メイドです、仕事辞めたい 作:ブラック企業ナザリック
お酒を飲みに来たら、階層守護者のお2人に挟まれる形で飲む事になった。
何を言っているのかよく分かるが、何故こうなったのかだけが分からない。
(何か……圧が凄い。不快感とかは無いけど、何かムズムズする。あとコキュートス様からヒンヤリした空気が来ててちょっと肌寒い)
軽い挨拶をして、先客である彼等の邪魔にならないよう隅っこの席に座ろうとしたら、なぜか引き留められた。
そして彼等の間に座る様に勧められた。
メイドのファースとしては、守護者である彼等の要望は断り難いものだ。
ファースは借りてきた猫のように、身を縮ませながら席に着いたのだった。
「そんなに緊張しないでくれたまえ。折角の酒の席だ、楽しく
「は、はい……」
そう言われても緊張するものはする。
シャルティア相手だとそんなに緊張する事はあまり無くなったファースだが、初見かつ異性、そして見た目にインパクトがありすぎて中々場の空気に慣れない。
カウンターの内側でグラスを磨くピッキーにさりげなく、助けを求める視線を送るが意味はなかった。
彼はひたすらグラスを磨くだけ。
「……え、と。デミウルゴス様とコキュートス様はよく此処へ来られるのですか?」
何か会話をしなければ気不味い。
ファースは当たり障りの無い質問から始めた。
「偶に利用させてもらってるよ。今日はコキュートスの祝賀会――といったところだろうか。彼の勝利を祝ってね」
「……確カニ勝利ハオサメタガ――ウゥム、何トモ言エナイ感覚ダ。結局ハデミウルゴスニ殆ド助ケテモラッタヨウナモノナノダカラ――」
何か思うところがあるのか、デミウルゴスの賞賛を素直に受け止めきれない様子のコキュートス。
何があったのかはファースの知るところではないが、煮え切らないような反応をされると、こう……ファースの中の何かが燻る。
「――
――だから、励ましの言葉を送る事にした。
シャルティアの時のように。
この行動原理を、優しさと呼ぶのか、母性と呼ぶのかファースには分からないが、兎に角元気付けたいという気持ちは紛れも無い本心だった。
「……ソノ言葉ハ――」
ファースの呟いた言葉を、コキュートスは知っていたようだ。
それもそのはず、ファースが言の葉にしたものは、彼の創造主である『武人建御雷様』の御言葉なのだから。
意味は
「ご存知の通り武人建御雷様がよく仰っていた御言葉です。コキュートス様、あの至高の御方々もお互いを支え、助け合ってきたのです。コキュートス様にも頼れる方々がおられる筈ですよ」
「…………」
コキュートスはデミウルゴスの方に視線を向ける。
――彼は笑顔を見せながら、大きく頷いた。
そして役職や地位は違うものの、ファースと副料理長も頷く。
コキュートスの脳裏には、次々と浮かぶ
そしてその奥には偉大なる御方であるアインズの姿。
――そしてさらにその奥には……
「……嗚呼、武人建御雷様――」
噛み締める様に、その尊き御方の名前を言葉にする。
「――助けられた事に、心咎めを感じてしまうのであれば、今度はコキュートス様がデミウルゴス様や、他の守護者の方々の助けになればよろしいのではないでしょうか?」
「…………ソウダナ、ソノ通リダ。キット武人建御雷様モ同ジ事ヲ言ッテ、叱ッテクダサッタダロウ――礼ヲ言オウ、流石ハナザリックノ
「はい、御力になれたようで何よりです」
守護者の方にメイドとして褒められて悪い気はしない。
ファースは素直にコキュートスの感謝を受け取った。
「私からも礼を言わせてもらうよ、ファース。本当に助かったよ、私が何を言っても彼は納得してくれなかったからね」
今度はデミウルゴスがファースに感謝を送る。
感謝を求めたわけではないので、外野からの感謝を予想していなかったファースは少々むず痒い気持ちだった。
