王寺第二探偵事務所の超有能な助手さん   作:飯妃旅立

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No.432 児童連続誘拐殺人事件

 

 ~0~ "事件はいつも「つまんない」から!"

 

 

「つまんない」

 

 また始まった。

 その第一声でわかる。まーた癇癪だ。まーたまーた。こう毎日だと慣れてもくるけど、だからこそ先手を打つというのもアリ寄りの業平。淹れたコーヒーをテーブルに置いて、コルクボードに貼ってあった紙を一枚取って。

 

「つまんないつまんないつまんなーい!」

「じゃあ所長」

「仕事してっていうけどつまんない仕事しかないからつまんないって言ってるのー!」

「そんな所長にこれどうぞ」

 

 机にササっと差し出すのは、未解決連続誘拐殺人事件と書かれた見出しの書類。

 実はこれ、他の、所長曰く「つまんない仕事」を上に重ねて貼っておいたのだ。所長はコルクボードじっくり見たりしないから、こうすることで所長が見逃していたんですよ感と全仕事把握してます私優秀でしょ感が同時に出せる小技。

 

「ん……連続誘拐……殺人……」

 

 一気に探偵モードに入った所長。先ほどまでの癇癪は鳴りを潜め、キリっとしたカッコイイ顔でぶつぶつと情報を呟き始める。アレは脳に情報を溜め込み、整理している最中。物凄くお子様みたいな性格の所長だけど、その能力は一級品。

 私は「頭の良い人が難問に対して苦戦している姿」を見るのが大好きなだけの人間なので、私が特に何か考えたりするわけではないけれど、この人の助手をやっててよかったなぁと心から思う。だってどんな事件も絶対に解決してくれるから。

 

 探偵、助手。

 そう、ここは王寺(おうじ)第二探偵事務所──心霊・超能力が原因とされている難解な未解決事件の解決を生業とする、頭の良いお金持ちの作った趣味全開の成金事務所なのだ。

 ちなみに第二である理由は第一があるから。第一探偵事務所には所長のお姉さんがいて、その人は助手要らずの天才探偵。ただし心霊系は「警察の怠慢」と言って相手にしないので、こういう胡散臭いものだけがこっちに回って来るという寸法。

 

「誘拐されるのは必ず12歳の少女……雨の日、それも雷が鳴っている日限定……発見時は首から下だけが焼けた状態になっている、か」

「犯人の目途、つきました?」

「つくわけないでしょ。姉さんじゃないんだから。……うん、面白そう。よーし、じゃあ聞き込みいくわよ真那!!」

「そう言うと思って、アポ取っときました」

「有能か!?」

「はい、そうですよ、所長」

 

 所長がスムーズに難問に挑めるように、私はその他のバックアップをする。

 有能な探偵の有能な助手。それが私。

 東京都は新宿区の端っこの方に居を構える王寺探偵事務所の、秋姫真那ちゃんである。

 

 


 

No.423

事件名児童連続誘拐殺人事件日付20X2/04/20添付写真無
現場

東京都楡仁川(にれにかわ)区全域
被害者女児十二名
容疑者詳細不明

事件概要 楡仁川全域で十二歳の女児が連続して誘拐、殺害される事件が発生した。

第一の事件の発生日は20X2年04月02日。当時十二歳だった湯ノ原美紀さんが下校中何者かに誘拐される。そこから一週間後、第二の事件が発生し、そこから立て続けに十二の事件までが連続で発生した。

 女児らは第一の事件発生から18日後の04月20日に楡仁川区唖ヶ浜(あがはま)にある黒白砂(くろしらさ)公園で全員が発見され、同時に死亡も確認された。

 女児らは首から下を完全に焼き焦がされた状態で発見されていたために、詳しい死因は不明。心停止ではないかとされている。

発見物・女児たちの使用していたものと見られる雨具一式。誘拐されただろう地点に落ちていた。色や形状に共通点見つからず。

・黒いビニール袋片 黒白砂公園に溶け落ちていた。これで包んで運んだものと思われる。

関係者証言 いずれの誘拐事件時にも雨が降り、雷が鳴っていた。また、死体の発見された日は黒白砂公園周辺で雷が落ちるような轟音を聞いたとも。

担当布留川芳江

 


 

 

「あぁ、王寺さんの所の……」

「はい。布留川さんはいらっしゃいますか?」

「ええ、今呼んできます」

 

 所長のお姉さんは各方面に顔が利きまくる。ので、その妹である所長もお姉さんのパワーで大体何とかなる。私がアポイントメント取る時も名前を出させてもらっているし、さらには出して良いかの許可もお姉さんに取ってあるので安心だ。

 お金持ちで権力持ちで頭が良くて。そして超有能な私がついている。

 

「はい、布留川です……って、あぁ、絵麻さんの方でしたか」

「方とは何よ方とは」

「いえ……奏多さんの方が良かったな、と」

「相変わらずだけど、失礼すぎない!?」

 

 まぁ、名前を出すもなにも、布留川さんに関しては顔見知りなのであんまり関係ないんだけど。

 

