メイドです、仕事辞めたい   作:ブラック企業ナザリック

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第10話

 

 

 

 

 

 

「――へぇ、ここって副料理長が管理してたんだ」

 

「はい、曜日と時間によりますが、こうしてヒッソリとやらせていただいています」

 

 ――ナザリック地下大墳墓の副料理長。

 茸生物(マイコニド)という種族で、綽名はピッキー。

 彼は普段は食堂で料理長と共に腕をふるっているが、ショットバーをイメージして作られた部屋でこうしてバーのマスターとして過ごす時もある。

 今日も今日とて、ゆったりとグラスを磨いていたところ、数少ない常連のエクレアが珍しいことに新規客(女2人)を連れてきた。

 1人はあまり見かけない、上層の階層守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンという名の吸血鬼の少女。

 そしてもう1人は、よく見かけるファースという名のメイドだった。

 

「ピッキーってエクレアに呼ばれてるの? 私もそう呼ぼうか?」

 

「お好きにどうぞ」

 

 ファースがカウンターの椅子に座りながら、グラスを磨く副料理長に聞く。

 正直いって、ピッキーという綽名は気に入ってはいるので、呼ぶ者が増えるのは困ることではない。

 そしてバーのマスターとして相応しい返答をした。

 

「エクレアがいつも世話になってるんだって? 大丈夫? 何か失礼なことしてないこのペンギン?」

 

「ちょっと待ちたまえ、何故この私がピッキーに無礼を働くと思ったのかね?」

 

「だってお前、無駄にカッコつけたがるし。カウンターの上でグラスを滑らそうとして割ったりしてるんじゃない?」

 

「…………」

 

 ファースの一言で、彼女の隣に座っているエクレアが完全に沈黙する。

 要するにこれは、図星というやつだ。

 

「いえ、彼には良い話し相手になってもらっているので、こちらとしても有り難いですね――ただ、これ以上グラスを割られるのはご遠慮してもらいたいですが」

 

 ピッキーは少し不満気な声色で言った。

 要するにこれは、本音というやつだ。

 

「――なぁエクレア、今まで割ったグラスの数だけお前の髪の毛抜くのはどうだ?」

 

 ファースはそう言って、隣に座っていたエクレアを拾い上げるように持ち上げ、自らの膝の上に乗せた。

 ――エクレアにとってそれは、死刑執行台に座らされるのと同じだった。

 

「や、やめたまえ! この金色の髪は私の造物主から頂いたもの! たとえ君でもそれを奪うことは断じて――触らないでぇ!」

 

 ファースはいじめっ子のように、エクレアを膝の上で弄ぶ。

 エクレア(本人)にはたまったものではないかもしれないが、側からみれば仲むつまじい友人のような戯れ合いのようにも見えた。

 実際、ピッキーはそう感じた。

 だからこそ、疑問が彼にはあった。

 

「――お2人はどういう()()()なのですか?」

 

 ピッキーの問いに、エクレアを弄っていたファースの動きがピタリと止まった。

 

「…………手間の掛かるペンギン?」

 

「それじゃあ何の説明にもなっていないではないか。ピッキー、私が説明しよう――手間の掛かる師匠だ」

 

 成る程、仲は良いようだ。

 ピッキーは勝手に納得する事にした。

 

「――それで、()()()()?」

 

 ピッキーから見て、ファースから少し離れた左側の席。

 そこには、ファースが何故か背負ってきた階層守護者(シャルティア)がカウンターに顔を突っ伏しながらブツブツと何かを呟き続けている姿が。

 ピッキーが問うと、ファースとエクレアは揃って頭を横に振った。

 

「……まぁ、折角来たんだ。ピッキー、()()()。こちらのレディー2人にも」

 

 話を打ち切るように、エクレアがピッキーに注文をする。

 

「畏まりました」

 

 ピッキーはすぐさま準備に取り掛かった。

 十種類のリキュールを使ったオリジナルカクテル、名をナザリック。

 それを"女扱いするな"と怒るファースと、その彼女に嘴を引っ張られているエクレアの前に。

 それと、突っ伏して微動だにしないシャルティアの前にも置いた。

 ちなみにエクレアのグラスだけ、彼に配慮してストローをさしてある。

 

「――あぁ、相変わらずの美味さだ。これで()()()だというのだから、これからが楽しみだよピッキー」

 

「ありがとうございます」

 

 エクレアがお決まりの感想を言う。

 それを素直に受け取り、精進を続ける事を誓うピッキー。

 

「――どうしたのかねファース、ピッキーのカクテルが飲めないとでも? まさか()()()が『仕事中だから飲めない』なんていう腹ではないだろうに?」

 

 ――そこで、ファースが目の前に置かれたグラスをただジッと見つめているだけで、口を付けない事にエクレアが気が付いた。

 シャルティア? まだ突っ伏しているよ。

 

「いや……お酒って飲んだことないなって」

 

