メイドです、仕事辞めたい   作:ブラック企業ナザリック

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すみません、本当にお持たせしました。
実は暫くの間入院生活だったもので……
ようやく書けるようになったので、改めて続き書いていこうと思います。


第26話

 

 

 

 

 

 アインズがファースに伝言の魔法を飛ばす少し前。

 こんなやり取りがあった。

 

「多少の危険は覚悟の上です!」

 

 アインズは興奮するメイド――デクリメントを手を軽く上げて抑える様に指示をする。

 何故彼女がこんなにも興奮しているのか。

 それはドワーフの国に向かうと決めたアインズに、メイドの幾人かを侍女として連れて行ってほしいというデクリメントの要望からくるものだった。

 しかしアインズとしては、どんな危険があるか不明な未知の場所に、レベルの低い一般メイドを連れて行きたくはなかった。

 単純に戦力として数えられないのもあるが、何よりギルドメンバー(友人)達の創った娘のような存在を、たとえ蘇生が出来るとしても危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 本当はこの場にいるアウラやシャルティアだってそうだ。

 彼女達はまだ自衛できるから、ギリギリ同行を許容しているだけで、本当は危険な場所に連れて行きたくなどない。

 

「私に忠勤を尽くすお前の――お前たちの態度は私に喜びを与えてくれる。だからこそ、ドワーフの国に着いて安全を確認できたら、お前たちを転移で呼ぶとしよう。それまでは吸血鬼の花嫁たちに給仕を任せるということでどうだ?」

 

 アインズの提案は的を射ている。

 だからデクリメントは何も言えなかった。

 言葉が出ず口だけが動く。

 代案も妙案もこれ以上でないのならば、デクリメントに出来るのは主人に頭を下げて了承の意を示すことだけ――

 

 

 

 

『ファースさんは凄いですね』

 

『急に何だ、デクリメント』

 

 ――不意に、デクリメントの脳裏にとある記憶が再生される。

 それは以前偶々ファースと廊下ですれ違った時の事だった。

 

『私聞きました。アインズ様当番が出来たのは、ファースさんの活躍があったからだって』

 

『あー……そんなに大層な事じゃないさ。私も殆ど流れというか勢いというか……運が良かったんだろうさ』

 

 その時のデクリメントの心には、ほんの少しの苛立ちと劣等感。

 本当は凄い人なのに、またそうやって謙遜する。

 本当は凄い人なのに、もっと凄い人になろうとしてる。

 憧れの人が、さらに遠ざかる。

 私たち四十人のメイドは、全員彼女の背中を見てきた、見続けていた。

 戦闘メイドの方たちとはまた違った憧れ。

 私たちが戦闘メイドになるのは殆ど不可能だが、ファースさんにならもしかして届くかも、追い付けるかも、隣に立てるかも。

 恐れ多い事だが、デクリメント含めてそう思っているメイドは少なくない。

 最初のメイドという肩書きは無理でも、ファースさんの洗練された仕事振りなら。

 ファースさんの仕事を譲ってくれるような、優しさと余裕な心なら。

 ファースさんの誰もを惹きつけるカリスマ性なら。

 今からでも身に付ける事が出来るかもしれない。

 だって、私たちは同じメイドだから。

 

『…………』

 

 でも、時折彼女と自分は違うと嫌でも感じさせられる。

 いくらファースさんのように仕事をしようとしても、どうしても再現しきれない。

 ファースさんのように心の余裕と優しさを示そうとしても、やっぱり簡単な廊下の掃除より、至高の御身のお部屋の掃除をしていたい。

 ファースさんのようにリーダーシップを取ろうとしても、どうにも上手くいかない。

 ――自分には、至高の御方に強く意見する事なんて出来ない。

 アインズ様当番という素晴らしい仕事を生み出す事なんて、デクリメントは出来ない。

 それを平然とやってのけたファースの背中は、前よりもずっと遠くに感じる。

 このまま彼女の背中すら見えないくらい遠くに行ってしまうのだろうか?

 それは嬉しい事なのかもしれないが、同時に寂しくもある。

 ――気が付けば、涙が溢れてきていた。

 

『ぇ――悪い、何か気に障ったか?』

 

『い、いえ……ファースさんのせいでは無いです』

 

 ファースが自分のハンカチをデクリメントに差し出した。

 ほら、やっぱり優しい。

 

『……何か事情があるのか? それなら、何処でも良いし誰でも良いから、必ず()()()()

 

『吐き出す……ですか?』

 

『デクリメント、溜め込んでも良い事なんてあまり無い。出来るなら吐き出しとけ、言いたいことを我慢するな』

 

『それは……難しいですね』

 

『あぁ、難しいな。でも言わなきゃいけない事は必ずある。私も最近それを学んだ――時には我が儘だって、自分のエゴだって表に出さなきゃいけない。出さなければ何も変わらないんだよ』

 

 ファースが慰めるようにデクリメントの頭を軽く撫でる。

 

『私はメイドの現状を変えたいと思っていた。それを不敬を承知でアインズ様に吐き出した――その結果はお前も知ってるだろう?』

 

『…………』

 

『運が良かったのもある。けど、私はあの時の選択を後悔はしてない。だからお前も――』

 

 

 

 

 

「――アインズ様!」

 

 気が付けば、主人の名を叫んでいた。

 そしてデクリメントはその場で跪き、頭を伏せた。

 自分はこのまま首を刎ねられるかもしれない。

 しかし、デクリメントはそれでも叫ぶ。

 己の内側に潜む感情を、心のままに吐き出すのだ。

 

「お願い致します! どうか、私たちメイドを――連れて行っては貰えないでしょうか!?」

 

