俺の嫁がタイトルだった件 作:被害者はトール
トールに夕食を頼んだら軽くボヤ騒ぎになりかけた。
原因は我が家のコンロの火力を信用出来なかったトールが、キッチンごと丸焦げにしてしまったからである。
「ブレスで食材全部燃やし尽くすとかバカ過ぎて超笑える!」
「ぐぬぬぬ……」
「私だけじゃなく悟までトールの買い物について来ることなかったのに」
「だって暇じゃん。せっかくの休みなんだし、キッチンの掃除だけしてハイ終わり、はないでしょ」
まぁ幸いにも大事には至らず、掃除の上手さに定評のある悟の手によって我が家のキッチンは新品同様に甦った。
けれど、食材がなくなってしまったのでそれは買いに行かなければならない。そこに「そういえばトールと買い物に行ったことがないな」と私が付き添えば、悟は当たり前のようについてきたのだ。
「しっかし、この街は良い意味でも悪い意味でも変わんないねぇ~。今時商店街なんて絶滅危惧種だよ」
「まぁデパートの方が何かと便利だし、自然とそっちに客足が流れるのは仕方ないんじゃない?」
「それだけならまだ良いんだけどね~。意外と多いんだよこういうとこ」
私には見えないがいるんだそうだ。幽霊が。
悟から言わせれば雑魚中の雑魚で、素人に毛が生えたレベルの浄霊師でも問題なく払えるような羽虫幽霊だが、なまじ見えてしまえるもんだからちょっと不快らしい。
「トールも見えてるの?」
「いえ、そのレベルの低級霊ともなると、まず害などありませんし、見た目がちょっとあれで……見えていても不快なだけですから、普段は魔力でフィルターをかけてシャットアウトしています」
「え、マジ?魔法ってそんな便利なこと出来るの?」
悟はスゴく羨ましそうだった。
そんなに羨ましいなら私からトールに頼んであげようか?なんて妻らしい所を見せようとしたけど、どうやら悟は普通の人の何万倍も目が良すぎるから恐らく意味ないだろうとのこと。
「最強って言っても結構不便が多いみたいだね。まるで給料はそれなりに良いし有給も簡単に取れるけど多忙な企業みたいだ」
「絶妙に分かりにくい例えだね。流石はブラック社員」
「やりがいと給料だけはあるんだけどね。休日に何かするほど行動力のある人間でもなかったし独り身なら丁度良かったんだ。でも……その、何て言うのかな。流石にメイドありきとは言え、男女が一つ屋根の下で暮らすと……どうこうあるわけで。もし家族が増えたら今の会社はやめちゃうと思う」
「ん?子育てなら大丈夫よ?生まれてくるのが男の子でも女の子でも立派に育ててみせるから」
……こっちがトールの手前、わざと誤魔化したのにこのデリカシー0の回答である。
まだまだ夫婦としては新米で、子供なんて考えてもいなかったけど、断言出来る。悟に子育てを任せたら子供はろくな性格に育ちはしないだろう。
「……安心してください小林さん。例えこの男の遺伝子が混ざっていようと……小林さんの子供ならこのトール。神々が気まぐれで造り上げたなんちゃって英雄なんて目じゃないぐらい立派な戦士へと育ててみせます!」
「ありがとうトール。でもトールの世界ならともかくこっちで育てるなら戦士よりも命の危険がない安全な仕事に就いて欲しいかな」
トールはトールで全般を任せるのは躊躇われる。
ならやっぱり私がやるしかないかーと、何気なく会社を辞める選択肢が浮かぶ時点で、私ってば大分二人に毒されているのだと思う。
「お、肉屋じゃん」
そうこうしている内、目的の場所へと付いた。
「そう言えば今日は肉じゃがだっけ?」
「うん。トールがこの前テレビで見たレシピを試したいんだって」
「あぁ言うのって実際に作ろうとするやつなんているんだ」
先ずは肉屋でバラ肉を調達し、そして八百屋でジャガイモと人参、そしてショウガを調達する。あとは糸こんにゃくを買えば材料は揃う。
キャー!ひったくりよー!!!
そんな感じの時にまぁ都合良くも現れた泥棒である。
「あー分かってると思うけど、目立ち過ぎないようにね?」
「フフフ……ならどっちが先にあれを倒せるか勝負ですね」
「おっ?良いね……なら負けた方が今晩の皿洗いだ」
軽く体をほぐす二人。
私はこんな真っ昼間、人混みの多い中で泥棒なんてする酔狂な輩へと静かに合掌した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
PS.トールが作った肉じゃがはとっても美味しかった。