 さて、この布留川芳江という女性。警察署にいる通り警察官……なのだが、担当する事件が悉く難事件、怪事件、未解決事件になるという超オカルト誘因体質である。いや、オカルトを誘因しているというよりは、そういう運命を誘因している、という方が正しそうではあるけれど。

 となってくるとこの王寺第二探偵事務所も絡む回数が増えるというもの。

 心霊系でない……つまりただの難事件の方は所長のお姉さんがパパっと解決してしまうので、お姉さんが解決しなかった、何かオカルトなものが絡んでいる可能性の高い怪事件や未解決事件はそのまま残る。

 そこをウチの所長がゴリゴリ解決しちゃうって寸法なのだ。

 ちなみに報告書の類は割と非正規な手段で引っ張ってきている。依頼でもなんでもない、警察の未解決事件に首を突っ込むのだから、当然内部に……フフフ。

 

 なお、謝礼金は警察から……ではなく所長のお姉さんから支払われる。

 多分あの人は頑張った妹にお小遣いを上げる感覚。まぁ庶民の私の目玉が飛び出るくらいの金額が毎度振り込まれるのだけど。

 

「それで、今回も手伝っていただけると」

「そうよ! 私に任せなさい。とりあえず容疑者とかその辺は一切わかってない、ってことでいいのよね?」

「はい。一切わかっていません。事件現場からも、被害者からも指紋の類は検出されず、他、犯人を特定するようなものは一切出てきませんでした」

「となると、遠隔系か……」

 

 はい。

 ここで突然出て来た「遠隔系」というワード。これは別に、所長が突然厨二病を発症した、とかそういうことじゃない。

 何度も述べているけれど、私達は心霊・超能力専門の探偵事務所。なので、扱う事件で幽霊や超能力者に出会うことはしばしばあるのだ。結構いるんだよね、超能力者。

 超能力が行う犯罪は基本的に証拠が残らない。何か魔力の残滓、みたいなのがあるわけじゃないから、超能力の結果と痕跡からそれが何の能力だったのか、どういう効果があったのかを推測する必要がある。さらにはそこから超能力者本人にまで辿り着いて、証拠とトリックを突き付けて……までが私達の仕事。

 取り調べとかは警察がやる。逮捕もね。

 そこでもし間違ってたらやばやばなので、調査はホントにちゃんとやります。え? 越権行為? 知らない知らない。こっちにはお金があるのだ。権力があるのだ。

 

「火の手が上がっていた、みたいな情報は?」

「あぁ、はい。黒白砂公園付近で黒煙を見た、という目撃情報がありました。ただ、あの公園はほとんど人が来ないところにあるので……」

「火を直接見た人間はいない、か」

「そうなります」

 

 さて、遠隔で人間を燃やせる超能力となると、炎か雷に大体絞られる。それで事件日は必ず雷が鳴っていたというのだから、まぁまぁ雷系の超能力で確定。この辺りで雷系の超能力を探すと……十七人。内、雷を起こす程の力のない十人を除外。

 さらにここから、子供や老人を除外。これで三人。子供や老人じゃ十二人の子供を誰にもバレないように運ぶ、なんてできないだろうし。複数犯の場合もあるけど、それだったらもう少し目撃者がいるか、逆に何の証拠も残ってないんじゃないかな。

 明らかに雷系の超能力者だってわかる痕跡を残し過ぎでしょ。あんまり考えなしの超能力者の犯行と見た。あまり頭の良くない、且つ当時超能力に目覚めたばかりで制御が上手くできていなかっただろう一人をピックアップ。

 

 ……なんてのが素人考え。

 私は王寺姉妹のような天才でもなければ、探偵ですらない。素人考えで他者を犯罪者に仕立て上げるのは良くない。

 

 何より。

 

「多分、雷系。……それも、子供とはいえ人間十二人を一気に燃やせる程の……」

「別のところで燃やしてきた、とかはないんですか?」

「それだったら相当な臭いをまき散らしているはず。死体を隠すだけでも消臭が大変なのに、人体を焼いたら周辺の住民が気付くわ」

「成程……。では、炎系を消す理由は?」

「死因がわかんなくなるほどまで焼くのにどれだけ時間がかかると思ってるの? それに、雨も降っていた。炎系じゃ火力減衰で黒煙上がってる間にお縄よ。雷の超火力と伝導率で一気に焦がした。ただ、死因はそれじゃない。もっと前に心臓を停止させていたのでしょうね」

 

 探偵(この人)が悩む姿を見ていた方が、面白い。

 だから困らせるための余計な情報(ノイズ)をいっぱい投入するのが、私の仕事。放っておくとすぐに解決してしまうから。

 

「所長、とりあえず件の公園に行ってみませんか? 事件からはかなり日数が経ってしまっていますけど、まだ何か残ってるかもですし……」

「……そうね。それが良さそう。布留川さん、その公園って立ち入りは」

「もう解除されてます。……あの、再三になりますが、逮捕は私達の仕事です。勝手に突っ込んで勝手に縛り上げたりしないように」

「相手が襲ってきたら正当防衛。でしょ?」

「……わかりましたね?」

「はーい」

 

