メイドです、仕事辞めたい 作:ブラック企業ナザリック
シャルティア・ブラッドフォールンは失意の中にあった。
主人であるアインズの命を受け、ナザリックを出立。
そこまでは
しかし、ナザリックを出た後の記憶がシャルティアにはいっさい無かった。
それは、シャルティアが
シャルティアは絶望した。
自らの抜けた記憶、失ったらしい記憶を記録として見せつけられたその瞬間から。
――そう、シャルティア・ブラッドフォールンは主人であるアインズに牙を剥いた。
本来護るべき筈の尊き御方に、あろうことか造物主であるペロロンチーノが与えてくださった武具や力でアインズを
記憶がない分どこか他人事のように感じなくもないが、残念ながら事実だ。
シャルティアは何者かに精神支配を受け、結果として救援に来たアインズと敵対する事になった。
幸いなのが、主人と戦っている記憶も無いことだろうか。
もしアインズにダメージを与える感触などが残っていたとしたら……
シャルティアはそこで一度思考を切った。
――気が付けば、当てもなくナザリック内を彷徨った末に第九階層までシャルティアは辿り着いた。
主人であるアインズは、自らの罪を赦された。
そしてシャルティアは名目上、本来の仕事である階層守護者としてナザリックに留まっているが、彼女にとってこれは主人を失望させ、もう他の仕事を任せられない――
そう判断されたのだろうと、失意の沼に嵌る。
ズブズブと、足の先から呑み込まれるような感覚。
もう全てがどうでも良いような、このまま消えてしまいたいような……
『――辛い時こそ、前を向いて楽しもう! 具体的にはエロゲとか!』
……はい、ペロロンチーノ様。
わたしは
あなた様の御言葉がある限り――
「ナザリックにも、
「私は知り得ませんが――ぶくぶく茶釜様がお造りになられたモノなら、ナザリックに残っている可能性はあるのではないでしょうか? 確か第六階層に、ぶくぶく茶釜様がご創造された守護者の方が……」
「『アウラ』と『マーレ』のことね? そうね……アウラは沢山の魔獣を従えているから、可能性はありそうね」
今度えろげという名前、もしくは種族の魔獣が居ないか聞いてみるとしよう。
シャルティアは心のメモにそう付け足し、目の前のメイド――ファースを改めて観察した。
毛先に軽いウェーブが掛かった茶髪だが、上手に整えられている。
ナザリックに仕えるメイドなのだから、身嗜みは整えられて当然だろうが――
顔はシャルティアの好みだ、この可愛らしい顔を羞恥で歪ませてみたいと思えるほどに。
そして、
少しばかり嫉妬心がにじみでるが、それよりも
(……流石にメイドとはいえ、至高の御方に造られたのなら、わたしが好き勝手してはダメよね――するなら、
シャルティアは自らの欲求を頭の隅っこに追いやった。
「――それで、気分転換と言っていたけど具体的には?」
「はい、第九階層には至高の御方々がお造りになった様々な娯楽施設があるので、それを利用されてはいかがでしょうか」
ファースはシャルティアに第九階層の概要を簡潔に伝える。
――随分と、娯楽の類の施設が多い。
シャルティアは己の領域とは随分と違うと感じたが、すぐに当たり前だと完結させた。
至高の御方々のお部屋がある階層なのだから、むしろそういったものが無い方がおかしいと。
「――その、一つ聞きたいのだけど」
そしてシャルティアは気付いた。
「……ペロロンチーノ様のお部屋も――やはりここに?」
「? えぇ、もちろんございますが」
ファースは当たり前の事のように、あっさりと答えた。
「そ、それなら……少し、興味があるのだけど」
ペロロンチーノ様のお部屋を見たい。
シャルティアは本音を隠しつつ、ファースに告げた。
「……申し訳ありません。流石にペロロンチーノ様御本人の許可を得ず、他者をお部屋に通させるのは――守護者の方でもちょっと……私どもメイドもあくまで清掃という形で出入りを許可されているだけなので――」
その意図を読み取ったファースは、申し訳なさそうな表情で宣告する。
まぁ、言われてみればその通りだ。
シャルティアだって自身の部屋に許可なく他者を入れたくはない。
それも造物主であるペロロンチーノ様のお部屋を勝手に見たいというのは、不敬にあたるやもしれない。
シャルティアは一時の欲求で暴走気味の思考に反省の念を送った。
「……その、もしかしたらなのですが、アインズ様にならご許可を貰えるかも――」
ファースはここで気を利かせて、アインズの名を出した。
だが、今のシャルティアにとってアインズの名は――
「――あ、あぁぁぁ申し訳ございません……!」
