私は龍だ
それが生まれて最初に理解したこと。
龍はあらゆる生物の上に立ち、私はその中でも
更に上の存在だった。
私の役割は、自然のバランスを保ち
一つの種のみが繁栄することを防ぎ
世界を滅ぼしうる理由を、排除すること。
巨大な竜や蛇が、世界を己が物のように
地上を更地にするような勢いで、闊歩し
その度、赤き光で焼き消した。
ある時、興味深い種を見つけた
何でも、ニンゲンと呼ばれる生き物らしい、
ニンゲンは私達に勝るとも劣らぬ、知恵を持ち
その規模を着々と広げていった。
ニンゲンは知恵の他に
勇気という感情を持つ事を見つけた
自身の大事なものを守るために、自らを犠牲にすることができるのだ。
だが自らを犠牲にすることなどは、繁殖期の竜や獣でもできる、人の勇気というのは恐怖を乗り越え、己よりも強大な物に、勝つつもりで挑むという事らしい。
生物としては間違いなく欠格だが、私はその感情を
とても素晴らしい物に思えた。
龍とは絶対的存在だが、勇気を持つニンゲンという存在はもしかしたら、自分にすら刃を届かすかも知れない
そのような事があれば、と考えれば
システムでしかない自分が何か変わるかもしれないと
期待した目でニンゲンを見た。
だがしかし、私達とニンゲンの最初の争いは
最悪の形で始まり、最悪の形で終わりを迎えた。
最初のきっかけは、ニンゲンが兵器と呼ばれる
武器を作り出した事、それだけならば問題はなかった
その兵器はせいぜい竜をぎりぎりで
打ち倒せる程度のものだったからだ。
だがニンゲンは禁忌を犯した、あろうことか
打ち倒した竜の亡骸を使い、生命を生み出したのだ、
素材として亡骸を使うならば良い、それは勝者の証だ
だが生命を繁殖以外の行為で生み出すこと、それは自然の摂理に反し、命を弄ぶ行いだ。
竜は怒り禁忌を犯した都市を滅ぼした
しかし、ニンゲンはその行為に怒り
竜達に牙を向けた、禁忌の兵器はとてつもない力を持ち
竜達を次々と倒していく、そして倒した竜の亡骸を使い
また兵器は作られてゆく。
その繰り返しを見ていた龍達は、ニンゲンに激しい憎悪と怒りを向け、その力を解き放った。
激しい争いだった、竜達の大半が滅び、龍の中にも犠牲が出始めた、しかし人もまた壊滅的な被害を出した。
私は悲しんだ、竜の亡骸を集め命を作り
兵器達に戦わせ、自分達は城の中で命令をするのみ
その行いに、私の望んだ勇気はなく、
生きたいという感情よりも、醜い欲望で動いていた。
龍達は私にニンゲンを滅ぼせと言った、竜達は一人も残らずに殺せと懇願した、私はそれでもニンゲンのすべてを滅ぼしたいとは思わなかった、だけどニンゲンはやりすぎた、世界のバランスを保つためにも、滅ぼさないといけなかった。
私は人間を滅ぼした、醜くない、善良と言える人を選別し、避難させ、その後、国を焼いた。
唯一残った城に、私に似た姿の黒い龍を配置し
二度と人間達が禁忌の兵器を作らぬよう
城とその周囲に近づく者は
何であれ滅ぼせと命じた。
しばらくして、黒い龍が討たれたと知った
私はまた兵器が作られたと思い、人の姿を取り
都市を見に行った。
驚いた
人間は竜の亡骸を鎧や剣、盾に変えて
己が身一つで竜達と対峙し打ち倒しているのだ
もちろん爆弾や罠などの道具を一切使わないわけではないが、知恵と勇気を振り絞り、自分達より強大な竜と戦う姿は、かつて私が望んだニンゲンそのものであった。
早速私は黒龍の討たれた地に赴き、その場で龍の姿を取り、人間達を待った、最初に来たのは何より知恵の深そうな人間達と、彼らをかばうように立つ戦士達だ。
彼らは当初、私が黒い龍ではない事に驚いていたが
すぐに私に挑もうとしてきた。
彼らは勇敢だった、だけど予想以上に弱かった
少し落ち込んだが、ならば次からは力を弱めようと思った。
しかし私に勝てるものはいなかった、やはり人間は兵器に頼らないと弱い生き物なのかとも思った
しかし人間達の中には、龍すらも倒し
その亡骸を身にまとう者もいた。
ならばいつかはと私と戦える者を待ち続けた、
意外とその存在はすぐに来た、
少し黒い龍を感じさせる鎧に、暴食を繰り返す竜を使った剣、そして何より、ただ一人でそこに立っていた。
彼との戦いは今まで生きてきて、最高とも思える時間だった、角を折られ、翼を破られ、追い詰められた私は
加減を間違え、全力で赤い光を放ってしまった
彼は死んでしまったのか、失意が胸をよぎる、
だが彼は、赤い光を剣でいなし、私のふところに転がり込んできた、そして雄叫びを上げながら私の胸に
背負った剣を振り下ろした、その後のことは覚えていない、ただ我武者羅に暴れる私と彼
気づけば私は立っていて、彼は倒れていた
私が勝った、嬉しかった、始めて対等の敵に会い
そして勝ったことが何よりも嬉しかった。
彼が目を覚ました、自身の手足が残っていることに
安堵したような顔を見せたあと、彼を見る私に気づき
悔しさのこもった目で私を睨んだ
「お前の勝ちだ、殺せ」
目がそう語っていた、だけど私は殺せなかった
生きてる中で始めて感じた、本当の戦い、本当の勝利
本当の喜び、それらを与えてくれた存在を殺せるわけがなかった。
逃げ去るように飛びながら、少し考える
退屈にただ生きていただけの私に
やりたいことが2つもできた
1つは、世界を自らの眼で見定めること 私はまた、人間の存在を信じて見たくなったから
人間の営みを、思いを、考え方を、
彼らの視点で理解したいのだ。
それに、世界をより知ることは
私の役目にも活かせるだろう。
2つめは、私に人間の輝きを、再び教えてくれた彼
彼がほしい、願わくば永遠に私の物にしたい
だけど、彼の価値は限りある命の中でこそ輝くもの
私の物になるなら、それは人を辞めること
理解はしていた、彼の輝きを曇らせたくはなかった
ならば、私が彼の元へ行こう
敗者は勝者に従う、そんな言葉で従わせ
理由を作って、彼とともにいよう
彼と一緒に世界を見よう
そうすれば、私の望みが叶うだろうから。
死せるその時、彼は永遠に私の宝となるだろう
人の一生は短いのだから
人として生きた後の時間は、私が貰ってもいいだろう。
死ねないことが確定しかけている狩人さん