俺の嫁がタイトルだった件 作:被害者はトール
人生とは何が起こるか分からない。
「ごめんね、こいつ性格終わってるからムカついたでしょ」
「本当にそうですよ。小林さんの
同年代の友の多くは家庭を持ち、子を育み、来年からうちの子小学校に入るのよね、学費が嵩むわ~なんて嬉しくも悲しい悲鳴を上げている最中、運悪くもブラックな会社に勤めてしまった私は日々激務に追われ、気付けば、現代社会においていわゆる"行き遅れ"と言われる年齢になってしまっていた。
しかし
それだけでも一大イベントであると言うのに、異世界から来たドラゴンがうちでメイドをやることになった。
「おいおい、小林はさん付けなのにボクはアイツ呼ばわりなわけ?」
「ふん、お前などせいぜいグラサンぐらいで十分だ」
「それってグラサンが本体みたいじゃん?」
いったい今日はどうした?私は明日死ぬのか。
念願と言えば念願の結婚と、オタクを拗らせるほどに愛して止まないメイドを手に入れた今、私の中で渦巻いているのは歓喜ではなく恐怖の感情である。
「ねぇ、悟。私たちって今日から本当に夫婦なわけ?」
「ほんと、今まで待たせてごめんね。これからは小林の頼れる夫として存分にこき使ってくれていいから!」
「ねぇ、トール。本当に私なんかが君のご主人様でいいの?」
「私なんかなんてとんでもない!むしろ……いえ!小林さん以外に私をメイドに出来る存在なんてこの世にいませんよ!」
美男美女による全肯定を肴に飲むビールは微妙な味であった。
「う……ん。やっぱりこれ夢じゃね?」
「「夢じゃないよ(ですよ)」」
「いや、だって。やっぱりありえないよ。トールは兎も角、あの悟が何の脈略もなくいきなりプロポーズしてくるだなんて」
「え、ボクがプロポーズするのって、異世界から来たドラゴンがメイドになるよりあり得ないわけ?」
どんだけ信用ないんだよ……と肩を落とす悟を尻目にトールを見る。トールは何故か勝ち誇ったような顔をしていた。
「そもそもさ。私たちって互いに遠慮しなくていいから、最終的には一緒になってもいいかもね、って感じなわけ。そりゃ流石に全盛期は過ぎただろうけど、悟って相変わらずのイケメンで、女好きだし、結婚なんていう柵はむしろ嫌ってると思ってた」
婚約者の身分でナンパをするのも大分グレーゾーンだったと思うが、本人曰く成功したことないそうで、私自身どうせ成功しないんだしと軽く流しているところがあるからここではスルーするとしよう。
「……安心して下さい小林さん!もしこいつが小林さんを差し置いて浮気なんてしようものなら私が全身全霊を掛けて滅ぼしてやりますよ!」
少しだけ間を置いてトールが答える。
「うん、ありがとうトール。でも大丈夫。悟ってクズだけどさ、変なところで真面目だから、たぶん浮気とかはしないと思う」
まぁする、しない、以前に出来ないだろうな、とも思った。
なにせ五条悟という天は二物を与えずを体現したこの男は、兎に角性格が悪い……というか残念だ。
自分がこの世で一番のイケメンだと自負して、口先だけで女をメロメロにさせる事が出来ると本気で思っている。
そのくせ、コミュ力は自分が話したい事を一方的に話すだけの幼児レベル。聞き手に徹しようものなら五秒と持たない。
この顔なら肉体だけの関係でも満足する女性はいるだろうが……年がら年中おちゃらけた雰囲気とは裏腹に意外と身持ちは固かったりする。
よく知らない女と寝るとか正気?
なんて逆に問い掛けてくる始末だ。おまけに凄いケチでコンビニでコーヒーを頼むと一番小さいやつを持ってくる。
こんな性格ではいくらイケメンでも彼女なんて出来るわけがない。
なら私は何でこんなやつの嫁になったんだって話は……こんなんでも意外と良いとこあるんだぜって、さっきとは真逆の事を言うことになるから今は止めておく。
ただ……「ふふ。これ、いくらしたんだろ?」
五条悟が数年間、懐で温めていた指輪のつけ心地は悪くない。心なしかその分想いが籠っている気がした。
「…………グハ!!」
「大変だ!ドラゴンが血を吐いて倒れた!」
「えっなんで!?」
「分かんねぇけど、尊さと敗北感でぐちゃぐちゃになった顔してる……気がする!」
「と、取り敢えず救急車!!!!」
その日から我が家は騒がしくなっていく。