メイドです、仕事辞めたい 作:ブラック企業ナザリック
――平穏は突然崩れるものだ。
いや、そんなに大袈裟なものではない。
今日はそう、単なる
少なくとも、そう聞かされている。
朝礼の時に、今日はいつもより早めに業務を切り上げ、第九階層に住まうメイドたちは各自の部屋で待機という命令。
どうやら、ナザリックに侵入者が入ってきたことを想定した避難訓練らしい。
夜勤の仕事も無し、何とアインズ様当番も今日は一時停止。
ちなみに今日の当番を楽しみにしていた一般メイドは、絶望していた。
「…………」
仕事がいつもより早く終わり、自由時間が増える。
当然、他の一般メイドからは不満の声。
ファースは喜んだ。
合法的に自由時間を満喫出来るのだから。
「……あー、シャルティア?」
「どうかしたでありんすか?」
――何故か部屋に一緒に居る、
「いや……何で私の部屋に居るのか気になるけど、とりあえず座れば? その重苦しい鎧も脱いで――」
しかも何故か、シャルティアはいつもの服装ではなく、真紅の鎧を装備していた。
部屋の隅には、彼女の武器らしいスポイトランスがいつでも手に取れる位置に立て掛けてある。
まさに、完全武装という言葉が今の彼女に相応しいだろう。
ちなみに、本人から許可を得ているので、遠慮なくファースは素でシャルティアに接している。
「いえ、この鎧は脱がないわ。やっと訪れた名誉挽回のチャンス――本気でやらなきゃペロロンチーノ様のお顔に泥を被せてしまうわ」
廓言葉を付け忘れているところを見るに、どうやら言葉の通り本気なようだ。
「――それと、わたしが部屋の中に居るのは仕方なく。コキュートスとペアなのだけど、この部屋にコキュートスは入れないでありんしょう? だから中はわたし、外はコキュートスが警護」
「警護ってそんな大袈裟な――え、部屋の外にコキュートス様も居るの!?」
どうりで部屋の中がいつもよりヒンヤリしている気がするわけだ。
しかし分からない。
守護者2人が、何故自分の部屋の外と中に居るのだろうか。
警護と言っていたが、そこまで本格的な訓練なのだろうか。
いや、そもそも訓練とはいえ、単なるメイドに何故……?
「シャルティア――」
「っ……! 伏せるでありんす!」
シャルティアから何か事情とか聴けないかと、声を掛けようとしたら突然押し倒された。
ベッドに腰を降ろしていたので、幸い頭とかを床に打ち付ける事なく、ベッドに仰向けで寝そべるような形になった。
だが、その上から柔らかい毛布でなく、固い鎧を身に付けたシャルティアが覆い被さるようにファースの上に騎乗する。
「うっ……!」
重い、苦しい。
胸が潰れる。
「物音がした――何処から。まさか侵入者が……」
「いや……多分隣の部屋のメイドだと――よく何もない所で転ぶ子だから、部屋の中でもしょっちゅう転んでるだけ」
どうやら隣の部屋からの音に反応しての行動だったらしい。
さり気なく自分の上から退かそうと試みるが、シャルティアはまるで岩だった。
どうやらファースの力如きでは、彼女を動かす事すらできないらしい。
しかし不思議だ。
この前背負った時はめちゃくちゃ軽かったというのに……
「どうしたでありんすか!? まさか何か攻撃を――」
「ちが……違うから退いて――潰れる」
何とか興奮気味のシャルティアを宥め、退いてもらう。
「……あのさ、何で私をそんな護ろうとしてるの? コキュートス様にもわざわざ来てもらってまで」
本来であれば、訓練とはいえ彼女の持ち場はここでは無いはずだ。
コキュートス様もそうだ。
ファースはいくら頭を捻っても、答えは出なかった。
だから単刀直入に、そう聞いてみた。
「――どうしてって……貴女が
「…………ぇ」
……それってつまり――
(ん、え? つまりシャルティアにとって私はちゃんとした友人? いや、確かにこの前本人もそう言ってたけどお世辞的なアレかと……ガチ?)
――正直に告白すれば、ファースは孤独感を感じていた。
もっと正確に言えば、
ファースはメイド、つまり地位的には下の方だ。
周りは基本的に上司や、上位の存在ばかり。
唯一の同僚である筈の他の一般メイドからは必要以上に慕われ、何だか疎外感を感じていたファース。
……だが、今はどうだ?
地位や役職は違えど、こうしてありのままの自分で接しているシャルティアの存在。
そしてその本人から友人扱いして貰っている。
この状況は、まさにファースが願っていたもの――
「……そ、そうなんだ。ふーん――」
おかしい、さっきまで部屋が冷えているかと思いきや、今は熱く感じるくらいだ。
主に顔のあたりが。
「と、ところでさ、喉渇かない? 何か淹れようか? あ、実はトランプとかもあるんだけど――」
あぁ、そういえばそうだ。
自分の部屋に友人を招くのは――
いつからファースが攻略する側だと思っていた?
逆転も良いよね(性癖