メイドです、仕事辞めたい   作:ブラック企業ナザリック

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第17話

 

 

 

 

 

 

「――おはようございます、アインズ様」

 

「あぁ、おはようファース」

 

 今日はきっと、記念日になる。

 何故なら、記念すべきアインズ様当番の始まりの日だから。

 

 

 

 

 

 二日酔いはなかった。

 朝もちゃんと起きられたし、身嗜みもいつも以上に気を遣った。

 朝食も普段より多めに食べてきたし、食後の一服には上手に錬成できた質の良い煙草を景気付けに使った。

 メイド服もいつもは動き易いミニスカートタイプを着ているが、心機一転も含めて踝くらいまで丈があるロングスカートタイプを。

 一応下着も、勝負下着なるものを履いてきた。

 とにかく、全てを万全に。

 ファースは全力だった。

 

「休日はどうだった? 楽しめたか?」

 

「はい、実に充実した休日でした」

 

 アインズがファースに訊ねると、彼女はそう答えた。

 言葉通りなら何も問題はない。

 しかしアインズはそこで終わらせはしない。

 もしかしたら、アインズという上司が"楽しめたか"と聞いたら、"はいそうです"と実はそんな事はないのに、答えている可能性があるかもしれないからだ。

 

「ふむ、良ければどんな過ごし方をしたのか教えてはくれないか?」

 

「構いませんが……アインズ様には退屈なお話になるかと――」

 

「構わん、幸いアルベドもまだ来ない。つまり私の仕事もまだ始まらないのだ」

 

「成る程、承知致しました」

 

 そう言ってファースは、事細かく休日の動きを説明し始めた。

 大まかに纏めると、朝起きてすぐに朝食、喫煙所、昼食、昼寝――そして、デミウルゴスとコキュートスと酒を酌み交わして……

 

「……え?」

 

「? 何か御座いましたか……?」

 

 ファースがアインズの呟きに、何か粗相でもしたかと心配そうにする。

 

(……デミウルゴスとコキュートスと何で酒を? 待て待て、何か想像が付かないぞ! え? 酒を酌み交わす程仲良いのか!?)

 

 自分の知らない所で、守護者2人とメイド1人が酒を酌み交わしていたらしい。

 しかも相手が相手というか……

 

「――いや、仲が良いようで何よりだ。デミウルゴスとコキュートスとはいつからの付き合いなのだ?」

 

「はい、昨日初めてお会いしました」

 

(昨日かよ!? 出会ってすぐ意気投合したってこと!?)

 

 アインズの精神が沈静化される。

 

「アインズ様……?」

 

「い、いや、何でもない――ちなみに聞くが、他の守護者とも交流を持っていたりするのか?」

 

 アインズは沈静化されても、再び湧き上がってくる困惑に耐え切れず、つい聞かなくても良い事を口にする。

 その場凌ぎの質問というやつだ。

 

「他の守護者の方ですか? ――シャルティアからは一応、友人扱いさせて頂いてますね」

 

(え!? シャルティア!? しかも呼び捨てで呼べる程!?)

 

 アインズの精神がまた沈静化される。

 

「――そ、そうか……私は嬉しいぞ。肩書きや地位に関係なく、お前達が手を取り合う姿を見るのは」

 

 思わず本心が出た。

 アインズはファースの交友関係の事実に振り回されながらも、動揺は必死に隠した。

 

「ありがとうございます。私も今までお話でしか知り得なかった方々と、こうして直接交流出来るのは嬉しく思います」

 

 ファースもまた、本心で語った。

 

(うーん……確かに考えてみると、階層がいくつもあるせいで、同じナザリックに居るのに交流が全く無いのは少し問題か? 何かイベントでも企画して、交流会のようなものを開いてみるか)

 

 驚きはしたが、ナザリックのNPC達が互いに仲を深めるのは悪い事ではない。

 今度NPC達を集めて、何かイベントをする計画を頭の片隅に置くアインズ。

 

「……あの、アインズ様」

 

「ん? どうかしたか?」

 

 アインズが思考に耽っていると、ファースがおずおずとした様子を見せた。

 もしかして、勤務が始まる前に一服したいとかだろうか?

