そうだ トレセン、行こう。   作:可能性の甲殻類

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ゴー・トゥー・トレセン

 自分はウマ娘である。名前はあるのだろうが知らん。

 どうしてこうなったのか全くもって見当がつかない。何でも普通に道を歩いていたら車に突貫されたのは記憶している。

 ……うん、このまま進めていくとシンプルに体調を崩しそうだから、普通に戻そう。

 しかしこの上の2段落の事は本当で、気付いたらウマ耳と尻尾が着いた美少女になっていて、脳内グーグルに『もしかして:ウマ娘 プリティーダービー』が表れ、実際その通りであった。

 ぶっちゃけ「は?」ともなったし、それと同時に「普通は赤さんスタートでは?」とは勿論思った。ただ、多分自意識の自覚が無いときに自分のそれを移植した、つまり憑依的な物のそれなんだろう。考察要素が多いゲーム以外で考えるのは深層までにしておくのに限る。

 さてと、ウマ娘に転生したとあれば、とりあえずの目標を決めてある。

 そうだ、トレセンに行こう。

 成り行きで目標決めてんじゃねぇよハゲとか言われそうなのだが、この世界でウマ娘になったのならそりゃあ1度はトレセンに行きたいと思うだろうし後自分は今も前世もハゲじゃねぇよハゲ言ったアホタレは正直に手を上げろその全身の毛という毛をダクトテープで毟り取ってやろうかこの野郎。

 ……申し訳ない、取り乱した。話を戻そう。

 自分の現在の年齢は多分4歳な訳なので、中等部の入学までは大体8年の猶予がある。そこまでは趣味もとい生活の1部であるゲームをしながら、適度に努力して入学を目指していこう。

 まだやりたかったゲームやら発売予定のゲームをやれなかった事で内心かなり未練タラタラで、かつこれをしでかした3女神を若干恨んでいるが、そこは仕方ないと割り切って目の前の『自分はウマ娘である』という現実に向き合うしかない。

 まあ、それらをポジティブに捉えよう。これまでとは違う、まだ見ぬゲームに出会えるのかもしれないし、後は……まあ何とでもなるはずだ。ならなかったら詰み。何とかなれ、頼むぞ。

 

 

 

 

 

 

 自分はウマ娘である。歳は10を超えた頃で、名前はクシクスと言う。シンプルで自分は好きだ。

 転生や憑依と言えば、原作知識による原作キャラ救済や俗に言う神から貰える特殊な力……またの名を忌むべき単語「チート」を使った勝利劇がよくよく有名なのだが、例に漏れず自分も特殊な力を持っている。

 それをゲーム的な表し方にするなら時限強化、あるいはブーストとも言う物で、身体にあるそこかしこのリミッター──例えば脳の知覚制限や筋力の限界──を一時的に全て取っ払わせる、わかりやすく言うなら火事場のバカ力を任意で使えるようになる相当イカれてる代物。

 認識力に極振りすればゲームプレイにも応用出来る上、現状だと回数制限的な物も無さそうなので手軽にブッパ出来るのもベネ。

 しかしデメリットとして、使うには急激に集中力を高める必要があるのと、単純にブーストの際に使っている部位へと許容範囲スレスレの負荷がかかる。

 それと効果が切れた後に精神と肉体両方に大きな疲れが襲ってくるので、1日に何度もポンポン使うと頭がショートするし、肺が痛い痛いするし、後日の筋肉痛でより死ねる。

 とはいえ切り札級の強さである事には変わりない。丁重にブッパする事を心掛けよう。

 それとウマ娘の身体になった感想ではあるが、アニメから言葉を拝借して言うなら「このウマ娘の身体凄いよォッ! 流石は人間の上位互換ンンンッ!」である。

 いや本当に、ジョーク抜きで凄い。重そうな物を片手でも持てるし、体力が有り余る程にあるお陰でゲームのみならず、運動がめちゃんこ楽しい。

 尚この体になっても未だボールに蛆虫の如く嫌われているのか、相変わらず球技はお話にならないくらいに苦手。……おえ、あの時の白けた目を思い出して気持ち悪くなってきた。はは、別に球技出来なくても人生破綻する訳じゃないはずなんだけどな。あれおかしいな、目からコジマ粒子が。

 さて、現状を話そう。

 今は自分の現状唯一の友達であるマンハッタンカフェと1400メートルくらいで競走(カフェは確か長距離強者だった気がするが、まあ幼年期補正だろう)し、ブースト込みでどうにかギリギリでこちら側が勝った所である。

 

「はぁ……はぁ……後もう少し粘っていれば勝てたのに……」

「はぁぁ…………はぁぁ……なんでそんな体力あるんだよ……自分はもう体力尽きたし頭オーバーヒートしてるし、もう走れんっての……」

 

 何ならここまで何度もブーストを使っていた故に、スマートフォンのバイブレーションをも凌ぐレベルに脚が震え、ここから歩く事すらマトモに出来なさそうだ。

 

