メイドです、仕事辞めたい   作:ブラック企業ナザリック

2 / 28
Q 男勝りとかいう設定いる?

A 許せサスケ、性癖なんだ


第2話

 

 

 

 

 

 ファースは基本的に一人での作業を好む。

 別に集団行動が嫌いなわけではない。

 一人での作業の方が気が楽だし慣れているからだ。

 メイド長もファースの気持ちを理解している為、特にその点について追及された事はない。

 

「……そろそろ吸いたい。よし、あそこまで掃除したら吸いに行こう喫煙所(楽園)まで」

 

 ファースが休憩(自主的)までの目安を決めると、その作業スピードが僅かに上がる。

 これなら後5分ほどで休憩(自主的)に行けるだろう。

 目標、褒賞が決まれば自然とその手も速く――

 

「…………」

 

 ――なろうとしたその手を止め、清掃道具ごと通路の隅に寄った。

 そして顔を伏せるくらい、腰を曲げお辞儀をその場でする。

 

 

 

 

「――ご苦労」

 

 ――()()()()だ。

 ファースの目の前を、至高の四十一のまとめ役にして、()()()()残って下さった偉大なる支配者『モモンガ』様が通りかかった。

 そんなモモンガ様から重圧のような、それでいて慈悲深さを感じさせる声で労いの言葉が掛けられるが、顔も上げず声も出さない。

 労いの言葉はとても嬉しい、嬉しいのだがそれに大袈裟に反応してはメイドの名折れ。

 え、仕事辞めたいとか言ってるだろうって?

 それは……メイドとしての誇りはあるっていうか捨てたくないし――

 兎に角、掃除くらいしか役に立てない自分を労ってくれる主人――『モモンガ様』の慈悲深さを心でそっと噛み締め、主人が通り過ぎるのを気配で探りながら待った。

 それがいつもの日常。

 通り掛かる至高の四十一の方々の邪魔をしてはならないと、生まれた時から定められたプログラム(規則)だ。

 

「…………ふむ?」

 

 ――しかしどういうわけか、モモンガ様は立ち止まった。

 そして通り過ぎようとした脚を、わざわざ自分の眼前まで戻してまで。

 

「……()()()()()?」

 

 ドキリとファースの心の臓が跳ねた。

 

(臭いのケアが不十分だった……? でも今日はまだ5本しか吸ってないし……いや、モモンガ様を――あ、今は『アインズ』様と名乗られてた! アインズ様を御不快にさせたのなら謝罪をしなければ……!)

 

 思考を加速させファースは最短で結論を出す。

 

「――も、申し訳ございません。御不快でしたでしょうか?」

 

 本来は主人(アインズ)が許可を出すまでは、声を上げてはならないのだろう。

 しかしファースはさらなる不敬を覚悟して、自分から喋り出した。

 このまま謝罪できぬまま不敬罪になるよりも、せめてキチンと謝罪をしてから罰を受けたかったからだ。

 

「あ、いや別に……んん"、そんな事はない。私はお前に対して何ら不快感を抱いてはいない。少し……そう、()()()()なと感じてな」

 

 ――何と寛大なのだろう。

 流石は至高の四十一人のまとめ役。

 流石は最後まで私たちを()()()()()()()御方だ。

 しかし……

 

「懐かしい……ですか?」

 

 疑問のあまり、つい言葉にしてしまった。

 口にしてからハッとするが、出してしまったものはもう戻せない。

 出来るとしたらそれは至高の方々だけだろう。

 

「昔は俺も吸って――いや、私も嗜んでいた時期があってな」

 

「……アインズ様が、ですか?」

 

 それは意外だ。

 というかアインズ様はアンデッド。

 肺も呼吸器もないのにどうやって……?

 まぁ、アインズ様は特別な存在。

 きっと自分には想像もつかない方法なのかもしれない。

 

「煙草は頻繁に吸うのか?」

 

「は、はい。休憩中に吸わせてもらってます。1日で大体――」

 

 ファースは正直に自分が1日に吸う煙草の本数をアインズに告げた。

 

「―――それは、本当か?」

 

「本当ですが……」

 

 しかしアインズ様は疑いの眼差しを向けてくる。

 

「いや超が付くほどのヘビースモーカー……うゔん、その何だ――煙草を止めろとは言わないが、少し控えてはどうだ? 体に悪いぞ」

 

 ――アインズ様の言葉に思わず涙腺が緩む。

 まさか偉大なる主人が、メイドの自分如きを心配してくれるとは思いもしなかった。

 

「な、泣くほど嫌なのか?」

 

「い、いえ……アインズ様にご心配を掛けさせたのが心苦しくもあるのですが――その、同時に嬉しくて」

 

 これ以上アインズ様に醜態を晒すわけにはいかない。

 ハンカチで涙を抜き、気合いで緩んだ涙腺を引き締める。

 

「――ご安心くださいアインズ様。1日の終わりに喫煙による悪影響は完全に除去しております。明日には綺麗な肺に戻っておりますゆえ」

 

「うん、それでまた真っ黒にするのか――」

 

「しかしアインズ様の御心遣い、しっかりと受け止めさせて頂きます。今日から十本ほど煙草の本数を減らします!」

 

「十本じゃ焼け石に水っていうか――い、いやすまないな。私の余計なお節介を聞いてくれて」

 

「いえ! 気に掛けてくださりありがとうございました!」

 

 ――そうしてアインズ様は通路の向こうへと歩いて行かれた。

 そういえば何故アインズ様はお一人で歩いていらっしゃるのだろうか?

 供回りも居なかったようだし……

 

「……きっと何か理由があってだよな。はー、アインズ様かっこいい――他のメイド達が騒ぐのも理解できる。分かりみが深い」

 

 アインズ様に支配されたい。

 それが一般メイドの間で普及しているアインズ様像だ。

 

「それにしてもアインズ様も喫煙なされてたとは……一緒に吸ってくれないかな。いや恐れ多いのは解ってるけど」

 

 ファースの脳裏には、同じ場所で隣同士煙草を吸う自分とアインズ様の姿。

 何とも素敵な光景だ。

 そうまさに、()()()のような――

 

「――あー、折角涙が引っ込んだのにまた出てきそう。うん、思い出すの中止」

 

 ――ファースはアインズ様との妄想をキッカケに思い出し始めた()()()()()の再生をストップした。

 良い思い出なのは確かだが、精神衛生上よろしく無い。

 踏ん切りが付いた時、幾らでも再生させよう。

 

「よし、気合いも入ったし仕事がんば――るのはまた今度にしよう。はぁ、仕事めんどい。何かこう、呼吸してるだけで至高の御方々の役に立つ能力に目覚めないかな」

 

 不敬な考えだなぁ。

 そう自分で分かっていながらも、ファースは今日も愚痴を1人で溢す。

 

 

 

 

 

 

「――メイドも煙草とか吸うんだな。何かイメージ無いけど……これがギャップ萌えってやつですか? タブラさん――」

 

 

 

 

 

 




誤字脱字報告ありがたいです……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。