 事件を起こす超能力者なんて、大体が考え無しだ。

 自分が疑われていると少しでも感じたら、背後から襲って来かねない。まぁそれを誘って確保するんだけど。

 

 さて、布留川さんや他の顔見知りの警察官に挨拶をして、車に乗り込む。あ、運転は私です。各種免許を取り揃えております。

 

「へい嬢ちゃん、今日はどこに?」

「何言ってんの。黒白砂公園よ。あなたが言ったんじゃない」

「しくしく、ノリが悪い所長です……」

 

 車を出す。

 安全運転で──レッツゴー。あ、因みにリムジンとかじゃない普通車です。あ、でも装甲はかなり厚いから、新幹線と正面衝突してもこっちが打ち勝ちますのでご安心を。こんなんでも所長は王寺家のお嬢様。お姉さんにスペックは劣るとはいえ大切にされるべき存在なのです!

 

 

 ~1~ "所長はちゃんと「天才」です"

 

 

 陰鬱とした場所だった。

 高い木々が周囲からの光を遮って、それが重なっているから真っ黒に見える。

 遊具は滑り台となんか上る山の奴が一つずつ、それと水の出ない水飲み場。砂利の敷き詰められた地面は、けれど雑草が生え放題。

 誰も来ていないし、誰も管理していない。それがわかる場所だった。まぁ立地が立地なのもそうだけど、人が、子供が沢山死んだって場所にわざわざ子供を来させる親はいないでしょう。

 

「所長、何かわかりました?」

「まだ車を降りたばっか!」

「そうですか」

 

 さて──とりあえず目に入る異物は、報告書にあった通りのビニール片。まぁ、鑑識さん達に回収された後なので付着痕だけど。さらにこれは……段ボール片? あー、成程。段ボール箱で運んだのか。

 で、邪魔になる頭に黒いビニール袋でも被せて……運送手段は軽トラかな。それで並べてドカーンとしたけど、ビニール袋に包まれた首から上は上手く燃えなかった感じだね。融けはしたけど、燃えたのは段ボールに包まれた身体だけ。

 すぐに雨も降って来ちゃったから段ボールは回収して、ビニール袋もできるだけ回収して、そのまま軽トラでとんずらって感じ?

 

「見て、真那。これ」

「はい。……クレーターのようになっていますね」

「そうよ。これは犯人が雷系の超能力者であることを裏付ける証拠だわ。炎系ではこういう痕跡にはならない。上から雷撃を降らせないと無理」

「上から炎球を……とかは?」

「何の意味があるのよそれ。カモフラージュにしても無駄が過ぎる」

「でも、そうだとして、どうやったら首から下だけを焼く、なんて事ができるんですか? めちゃくちゃ器用とか?」

「それは……」

 

 今更な事を言うけれど、所長は超能力者じゃない。超能力に詳しいけど超能力者じゃない。超能力者なのは私。だけど所長には言ってない。ついでに言うと所長は幽霊も見えない。私は見えるけど所長は見えない。こっちは言ってある。

 何にも見えないし、何にもできないけど、所長は頭が良い。そしてお金があって権力があるのだ。全部家族の。素晴らしい。

 

「何か、身体にだけ燃えやすいものが巻き付いていた……ガムテープとか」

「ぐるぐる巻きに? 何故ですか?」

「……何故。拘束するため……じゃ、ないわね。そしてそれ以外でガムテープを使う理由があまり思い至らない。これ、ガムテープじゃないわ。他の何か……そう、たとえば段ボールとかの素材」

 

 所長の思考はナンバープレイスに近い、と私は考えている。

 既にある証拠で状況を埋め終わったら、なんでもいいから仮定を入れる。それでそのまま考えて、行き詰ったら仮定した部分まで戻る。彼女の天才性は、その仮定で正解を引き当てる速度が尋常でなく早い事と、それが埋まった後の数字の当て嵌めも一瞬であるということ。

 ブラックボックスの中身さえわかってしまえば本当に一瞬で難問を解いてしまう。それが王寺絵麻所長なのである。

 

 なのである──が。

 

「でも所長、警察の報告書に段ボールなんて書いてませんでしたよ。流石に段ボール片とか、鑑識さんが見逃さないんじゃないですか?」

「……確かに」

 

 段ボール片はしっかり残っている。ただ、普通の鑑識さんじゃ見つけられないだろうくらい細かくなっている。当然所長にも見つけられないだろう。

 

「でも、それ以外で燃えやすく、頭だけが出るものは入れ物で……誰でも十二個手に入れられるものとなると、何かのポリケース……いえ、そんなものなら体に沢山付着しているはず。衣服や肌と共に燃え尽きることのできるものはやっぱり段ボールだと思う。安価で手に入れやすいし」