「いえ、私は私の出来る事をしたまでで――そういえば、シャルティアはお元気ですか? コキュートス様よりも酷く落ち込んでいたご様子だったので少し心配なのですが……」
ファースはそこでシャルティアの事を思い出す。
ちなみに余程気に入られたのか、本人からシャルティアと呼び捨てで良いと言われたので――というより殆ど恐喝だったが――遠慮なく敬称を外している。
「――シャルティアの事なら心配しなくても良い。まだ気持ちの整理は付いていないようだが、彼女ならそのうち立ち直るさ」
「だといいのですけど……」
結局詳しい事情は聞けず仕舞いだが、あの落ち込み具合は余程の事があったのだろうと感じさせる。
あれから偶にこのバーに顔を出しに来たりしてはいるようだが、残念なことにファースはその場面に出くわす事が出来ずにいた。
「それより、君の方こそ何か悩みがあるのではないかね?」
「え」
どうしてそれを。
ファースは驚きの表情をデミウルゴスに向ける。
「驚く事はない、さっき君がその根拠を言っていたじゃないか」
「あー……」
確かに言った。
辛い事を忘れたくて、酒を求めてきた事を。
「大した事では――いえ、私にとっては大した事なのですが……えぇ、まぁ。禁欲みたいなのをしていまして――」
ファースはそう言いながら、愛用のシガレットケースを取り出してバーのカウンターに置いた。
「ソノ小サイノハ?」
「煙草だよコキュートス」
煙草を知らないコキュートスに、知っているデミウルゴスが教える。
「――君は戦うことが出来ないメイドだ。察するに、能力の向上ではなく嗜好品として使っているのかな?」
「はい、その通りです――」
「つまり何らかの理由で、嗜好品である煙草の使用回数を減らしている、もしくは制限を設けているという事かな? そしてそれに対してストレスを感じ、代替え品として酒に目を付けた――というところかな」
「そ、その通りです」
何だこの守護者様、ちょっと怖い。
こっちが何か言う前に全部言い当ててきた。
しかも殆ど喋ってないのに、僅かな言動と情報でそこまで言い当てられるか普通?
もしかしてデミウルゴス様、あのアインズ様に並ぶくらい頭が良いのではないだろうか。
「――それならば、私達が手伝ってあげよう。コキュートス?」
「ウム」
「え、え?」
ファースは何か嫌な予感を感じるが、逃げるより先に彼等が動いた。
「場所を移動しよう、こういう時はバーより
「世話ニナッタ、マタ来ヨウ」
「はい、お待ちしております」
ピッキーが退店する客に挨拶をする。
「あ、あの……私まだそんなにお酒は得意じゃなくて――」
「安心したまえ、初心者を酒の席で潰す様な真似はしないさ――その代わり、君から
デミウルゴスの眼鏡の煌めきが、ファースを捉える。
その煌めきにファースは、命の危険は感じないものの、何か厄介事に巻き込まれる様な感覚に呑まれる。
「は、話とは……?」
「なに、
「閲覧許可……? あの、どういう――」
ブンブンと尻尾を揺らすデミウルゴスは、もはや聞く耳持たずだった。
「ムゥ……武人建御雷様ノ事モ聞キタイナ」
ファースが何か言う前に、守護者2名に強制連行されるファース。
ちなみにもはや本能なのか、カウンターに一度置いたシガレットケースはしっかりと回収してあった。
「……」
急に静かになったバーで、副料理長は未だにグラスを磨く。
「――やぁピッキー、今日もこのエクレアが来た……どうかしたかね?」
「いえ、あなたの師匠が無事に帰ってくる事を祈っていただけですよ」
「……?」
ほら、まだ客は来るからだ。
願わくば、彼が今日最後の客であって、あの吸血鬼の娘が来ない事を。
気紛れ投稿なのに最近3日毎に更新できてるのはマグレですねはい。
ちなみにプロットだけなら、11巻らへんまでできました。
11巻らへんになるとファースちゃんがパワードスーツを着てドラゴンを薙ぎ倒します(嘘