「……カフェー、申し訳無いけどさ、引きずってでも良いから家に持ってってくれない? もう立てない……」

「なんでそうなるまで体力を使ったんですか……」

 

 そう言いながらも、カフェは自分を背負う。何だかんだあっても、自分の言うことに付き合ってくれるのは嬉しかったりする。

 

「……クシクスさん、貴方はトレセン学園に行く気はありますか……?」

 

 カフェにおぶられて道なりに進み、体温の温かみと運動後の疲れがベストマッチした眠気と戦っていると、ふとカフェに話しかけられる。

 

「ん、あー……自分は行くつもりだって前提で話すけど、今はまだまだ早いって思ってる。中学からの推薦で挑むつもり」

「……何故ですか? 今のクシクスさんなら十分に勝てると思いますのに……」

「ん、そうだな……アレだ、まだ足りないんだよ、色々と。今自分がやってたこの競走はあくまでも趣味な訳、じゃんか。ただ人前で何かする、今回だとレースに出るとするんであれば本気でやる必要がある訳だ。だったら、今の自分には覚悟も足りない、ブーストの検証の数だって足りない、何なら自身の適正への理解も、素の強さすらも足りてない。そういうの考えたらまだ早いかなって」

 

 自分はウマ娘の異端と言われても文句の1つも言えないレベルには、「勝ちたい」と言う本能に狂っていないウマ娘だ。しかしそのウマソウルが持つ本能の代わりに、1人のアルティメットなゲーマーソウルが搭載されている。

 戦いをやるのなら例えゲームじゃなかったとしても当然として勝ちたいし、そしてそれには「全力で」と言う前置詞が付く。

 

「検証ですって……ふふっ、科学者みたいですね……」

「自分はわりかし典型的なテンションファイターだけどさ、それと同じくらいにはデータも重要視してるんだよ。直感でテンションのまま戦うより、ある程度以上のデータを頭に叩きこんでからの方が勝てる可能性が多い。違います?」

 

 この自分にしては珍しい、とても真面目な事を言っていると、ベストマッチした眠気が酷使した脳をベースにフィニッシャーを決めてきたのか、これまでに無い程に瞼を閉じたい欲求に駆られる。

 ……この後の事はカフェに任せて寝てしまおう、そうしよう。大丈夫、カフェは真性のドライモンスターでは無いから途中で自分の事をほっぽり出して1人で帰ったりはしないハズだ。

 

「カフェ……背中で寝るけど良いね?」

「えっ、それは本当に困ります……!」

「生憎だが答えは聞いてない!」

 

 適当に言った後に目を閉じて全身を脱力させる。カフェが温いのが悪いのだ、自分は悪くない。

 背中から衝撃、もとい恐らくカフェの『オトモダチ』が殴っているような気がするが、気にしては負けだ。

 

 

 

 

 

 

 眠気の若干残る目をこすって開けると、そこは新幹線の中。自分の体質的に短時間の睡眠──つまりはショートスリーパーの事──で済むのに、最近は疲れていたのだろうか。

 伸びをした後に鞄から愛飲しているエナジードリンクを取り出して飲んでいると、次の駅が自分の降りる府中駅である事を示すアナウンスが鳴る。

 手荷物の鞄以外に特別大きな荷物も無いのでそのまま立ち上がり、ドアの方へと向かう。

 駅に止まる時の慣性で一瞬よろめいたが直ぐに立ち直し、開いたドアを潜って駅のホームに足を付け、その後に改札を抜ける。

 駅付近を見回した後、とりあえずカフェのいるだろう待ち合わせ場所へと向けて歩いていると、1人の少年から話しかけられた。

 

「あの、クスィーさんのファンなんです! サイン下さい!」

「ああ〜……はぁ、まあ良いよ。じゃあその色紙貸して。名前は?」

 

 名前を聞き、差し出された色紙に持ち歩くようになったサインペンで自分の配信時の仮名である「xI(クスィー)」と少年の名前を描き、それを渡す。自分のファンだと言う彼は「ありがとうございます!」とお礼をした後、胸に色紙を抱えて走り去っていった。

 ……何故こんな事になっているのか、軽く4つの段落にしておこうか。

 

 1。普通にゲームしてたらプロゲーマーパーティに出会ってそれらをどうにかソロ撃破。その後に1人からDMで配信をやってみるべきだと持ちかけられる。

 2。じゃあとりあえずと祖母に相談してからチャンネルを開設。中身はただゲームしているのを黙々と垂れ流したり合間にインターネット老人クラスのネタを擦っているだけなのだが、例の1人が宣伝したのか妙に人気が出た。

 3。そうしているうちに本物のプロゲーマーチームに誘われ、前まで通りネットジジイしていても良いならと加入。それがあれよあれよと言う内にそのゲームの世界大会のチームの一員になっていた。

 4。そこで劇的な優勝をした。

 