――トラウマを呼び起こさせる禁句に等しい。
折角立ち上がれたシャルティアは、ファースの何気ない気遣いにより再び地べたに這いつくばった。
「え、あ、なんで? し、シャルティア・ブラッドフォールン様!?」
一方、シャルティアの事情を知らないファースはただ混乱する。
こんな通路のど真ん中で大泣きされたら、大迷惑――いや、余りにもお可哀想だ。
ファースは悩みに悩んだ末に、シャルティアを一旦落ち着いた場所に連れて行くために彼女を
(軽い……あぁ、こんな姿誰かに見られたらヤバいかな――)
ファースは背中に感じるシャルティアの感触に、この状況を誰かに見られたらどうしようと、言い訳を考えながら歩を進め始めた。
幸いにも、背中のシャルティアはこの状況に何か不満があるわけでもないのか、非常に大人しい。
もしくはショックのあまりおんぶされているのに気付いていないのか。
メソメソと、涙でファースの背中を濡らすだけだ。
(とりあえず喫煙所に……あそこなら静かだし誰も近付かない)
シャルティアの威厳? の為にもファースは喫煙所に向かうことにした。
もとより当初の目的地はあそこだ。
ファースは歩き慣れた通路を進んでいく――
「……!」
――曲がり角で、ファースは身を隠した。
(しまった……今この時間はB班が清掃中か)
曲がり角の先、喫煙所への道に清掃中のメイドの壁ができている。
ここは通れない。
他の道を……
(あ、ダメだ。確か他の階層から応援にきた巡回中の方がこっちの方にも……戻るしかないか)
ファースは来た道を戻る事にした。
こうなったら少し遠いが、ファースの自室に連れて行くか、適当な他の施設に入ってしまうか。
ファースはカツカツと鳴るヒールの音を極力抑えて小走りする――
「…………あ」
「…………あ」
――そしてバッタリ。
目と目があった。
黒ネクタイ
「――やぁ、誰かと思えばっふぁ!?」
先に口を開いたのはペンギン。
しかし言葉を最後まで言い切る前に、ファースのヒールの先っぽが彼の顔を踏み潰す。
「証拠隠滅……証拠隠滅しなきゃ」
グリグリと、ペンギンの顔が捩れるぐらいファースは踏み付ける。
その瞳からは、光が若干失われていた。
そんなファースをペンギンから引き離そうと、ペンギンのお付きである覆面をした黒色の男性使用人が奮闘する。
「――あ、相変わらず随分なご挨拶じゃないか。ファース」
男性使用人の奮闘により、ファースの足蹴りから解放されたペンギン――『エクレア・エクレール・エイクレアー』。
ナザリック地下大墳墓の執事助手のバードマンと呼ばれる種族のペンギンだ。
「――エクレア、何故ここに居る? 客室の方は?」
「もう終わったさ、便器も舐められるくらい綺麗にしたよ」
エクレアは男性使用人から受け取った櫛で、乱れた金糸の髪の毛を整え直す。
「本当に? 後でチェックするからな」
「どうぞお好きに、きっと
――今、エクレアがナザリックに仕える者としてとんでもない発言をしたが、ファースは特に気にしない。
彼は
それに彼の強さは一般メイドと大差ない。
口先だけの、叶わないものだと誰もが知っているからだ。
――ちなみに誤解が無いように説明しておくが、別にファースはエクレアの事が特別嫌いとか、そういう訳ではない。
ではさっきの暴力行為は?
それは単なる
ファースはエクレアに掃除のイロハを教える師匠だと、エクレアが『餡ころもっちもち』様に創造された時に、そうお決めになられたのだ。
それからというもの、ファースは面倒だと感じながらもエクレアをしごいた。
エクレアが自分以上に掃除のプロになれば、自分の仕事が楽になるんじゃないかなという願望ありきで。
――いわば師匠から弟子への愛の鞭、しつけだ。
それ以上もそれ以下もない。
「――ところで、君の背負っているそれは……」
「何も聞くな、そしてお前はこの事を誰にも話してはいけない。いいな?」
「いやでも気にな」
「もう一発いこうか?」
「……やれやれ、君もレディーなのだからもう少しお淑やかにあべし!」
ファースは宣言通り、もう一発彼の柔らかい顔面に足蹴りを喰らわせた。
若干、頬に赤みを帯びながら。
「……露骨な女扱いはやめろ――そういえば、この辺で人目に付かない静かな場所とか心当たりある?」
「――踏むのやめてくれたら答えるよ――あぁ、折角の髪が台無しだ」
エクレアは再度髪型をセットしながら、ファースの問いに答えた。
「そうだな……ピッキーの場所とかどうかな?」
またファースに属性(性癖)ががが
これ以上は過多による過剰摂取で拒絶反応が……
でも、憧れ(性癖)は止められねぇんだ!\ニドト-アコガーレハ-トーマーラーナーイー/