「顔だけ焼かれてなかった理由は?」

「それはビニール袋よ。多分顔に被せていたんだと思うわ。そうすれば、怪しまれはしても確信は持たれないから。報告書にも黒いビニール袋の欠片が、ってあったでしょ?」

「成程。つまり犯人はこの公園まで女児十二人を段ボールに詰めて運んできて、それを並べてドカーンと焼いた……その後段ボールとビニール袋を回収して去った。そういうことですね?」

「そう。そしてそれを行うには多分大型車の類が必要。トラックじゃこの公園には近づけないし……軽トラックか、バンとかか。安全性を考えるならバンよね」

 

 軽トラだと思う。もうほとんど消えているけど、タイヤ痕が明らか軽トラだし。

 このタイヤ痕追えば多分私のピックアップした彼の家に……うん、着くね。

 

 けど私は探偵ではないので~。

 

「それで、これからどうするんですか? 犯人がどうやって少女らをここに捨てたのかはわかりましたけど、犯人はわからずじまいじゃないですか」

「……そうね。けど、まだ調べるものがある。次は被害者を調べるわ!」

「そう言うと思って、被害者十二人の個人情報手に入れておきました。あ、非正規手段なので詳しくは突っ込まないでください」

「……真那、そろそろアナタがお縄になるわよ」

「大丈夫です。奏多さんの名前使ってるので」

「最低よ!」

 

 渡す。といっても紙媒体じゃなく電子媒体なので、送信する、が正しいだろう。

 個人情報なんて大層な事を言っているけど、精々が名前と顔、どこの学校に通っているか、くらいだ。それのリストアップだから、情報量も大したものじゃない。

 

「それと、この湯ノ原美紀さん。第一の事件の被害者ですね。そのご遺族へのアポイントメントが取れています。他の方は無理でした」

「……それ、いつ?」

「三十分後ですね」

「はぁ。……間に合うんでしょうね」

「ええ、近場ですから」

「はいはい有能有能。……有能すぎるとたまに末恐ろしくなるから、たまにポンコツなトコ見せなさい」

「分かりました。どこかに突っ込めばいいですか?」

「そういう意味じゃないッ!」

 

 ええ、わかっています、わかっています。

 安全運転でレッツゴー。──ポンコツはまぁ、実は常にしてたりするんですよ、なーんて。

 

 絶対に言わないけど。

 

 

 

 

「はい……お話しできることなら、なんでもします。……お願いです。犯人を、どうか……」

「お任せください。私はこういう難事件専門の探偵なので!」

「ああ……ありがとうございます。それで、何を……?」

「はい。聞きたいのは美紀さんの身長です」

「身長?」

 

 そう。まぁ、多分そこだ。

 攫われた子に年齢以外の共通点はないと警察は言っていた。だけど、流石に見た目だけで年齢を推し量る、なんてのは難しい。犯人がそれを出来たと考えるのもまぁアリだけど、それより確実なのは身長だ。

 見た目が同じくらいだったからその子にした。本当に単純な、ただそれだけの理由である可能性が高い。

 

「確か……150cmだったと思います」

「ありがとうございます!」

「……えと、それだけでいいんですか?」

「あ、ではもう一つ。元気なころの娘さんの写真を見せて頂いてもよろしいでしょうか」

「はい……これです」

 

 待ち受けになっていた写真。

 所長がこっちをチラっと見る。はいはい、覚えろ、と。まぁ誘拐事件系は犯人に怨霊が憑りついている場合が多い。現行のソレでは何の証拠にもならないけど、目安として、ね。

 

「ありがとうございます。──うん。大体わかって来た」

「本当ですか? 流石所長、やっぱりちゃんと天才なんですね」

「ちゃんとって何よちゃんとって。……あ、すみません。お騒がせしました。それと、辛い事を思い出させて申し訳ありませんでした」

「え……いえ、あの、本当にこれだけで……?」

「はい! あと少しピースを集めたら、犯人は捕まえられます。明日か明後日頃にはご報告できるかと」

 

 日常生活では我儘で癇癪持ちでポンコツな彼女だけど、所長はちゃんと「天才」です。

 何も見えないはずなのに、何もできないはずなのに、ちゃあんと正解に辿り着いてしまうのだから。私の妨害を意にもかけず、ね。

 

「それでは」

「失礼いたしました」

 

 頭を下げて、湯ノ原さんのお宅から出る。

 

 すぐそこに止めてあった車に乗り込んで。

 

「で、所長。ホントにわかったんですか?」

「だから、まだよ。もう少しピースが足りない。けど、犯人の目的はわかったわ」

「マジですか」

「マジよ」

 

 ……そこ、私もまだ辿り着いてないんだけど。

 私が答えを知ってないと妨害(ノイズ)できない(入れられない)じゃないですか。

 

「いい? 犯人は見た目で少女らを誘拐したのよ。見た目だけで選んだ。本当にその辺にいて、人の目がなくて、都合が良かった子十一人。同じ年齢だったのはただの偶然。十一歳の同じくらいの身長の子とか、十三歳の同じくらいの子とか、それが丁度いたら、その子らを狙っていたでしょうね」

