寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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前回、誤字報告のお礼を入れそびれてました。ごめんなさい。
毎回助かっております、ありがとうございます。


第96話 連れ帰りたい姉妹

「おじゃましまーす」

「お邪魔するわ」

「客室をユキ、私の寝室を夢子が使って。私は作業部屋で寝るから」

「え?わたしが作業部屋でいいけど?」

「作業部屋の方が入られたくないのよ。頂き物の布団があるから、それを出せば問題ないわ」

「そう。なら、お言葉に甘えるけど…

もう少しミーティングが先ね。アリス、キッチンを借りるわよ」

「…気を使わなくていいと言っても夢子は自分でやるわよね。紅茶も緑茶もコーヒーも常備してるから、任せるわ」

 

帰り着いてユキと夢子に部屋を割り当て、家事用の人形に布団を作業部屋に運ばせる。そういえば母さんも来たらどうするかしらね…リビングのソファで誰か寝ることになるけど、それは日替わりで交替してもらうか。

 

 

 

「それじゃ、もう少し詳しい話を聞かせて頂戴」

「うん、アリスは何を聞きたいのかな?」

 

夢子が淹れてくれた紅茶で一息入れて、リビングのテーブルで三人向き合う。戦闘用の人形はすでに魔力温存状態で待機させている。明日も交戦になる可能性があるから、少しでも魔力を回復させたいからね。

 

「まずは…豹のことを優先的に聞くために深く突っ込まずにいたけど、サリエルのこと。あの堕天使はなぜユキと豹にあれだけ好意的だったのかしら?」

 

私の知るサリエルは、堕天使の名に似合わず威厳と温情を持ち合わせた…それこそ高位の天使として伝わるイメージそのものな存在だったのだけれど。ユキが軽く話しただけでも豹とユキに対して友好的どころか献身的にすら思える。あの大天使が直々に解呪の手立てを探しに動くなんて、特別扱いが過ぎるのよね。

 

「あー、それはサリエル様が月から脱出したときに迎えに行ったのが兄さんだからだよ。わたしも途中から合流したんだけど、最終的には神綺様とサリエル様に危ないところを逆に助けられたから…護衛役としては失格な案件になっちゃったんだけどね。サリエル様は兄さんが間に合わなかったら捕まってたって思ってるから、兄さんのことを命の恩人って考えてくれてるの」

「………いえ、ちょっと待ちなさい。サリエルが月から脱出したときに危なかった?まさかユキと豹は月の連中とやりあったことがあるわけ!?」

「そうよ。わたしが本気で命の危険を感じたのはこの月での戦闘と、この前魔界でやりたい放題した傘持ちの大妖怪に負けちゃった時だけかな。

…それに、さっき兄さんが私と直接会ってくれた一番の理由だった」

「…ユキ、それはどういうこと?」

「今、幻想郷には八意永琳がいる…兄さんが教えてくれた。本当に、兄さんはわたしには甘すぎるよ」

「――っ!サリエル様を捕らえようとした一派の指揮官か…!これは警戒しなくてはならないわね」

「…ちょっと整理させて。想像以上にとんでもない事実よこれ…」

 

紅茶を飲んで心を静める。驚愕の事実ではあるけれど、一つ豹について謎だった部分の答えになっている。

そして、八意永琳は私が思っていた以上にとんでもない相手だったということも思い知らされた。月の支配者だったサリエルを魔界に堕とした張本人だなんて…

 

「まさか、豹が永遠亭を避けていた理由が月で八意永琳と敵対したからとはね…

 【道を踏み外したきっかけの一人】なんて迂遠な言い方なのがやっと理解できた」

「アリス、その言葉は先輩のものよね?先輩がそんなことを軽々しく口に出すはずがない。

 どういう状況で誰が聞いた言葉なの?」

 

思わず口に出てしまった感想に、素早く夢子が反応する。このあたりは魔界のNo.2だけあって下手すると母さんよりも聡いのよね。母さんは…根が謀略や腹芸に向いてないから。

 

「その八意永琳は永遠亭という屋敷に住んでいるのだけれど、そこに辿り着くためには迷宮化している竹林を抜けなければならない。その竹林の案内をしている藤原妹紅が豹から聞いた言葉だそうよ。