 

「アルベド様がお越しになるのは、もう少し後ですよね?」

 

「アルベド? あぁ、その通りだ」

 

 一応アルベドと仕事をする時は、決めた時間に始める事にしている。

 そうする事で、アインズにアルベドと仕事というプレッシャーに対する覚悟の準備をする時間が生まれるからだ。

 

「――でしたら、是非アインズ様にお願いしたい事があります」

 

「ふむ? ……言ってみろ」

 

 何をお願いされるのか、アインズはファースの言葉を待つ。

 

「――アインズ様がその、宜しければ……()()()()()()は如何でしょうか!?」

 

「……ドレスアップ?」

 

 アインズは聞きなれない単語に首を傾げる。

 

「はい! アインズ様は普段のお格好でも充分に素晴らしいのですがやはり偶には御召し物を変えても問題はないというか支配者としてのアインズ様の素晴らしさが埋もれてしまっているように感じますなのでドレスアップをした方が良いというか是非させて欲しい――」

 

「あ、あー分かった! 要は着替えだな? 着替えをして欲しいという事だな?」

 

「はい!」

 

 目をキラキラさせて、物凄い剣幕で早口で語るファースを一度止める為に、アインズは奇跡的に聞き取れた内容を口にした。

 

「――えー……記憶違いでなければアインズ当番にドレスアップの項目は無かった筈だが?」

 

「はい、その通りで御座います。実は昨夜デミウルゴス様達と話している中、そのような話題が出まして――アインズ様さえ宜しければ、是非取り入れて頂きたく……」

 

 アインズは考える。

 着替え――正直に言って、アインズには必要のないものだ。

 骨の身体故に、老廃物は出ない。

 魔法のローブ故に、皺も出来ない。

 ナザリック内及びアインズの自室は定期的に掃除されているし、汚れる要因が無い。

 

(しかし考えてみれば、毎日同じ服を着てるというのは変なのか……? 会社に行く為に着ていくスーツだって、最低でもネクタイは毎日違う柄にした方が清潔感があるって聞いた事あるし)

 

 意味はないかもしれないが、無駄ではない。

 しかし問題がある。

 

(俺……服のセンス無いんだよな。変に似合わない格好したら、笑われる――いや、多分誰もあえて指摘しないだろうな!)

 

 例えアインズが変な格好をしても、ナザリックのシモベ達は忠誠心故に何も言えないだろう。

 

「……そうだな、確かにお前のいう事にも一理ある」

 

「で、では!」

 

「あぁ、折角お前もいつもと違うメイド服を着てきたようだし、私も偶には気分転換をしよう――コーディネートは()()()()()()?」

 

「――も、勿論で御座います! 精一杯やらせて頂きます!」

 

 ではどうするか?

 アインズは結論をすぐに出した。

 そう、()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの時間、アルベドはアインズの部屋の前に着いた。

 何処か変な所が無いか、身嗜みをチェックしてから扉をノックする。

 いつもなら、愛おしいあのお声で"入れ"と言われてから扉を開ける。

 しかし今日は違う。

 アルベドが何もせずとも、扉が勝手に開かれた。

 

(……このメイドが)

 

 開かれた扉から、茶髪のメイドが顔を出した。

 アインズ様当番の記念すべき初めてのメイド、ファースだろう。

 何人かのメイドの顔は覚えているアルベドだが、目の前のファースは初見だった。

 おそらく今まですれ違う事すら無かったのだろう。

 

「――守護者統括、アルベド様ですね? アインズ様がお待ちです。どうぞお入りください」

 

 ファースがアルベドの存在を確認すると、中に誘うように扉を開けた。

 

「ありがとう」

 

 アルベドは一言そう言ってから、中に入った。

 もう少し目の前のメイドを観察したい気持ちもあったが、今はアインズ様に挨拶する事が優先。

 中にはアインズを警護するシモベが何匹か。

 そして執務机には、いと尊きあの御方がいつものように――

 

「――――――」

 

「おはようアルベド――ん? どうかしたか?」

 

 アルベドは言葉を失った。

 それは何故か?

