メイドです、仕事辞めたい 作:ブラック企業ナザリック
「昼飯の時間だ、食堂にいくぞ」
時刻は昼時。
ファースはツアレの研修をキリの良い所で終わらせ、有無を言わさぬ勢いでツアレを食堂に連れて行った。
聞けば食事はいつも借りている部屋で1人――もしくはセバスと共に取っているそうだ。
――別に気を利かせたとか、そういう事ではない。
わざわざファースがツアレの食事の習慣に付き合う義理もない。
それに大量の料理を部屋に運び込むのは手間だ。
なので、今回ファースは自らの土俵にツアレを立たせる事にした。
「何か食べたいのある? リクエストがあれば料理長に多少融通してもらえるけど」
「な、何でも大丈夫……です」
何でもが1番困るんだよなぁ。
ファースは心の中で呟きながら、ツアレを先に席に座らせ、彼女の分の料理を適当に見繕い始めた。
軽くではあるが、セバスからツアレの
そのことを踏まえると、重いメニューよりは胃に流し込みやすいものが良いだろう。
(……そういえば、人間ってどのくらい食べるんだ?)
以前、人間の家族を招いた時確か食事を出していた筈だが、ファースはネムの付き添いを終えた後すぐに通常業務に戻ってしまった為、どんなメニューが出されたのかを知らない。
――とりあえず、自分の半分……いや、四分の一くらいだろうか?
足りなかったら、後で足せば良いだろう。
「――ご、ごめんなさい。食べ切れないです……」
――そして、ファースは衝撃を受けた。
え、人間ってそんな少ない食事で良いの?
一般メイドのおやつの量よりも少なくない?
……いや、
私たちが
(……いやいや、何でナザリックの外の人間を基準に考えてるんだ。別にこの量が私たちの普通――)
ファースは目の前の自身の料理を視界に入れながら、思考する。
――そして唐突に
あれはそう……謹慎前のメイド長と廊下ですれ違った時のことだ。
『あれ、メイド長? そのワゴンは?』
『外で仕事をなされている、アウラ様の昼食です。あ、ワン』
『……少なくないですか? 絶対足りませんって』
『えぇ、貴女たちからすればそうね……ワン。けどハンバーガーに付け合わせのピクルス2本、皮つきフライドポテトにコーラ――これがアウラ様のご要望だワン』
『へぇ……昼食はあまり食べない方なんですね』
『…………』
『? 何か笑い堪えてません?』
『そんな事ないワン』
「――なぁ、ツアレニーニャ」
ファースは震えた声で、ツアレに問い掛ける。
「セバス様は、普段どのくらいお食べになる?」
ツアレはその質問に、嬉しそうに自らの手料理をセバスに振る舞った時のことを語る。
――量は、ツアレとセバスの2人分だけ。
しかも、
(もしかしなくても……ナザリックでも
ナザリックの一般メイドは、種族ペナルティで食事量の増加がある事は皆、自覚している。
ファースもそうだ。
けれど、他のナザリックの食事が必要な住人たちより
「大丈夫ですか……? ファース様――お顔色が少し……」
「大丈夫、何でもないから。あと様付けはやめてくれ、柄じゃない」
実際、何でもない事だろう。
別にファースたち一般メイドがこれからの食事の量を減らす必要も無い。
単純に、自分たちが思っている以上に、
ただそれだけの事実確認。
「…………少し減らすか?」
――なんて事はない。
ただほんの少し、恥ずかしいだけだ。
「――ではそのように」
「……あぁ」
アインズは若干の不愉快を覚える。
原因は、デミウルゴスが提案した計画だろう。
――誤解が無いよう言うと、デミウルゴス自身に不快感を覚えているわけではない。
正確に言えば、その計画に非の打ち所がないという現実に対してだ。
アインズが少し我慢すれば、おそらく何の問題も無い計画。
今後のナザリックにとって、とても有意義なものになる計画。
それを個人的な感情で、良案を台無しにしてしまうのは愚者もよいところだ。
だからアインズは、大人しく受け入れた。
代案があればまだ何とかなったかもしれないが、残念ながらアインズの頭脳ではデミウルゴスやアルベドには敵わない。
(――分かってはいるけどさぁ……ナザリックにわざわざ侵入者を招くなんてな)
それは、仲間たちと共に作り上げたナザリックに、土足の泥棒をわざと招く行い。
アインズとしては、反対だった。
しかし了承するしかない。
だからアインズは不愉快だった。