豹と知り合ってしばらく離れている間に永遠亭とも付き合いが出来た彼女だからこそ、豹にとって重要な過去のことを聞けたのでしょうね」

「そういうこと…時間に余裕が出来たら彼女のところにも向かいたいわね。敵対する前に口封じしなければ」

「待って頂戴、夢子。藤原妹紅は本人も相当な実力者なうえに不老不死の蓬莱人…口封じは困難だから懐柔して味方につけるべきよ。そもそも豹のこの言葉を私たちに教える時点で妹紅の方から『私がお前らを口封じしても文句は言わせない』と警告してきてる…おそらく豹に対して彼女は敵意を持ってない。永遠亭と違ってね」

「不老不死って…噂には聞いてたけど本気でそんな存在になる奴がいるんだ。終わりが見えないってのは辛いだけなのに」

 

ユキが妙に悟ったようなことを言ってるけれど、つい最近知った事実からすると実感もあるのでしょうね。サリエルが月の支配者だったころから生き続けて、手掛かりが全く無い豹のことを探し続けていたのだから…

 

「アリスから見て、その藤原妹紅という人物は八意永琳より先輩を選べる相手?」

「…正直に言えば読めないわ。妹紅とも八意永琳とも親しいわけじゃないのよ。

ただ、ルナサたちから説得してもらえれば味方にできると思う。妹紅は楽団の熱心なファンらしいから」

「楽団…?そういえばメルランがコントロールできない精神干渉能力って言ってたっけ。ということはルナサたちは音で精神干渉できるのかな?」

「正解よ、ユキ。とはいっても、姉妹揃って演奏することで害のない音楽になるそうだから意図的にルナサとメルランがソロで音を出さなければ実害は出ないそうだけど。

それどころか幻想郷で人妖問わずプリズムリバーのライブは大人気。私の人形劇とは比べ物にならない観客が集まって盛り上がってるわ。ある意味、ルナサたちを敵に回すのは下手な大妖怪よりも危険かもしれない…それこそ人妖問わない多数のファンたちによる人海戦術が取れるから」

「そ、そこまで人気なの!?先輩はどうしてそんな有名な子たちと関わったのよ…」

「兄さんだからね…たぶんなにかの拍子で妹扱いしちゃっただけだと思う」

 

夢子は驚きユキは呆れている。それはそうよね…どう考えても潜伏中の逃亡者が関わるべき相手じゃない。豹の行動は本当に隠棲する気があるのか怪しいレベルでツッコミどころ満載だわ。阿求を脅迫ってのもおかしいけど、プリズムリバー楽団の関係者というのも本来はおかしい。ルナサたちが真摯に豹を探してるから何も言わずにいたけれど。

 

「ただ、ルナサたちがこの先私たちに協力してくれるかは微妙。だから妹紅と接触するのは母さんも合流してからの方が良いでしょうね。話の流れで私と魔界神の繋がりについては教えたから、母さんを連れて行けば話を聞いてくれると思うわ」

「ああ、それは気になるよね…ならひとまず彼女は後回しでいいかな?」

「ただ、母さんが来たら向かってもらいたい場所は別にもあるのよ。夢子とユキは、エソテリアに封印されてた母さんの教え子の聖白蓮って知ってるかしら?」

「んー…?なんか聞いたことあるような…」

「つい最近解放された元人間の魔法使い。魔界に封印された時点で人間でなくなっていたことで神綺様が興味を持って直接会いに行ったら、気が合って魔法や魔界について色々教えてた相手よ。念のために私も一度同行したけれど、何故魔界に追放されたのかがわからないぐらいの善人だったから私も見逃して放置してた存在」

「あ、神綺様がお茶しに行ってくるってちょくちょく向かってた相手ね!そういえば最近行ってないなと思ってたけど、解放されてたの。

…って、アリスがそれを言うってことはもしかして?」

「そう、聖白蓮が解放された先がここ幻想郷なのよ。豹の足取りを追う途中で偶然関係者が通りがかったから話を聞きに行ったのだけど、豹とは無関係だったわ。

ただ、彼女の方が母さんに会いたがってるわ。ちゃんとお礼を言いたいってね。だから少し時間を作ってほしいとは元々考えてたんだけど…ついさっき気になることが増えたのよ」

 

リリカは上手く誤魔化してくれたようだけど、そもそも豹を追う理由なんて命蓮寺には無いはず。

 

「さっきリリカの話した二ッ岩マミゾウ…彼女は聖白蓮が住職を務める命蓮寺を拠点にしているわ。つまり彼女の指示で豹の情報を集めようとした可能性が出てきたのよ。これにどういう意味があるのかはわからない…でも安全策を取るなら母さんを前面に出したい。夢子に気を許してくれる相手じゃないのよね?」

