…推敲がまた甘くなってますね。気を付けなければ。
「それじゃ、本題に入ろうか」
「魔理沙を眠らせてから本題なのです?」
「それなら魔理沙の家で集まる必要はなかったんじゃ…」
呪珠がごもっともな反応を返す。なぜ聞かせたくない本人の家で集まったのか…
魔理沙に連れられた先には本当に師匠がいた。その魔理沙本人はご機嫌で酒盛りを始めてすぐ、師匠の睡眠魔法で夢の中だ。相手が師匠だからと魔理沙は完全に油断していたな…
吸血鬼異変を最後に表舞台から去った師匠が、今でも博麗の巫女と並び異変解決に飛び回る魔理沙の元を訪れた挙句、眠らせるというのは只事ではない。それどころか呪珠とリィスまで後から呼び出されて、博麗神社を襲撃した当時の仲間が勢揃いしている。
…これは、豹のことを追う時間など無いか。
「里香と明羅をさっき魔理沙が捕まえてくれたからここになっただけさ。もう少し状況をはっきりさせてから呼ぶつもりだったんだが」
「魔理沙に聞かせたくないということは、基本的に裏で動く案件になりますよね?どうしても目立ってしまう私には不適任なのですが…よろしいのですか?」
リィスも師匠に疑問をぶつける。ここ幻想郷において天使はリィス以外に見たことがない…少なくとも私は。つまりまず間違いなく物珍しさから絡まれるだろう。靈魔殿から滅多に外に出ない理由がこれ…侍である私ですら人里に出るたびに注目を集めるのだから。
「今回ばかりはちょっと厄介すぎる状況でねえ…巫女に動かれても魔理沙に危害が及んじまうから、猫の手も借りたいのさ。多少のリスクには目を瞑ってくれないかい?」
「今のあたいには追うべき者がいるし。片手間で済まない話はお断りなのです」
「へえ、珍しい。里香が興味を持つ人間がいるなんてねえ」
「人じゃないのです。豹という魔界人なのです」
「―――!?待て、豹と里香に面識があったのか?」
…いや、里香は流石だな。師匠の頼みを面と向かって断れるとは。
それにこの反応、師匠は豹のことを知っている。しかもよくない方向でだ…面倒なことになるのは避けられん、か。
「それはわたしの台詞なのです!魅魔様は豹の居場所を知っているのですか!?教えてほしいのです!」
「私が教えてほしいよ!それこそ豹を捕まえりゃあ魔理沙の安全は確保できるんだからね」
「………魔界人の、ヒョウ…まさか」
「うん?リィスも知ってるの?もしかして知らないのあたしだけ?」
「魔理沙の安全?皆、少し落ち着いてくれ。一番事情を知っている師匠から話を聞かせてほしい。
私たちはそこに補足する形にするのが効率的だろう…私はともかく、里香はつい昨日知り合ったばかりなのだからな」
「ということは奴と関わりが深いのは明羅か。まあ簡単に言えば、魔界から豹を捕まえるための追手が来るみたいなんだよ。そいつらと私らがやり合っちまうと、幻想郷と魔界で全面戦争になるかもしれないんだとさ。
そうなった場合、幻想郷の管理者は魔理沙を生贄にすることで回避するとか抜かしやがってね」
…成程、私と切り結んだ彼女も余計な交戦を避けようとしていたのはこれが理由か。師匠と魔理沙に巫女と大妖怪で魔界に殴り込んだことで関係が悪化したからこそ、当事者である魔理沙を差し出すことで矛を収めさせるということか。
まあ、妥当な判断ではある。この4人で誰が生贄にしやすいかと言えば満場一致で魔理沙になる。
「つまり、豹を捕まえて魔界に返すことで魔理沙を守ると?それは困るのです!
