そうだ トレセン、行こう。   作:可能性の甲殻類

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日刊ランキングで66位……? 嘘だ、私を騙そうとしている……。
それはそれとして本当にありがとうございます。この調子で評価赤、目指してみたい所さんですね。


素の戦力差はヨットVS宇宙戦艦

「マンハッタンカフェ。実はこの賭けは2回戦形式だったんだよ」

「クシクスさんの堂々と嘘を付く姿勢、私はもう慣れましたよ……」

「いやぁそんな目で見られてもさぁ、ゲームとかレースで負けるのは別に良いんだよ。別に次にその失敗を活かせばいいんだからさ。ほら、失敗は成功の元とか言うし。でもさぁ、賭けの負けっぱなしは嫌なんだわ!」

 

 と、賭けに思いっきり負けたにも関わらずグダグダとただを捏ねているウマ娘。自分である。

 お前はギャンブラーかギャンブル中毒者かとか言われそうなのだが、だったら追込とかいう博打もいい所の脚質のままにしていなければ、それこそギャンブルの極みであるプロゲーマー界隈に首を突っ込む訳が無いのを知って、それでも尚ハッキリと言うようであれば否定はしない。一言も小言を言わないとは言っていないが。

 閑話休題。

 現状に目を向けると、夕方の、もうコースを走るウマ娘を見かけない時刻で賭けレースをしようとしている所である。ちなみに自分は既に賭けに1度負けてジュースを奢っているため、それを取り返すための競走をしようとしている。

 

「頼む……頼むっ! 負けたらもう1本出す! だからやってくれ、頼む!」

「そんなに全力でやらなくても、私は付き合いますよ……」

 

 土下座へと移行しかけていた体をしゃんと伸ばし、今度は斜め45度の体勢で感謝の言葉を放つ。

 カフェがそれに少し笑った(もしかしたら苦笑かも知れない)所で、じゃあコースはどうするかの話になる。

 

「それじゃあ、カフェ。自分はカフェが言った距離に合わせるから、好きな距離を選んでいいよ」

「それでは、2000メートルにしておきましょうか。小学校で別れたっきり、1度もやっていませんからね……」

 

 今までにやってきた競走の勝敗結果は20戦10勝10敗で現在同点。これで自分が負けたら小学生の頃に稼いだ勝利が無に帰してしまうので、どうにかここで勝っておきたい。というか高学年になるにつれて身体能力の暴力で潰してくるのは勘弁してくれ、お願いだから。かなりのイカレ性能だと自負しているはずのブースト使っても尚いい勝負してくるって本当に何だお前……ああ、将来のG1ウマ娘か、なら納得。

 だがそれはそれとして負けたくはないので精々足掻かせてもらう。将来のG1ウマ娘であるからと言っても、だからと言ってはいそうですかと素直に負けるつもりはカスほども無い。ブーストを無理ブッパしてでも負かしてやる。

 

 クスィーと言う自分に酷く酷似した他人ばかりを見やがっていたトレーナー共由来の疲れのせいで外道節が出てきているのを一旦気持ちの棚に置いておき、ひとまずターフへと向かって競走の準備を始める。

 3回目の競走の時に家から勝手に租借して以来、ずっとお世話になっている25セント硬貨をポケットから取り出し、それをまじまじと眺める。

 これは何でも自分の母親の母親……つまりは祖母が持っていたらしく、勝手に持ち出したのがバレた時には祖母にちょいと怒られたのだが、最後には「日本のG1を取っておいで。これは選別だよ」と託された。

 託されたその思いを固めるように、右手に握りしめて胸に近づける。流石に祖母のようにダービークラスのレースは取れなさそうだが、それでも託された思いは無下に出来ない。しっかりと継承していくつもりだ。

 その後にターフに立っているカフェの隣に立ち、右手に持っていた硬貨を親指の上に乗せ、弾く。

 小気味良い小さな金属音が静かなターフに響いてから地面に落ちたと同じタイミングで、解説も実況もいない、本当に自分達2人だけの競走は始まった。

 

 

 

 

 

 

 スポーツというのはどれだけ自分の腕前が高いかを競うのではなく、どれだけ相手に適切な嫌がらせが多く出来るかの勝負だ。無論、それはレースでも、そしてこの競走でも同じ事が言える。

 選抜レースのように一瞬先頭を取った後にカフェに譲り、自分はカフェの後ろに位置取った。

 カフェというウマ娘は実際のレース(デスマッチ)でそうかはまだわかっていないが、少なくともタイマン(1on1)では後ろからプレッシャーを掛けられるのを嫌う。7回目にふと後ろを取ったら少し掛かり気味になった事から気付いた弱点の1つだ。

 

「クシクスさんは本当に、弱い所を執拗に突いてくるのが好きですね……!」

「そりゃあそうよ、わざわざ強いのと同じ土俵で戦いたい訳あるかいな!」

 

