寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

97 / 289
通算UAが7万を超えました。
この作品を楽しんでいただいている読者の皆様、ありがとうございます。少しずつ増えていくUAや評価、感想・ここすきを活力に頑張って続けていきます。


第97話 隠居仲間は弟子思い

「あー…その可能性もあるのか」

 

夢子の言葉にユキがそう返す。要するにユキも見落としてた可能性…このあたりにすぐ気付ける夢子は流石としか言えないわね…

 

「何か根拠はあるのかしら?」

「あくまで可能性だから根拠なんてないわ。単純に八雲紫がすでに私たちを攪乱しているのであれば、その実行役は直接八雲藍と顔を合わせて話しているルナサが最有力候補ってだけよ。

そもそも私は今日初めてルナサと会ったのだし、幻想郷の状況も全く知らないから的外れってこともあり得る。むしろアリスから見て、ルナサが八雲の支配下にある可能性はありそうなの?」

「………ゼロではない、としか。私も顔見知りではあったとはいえ、ルナサと行動を共にするのはこれが初めてなのよ」

 

私にとってルナサは豹を追うことになったきっかけだから、何の疑いもなく信じて動いていた。ただ、言われてみればルナサが八雲紫に協力している可能性は排除できない。夢子の言うとおり、直接八雲と接触できたのはルナサだけで、会話の内容は他の誰も確認が取れていないのだから。

 

「ただ、アリスのおかげで一つ判断基準が出来たわ。明日、単独行動するルナサが通信用の人形を持たずにメルランかリリカに持たせていたらかなり怪しい。八雲との会話を聞かせたくないと取れる…メルランとリリカが危険の少ない相手を訪ねる以上、救援要請に使える人形をルナサが使わないというのは不自然」

「あ、それはたしかに。ちなみにアリスはあの人形と同調できるの?」

「問題ないわ、視界も音も拾える。ただ露西亜人形(マトリョーシカ)に私の魔力が流れるのを隠すことまではできないから、覗き見や盗聴には使えない。ルナサもそれなりに強い力を持つから、私も人形で聞いているということは把握できるでしょうね」

 

そもそも最初にルナサが私の家を訪ねてきたときにオルレアンを使って隠れ家まで案内してるから、人形の目と耳を私が使えるというのはルナサも知っている。

 

「そっか…的外れで済めばいいんだけどな。兄さんを慕ってくれてる相手とは仲良くしたいし」

「そうね。それこそ八雲紫も先輩を買っているようだし、先輩を理由に魔界と幻想郷の対立を激化させることは避けたい。

上手い落としどころがあればいいのだけど…」

「それは私も同感ね。静かに研究に集中するのであれば、ここ幻想郷は理想的な場所だわ。全面戦争になってこの家を捨てるのは、正直惜しいわね」

「ふふっ、アリスはホント都会派になりきれないよね」

「ぐっ…」

「ふふ、言い返せないあたり自覚もしてるのね。私としては魔界の管理者側で働いてほしいけど、しばらくは諦めざるを得ないか」

「…言い返せないのが悔しいけどその通りよ。やっぱり私以外の魔力を気にせずに集中できる環境だと、研究は捗る。都会にも不足した材料とかを補充するのは楽って利点もあるから一概に都会が悪い環境とも言い切れないけど」

 

どうしても魔界の都市部だと他人の実験とかで急激に魔力が膨れ上がったりすることは日常茶飯事。私自身が魔界神の娘として恥じないレベルの魔法使いとなったことで逆にそういったことを広範囲で探知できるようになってしまい、自分の研究において集中が途切れやすくなってしまったわ。その程度で集中が途切れるのは経験不足とマイに言い切られたことも手伝って、まずは集中を持続させることに慣れるためにここ…幻想郷の魔法の森で一人研究に集中することを続けている。

 

…ま、魔界神(母さん)の来訪なんていう集中を切らざるを得ない事態がたびたび起きるから、研究の成果はともかく経験の足しになっているかは微妙なのだけれど。

 

「それで、サリエルについて最後の確認…というか話を聞いたせいでこの質問が増えたのだけれど。

…母さんと一緒にサリエルが付いてくるなんてことはないわよね?」

「「………」」

 

ユキと夢子が目を逸らした。可能性はあるのね…

 

「無いって言い切れない…サリエル様は、わたしたちと同じぐらい強く兄さんの帰りを願ってるから…」

「神綺様はサリエル様にも先輩のことは伝えてるはず。ただ、神綺様より自身が動くことによる影響を考えてくれる方だから、神綺様が動くなら自重して魔界の守りに回ってくれるとは思う…たぶん」

「頭が痛いわね…魔界神と月を支配した堕天使が揃ってやってきたら流石に管理者が黙ってられないでしょうし…

これ、カナに頼んでエリーとくるみから夢幻姉妹に頼めないかしら?サリエルが幻想郷に向かうのは阻止してくれって」

「止めておきなさいアリス。夢幻姉妹は悪魔らしい悪魔…取引には相応の見返りが求められるわ。彼女たちを頼るよりは、こちらにやってきたサリエル様に大人しくしてもらうよう頼む方が安全かつ確実よ」