「――アインズ様」
「――どうしたデミウルゴス、まだ何かあるのか?」
アインズが思考に耽っているところを、デミウルゴスの声で現実に戻される。
彼の言葉を聞き逃すのは、もう絶対にしたくないと決めたアインズはデミウルゴスの言葉を待った。
アインズは世界征服を望んでいる――なんて盛大な誤発注のような出来事はもう避けるべきだろう。
「はい、1つだけアインズ様に直接御確認したい事がございます」
「ふむ、言ってみろ」
どうか俺でも答えられる内容でありますように……
アインズは必死に願った。
「今回の計画――ナザリックの防衛テストとも例えられますが……第九階層のメイドたちはどう致しましょう?」
「…………?」
アインズの頭には疑問。
デミウルゴスから――おそらく一般メイドたちのこと――第九階層のメイドたちはどうするか。
そう聞かれて、答えるべき言葉がすぐには出てこなかった。
(――あぁ、戦えないレベル1の者たちをどうするかってことか。確かに今回の計画で彼女たちの出番はないだろうし、第九階層まで侵入者を誘き寄せる事は絶対にしないからな)
第九階層はある意味、ギルドメンバーたちの思い出の宝庫。
例え計画、実験の一環だとしても第九階層を今回使う事はアインズとしては絶対に反対だ。
しかし、何事にも例外はある。
アクシデントが起きてからでは遅いのだ。
もしかしたら、本当に万が一でも第九階層にまで侵入してくる輩が居るかもしれない。
となると、費用は想定額より膨らんでしまうが、第九階層も普段より警備を強化すべきだろうか?
「やはり護衛に適任なシモベを幾人か……最悪の場合も考えて彼女――
「…………ん?」
アインズは再び頭に疑問を浮かべる。
何故今ここで、あの茶髪のメイド――ファースの名前がデミウルゴスから出たのだろうか?
もしかして、以前一緒に酒を交わして特別な感情でも出来たのだろうか。
ちょうど今、セバスもツアレニーニャという人間と良い感じの雰囲気になっているし……
「――それなら、手の空いている守護者全員でファースの護衛をするのはどうかしら? 少し切り詰めれば、交替制とかでも――」
「なるほど、確かにアルベドの言う通りだ。守護者数名でローテーションすれば――」
そしてまさかの、アルベドからの支援砲撃。
(え、アルベドも気に入ってるの? 確かにこの前仲良さそうに歓談してたし――いやいや、それにしたって2人の反応は過剰だ……これはもしかして)
そう、もしかしてだ。
流石にアインズとて学習する。
この流れには覚えがあると。
アインズは確かめるべく、口を開いた。
「――アルベド、デミウルゴス」
「「はっ」」
「先ずはお前たちの口から直接確認しておきたい――ファースはお前たちにとって
アインズの問い掛けに、先ずはデミウルゴスが答えた。
「はい、絶対に失ってはいけない存在です。彼女のナザリックや至高の御方々に関する知識はまさに至高の宝。まさにナザリックの歴史書に相応しいです」
「――アルベド」
「はい、ナザリックの全てとも言える彼女を、普通のメイドのように仕立てるその手腕――まさに素晴らしいかと。それと……えぇ、
――アインズは意味深に、成る程と呟く。
"あぁーまた盛大な勘違いが起きてるよ"
アインズの率直な感想だった。
幸いなのが、今回はアインズ本人に対する過度な期待や盲信の類ではないというところだろうか。
経緯や細かい事情は分からないが、どうやらアルベドたちにとって、あのファースというメイドの価値が異常なまでに高まっているようだ。
まるで第二のアインズだ、なんと憐れ。
(……歴史書か、あながち間違いではない気がするけど)
確かに、白状すればアインズとしてもファースというメイドは、他のメイドに比べれば特別な存在だと感じるだろう。
おそらく、贔屓になってしまうが――もし一般メイドの中で1人だけしか選べない。
そんな状況になったら、今のアインズならばファースの名を出すだろう。
(どうするか……勘違いを訂正した方が良いかもしれないが――具体的な情報が足りないせいで何とも言えない)
アインズは悩んだ末に結論を出した。
心の中で、ファースに謝りながら――
「――そうか、ではあえてお前たちに任せよう。私の指示無しで、ファースを……ナザリックの至宝を護れるかな?」
まじかよ放り投げやがったアインズ様のファン辞めます(離叛