「はぁ。割合最悪の部類ですね」

「子供狙った殺人犯な時点で最悪でしょ」

「確かに」

「それで、犯人の目的だけど。あ、動機はわからない。それは大前提。その上で言うと──」

 

 身長が150cmであること。湯ノ原美紀ちゃんの顔。

 それだけで辿り着ける犯人の目的とは。

 

「同じ身長の子が十二人欲しかったのよ」

「……はぁ。まぁ、そうでしょうけど」

「わかってないって声ね。いいわ、教えてあげる。犯人はまず、第一の事件として、美紀さんを殺した。多分超能力の暴発ね。目的なんか無かったんじゃないかしら。それで、殺してしまった少女を隠蔽するのに自分の家を選んだ。馬鹿な発想だとは思うけど、多分馬鹿な犯人だから合ってるわ」

 

 それは私も思う。

 子供を狙う犯人は大体馬鹿だ。身代金を要求しているわけでもない、人身売買に手をかけているわけでもない。ただ殺して捨てる、なんて……快楽主義の馬鹿か、スリルを楽しみたい馬鹿かのどっちかだ。

 だって益がない。人を殺すには殺すだけの理由がある。恨みがあるからとか、弱味を握られているからとか、殺すしかない状況に陥って、それ以外の道が見つけられなかった奴が、人を殺す。それも相当な馬鹿だけど、それでもそっちには理由がある。

 でも、子供を殺す奴はそれがない。子供にそこまでの恨みを持つ、弱味を握られた大人だというのならそれもそれで馬鹿だ。もうちょっと自分の怒りをコントロールしろ。……まぁ最近の子供は賢くなってきていて、教職の人とかは子供になんらかの恨みは抱いていそうだけど、そういう例外はおいておいて。

 

 とかく、無差別殺人、連続殺人を行うにあたって、子供を狙うメリットが少なすぎる。そしてデメリットは大きい。騒ぎやすい子供。ヘイトを買いやすい子供。捜索届なんか一瞬で出されちゃうし。

 

「心臓を止めてしまった、あたりでしょうけど、それで綺麗な身体のままの美紀さんを段ボールに入れて、部屋に置いておいたんでしょう。それで快楽でも覚えたのかしらね、次の殺人でも同じ身長の子を狙って、同じ大きさの段ボールに入れて、()()()()()

「積み上げた……成程。同じ大きさなら前後交互に擦れば頭が浮いてても積みやすいですもんね」

「何故積み上げたのか、とかは聞かないで。まだわかってない部分だから。スペースが無かったとかその辺よ、多分。……それで、この連続殺人で最も重要なのは、何故十二人で止めたのか、という部分」

「十二人で止めた理由……ですか?」

「そう。多分犯人の超能力はかなり質の良いものよ。やろうと思えば三十人だって五十人だって殺せる。それくらい隠密性が高くて、威力がある雷。だけど十二人で止めた。何故だと思う?」

「わかりませんよ。私、探偵じゃないですから」

「……少しは考えなさいよ」

 

 周辺のホームセンターに奏多さんの名前を出した上で、段ボール箱を毎日のように買って行った奴がいないか聞いてみる。該当一つ。監視カメラの画像までくれた。ありがとう、やっぱり思ってた人です。

 さらにその日付で黒白砂公園近くのコンビニの監視カメラの映像も見せてもらう。毎日のように走り去る軽トラさんを発見。ナンバーもわかった。うーん、権力って便利。

 

「高さが足りなくなったから、よ」

「……高さ? 何のですか?」

「一般的な部屋の天井の高さというのは2.2mくらい、と言われているわ。まぁ建築会社によって色々変わるだろうし、デザインによっても変わるだろうけど、平均ね」

「はぁ」

「そして、美紀さんの身長は150cm。彼女を蹲らせるように、且つ仰向けで段ボールに入れた時、肩から肘までの長さは大体16㎝から17㎝。背中の膨らみを考えても18㎝くらいでしょう」

「何故そんな恰好で入れるんですか?」

「死後硬直よ。雷系の超能力で殺してるから、綺麗なポーズで固まるわ。本当はすぐに硬直はとけちゃうのだけど、犯人は殺してすぐに車に入れるなりして運び、丁度あった段ボールに入れたのでしょうね。だから丁度良く固まっていた美紀さんを、仰向けに詰め込んで、首を抱えるようにさせて、段ボールを閉じて」

 

 そうして、開閉面を床に付けるようにして部屋に置いておけば完成。硬直のとけた身体は次第に筋肉が伸び、段ボールを圧迫するだろう。黒白砂公園に捨てる頃には、段ボールを突き破っているかもしれない。人間の首って結構頑丈だし、安価で手に入れられる段ボールって弱いし。

 