 何を言っているのかわからなかったと思うが、今でも何でこうなったのか自分自身ですらわかっていない。ただ言えるのは、クッソ怪しいのに何故この話に乗ってこのチームに加入してしまったのか、という事。

 その時の自分は舞い上がっていたのだろうが、こう、笑えないくらいに注目されるならやめときゃ良かったと今思い直している。

 表面的には全く別人とはいえ、中身は陰側である『自分』そのままなのだ。ここまで注目された経験は記憶全てを辿っても無いし、それ由来の疲れのお陰でここ1、2年は目のハイライトがずっとログアウトしたっきり全く戻る気配すら無い。

 今度から髪を対称的な黒鹿毛にでも染めたりとかして変装しようかと施策していると、待ち合わせの場所に着いた。そこには既にマンハッタンカフェが居て、自分を見るなり駆け寄ってくる。

 暫くリアルで顔を合わせて話していなかったのもあって懐かしさを感じていると、彼女から会話の封を切った。

 

「……変わりすぎです……身長も並んでた位から一気に伸びましたし、しかも何があったらプロのゲーマーになってるんですか……」

「はは、わかる、正直自分でもそう思う」

 

 それに思わず乾いた笑いを放つ。仕方ないだろう、だって自分自身でもぶっちゃけこうなるだなんて知らなかったのだから。

 自分の身長はカフェを軽々と超えて、何なら前世の自分をも超えた176センチだし、(一応前に話していたとはいえ)成り行きでプロゲーマーになっているし、前者はまだしも後者を誰かが予想出来てたまるか。

 しかし過去の事をうだうだ言っていても仕方ないので気を取り直して、学園に足を向ける事にした。無論、道中は会わなかった頃の話をしながら。例えば自分が世界大会で優勝した直後にぶっ倒れた珍事だったり。頼むから忘れてくれよそんな物。

 そうしている内に、とうとう目標の学園の正門へと着いた。桜の花びらが舞う憧れの校舎は自分からしても美しく、感動的な光景だ。

 前に構える正門を潜り、ゲームとアニメで見た以上に広いのを実感していると、横から祝福の声が聞こえた。

 

「入学おめでとうございます!」

「ああ、ありがとうございます」

 

 目の前に見える全身グリーンの服を着る女性は駿川たづなである。この学園の秘書をし、同時にゲームではジュエル回収を担当している緑の悪魔だ。かく言う自分も彼女に幾つもの数の白天井を見せられた。

 ……彼女を見ているとその事を思い出して、まだログインしてもらっている瞳のハイライトが全員ログアウトして黄緑単色になりそうなので、さっさと校舎へと向かう。

 ああそう、なぜ校舎に向かうのかと言えば、自分は推薦で高等部から入学したとは言っても体裁上は転校と同意義なので、体育館でやっている入学式には出る訳では無いのだ。つまり自分が行くのは体育館側ではなく校舎にある教室になる。

 カフェが行くのに着いていくと高等部のウマ娘がいる階層にたどり着き、偶然にも自分はカフェと同じ教室だった。普段は悪い方ばかりに働くリアルラックと乱数だが、今回ばかりは空気を読んで初っ端1人ボッチにはしてくれなかったようだ。お願いなのでその空気読みをずっと継続して欲しい。

 クラスに入るとやはりと言うべきか、自分を見てざわめくウマ娘もいた。有名人である事の証拠であるが、少し気分が落ち着かない。後そこの奴、そんな驚いた目で見るな。確かに配信で行くだなんて一言も言って無かったけども。

 ひとまず番号順に従って、窓辺左端の1番後ろにある席に座る。着席した後は目の前の注目されている事実から逃げる為に空を眺めていると、暫くしてから担任の先生が教室へと入り、自身の自己紹介の後に生徒の自己紹介タイムが始まった。

 1番(敢えて深く言わないがアグネスのやばい方である)がいないのもあってか自己紹介は順調に進んでいき、自分の番がやってきた。勿論脳内カンペなんて考えていないので全てアドリブだ。

 

「あー、どうも。既に知っている人もいるかと思うけど、クスィー、本名をクシクスと言います。特別言う事も無いんですけど、少しずつここに馴染んでいきたい……ですね。まあ、よろしくお願いします」

 

 自己紹介の後に大きな拍手が聞こえる事から、中身が陰の自分にしては上手くいったと思う。

 自己紹介が終わった後は暫くの自由時間だった。各々気になるウマ娘へと話しかけていく時間である。

 ……自分? 日本ウマ娘ゲーマー界所か日本ゲーマー界の偉業レベルの事を成し遂げたというのに、どうして同胞のゲーマーウマ娘から話しかけられない時間があるというのだろうか? つまりはそういう事なのだ。悲しいね、バナナ味。




以外とこんなウマ娘を見かけないので書いてみました。TSタグを付けてないのは単純に前世の性別含めた云々を考えるのが面倒だからです(ゲス)。
良ければ評価・お気に入り・感想を叩きつけてくれると「最・高」になります。
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