 ファースは正直に答えた。

 ちなみに、夕食に限りだがメイド達の食事にもアルコールは出されている。

 しかしファースは一度も手を出した事は無かった。

 それは特に興味が無かったからだ。

 正直、アルコールよりも優先すべき物(煙草)がファースにはあったからだ。

 

「ほぉ、それは意外だ。ではここで初めてを迎えてしまうと良い」

 

「初めてとか言うな、なんか生々しい――」

 

 エクレアに煽られたのが気に入らなかったのか、ファースは覚悟を決めたように、グラスを掴み一気に――ではなく、舐めるようにチビチビとカクテルを飲み始めた。

 

「…………何か、よくわからないな」

 

 ファースの直球の感想だった。

 美味しくも、不味くも感じない。

 というより、初めての味わいで何と言葉にして良いのかファースには全く分からなかった。

 

「初心者には難しい味だったかな? ピッキー、お淑やかさを何処かに落とした彼女でも楽しめる初心者向けのカクテルを出してくれないか?」

 

「いや、ちゃんと全部飲むよ……」

 

 意地なのかファースは出されたカクテルを少しずつ口の中に含んでいった。

 ――そして完飲する。

 

「……ご馳走様、副料理長――じゃなくてピッキー」

 

「はい、お粗末様です」

 

 ほんの少し頬を赤くしたファースと、飲み慣れていて余裕なエクレアから空のグラスを回収するピッキー。

 シャルティア? まだ彼女のグラスは空じゃないよ。

 

「――()()()()()か、だから十色?」

 

「はい、その通りです」

 

 ファースが突然呟く。

 先程のカクテルの事を指しているのだろう。

 ピッキーはすぐさま肯定した。

 

「ふーん……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――少しアルコールが回っている為か。

 ファースが溢すように言った。

 すると場の空気が静止する。

 ファース以外の誰もが、ファースの言葉の意味の咀嚼に時間が掛かったからだ。

 

「……初耳――というか、どういう意味かなファース?」

 

「え? どういう意味って……ここナザリック地下大墳墓は、元は今より小さくて……至高の御方々によって今のような規模になったって事――」

 

 ――エクレアとピッキーは少なからず衝撃を受けた。

 悪い意味では無い、むしろ至高の存在の強大な力を改めて実感したくらいだ。

 

「このナザリックを()()()()()()()()()()、物凄い戦いだったとか――あぁ、間近で御方々のご活躍、観たかったなぁ」

 

 ファースの瞳が潤む。

 同時に心酔したように何も居ない虚空へ視線を向ける。

 きっと彼女の視線の先には、いと尊き至高の御方々が居られるのだろう。

 

「ふむ……興味深いな。もっと他に良い話はあるのかな? ファース(師匠)

 

 エクレアが嘴を歪ませる。

 自分が知らないナザリックの情報。

 それは彼にとって喉からヒレが出るほど欲しいものだ。

 何故なら、将来ナザリックを支配するのは自分だから。

 

「他に……? うーん――確かナザリックが至高の御方々の手に収まる前、()()()()()()()()()()が――」

 

 ファースは初めてのアルコールで()()()()()()()()

 しかも自覚のないタチの悪いものだ。

 ――だから、普段はスルーするであろうエクレアの言葉に律儀に答えてしまう。

 

「――」

 

 ファースが口を開こうとする。

 

 

 

 

 

「――そんな事よりぃ、ペロロンチーノ様のお話もっとないの!?」

 

 ――いつの間にか覚醒して、グラスも空にしていたシャルティアがファースに抱き付くように絡んで来たことによって、ファースの言葉は中断された。

 

「し、シャルティア・ブラッドフォールン様――お目覚めなようで何よりです」

 

「シャルティアで良いわよ……ひっく」

 

 シャルティアは吸血鬼。

 アルコールによるバッドステータスは受けないはずなのに、雰囲気に酔った――ということだろうか。

 酔っ払いのようにファースに絡むシャルティア。

 

「あら、このペンギンは? 貴女のペット?」

 

「……お初にお目に掛かります、シャルティア・ブラッドフォールン。私はエクレア――あっ! は、離してくれたまえ!」

 

「あははは! 小さくて可愛いー! 握りつぶしたくなるわ!」

 

 ファースの膝の上にいたエクレアに気が付いたシャルティアは、彼の頭を掴んで空中で笑いながらクルクルと回し始める。

 

(……騒がしい、ここはバーだぞ)

 

 急に騒がしくなった店内に心の中で悪態をつくピッキー。

 ――この後、頻繁に来ては酒を要求し、ピッキーにとっては面倒な客となるシャルティア。

 彼はその未来をまだ知らない。

 

 

 

 

 




すいません、体調を崩してしまったので暫く更新止まります。
本当は今回の話も、もうちょっと書くつもりだったけど限界が来ました……
1週間か2週間で戻れたなと思います。
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