「だね…サリエル様は優しいから、幻想郷に被害が出るようなことは自重してくれる。突っかかってきた管理者だけ黙らせれば兄さんを探すことだけに力を貸してくれるから」

 

…魔界の守りに回ってくれることを祈るしかないか。

 

「なんだかもうサリエル絡みの話だけで疲れたわ…他の魔界に関しては母さんが来てからにしましょう。

…ユキ、飲んでおきなさい」

「え、いいの?魔界から持ってきたのあるけど」

「上海の魔力補充分ぐらい私が持つわ。というかどれだけあの隠れ家に魔力注ぎ込んだのよ」

「全回復した状態の3割ぐらいかな?今の上海も兄さんのために動いてくれてることに違いはないから、魔力不足で動けないなんてことになってほしくないからさ」

「まったく…ユキ、それで自分が逃げ遅れるなんてことにならないでよ?」

「その心配はいらないよ夢子。暴走したら、追い付けるものも追い付けなくなる。

兄さんに追い付くために必要だと思ったから、上海に魔力を回したの」

「…そう。余計なことを言ったわ、悪いわね」

「気にしないでいいよ、そう思われても仕方ないし」

 

上海のために隠れ家へ大量の魔力を宿らせたユキに魔力回復薬を手渡す。私が与えるべき魔力なのだから、これぐらいはさせてもらわないとね。

…まさか、戦闘がなければ10年は尽きない程の魔力を上海のために使ってくれるなんて思いもしなかった。それが豹という兄のためであっても、上海の制作者としてお礼はしなければならない。

だからこそ、魔力回復薬ぐらいは私の持つものから使ってもらうべきよね。

 

「それじゃ、後はわたしたちからだけど…大丈夫?アリスがきついなら今日はもう休む?」

「答えるぐらいなら大丈夫よ。何を聞きたいのかしら」

「さっき先輩の隠れ家で話してくれたこと以外に、先輩と関わりのある相手がいるなら教えて頂戴」

「わかったわ、それならまずは…」

 

明日からは、この三人で動くことになる。私が幻想郷で得た情報の共有は、寝る前までに終わらせないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「魅魔殿、お邪魔しますぞ」

「失礼しまーす!」

 

玄爺さんに連れられて魅魔さんという方の隠居先という洞穴に着きましたけれど…誰の気配もないですね。お留守なのでしょうか?

 

「うーん…玄爺さん、誰もいないですよね?」

「…ふむ、これはカナ殿に感謝しなければなりませぬな」

「へ?どういうことですか?」

 

なんだか玄爺さんのまとう雰囲気がいつもと違って…鋭くなった、と言えばいいんでしょうか。

もしかして、これが霊夢さんを背に乗せて飛び回っていた頃の玄爺さんなのでしょうか…!

 

「杖だけでなく刃も持ち出しておりますのでな。魅魔殿が完全武装でここを離れているということですぞ。

…華扇様は、何か知っておりますかな?」

「いいえ、少々厄介な事態になりつつあるとは聞いていましたが。当事者の一人である魅魔が動いていたというのは今日知りました。今のところは派手に動く様子はありませんでしたが…魔理沙と合流している以上、避けるべき状況は理解しているということでしょう」

「――って、華扇さん!?どうしてここに!?」

 

洞穴の入口の方から華扇さんが入ってきましたが、玄爺さんの言葉に答えるまで気付けませんでした…神社を守護する狛犬としてはちょっと不味いです。私も華扇さんに修行を付けてもらいたいですね…守るためにもっと強くならないと。

 

「その話、この爺とあうん殿にも聞かせていたただいてよろしいですかのう?」

「むしろ私からお願いしたい、力を貸してほしいわ…この件、霊夢を前面に出すことが出来ない」

「な、なにがなんだかわからないんですが…霊夢さんと博麗神社のためなら私も力になります!」

「助かるわ。では一度私の屋敷まで付いて来てもらえるかしら」

 

 

 

 

 

―――そういうわけで、華扇さんのお屋敷にお邪魔することになりました。私のような者が入るのは畏れ多いのですが、なんだか大変なことが起こっているようですので華扇さんのご厚意に甘えさせてもらいましょう。

 

「それにしても、魅魔の隠居先を知っているとは。霊夢を支えていたのは伊達ではないのですね」

「この爺はただ飛べるだけの無力な亀ですからな…魅魔殿にとって退屈凌ぎの話し相手として都合が良かっただけですぞ。あうん殿が博麗神社を守護するようになってからは、なかなか向かうことも出来ませんでな」

「玄爺さん、私にたくさん神社のことを教えてくれましたもんね。おかげで博麗神社のことは詳しくなれましたから」

「あうんのその意欲は霊夢にも見習ってほしいわね…霊夢の修行嫌いには困ったものだわ」

 

