしれない。ちょっと雷鼓に次会う予定を聞いてみようかしら」

「――!メルラン、それお願いしてもいい?今となってはアリスと繋がらない情報源も欲しい…!」

「わかったわ!明日、雛と霧の湖の大妖精と話して時間が余ったら、雷鼓のところに行ってみる!」

 

これは私にとっても、メルランにとっても大きい…!あまり期待はできなさそうではあるけれど、単純に魔界と繋がりのない味方を一人増やせるかもしれないということ。

私が今後メルランとリリカから距離を取らなければならなくなったときに、二人の助けになってくれる相手は一人でも多くほしいのだから。

 

「あまり雷鼓を頼られると私の逃げ道が無くなるんだけど」

「昨日も言ったわリリカ、もうあきらめなさい」

「そうよ~、ユキと夢子にばっちり覚えられたのだから、もう遅いわ~」

「わかってるって…でも少しぐらい弱腰になってもいいじゃん!」

「私に奥手奥手と言いたい放題言っておいてそれはどうなのよ…」

 

リリカは相変わらずね。本当に安心する。

…いつまでこんな日々が続くのかが、わからなくなってしまったけれど。

 

私にとっては、明日からが本番。ミスはもう、許されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…間に合いました」

 

小さな尺八。針を仕込めば吹き矢としても使えるように作り上げました。曲を奏でられるような音域はありませんので、楽器というより暗器ですね。

これなら豹さんに持ち歩いてもらえるでしょう。

 

(…お父さんが知ったら、悲しむでしょうか。

 それとも、怒るでしょうか)

 

豹さんの仲介で紫様に引き取られてからは、辛くなるだけなのでお父さんの工房には一度も近づいていません。ですが楽器職人の一人娘として、幼いころから基礎的な技術は教わっていました。ですがそれを楽器ではなく暗器の作成に使ってしまう…本当に、親不孝な娘です。

 

(…やめましょう。今は、豹さんの力になることだけを考えるとき。

 私はまだ、無力な小娘なのですから)

 

明日も、ルナサさんが来てくれます。その幸運に感謝して、今は待ちましょう。

 

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