豹はわたしの戦車のためにコキ使うことが決まっているのです!」
「やはりそう考えてたのか…そんなだから逃げられるんだ。
とはいえ、私も豹を魔界に帰すのは気が進みません。貴重な剣技の修行相手として助かっていますので」
「剣技?豹は魔法使いじゃないのかい?」
「豹本人が空間魔法使いと名乗っていましたが、それ以上に格闘戦に長けているというのが私にとって大きかったので。本人曰く攻撃魔法がロクに使えないとのことでしたが」
「攻撃魔法が使えない空間魔法使い、そして格闘戦に長けている…なんてこと。まさか幻想郷にいらっしゃったなんて…!」
「その言い方だとリィスも奴のことを知ってるようだねえ。八雲の隠者とか言ってたがどこが隠者なんだい豹は」
「いえ、私はその方と直接の面識はありません。ですが、そのヒョウという方はサリエル様が永い間探し求めていらっしゃるお相手です。
サリエル様に仕える天使として、その方は魔界に引き渡す前にサリエル様の元へお導きしなければ…!」
「…リィス、サリエルって誰?というかリィスがそう言うからにはえらーい天使様っぽいけど、それならどうやって連れてく気なのよ?」
「よくわからん大天使だ。西洋の宗教で大天使として有名らしいけど、聖書正典には名前が出てこないって聞いてるねえ」
「魅魔さんは相変わらず博識ですね。ですが下界の話は必要も関係も無いのです。サリエル様は現在も魔界で過ごしていらっしゃいます」
「はあ!?それじゃリィスも豹を魔界に連れてく気なのです!?わたしの戦車を優先するべきなのです!」
これは…まとまる気がしないな。リィスの言い方からすると、豹を追ってきた彼女たちと魔界にいるサリエルとやらは別勢力ということだろう。つまりここにいる5人の中だけでも豹に対する扱い方が3通りに割れているのだ。
「弱ったもんだね…里香は魔理沙より豹の方が大事なのかい?」
「当然なのです!魔理沙より豹の方がわたしの戦車にとって有益なのです!!」
「即答かい。それほど里香にとって都合がいい魔法だったのかしら」
「間違いなく。瓦礫としか思えない戦車の残骸から多数の部品を修復していましたから」
「たぶん攻撃魔法が使えない分、それ以外の魔法が規格外なのです。わたしが昨日今日と見て聞いただけでも修復魔法・空間魔法・魔力消費軽減術式あたりは魔理沙どころか魅魔様より上だと思うし」
「里香がそこまで言うほどだと?たしかにあたしゃ苦手な系統ばっかだが」
「八雲の隠者というものは初めて聞きましたが、それはつまり八雲紫にとっても利用価値があったということ。そう考察すれば師匠も納得できるのでは?」
「…ああ、そういうことか。あの時奴を吸血鬼側に回さなかったのは元々後方支援担当で、それを前線に回す程度には戦力に余裕がなかったってわけね」
…師匠の言葉から察するに、吸血鬼異変で豹と関わったということらしいな。あの時魔理沙が格下相手に死に際の悪あがきで記憶を失ったと聞いているが…私と付き合う上では問題がない程度だったので詳しくは聞いていない。
しかし、豹のことを探すのであれば重要な情報かもしれないか。
「その時の話、私たちが聞いても?」
「あー、大したことは私も知らないんだけどね。吸血鬼異変で魔理沙がドジったとき、連れ帰って来てくれたのが豹なんだよ。ただ、現場にいたのに魔理沙を守り切れなかったとも言えるから、最低限の情報交換したぐらいの相手でさ。
どちらにしても魔界から逃げてたのが見つかった以上、八雲も奴は切らざるを得ないそうだ。だから豹をコキ使おうってんなら、幻想郷の管理者も敵に回すことになるよ?里香はそれでもいいのかい?」
「うげ…それは面倒すぎるのです。でも豹の知識をみすみす見逃すのは愚策だし。
魅魔さまが協力してくれれば豹を匿えたりしないのです?」
「無茶言うんじゃないよ。いくら私でも魔界と幻想郷の管理者を同時に敵に回すのはしんどいわ。
豹は今となっては魔界からも幻想郷からも追われる身さ。幻想郷の管理者も魔界の上層部も全面戦争は避けたがってる…そのための交渉材料に適してるのが豹で、次善の対象が魔理沙なんだ。
あたしゃこれでも弟子には甘いからねえ、魔理沙を差し出すわけにいかないさ。そのために一番手っ取り早いのが豹を魔界に突き出すこと。手を貸してくれないかい?」
「むうー…」
里香が不服そうに唸る。私も出来れば豹にはこちらに留まってほしいが…状況が思っていた以上に悪い。師匠の言う通り、幻想郷の管理者のような大妖怪まで敵に回したら豹もろとも叩き潰されるのがオチだろう。私は魔界の追手一人にすら敗れたのだ。こんなザマで豹を匿うなどできるはずもない。
――だが、ここでただ一人豹の情報を持っていない呪珠が、退屈そうに意見を出してきた。
「あたしはそのヒョウって奴のこと全く知らないし、完全に蚊帳の外から言わせてもらうけどー。
全員の希望に沿うならサリエル様ってのを頼るしかないんじゃない?リィスにヒョウってのをサリエル様ってののところに連れて行ってもらって、そのまま魔界の方に助命嘆願してもらって、その後里香のところに戻ってもらう。
これを魔理沙やあの巫女に感づかれずにやれば済む話じゃないの?」
「「「「………」」」」
その通りではある。ただ、そう上手く転がるかがわからないだけで。
「里香さん、私も呪珠の意見に賛成です。理想通りに進むとは思いませんが、私はヒョウという方をサリエル様の元に導かなければなりません…!