「それで、十二個で終わった理由は?」

「だから、部屋の高さが2.2mだから、よ。高さ18㎝の段ボールが十二個。2.16mプラス膨らみのアルファ。これでちょうど一列敷き詰められる」

「……で、何故そんなことを?」

「だからそれがわかんないって言ってるじゃない。動機はわからないのが大前提。そう言ったでしょ」

「犯人の目星はついてるんですか?」

「アナタが付けてるんじゃないの?」

 

 ありゃ。

 流石に所長の推理を聞いている間、ずっと端末を触っていたらバレるか。

 

「事件当時、ホームセンターで毎日のように同じサイズの段ボールを買っていった若い男、黒白砂公園直近のコンビニの前を毎日のように通り過ぎた軽トラの映像、同じく黒白砂公園を行き過ぎた場所にあるパーキングエリアの監視カメラに映っていた軽トラの映像。どっちもナンバー同じです」

「流石有能助手。それで、警察には?」

「所長の推理ごと届け済みです。軽トラの持ち主と若い男の照合も……今終わりました。同一人物ですね、九割。警察はもう事情聴取行く気満々みたいですけど、所長はどうします?」

「勿論突撃よ! わからない部分があると気持ち悪いもの」

「布留川さんになんて謝るか考えといてくださいよ」

「ええ、言い訳を考えるのは得意なの」

 

 それでいいのか天才。

 というのはまぁ、昔所長がお姉さんに何度も叱られていたから。言い訳を考えて考えて、けど全部見透かされて、それでもそれでもと即時即興の言い訳を沢山思いつけるようになったらしい。推理力もその時上がったかもとかなんとか。

 

 車を出す。

 運転中は勿論端末は触りませんとも。安全運転第一!

 

 

 ~2~ "ちゃんと「見て」いてくれたんですね"

 

 

 ついた。

 警察より早く。

 

「上沢成久、二十五歳。アパートに一人暮らし。少し前に異臭騒ぎで大家さんから厳重注意を受けていますね。ゴミを溜め込み過ぎた、とのことですが」

「十中八九死臭ね」

「流石に証拠にはならなそうですが」

「ええ。だから、突撃よ」

「民間人且つ権力者ならではですね、所長!」

「そうよ、使えるものは姉の名でも親の顔でも使うのよ!」

 

 ぴんぽーん。

 ガチャ。これこれこういうものですが。帰ってください。

 

「今時門前払いとは、やるわね」

「まぁ馬鹿正直に探偵です、なんて言ったら警戒しますよ」

「……それで、どう? 憑いてた?」

「はい。ガッツリ」

 

 私と所長が突撃するのはこれが理由だ。

 私が視えるから、顔さえ合わせれば、部屋の中さえ見られたら、もうそれでオッケー。いましたいました、おんなじ顔の子。あと見たことの無い少女十一人。がっつりくっきり恨まれてるネー。

 

「どこにいた、とかまではわかったかしら」

「彼に憑いているのが十一人。美紀ちゃんはいませんでした。彼女がいたのは奥に見えた本棚の隅。隅っこで、彼を物凄い目で睨んでいました」

「……本棚と壁の間は?」

「はい。ぴっちりくっつけられてましたよ。地震対策の突っ張り棒まで使って、執拗に」

「成程、そこに置いてたわけだ」

 

 上沢成久の部屋の前でがっつり喋る。聞こえてても聞こえてなくてもいい。私の声は幽霊にも届くので、とうとう彼を追い詰める存在が来たとも理解してくれるはずだ。

 そうして起こるのは、十二人のポルターガイスト。段々、段々と騒がしくなっていく部屋の中に、くすりと笑う。

 

「あ、でも所長」

「……案外早かったわね。連絡早過ぎじゃない?」

「いやぁ、奏多さんの名前出して調査しまくってたんで、あっちからアプローチが」

「傾向と対策取られてるじゃない」

「スミマセン」

 

 警察だ。

 それなりの台数揃えてきているのは、上沢成久が超能力で会った時の対策だろう。

 

 アパートの二階、その廊下から警察に手を振れば、よく見る警部が苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 

「あ、出てきますよ。そこにいると危ないです、所長」

「どこにいても同じでしょう。雷系の超能力者なんて」

「そうじゃなくて」

 

 ドン、と扉が開く。当然それが当たる場所に私達はいない。いないが、涙目で出て来た上沢成久がコケた先。いや、もう少し正確に言うと彼がコケた事で行き場を失ったお茶碗の、ドアに当たって跳ね返った先に──所長が。

 彼女が「え」とか言ってももう遅い。それなりに重い陶器のお茶碗が、彼女の額に──。

 

「まぁ、そこは有能助手さんが受け止めてあげるんですけど」

「……ありがとう。でも、コレは?」

「ソレはまぁ、捕まえられませんね」

 

 コレ。ソレ。

 一日休日だったのか、夕方だというのにまだパジャマな上沢成久。彼は足をばたつかせて、何度も転びそうになりながら、私達の横を抜けていく。

 

 所長から向けられる目。

 対し、私は首を振る。これだけ警察がいるのだから、捕縛は任せた方がいいだろう。

 

「でもなんかこっちに指を向けてきているけれど」

 

 ──上沢成久の指先。人差し指と中指を合わせた、子供が手遊びに使う拳銃のような形のソレは……バチバチと音を立てて、青い雷を湛え始めた。

 沢山の警察が見ている前で。

 まず、証拠一個目。

 

「上沢成久さん。いいんですか? 警察の前で罪を重ねて」

 

 落ち着いて問えば、「うるさいうるさいうるさい!」とか「僕の家から出ていけ!」とか「死ね!」とか……要領を得ない言葉ばかり。こーれは錯乱していますねぇ?