 苦々しい声が飛んでくるが、「それが何か問題でも?」と言わんばかりに適当に返してひたすら後ろでプレッシャーを掛け続ける。

 

 正しく卑怯な戦法なのだが、それが何だ。目の前にある、自分に有利になる物は何でも使わねばならない。例えば情報だろうが、乱数だろうが、相手を苦しめる弱点だろうが、それこそルールに則っていても卑怯な行為だろうが、それらが自身の脚質に合い、かつ巡り巡って勝利に繋がるのなら多少は問題にならない。最終的に勝てば良かろうなのだ。

 これは自分が長年に渡ってゲームをしてきた結果、培われた1つの思想である。

 勿論、エンターテイナー的な思想も捨ててはいない。弱者が強者と戦って勝つ、なるほど実にエンターテインメント的だ。しかし、だからと言って『強者に正面から堂々と戦って』勝てる弱者はいるのか。いや普通はいない。いたらそれは運の力がとても強いか、弱者の面した強者だろう。

 自分のように本当に素の力量で劣る弱者は、少しでも自分の有利な状況に持ち込む為に頭を働かせて戦略を練ったり、場合によってはホワイトゾーン内の姑息な行為をするのだ。

 更に言えば、スポーツは言葉で多少取り繕っているだけで、中身を見ればゲームと同じ『勝てば官軍、負ければ賊軍』の世界。最低限の規定とマナーに沿ってさえいれば何をしたって罪にはならないのに、その考えをわざわざ捨てて「正々堂々の勝利」に拘る必要性は無い。ゲームだったら漁夫られるか徒党を組まれてリンチにされている。

 そんな世界で弱者如きが騎士道ロールプレイしようが、負ける事は目に見えている。だったら、多少汚い手であっても価値の変動しない勝利を勝ち取るべきだろう。ユーコピー? アイコピー以外の選択肢は無い。

 

 さて、弱点をひたすら攻められて随分苦しそうな友人を眺めるが、当たり前だが掛ける慈悲は無い。こうでもしなければ、実力が精々中の中程度しかない自分は2倍差の実力があるカフェに大差を付けられて負ける。つくづくぶっ壊れクラスも良い所の実力だ。

 そうこうしている内にカーブに入り、カフェは左右に振って自分を剥がそうとするが、その度に数フレームの差が出来ながらもしっかりと追従していく。

 

「そう簡単に振り切ろうとされては困るんだよ、カフェ!」

「本当に、しつこい……!」

「しつこくて万歳、面倒で何が悪い!」

 

 カーブを出てからも依然振り切って自由に走ろうとするが勿論させず、逆にこちら側が彼女に茶々を入れたり足音を意図的に強くして抜かすフリを入れ、調子を崩させようとする。こっちからは全く見えないがさぞかし迷惑そうな顔を晒しているだろう。

 終始思い通りに動かさせないのを徹底した走りをしていると、2つ目のカーブに差し掛かる。ここから先は耐久勝負。カフェが粘り勝ちするか、自分が差し切るかの、その2択。

 と、カフェがスパートを掛ける。自分の情けない素のスタミナ容量ではすぐにオーバーヒートしてしまうのでここは控える。勝負時は普段と変わらず、残り3ハロンを丁度切ってからだ。

 こんな事を考えていたら、もうカフェは遠くへと走っていた。やはりエンジンの性能が違う。レシプロとジェット並にかけ離れている性能じゃあ、当然勝てる訳が無い。やっぱり素の自分は大して強くない事を知らさせられる。

 ……だがしかしだな、自分はレシプロだけども、最新型のレシプロなんだ。その上で暴走させたのを無理矢理制御させたなら……本物の最新鋭であるジェットにだって、まだ勝てる可能性はある。

 1人語りかけた後、ブーストを起動する。

 

 ──グヴァァァン、ペポペポペポ……

 

 起動直後に一瞬息を入れ、前方にいるマンハッタンカフェ(ライバル)を赤く光る(レティクル)の中に捉える。

 距離にして凡そ24メートル前後、バ身換算で10バ身。今までだと余裕をもって巻き返しが狙える距離だったが、カフェは自分よりも早く鍛えていた分能力も上がっているはず。だからこそ現在持てるリソースを、最低限を残して脚に突っ込む。

 精々耐えてくれよ、自分の骨。

 負担の限界を超えて折れてしまう悪夢が胸に過ぎったが、今は関係ないと振り払って目の前の標的に視線を集中させて、そこに向けてギアをフル回転させて特攻する。

 流石はブーストのパワーと言った所か、尋常じゃない速度をもって背後の位置に着く。しかしカフェもカフェで速く、後ろに着くまでにハロン棒を5本も超えていた。残り100メートルでこの差を覆せるかどうか。

 ……いや、出来るかどうかじゃなくてやらなきゃいけない、か。頼むからキリキリと働いてくれよ、ポンコツエンジン。このウマ娘が持つ力の要なんだから。

 返事を返すはずもないそれに説教をしてから、フルスロットルだったギアを無理矢理更に上げる。シャーシフレームとギアスロットルが悲鳴を強めるが、これ以外に特殊機能があるだけの第1世代機が、新品同然の新品の第三世代機に正面勝負して勝つ方法が無いのだからこの方法を選んだのだ。

 

「ぶっ潰してやる!」

「望む所です……!」

 

 掛け合いを入れ、お互いに雄叫びを上げて加速し始めた。負かしてやる、欠片程度の自分の名誉が掛かっているってんだ!