 それはアインズの案を打開する代案でも妙案でもない。

 完全にデクリメントの我が儘から来る、感情的なお願いだった。

 別に情に訴え掛けようと思ったのではない。

 本当に単純に、デクリメントは心の叫びを吐き出しただけだった。

 

「…………」

 

 主人からの返答はない。

 頭を伏せているため、どんな表情をされているのかも分からない。

 ただ、視線だけは向けられているのは分かった。

 

「……頭をあげよ、デクリメント」

 

 アインズがそう言う。

 デクリメントは従うしかない。

 床に擦り付けていた頭をデクリメントは離した。

 

「つまり……お前は私の案が気に入らないということだな?」

 

「…………」

 

 デクリメントは沈黙をもって肯定の意を示した。

 

「ふむ……」

 

 アインズは骨の手で、骨の顎をさする。

 ――正直言って、アインズの心情は驚愕を表していた。

 以前もコキュートスがリザードマンの処遇について、アインズに意見をした事があったが、それと似たような感覚を今回も感じていた。

 アインズに絶対の忠誠を誓っているNPCが、アインズに意見をする。

 組織的に見れば、それは不味いことなのかもしれないが、良い面もあるのも確か。

 時には下の者の意見が、上の者を、組織全体をより良くしていくのだ。

 ただ事務的に、盲目的にアインズの言葉に従うよりも、自分の意見と意思を示せるようになってきているNPCたち。

 これは間違いなく()()だろう。

 それはアインズにとって、現状最も望むことの一つでもあった。

 

(まさかメイドもこうやって意見してくれるようになるとは……)

 

 ぶっちゃけ、アインズ的には"そこまで言うのなら"という感じで、デクリメントの我が儘を許すつもりでいた。

 しかし支配者として、何か建前を付けないといけない気がした。

 故に暫く思考する。

 

「――デクリメントよ」

 

「はい、アインズ様」

 

「お前の心情はよく分かった。確かに、私のような者に付き添う者として生み出された筈のお前たちを、最初から連れて行こうとしないのは侮辱だったな。許してくれ、この通りだ」

 

 今度はアインズが頭を下げた。

 

「お、おやめくださいアインズ様! メイド如きに頭を下げるなど……!」

 

 アインズは数秒間頭を下げ、その後頭を上げた。

 その場にいたシャルティアとアウラ、デクリメントの表情が何とも言えない顔になっていたのが、少し面白かった。

 

「だが、私にも譲れないものはある。なので、条件を付けさせてもらおう」

 

 アインズは三つの条件を示した。

 一つは、連れて行くのは三人まで。

 一つは、戦闘になった際にはこちらの指示に絶対に従ってもらうこと。

 一つは、危険と判断したら即座にナザリックに転移で帰還してもらうこと。

 アインズの三つの条件を、デクリメントは涙目で嬉しそうに了承した。

 

「では連れて行くメイドは……デクリメント、共に来てくれるか?」

 

「は、はい!」

 

「あとの2人は――アインズ当番の順番にするか。デクリメント、お前の後のアインズ当番は誰だ? 2人分教えよ」

 

「はい、アインズ様。明日はエトワル、明後日は――()()()()()()です」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、シャルティア」

 

「何でありんすか?」

 

 アインズの部屋から退出したアウラとシャルティア。

 ちょうど声が聞こえないであろう辺りまで来たところで、アウラがシャルティアに話しかけた。

 

「あたし達さ、アインズ様に相当期待されてる……って思っていいんだよね?」

 

「それは当然よ! アインズ様の護衛なんて、大役じゃない!」

 

「いや、そうじゃなく――それも勿論あるけど――あのね、アインズ様がさっき何て言ったかもう忘れたの?」

 

 シャルティアが小首を傾ける。

 その様子にアウラはわざとらしく溜息をついた。

 

「あのね、メイドを連れて行くって仰ってたでしょう?」

 

「えぇ、確か三人――あ」

 

 シャルティアもようやくアウラの言いたい事を察した様子だった。

 

「そう、三人のメイドの中にあのファースっていうメイドが居る――アインズ様とナザリックの至宝(ファース)を両方護らなきゃいけないんだから」

 

 以前、デミウルゴスが守護者たちに情報を共有してくれた。

 

 "おそらく、ナザリックの歴史書としての役割を担っているのは、ファースというメイドだけだ"

 "アインズ様は一般メイド全員ではなく、ファースの名だけをナザリックの至宝と断言した"

 "故に、ファースの存在は優先的に保護する必要がある"

 あのデミウルゴスがそこまで言うのなら、きっと間違いないのだろう。

 ファースというメイドは、一般メイドという隠れ蓑を利用した、ナザリックの記録者(レコーダー)だと……

 

「ファースをナザリックの外に連れ出す――つまり、今回のドワーフの国の出来事を、アインズ様はナザリックの歴史として刻むおつもりなのよ」

 

「……でも、それだったら最初からファースを連れて行くと仰るのでは? 何故わざわざデクリメントというメイドの我が儘を聞き入れる形で?」

 

「多分、他のメイドたちはファースの本当の正体を知らないとか……あの場でアインズ様がファースを名指しで指名したら、特別なのがバレちゃうとかかな――」

 

「なるほど、あくまで自然な形でファースを連れて行くようにしなければならなかったと……じゃあ、デクリメントがあの場でアインズ様に懇願したのも――」

 

「まぁ、全部アインズ様の想定通りだったのかもね」

 

 アインズ・ウール・ゴウンはあのデミウルゴスよりも優れている。

 ならば、あの場の会話から状況まで、全てアインズの手の平で動かされていたとしても不思議ではないのだ。

 

「――頑張ろうか、シャルティア」

 

「えぇ、勿論よ!」

 

 

 

 

 

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