サリエル様はお優しいので、彼を護ってくださいます。里香さん、一度力を貸していただけませんか…!?」
「むぅ…本当に信じられるのです?魔界に送って帰って来なかったら殴り込むのに加わってもらうのです」
「サリエル様は受けた恩に報いる方です。私たちがサリエル様の元へ彼を導けば、私たちの希望にも応えていただけます。それは、私が保証します…!」
「むぅ…」
「私は魔理沙が巻き込まれなきゃそれでいいからね。リィスがそうしたいなら止める理由はないさ」
「里香、そもそも私たち二人では情報が足りない。手を貸してもらえるのなら折れるべきだぞ」
「…仕方ないのです。その提案、受け入れてやるのです」
…私としても気は進まないが、単純に戦力が増えるのは助かる。なにしろ情報が皆無な上に魔界からの追手は私では敵わなかった強者。私と里香だけで豹を追ったところで、成果が得られるとは思えないのだから。
「よし、決まりだね。まず大前提として、魔理沙をこの件に巻き込むわけにはいかない。正直これが一番難しいんだが…これは私がなんとかする。だからあんたたちに豹の捜索を頼みたいんだよ」
「最初からあたいはそのつもりでしたけれど、何か情報はないのです?」
「悪いが無い。それこそ明羅と里香はどうやって豹と知り合ったんだい?」
「元々は修行仲間扱いされていた私の庵を潜伏先にするために昨日来たのですが、つい先ほど魔界からの追手が豹の魔力を探り当ててやってきました。それを察知した途端豹は空間魔法で姿を消してしまい、私はその追手と手合わせして敗北。お互いに行き先の心当たりがなかったため、私と里香は人里で情報取集するつもりでしたが」
「は!?明羅さん負けちゃったんですか!?つまりあたしじゃ相手にもならないじゃん!」
「いや待て、それ以前にもう魔界人が来てるのかい!?魔理沙を抑えるだけじゃ足りないってことか…!」
「…もしかして、あたいと明羅が一番情報持ってたってことなのです?」
「そのようだな…」
「も、申し訳ありません…とりあえず、私がサリエル様から聞いた限りのことはここでお伝えしますので!」
――これは参ったな。どうも私たちは、完全に後手に回っているらしい。
どう情報を得るか、というところから始めなければならないようだな。
懲りずにほぼオリキャラの補足を。
呪珠(じゅじゅ)
封魔録2面中ボスの子。呪い子で覚えていらっしゃる読者様も多いと思いますが、独自設定が入っているため本作独自の名前を付けました。名前の由来はそのまま呪と同じ音で女の子っぽい漢字をつなげただけ。
魅魔の博麗神社襲撃に参加した妖怪の一人で、異変解決後は野良妖怪として幻想郷で気ままに暮らしている。たまに魔理沙の家に遊びに行ったり、幻夢界で里香と里佳子の研究を手伝ったり、魅魔の隠居先や靈魔殿で魅魔とリィスの話し相手になったり。
その行動範囲から意外と交友関係は広く、ルーミアやレティ、リグルやオレンジといった組織に属さない多くの妖怪とは顔見知り。魔理沙を除く魅魔の弟子・部下4名の中では一番情報収集に向いているのが彼女だったりする。
リィス
封魔録4面中ボスの子。魔天使で覚えている読者様も(同上)。名前の由来は封魔録4面道中BGM→F〇6→パーティー女性陣より1文字ずつ取った組み合わせ。
月でサリエルに仕えていた天使の一位。月で昏睡状態から目覚めたのが神綺とサリエルによる狙撃直前だったため、混乱に紛れて逃亡。しかし魔界に直接堕天することには失敗、時間を掛けてサリエルの下に辿り着いたときには魔界も復興していた。その結果天使を良く思わない悪魔もまた増えており襲撃が繰り返され、サリエルの立場を危うくしないためにリィスは靈魔殿に移り、定期的にサリエルの元へ訪れる形に落ち着いた。
のちに魅魔に敗北し靈魔殿を拠点として提供。その後も靈魔殿に留まり、魔界と幻夢界を往復する日々を送っている。