霊夢さんは修行なしでも強いですからね…本気で修業したらどれほどになるのでしょうか。

 

「とりあえず、玄のおかげで魅魔の拠点の位置が知れたのは助かったわ。ここ数日は魔理沙の家に泊まり込んでるようだけれど、そこを離れても探すべき場所を絞り込めるのは大きい」

「それはつまり、魅魔殿が動いた理由は魔理沙殿だということですかの?」

「その通りよ。魅魔本人も当事者ですが、当事者四人の中で最も危険な状況にいるのが魔理沙ですから」

「えっ?!それじゃ霊夢さんだけじゃなくて魔理沙さんもってことですか!?」

「はい。この一件は霊夢と魔理沙を関わらせないで処理すべき…ですがこれが難しい。霊夢も魔理沙も大人しくしていることが出来ない子供…きっかけがあれば即座に動いてしまう。

それ故に、力を貸してほしい。霊夢が首を突っ込んでも、どこに向かうのかを聞くことが出来る玄とあうんにはね」

 

異変を解決するために動く二人が、関わってほしくないこと。

私にできることなんて、あまりなさそうな気がします…お話が大きすぎて付いていけるかすら怪しそうな気が…

 

「あうん、そう不安にならなくても大丈夫です。貴方達に頼みたいのは、これからしばらく霊夢が外出するときに誰の元へ向かったのかを聞いてもらうだけでよいのです。

そして…豹という男を探しているようであれば私に教えてもらえるかしら」

「ヒョウ、ですか?どのような方なのですか?」

「なるほどのう。豹様の存在が、魔界に知られてしまったということですな…」

「――!?玄、彼のことも知っているのですか!?」

「顔を合わせたのは一回きりですがな。この爺がご主人様の乗り物として相応しいかどうかを、紫様が男性の視点で評価してほしかったようでしてのう。

八雲の隠者・豹として、面接のようなやり取りをしましたのう。豹様からも信頼できると評価していただけたゆえに、ご主人様に仕えることが出来たわけでしてな」

「…彼はそこまで八雲紫に信頼されていたのですか」

 

…華扇さんと玄爺さんはそのヒョウさんって方を知っているようで、話が通じているようですが。

私は知らない人なので、反応しようがないですね…そう思ってたら、気付いてくれたのか説明をしてくれました。

 

「豹は、八雲紫が匿っていた大魔法使い。魔界から幻想郷に逃げてきたところを、八雲紫が保護していた。

でも、とうとう魔界に発見されたようで…今日追手が幻想郷に侵入してきたわ。その魔界の追手が問題になるのよ」

「ご主人様と、魔理沙殿と、魅魔殿と、幽香殿。彼女たちはかつて魔界に侵入し、幻想郷に入り込んだ魔界人を魔界に追い返すことを魔界神に認めさせたのです。そして、それに従わなかった魔界人は実力行使で排除しましてな…

その際に容赦なく皆大暴れしてしまいましてのう…魔界人は幻想郷の住人、特にご主人様たちを目の敵にしておるのですよ」

「そんな霊夢たちがまた魔界人を攻撃したと魔界に知られたら、もう幻想郷に総攻撃をかけてきてもおかしくない。そして魔界人は、魔界から幻想郷に繋ぐ空間魔法を難なく行使できるのです。

…つまり、幻想郷には先制攻撃を防ぐ手立てがない。魔界と戦争になってしまった時点で、幻想郷にはそれなりの被害が出てしまうのです」

「そんな…!」

 

私が博麗神社を守る前に、魔界に霊夢さんが乗り込んだ異変があったということは玄爺さんが教えてくれていましたが。

ここまで関係を悪化させた異変だったなんて…!

 

「だから、魔界の追手が豹を探している最中に霊夢と魔理沙が異変と判断して攻撃することを止めなければならないのよ。

追手の探している豹を霊夢が探そうとすれば、鉢合わせる可能性が上がってしまうから。私が止めに向かえるように、早めに教えてほしい」

「わかりました…!博麗神社どころか幻想郷全体に危険があるなんて、見過ごすわけにはいきません!」

「ありがとう。それでは…彼女を連れて行ってください」

 

華扇さんの声に反応したのか、私の肩に白い鳩が止まりました。

 

「霊夢が豹を探しに動いたら、その鳩を私の下に帰してください。一言帰るよう伝えれば、そう動きます…鳥であれば神社周りにいてもおかしくないですから」

「はい、わかりました!」

「お任せくだされ。この爺にはこれぐらいしか出来ませぬからのう」

「頼みます。いざとなれば、私が先手を打って魔界人を追い返しますので」

 

私ではついていけそうにないお話ですが、華扇さんのお手伝いならできて、それは霊夢さんのためになるということですよね。

博麗神社を守るためにも、幻想郷を魔界と戦争状態にするなんて見過ごせません!少しでも霊夢さんと華扇さんの力になれるように、玄爺さんと一緒に出来ることをやっていきましょう!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。