 顔なじみの警部からは「容疑者をあまり刺激するな!」とかも聞こえてくるけれど、私は、ちゃあんと落ち着いた言葉を使っている。

 挑発なんかしていませんとも。

 

 まぁ──顔はにんまりと笑っているかもしれないけど。

 

「ほら……大丈夫ですよ、出てきても。これが最後になりますから──挨拶しましょうか、お兄さんに」

 

 部屋の中へ手招きをして、そう話しかければ。

 おかしなことに、上沢成久の方が錯乱したように叫ぶ。「誰と話している」「僕を騙す気だな」「殺してやる」、らしい。

 面白い話だ。彼の身体に憑いた十一人は、今にも殺さんとする勢いで彼を睨みつけている。

 そして──本棚の隅から出て来た彼女も。

 

「偉い子、偉い子。ちゃんと「見て」いてくれたんですね」

 

 さぁ。

 彼には、見えただろうか。白い足。自分の部屋から出てくるピンクの長靴。私の手招きする方から出てくる、幼い手。手足。可愛らしい雨合羽。見覚えがあるだろう。無いはずがないだろう。

 腰が抜けている。「ひ、ひ」と。「嘘だ、いや、やっぱり」と。

 何かを見て──上沢成久が怯えている。

 

「さぁ、挨拶しましょう。アナタを殺したお兄さんに、最期の最期のお別れを」

 

 一歩、二歩。

 ひたひた、よたよたと迫って来る少女に、上沢成久はとうとう撃った。人の命を奪える雷を。あるいは大勢の目には、私か所長に撃っているように見えただろう。所長にもそう見えているだろう。

 けれど、あぁ、その雷撃は当たらない。まっすぐ飛ぶはずのそれは何故かアパートの廊下や壁に突き刺さる。

 

「無理しなくて大丈夫ですよ。みんな、それには嫌な思い出があるでしょう?」

 

 上沢成久の後ろ。少女らにそう問いかければ、皆が皆首を振る。

 また一歩、また一歩。

 

 さて、とうとう。

 私と彼女が──彼を廊下の隅まで追い詰めた。

 

 警察が突入してきている。もうすぐ彼は取り押さえられてしまうだろう。

 そうならったら。

 

「そうなったら……復讐が果たせませんよね?」

「うん」

 

 メラりと燃える。パチパチと音がする。しないはずの、何かが燃える音がする。

 上沢成久の背後からもだ。誰にも見えない彼女が、彼女らが燃える音。苦しかっただろう。熱かっただろう。死んだ後で、その身を燃やされる事は。

 

 だから、彼にも。

 

「──ヒ、ィ」

「ご安心ください。煉獄の炎よりか、熱くはありませんから」

 

 断末魔が如き悲鳴が響き渡る。燃えている。燃えているのだ。

 自らが雷撃で燃やした少女に包まれて、彼は骨の髄まで燃え尽きる。

 

「そこまでだ、秋姫!」

「そこまでとは……私、手は出してませんよ?」

「うるさい、そんなことはわかっている! だからどけ!」

「はいはい」

 

 燃えている。まだ燃えている。

 ……けど、そんな音は、そんな火は、警察の皆様方には見えていない。ああいや、霊感のあるらしい女性捜査官が目を覆っているから、彼女には見えているのだろうけど、他の人間には見えていない。

 彼がどれだけ燃やされようと、燃え尽きようと。

 彼の身体は燃えていないし、傷ついてもいない。

 

 ただ彼が燃えたと勘違いして、燃やされたように感じているだけだ。

 

「……証拠は?」

「彼の部屋、本棚を動かして床を調べさせなさい。段ボールの痕跡もそうだけど、彼女らから漏れ出した体液なんかが十分に染み込んでいるはずよ。彼の使った軽トラックも同じ。処分した段ボール……は、流石に難しいか」

「はぁ。外部で証拠が残っていない場合、家を調べるのはそれなりに時間がかかるんだがな……まぁ、お前たちを殺そうとしていたという映像が十分にある。その取り調べが終わるまでになんとかもぎ取るか」

「ええ、それはあなた達の仕事。私達の仕事はここまで」

「なーにがここまでだ。ここに来るのも我々の仕事だ! 余計なことをするな小娘共が!」

「あ、今そういう事言うと」

 

 危ないですよ、という前に、上沢成久の部屋から靴ベラが飛んできて、警部の後頭部にぶち当たる。

 