「そうね、私も一回話したきりだから。でも、事情をちゃんと話せば協力はともかく静観はしてくれるとは思うわ。問答無用で先輩の排除に向かうことはないでしょう」

「少なくとも、今の時点で兄さんを探してるってことは私たちと持ってる情報は大差ないだろうし。わたしと夢子が足を延ばす必要はないと思うよ」

 

それもそうね…部下であるナズーリンから善良すぎると言われるような相手。夢子とユキを連れて向かうリスクを負うことはない、か。

 

「それと、サリエルの名前はエリーとくるみからも出てるわ。夢幻姉妹が魔界へ情報を探りに行ったって聞いてるけど、夢子とユキに心当たりは?」

「えっ!?ちょっと待ってそれどういうこと!?兄さんは夢幻姉妹にまで追われてるの!?」

「ユキ、落ち着きなさい。でもそれは逆に私たちが詳しく聞きたいわ…アリス、話してもらえる?」

 

夢幻姉妹が動いてるのは魔界で大事になっていないということ?あの霊夢並みにまず実力行使な悪魔が隠密行動するイメージは無いのだけど…ま、とりあえずは説明が先か。

 

「さっき名前を出したエリーって死神とくるみって吸血鬼は夢幻館って廃洋館に住んでるのだけれど、そこは夢幻世界と繋がってて二人とも夢幻姉妹と付き合いがあるそうよ。それで豹も昨日まではそこにいたらしいんだけど、サリエルの使い魔である幽玄魔眼が襲撃してきたことで豹は夢幻館を離れたと言っていたわ。

ただ、サリエルは豹の力になってくれるだろうから襲撃は幽玄魔眼の独断だって結論になって、情報を集めるために夢幻姉妹が魔界に向かったって聞いたのだけれど」

「そんな―…魔界を出る前にマイに絡んでた幻月を見たけど、思いっきり兄さん絡みだったってこと?

マイの援護に向かうのが正解だったなんて…」

「後悔しても遅いわよ、ユキ。しかし幽玄魔眼も余計なことを…」

「二人はその幽玄魔眼のことも知ってるのかしら?」

「サリエル様は3対6つの魔眼を信頼する相手に一つずつ与えてたんだけど、兄さん以外の渡した相手はみんなもうこの世を去っちゃったんだって。残された魔眼を悪用されないために、魔眼自体を核に創造した使い魔が幽玄魔眼。

ただ、やっぱり神綺様の親友だけあってね…使い魔なのに自由意志が強くて、サリエル様に害を及ぼすと判断した相手をエリスと一緒に排除してはサリエル様から『やり過ぎだ』って怒られてる精神的に未熟な使い魔なのよ」

「奴隷を創りたいわけじゃないっていう神綺様とサリエル様の言い分も理解はできるのだけど。

魔界を管理する立場としては、もう少し手綱を握っておいてほしいと思えるぐらいには厄介者」

 

……なんだか、私がイメージしていたサリエルと実際のサリエルにはだいぶ差がありそうね。何度か母さんと一緒の時に会話したとき、そこまで部下を放任してるなんて思いもしない程度には威厳があったのだけど。

 

「これは一度サラに伝えるべきかしら。ちょっとあの扉までは遠いけど…」

「いえ、サラは私たちが魔界を離れるにあたってパンデモニウムの運営を任せたから、扉近くにはもういないわ。先輩を連れ帰るまで、魔界と幻想郷を繋ぐ扉は封鎖してある」

「…そこまで母さんも本気なの」

「当たり前だよ!兄さんはわたしだけじゃなく神綺様もずっと護ってくれてたんだから!

少なくとも、神綺様も直接言葉を交わすまでは魔界に帰るつもりはないだろうし。入れ違いで魔界に帰って潜伏しようとしてもサラがすぐ魔界に戻ったって気付けるようにする意味もあるからさ」

「そう…本当に、私一人で捕まえられるような相手じゃなかったのね。

八雲紫がどうにか間接的にでも手助けしようとするだけの価値はある存在、か」

 

幻想郷のためなら、魔界人なんてあっさり切り捨てるイメージがあったけれど。魔界神(母さん)がここまでして連れ帰ろうとするほどの魔界人(こども)なら、八雲紫にとっても捨てるのが惜しいレベルというのはうなずけるわね。

 

そう言葉を漏らしたところで、夢子が…私がまだまだ経験不足の小娘ってことを思い知らせる一言を告げてきたわ。

 

「いえ、八雲紫はまだ直接先輩を支えてる可能性もあるわよ。

 ルナサが最初から、八雲の指示で動いている場合だわ」

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