 理由は明白、目の前のアインズが、いつものアインズではなかったからだ。

 

(いつものお召し物ではない……!? あ、あぁ、いつもはフードでお隠れになっているアインズ様の頭部があんなにハッキリと……!)

 

 アインズはいつものローブを着ていなかった。

 色合いはいつもの同じような黒を基調としたものだが、形や装飾がまるで違う。

 どちらかというと、ローブというよりコートのような格好。

 いつもは開いていて、その美しい肋骨がお見えになるが、今回はキッチリと閉まっている。

 何故だろう、普段見慣れているものが隠れているとドキドキするものを感じる。

 そしてフードが付いていない為か、こちらはいつもは隠れ気味のアインズの頭蓋骨が、逆にオープンに。

 これは素晴らしい、実に良い。

 アルベドは静かに噛み締めるように興奮する。

 

「……アルベド?」

 

「はっ……失礼致しました。つい見惚れてしまって――」

 

「そうか? つまりこの格好は似合っているという事かな?」

 

「は、はい! とても良くお似合いです! 勿論アインズ様であればどんな格好をしていても似合ってしまうとは思うのですが!」

 

「う、うむ。気に入ってくれたようで何よりだ――ファース、お前にも礼を言おう。どうやらファースに任せて正解だったようだな」

 

「――お褒めの言葉、ありがとうございます」

 

 主人のその言葉に、アルベドは背後で控えていたメイドに視線を向けた。

 そこには主人の言葉に感謝し、頭を下げるメイドの姿。

 どうやらファースなるメイドが、アインズのドレスアップをしたようだ。

 

(センスは良いみたいね……一応感謝しとくわ)

 

 内心でメイドにグッドサインを送りながら、アルベドはアインズに向き直った。

 

「――それでは、今日の仕事を始めるとしよう」

 

 アインズが宣言する。

 これよりアルベドの至福の時間が始まる。

 ……いつもより1人、増えているが些細な問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……アルベド様からしたあの香り――)

 

 ファースはアルベドがつけている香水のような匂いに覚えがあった。

 それを確信にしたい気持ちもあり、丁度用意しようと思っていたある物で確かめる事にした。

 

「――アルベド様、紅茶かコーヒーは如何ですか?」

 

「……コーヒー? 紅茶は知っているけど、コーヒーというのは何かしら?」

 

 ――飲み物を用意するのもメイドの仕事。

 料理に関するスキルはファースにはないが、メイドなのだから主人や上司、客人などにお出しする為の作法は一通り知っている。

 ちなみにアインズに聞かないのは、主人が飲食不要なアンデッドな為。

 一応アルベドが来る前にお出しするか聞いたのだが、不要だと言われてしまった。

 少し残念だが、幸いにもアルベドはアインズとは違い普通に飲食が可能な方。

 ファースは自分や他のメイドに披露するのは初めてな技術に、内心期待も込めてアルベドに聞いた。

 すると意外にも、コーヒーの存在を知らない様子を見せた。

 

「そうですね……いざ説明するとなると難しいですが――紅茶とはまた違った味わい、クセがあるので人を選ぶ飲み物ですかね。メイドの中にも、コーヒーを好む者もいれば、苦手な者もいますので」

 

「コーヒーか……私もかつて――いや、仲間たちにもコーヒー好きが何人か居たな。眠気を飛ばし、頭がスッキリするぞ」

 

 すると意外にも、アインズ様から付け足しの御言葉が。

 主人であるアインズにもそう言われ、興味が湧いたのかアルベドはファースにコーヒーを淹れるように頼んだ。

 

 ――そうして数分後、アルベドの目の前に黒い液体が入ったカップが。

 それと、砂糖とミルクが入った容器も。

 

「苦味がある飲み物ですので、お好みで調節して下さい」

 

「分かったわ」

 

 アルベドは先ず、どの程度の苦味なのかを知る為に何も入れずに一口。

 そして、その美しい顔を一瞬くしゃりとさせる。

 

「……確かに、人を選ぶわね」

 

 そうして砂糖とミルクを入れ始める。

 

「……ふふっ」

 

「アインズ様……?」

 

 すると、突然アインズから抑えるような笑みが溢れた。

 不思議に思ったアルベドが首を傾げる。

 

「いや、すまない。お前の珍しい顔が見れたと思ってな。苦いのは苦手か?」

 

「い、いえ……苦手ではありませんが、少し驚いただけでして――」

 

 アインズの言葉に、顔を赤くしてモジモジするアルベド。

 ――その2人のやり取りを見て。

 さらにコーヒーを机に置いた時に、さり気なくアルベドから香る匂いをもう一度近くで確認した。

 間違いなく、以前アインズ様のベッドからした匂いと同じだった。

 これらの情報から導き出される答えは1つ。

 

(成る程……アインズ様とアルベド様は――()()()()()()()!)