「……」

「今この子達の拠り所は私なので、私をいじめてるって思われましたね。この子達が憑りつかないように引き留めてあげますから、さ、行ってください」

「……除霊は頼んだぞ」

「はい、勿論」

 

 まぁ、頑固警部さんだけど、こっちがかなりの越権行為をしているのは私達も理解している。というかフツーにやり過ぎだ。

 それなのにこうやって色々譲歩してくれるし、オカルトにも理解が深いから、本当に良い人だと思う。

 彼には見えないはずなのに、そこにいると信じてくれるからね。

 

「あぁ、大丈夫ですよ。あなた達を無理矢理消すとかはしませんから」

 

 不安そうに見上げて来た少女らをあやす。

 十一人の子達の方は今にも消えそうな子も多いけど、そっちを引き留める事はしない。今成仏できるなら、それが一番だろうから。

 

「所長、しばらく……」

「はいはい。じゃ、先帰ってるから。車、いいのよね?」

「ええ、乗って帰ってください。あ、安全運転で!」

「わかってるわ。見えないけど、その子達のことお願いね、真那」

「はーい」

 

 それじゃ、なんて言って。

 あれだけ動機に固執していた、なんならさっきのさっきまで部屋の中をくまなく調べたそうにしていた所長。それが、あっさりと諦めて、「お疲れ」なんて言って後ろ手を振って。

 車に乗って、彼女がこの場から離れた所を確認してから。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 残った七人──湯ノ原美紀ちゃんを含む七人を連れて、歩き出す。

 私の職業は、王寺第二探偵事務所の超有能助手──兼。

 

 凄腕霊媒師さんである。

 

 

 

  ~3

 

 

 

 歩く。歩く。

 星の海を歩く。

 

 はてさて、ここはどこだろう。

 少なくとも現世ではない。ここには自動車のライトも、ビルの灯りも届かない。ただ、瞬く星と、揺れる蛍の光があるばかり。

 

「君の家は、ここだね?」

 

 一人、放流する。

 光はふるふると身を振って、その蛍の光に向かって泳いでいく。

 

「あなたはここ」

 

 一人、また一人と。

 

 残された時間は僅か。もう現世に留まっている力はない。

 だけど、私の力で少しだけ。

 

 夢枕に立つ、という手段を与えてあげる。

 

「美紀ちゃん、君はここ」

 

 星の海。蛍の川辺。

 此岸の蛍は現世の魂。彼岸は星海は勿論、あちらの世。

 満足するまでしっかり話して、ちゃんとバイバイするといい。それが出来るから、君達は上沢成久の身体から離れることを選べたのだから。

 

「うん。大丈夫。ああ、彼? 彼は死んでないよ。殺してあげよっか? あ、いい? そう、わかった。じゃあやめておく」

 

 美紀ちゃんはそれが心配だったらしい。優しいね、自分を殺した相手なのに。

 

 そうして、何度か振り返って。

 けれど美紀ちゃんも──ちゃあんと、家族のところに行く。

 

 じゃあね。またね。

 いつかどこかで、また。

 

 そうして少女らを見送って。

 

 

 ──気付けば私は、黒白砂公園の滑り台で寝転がっていた。満天の星空は、高い木々が少し狭めてしまっていた勿体ない。

 

「ん~……うん。良い目覚め」

 

 さぁて。

 今頃不貞腐れてるだろう所長のご機嫌取りにでも行きましょうか。

 

 

 

 

 

「警察の調べによると、上沢成久は美紀ちゃんを自分の部屋に置いた後から、その段ボールの裏、本棚の隅に美紀ちゃんの亡霊を見るようになったみたいですね。それで、何を思ったか上沢成久は更に少女を殺して、同じ風に段ボールを積み重ねて……美紀ちゃんを消そうとした」

「馬鹿ね」

「はい。それで、けれどどうやっても消えないまま、所長の言ってた通り十二個、部屋の高さ限界まで来てしまって、それでも消えなかったから、彼はようやく少女らを捨てる決心がついた、とか。処分方法は所長の言った通りです。段ボールをそのまま軽トラに積み込んで、顔だけビニール袋被せて、誰も見ていない黒白砂公園の真ん中で雷ドーン」

「馬鹿ね」

「最初に美紀ちゃんを殺したのも、やっぱり暴走だったみたいですね。突然使えるようになった超能力で何ができるかを調べていたところ、すれ違った美紀ちゃんの心臓を止めてしまったとか」

「……それで病院にも運ばずに隠蔽しよう、と思うのが……もう、かける言葉もないというか」

「警察から帰って来た真相はこれくらいです。どうですか、所長。満足しました?」

 

 笑いかければ。

 

 所長は口を尖らせて、言う。

 

「全然。気分が悪くなるだけの、つまらない事件だったわ」

「ありゃ。じゃあ次は、気持ちよくなれる事件探しておきますね」

「どんな事件よ」

「ん-、まぁ、お楽しみで」

 

 とまぁ。

 こんな感じが、王寺第二探偵事務所の日常です。

 

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