最強竜人少女が仕掛けられた罠と策略を暴力でぶち破っていくだけの話 作:こんぺいとー
響いたそれに、ガスドは否定も肯定もしない。ギーリ王へと軽く目を遣るだけだ。
それに頷くと、スッと息を吸い──吐き出すように声を出した。
「──頼んだぞ、リーア」
そして、金色の双眸を外套の隙間から覗かせた彼女は、そのまま──腰に構えた剣を音もなく振り抜いた。
「これは──」
瞬間、弾ける。バン、と勢い良く跳びあがりメルラテールはその一撃に反応した。
掌を地面へ押しつける。足を強く踏み締める。爪が地面を削るギャリギャリという音をならしながら、メルラテールは長机の上に停止し──。
「……っ!!」
──チッ、と言う音と共になにかが裂ける音が鳴り響く。そして、吹き出したのは蒼い鮮血。
肩から胸の半ばまでを切り裂く、大きな傷がメルラテールの肉体に刻まれた。それを努めて無視し、睨みつけるように彼女は女の持つ剣を見詰める。
「その剣は……まさか」
ドクドクと血を垂れ流す左肩を押さえながら、メルラテールは呟いた。
「あー、そっすねー。やっぱ知ってるっすよねー」
ばさりと頭部の外套が外れ、現れたのは金色の髪。爛々と燦めく同色の瞳に秘められた激情を押し殺すように、蒼く濡れた白剣をチラリと見ながら彼女はカラカラと笑う。
「いやー、てか凄いっすね。《転移》での奇襲っすよ?反応出来るもんなんすか、これ?」
「……無駄口を叩くな、《勇者》」
軽口の中で敵に渡してはならない情報を渡すと言うある意味ファインプレーをかました《勇者》は、べー、と舌をだすとそのまま、ふいと首を背けた。
「あーしはてめーら亜人なんて認めたくもないっす。今でも、そこのお姫様と一緒にくたばりやがれって言いたいくらいなんすよ?」
「勇者リーア、そこまでだ」
間に割って入るように言葉を紡いだのはギーリ王。兵士達、そしてガスドにも苛立ちが垣間見え、流石に不味いと認識した故の行動。
焦りが滲んだギーリ王の言葉は、だが勇者を止めるには至らない。
「いくら王様でもあーしのこのスタンスは譲れないっすね。そもそも、なしてこんな警戒してんすか?
ほら、もうあの竜姫死にそうじゃないっすか」
「……言って、くれますね」
ガスドとギーリ王は傷口を抑えたメルラテールを見詰める。
確かに、そうかもしれないと思わせる程にぼろぼろであった。開いた傷口は、腹を貫く大剣により喰らわせたリコリアの毒で治らない。この建物内に無尽に敷かれた《転移陣》によりいくらでも意表をつく攻勢を取れる。
それだけではない。既にかけられた罠の類いはその程度収まらない。例えば──
「──てか《呪い》と《封印》の処置して、さらに《結界》張ってこれなんすか?前言撤回っす。それなら予想以上にヤバいっすね、竜姫」
けらけらと笑いながら、《勇者》は言った。
それを耳にし、剣を抜いたままほとんど停止していた兵士達がギシリと音を鳴らす。ギーリ王が目を見開く。
そして、誰よりも速く反応したのはガスドであった。
「チッ──」
駆ける。手に握るのは、かつて世界を席巻していた《輪王》と《祇王》の決戦にて使われたとされる『
ギラリと煌めく黒色に、そして片手に魔力を滾らせガルドはメルラテールへと接近する。
「──お、トドメっすか?!それならあーしも混ぜろっす!!」
リン、と音が鳴り、《勇者》がメルラテールの後ろへ転移する。メルラテールは反応しない。
ガスドの魔力が形を作る。瞬間で彩られたそれは炎であった。ガスドは、バヂバヂと言う音を鳴らし始めたそれを片手に掲げる。
そして、勇者の白剣が振るわれた。
そして、ガスドの炎が放たれた。
──そして、メルラテールの傷が
「──んな?!」
最初に異変に気が付いたのは《勇者》であった。ギィン、と何か酷く固い物を切ろうとした感覚。手に強い痺れが走る。
振るった剣が首元で止まっている。先ほどは難なく切り裂けた肉体が、途轍もない硬度を持って刃を迎え撃った。
──勇者の目に、
それに驚いて一瞬止まった勇者の腹に、スッ、と手が添えられる。そして、ポツリとメルラテールは呟いた。
「
バグンと空が弾けた。掌から放たれた、その形のない衝撃波が勇者が操る強靱な肉体に走り──、そして膝を付く。
「──ぁ……ゲホッ!ゲホッ!!なん、これ──おえっ!!」
カランと剣が地面へ落ちる。勇者が吐瀉物を吐き出しながら倒れ伏す。
そして、メルラテールの後頭部に炎が迫る。あと少しで着弾する──その瞬間、割って入ったのは細い掌。
炎が、まるで砂糖細工のように握り締められ、潰された。パン、と何かを無理矢理押し込めたような音が鳴る。
それを欠片も見ずに行った彼女は、驚いたように振り向きながら言った。
「……おや、叔父上はここまで魔術を高めていたのですか?それは随分と──」
「──死ね」
黒剣がメルラテールの眼前に迫っていた。鉄面皮のガルドの姿が瞳に映る。
そして、もうコンマ何秒で到達するであろう眼球に、その剣の黒い筋が横切り──その瞳が笑うように細められた。
「──随分と頑張ったのですね、叔父上」
ブン、と音が鳴る。そしてガスドの耳に、
「……何が起きた」
ギーリ王の声が響く。だがそれに応える者は一人もいない。誰もが驚きか、もしくは恐怖と驚愕で染めつくされていた。
瞬きの間すらなく、真後ろへ移動した姪。その存在を噛み締めながら、ガスドは空振った剣を戻すように突き刺そうとした。
「やけに物騒ですね。そんなに私を殺したいのですか?」
渾身の一撃へと返答は微笑みと、そしてその言葉だけであった。
ガスドは
「化け物が」
そして、それにやはり微笑むと、メルラテールは満面の笑みでそれに返した。
「最高の褒め言葉ですよ、叔父上」
戦闘シーンは難しいですね……。