 

 不思議なことでは無い。

 守護者統括という地位に居られるアルベド様であれば、アインズ様の正妃に相応しいだろう。

 

(まだ式典とかはしないのかな? いや、ナザリックが慌ただしい中、そんな暇は無いってことなのか……)

 

 もしくは、お世継ぎが出来てからだろうか?

 どちらにせよ、個人的には楽しみだ。

 御世話係とか、是非やらせてもらいたい。

 

 

 

 

「――そろそろ休憩を挟もう」

 

 暫くして、アインズ様がお決めになられた休憩時間が来た。

 この時間になると、アインズも含めてこの部屋にいる者は一時的な休息を取らねばならない。

 アインズはアルベドやファース、警護のシモベ達にちゃんと休憩するように今一度告げた後、部屋の奥のベッドルームへと入った。

 休憩時間の間は、主人の許可が無い限り中には誰も入れない。

 もしかしたらアルベド様は特別に一緒に入られるかとファースは予想したが、今日は違うのかこの時間ではないのか、執務室に残られていた。

 ファースはせっかくの機会だからと、軽く一服しようとしていた予定を取り止めて、アルベドと会話する事にした。

 

「――アルベド様」

 

「……何かしら?」

 

 少し警戒したような声色。

 休憩中に話し掛けられるのは苦手なタイプなのかもしれない。

 しかし今のファースはその程度では引き下がらない。

 

「――式典のご予定などは決まっておられますか?」

 

 ファースの質問に、アルベドは心当たりが無い様子を見せる。

 少々言葉が足りなかったかと、ファースは続けた。

 

「アインズ様とアルベド様の、()()()の予定です」

 

 ファースがもう少し具体的に言うと、時間にして数十秒。

 アルベドが呆けたような、ポカンとした表情を見せた。

 ファースがアルベドの様子に、どうしたのだろうと疑問に思っていると、再起動したアルベドがようやく口を開いた。

 ――かなり興奮した状態で。

 

「え、そ、そんな……もうやだわ、もしかしなくても応援してくれてるのかしら!?」

 

「? はい、アルベド様であればアインズ様に相応しいと思いますが――」

 

「ッ……! えぇ、えぇ! 貴女もそう思う? そう思ってくれるのね! くふふふふ!」

 

 何故こんなにも興奮なされているのだろうか?

 ファースは首を傾げるが何も言わなかった。

 

「そうね、結婚式! 本当は今すぐにでもしたいのだけれど――大掛かりな計画の途中だから、それが終わってからになるかしら! 勿論、アインズ様がお望みならばいつでもしますけど!」

 

「そうなのですね、ではその時が来るのを楽しみに待つと致しましょう」

 

 なに、楽しみが後になったと思えば良い。

 

「ちなみに貴女は男の子と女の子どっちが良いと思うかしら?」

 

「そうですね……私は欲張りなので、どちらも望ませて頂きます。双子でも兄弟姉妹でも……アルベド様には御負担になってしまいますが」

 

「そんなの負担になんてならないわ。アインズ様の為なら幾らでも産むわ。あ、服も今は5歳程度まで想定して編み終えているのだけれど――」

 

 ――そうして、休憩時間が終わるまでアルベドは将来を語り尽くし、ファースは大人しくそれを聞き入れた。

 

 

 

 

(――何かアルベドとも仲良くなってない? コミュ力高すぎる……!)

 

 執務室に戻ったアインズは、本日3度目の沈静化を味わった。

 

 

 

 

 




どうでも良い情報ですが、ファースは普段ガーターベルト付けてます(描写忘れ
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