 

「はぁぁぁぁあああああああっ!」

「うっしゃアアアァァァ───ッ!」

 

 

 50メートル。その地点で漸く並び──

 

 

 ……0メートル。そのまま横並びにゴール…………ああいや、違う。

 マンハッタンカフェが僅かに、たった3センチのハナ差で前に出ていた。

 これで21戦10勝11敗、負け越しだ。

 ……やっぱりネームドは強いか。ましてや自分の特性が大体割れているマンハッタンカフェとじゃ、勝ち目が薄くなる。見込みが甘かった。

 悔しいけれど、自身のそもそもの地力がまだ弱っちい。勝てるだなんて思ったのは、それこそ傲慢って物か。

 それを思案しながら、ブーストの反動とレースの体力を使い切った二重の意味で息を切らしていると、カフェが手を差し伸べてきた。

 

「良いレースでした、最後に抜かされるかとヒヤヒヤでしたよ……」

「そりゃあ、どうも……まあ、それでも負けたって事は、まだまだ自分の詰めが浅いって事か……はあ、取りに行ってくる……」

「クシクスさん、あれだけ言っておいて持って来てなかったんですか……」

「だってごねるのが目的だったし……」

 

 力無くヘッヘッヘッと軽く笑ってから、鈍く立ち上がって自分の寮へと向かって行った。勿論、途中で形見の硬貨を拾ってから。

 

 

 

 

 

 

 仕事の休憩がてら、あの事を心に未だ引きずりながらも気分転換の為に学園周りを散歩していた時、何の気なしにターフ側を振り返ると2人のウマ娘がレースをしていた。

 1人は髪色が黒く、確か選抜レースの最後の中距離部門で1着を取っていたウマ娘。そして1人は……確かに私が見とれていたあの芦毛のウマ娘だった。あの末脚、あの脚の回転、あの速さ。そして、あの赤い粒子の幻覚。それを私の目に見せるのは、彼女しかいなかった。

 その走りに見とれて観戦していると、見ていたレースは終わった。遠目に見える悔しそうな表情から、きっとあのウマ娘は負けてしまったのだろう。勝利が見えていなかった私はまだ新人だな、と思っていると、あのウマ娘は学園の方へと戻っていった。

 きっと本来なら、それでお終いの話だった。でも、私のその心の取っ掛りは「そのままで良いのか?」と囁いていた。

 

 本当にそのまま見逃して、自分の目を焼き付かせたウマ娘じゃなくても良いのか? 最初の担当は自分の心を高鳴らせたウマ娘じゃなくても良いのか? 本当にそれでいいんだな? 

 

 どうせ他のトレーナーがとっくのとうに担当していただろうに、そう考えていた。きっとそれをトレーナーの本能と言うのだろう。気づけば私は彼女に向かって走り出して、話し掛けていた。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……ね、ねぇあなた……選抜レースのマイルで1着を取っていた、クシクスだよね?」

「え……ああ、はい。そうですが」

 

 堪えろ、話すだけで十分じゃないかと理性で制御しようとしても、トレーナーの本能は勝手に動くのを止めない。

 

「1つ質問するけど、貴方にはもうトレーナーは就いてるの?」

「いえ、まだですけども、それが?」

 

 まだ就いていなかったのに驚くと同時に、良しと喜ぶ感情も起こる。

 

「……うーん、じゃあさ、良かったらだけど私がサブトレーナーとして勤めてるチームに入らない? 今は人数が少ないけど、メインのトレーナーさんは気さくだし、真剣に向き合ってくれると思うから、悪くないと思うし」

「ふーむ……じゃあ、考えようによっては自分に裂ける時間も多いって事で大丈夫です?」

「まあ、そういう事にもなるかな」

「であれば、少し加入も考えますね。もう少し時間かけて、良い人がいなければもしかしたら加入を選ぶって感じにしておきます。それでは」

 

 そうして勧誘し終えた後、我に帰って一息吐く。彼女は足早に寮の方面へと向かっていって、既にいない。

 ……もしもの話になるけど、あの子の事を担当出来たなら、相当嬉しいんだろうな。

 そう思うと体が軽くなったような感覚がして、いつもより軽い足取りで再び先輩のいるプレハブ部屋へと入っていった。




前回でレース描写は難しいとかほざいていたのに2話連続で書いているおバカさん。
私です、はい。
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