時空世界。
それは我々が暮らす世界とはまた違う世界。
自分達の暮らす世界を現行世界と呼び、他の世界を時空世界、または異世界と呼んでいる。
住む人も種族も生態も様々で、時空世界の干渉は各世界の時空世界研究者たちが互いの世界を滅ぼしかねないのではと恐れておりました。
そんなある日のことでした。
時空世界各地が平和で平和で退屈をしている時空世界を旅する1匹の小さな赤いドラゴンがおりました。
気まぐれに世界を覗いてはいなくなる、自由気ままなドラゴンだったが……。
ふと、ある宇宙世界で1人の人物を見つけた。
何かに疲れているような、無表情で感情の無い目でパソコンの画面を見て、ただただ仕事をこなすだけの人間を見つけました。
姿を消して彼女の様子を眺めていた。
よく怪我をする人たちが来ては治療して、いざ呼び出しが掛かると管制室にてオペレーターとして仕事をしている。
この世界の事情はよく知らないが、この船の人たちは……何かに疲れている。
ドラゴンは自分たちに見える、世界の支えである天秤を見つめました。それは片方に偏っていて、支える柱もガタガタでした。
それを見てドラゴンは自分が抱えて持つ程の大きな10面サイコロを空間から取り出しました。
自分には世界に何かすることはできない、でも世界同士を運で鉢合わせることはできる。
他の世界の神々からは邪竜として嫌われているドラゴン。嫌な思いや惨めな思いは大嫌い、そんな思いをしている人を見るのも大嫌い。だから、ちょっと傍迷惑な奇跡を起こす。
少しでも色んな世界の人が、出会えた人たちと笑っていられるように。
願いを込めて、ドラゴンは今回もまたダイスを投げた。
コロコロコロ…。
「?」
響いた音に疑問を持ち、ドラゴンが見ていた女性…星科 静は窓の外を見た。
直後、管制室に危険アラートが鳴り響く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「かのぷぅ♪おっはよー♪」
満面の笑顔で宿屋から出てきたドラゴン騎士、ロゼッタ・ドラガリオンは愛竜である白いドラゴンの顔に抱きついた。
ドラゴン専用の宿舎にいた【かのぷぅ】と呼ばれたドラゴン【カノープス】はやれやれとした顔で抱きついてきたロゼッタの頬を舌先で舐める。
時空世界の1つ。
ここはカタリーナ王国、ドラゴンと人が共に暮らし冒険している世界。
平和で皆が笑顔で過ごし、笑い合っている。
カノープスから離れてロゼッタは空に向かって両手を広げてくるくる回る。
「さて、今日も【アオハルシオン草】探しにレッツゴー!」
そう意気込む彼女だったが、カノープスが目の色を変え空に向かって唸り、威嚇を始めたのだ。
「へ!?かのぷぅどうしたの?!怖いよなんか!」
カノープスを落ち着かせながら空を見ると、ロゼッタは目をギョッと見開いた。
なんと、空から巨大な鉄の船が落ちてくるではないか。
時は既に遅く、カタリーナ王国から少し離れた山にその船は墜落。
大きな地鳴りと共に大地が揺れ、立っていられなくなるほどの地震が起きた。
「ねえ、かのぷぅ!今のって異世界の船だよね!!行ってみようよ!」
目を輝かせるロゼッタにカノープスは目を閉じてため息をつきながら、ロゼッタが自分に乗れるように身体を低く屈めた。
少しでも【アオハルシオン草】の手がかりが欲しい。異世界の人は知っているのか確かめるためにロゼッタはカノープスに乗り、船が落ちたであろう山の方向へ飛んでゆく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「確かこのあたり……あれー?山が凹んでるのになんで鉄の船が見えないの?」
キョロキョロと見渡すロゼッタだが船は見つからない。
そんな彼女の道に、森狼の遠吠えが聞こえた。
それは獲物を見つけた合図、それと同時に森狼たちの悲痛な鳴き声や唸り声、吠える声が聞こえた。
「かのぷぅ!」
武器を持ち、手綱を引きロゼッタはカノープスと共に狼の声が聞こえた場所へ向かう。
一方森の中では。
「さいっあく!!」
悪態をつきながら、静は白衣の裏に仕込んでいた護身用の薄めた劇薬入りの試験管を後ろから追いかけてくる狼たちに投げつける。
1匹に当たり〔キャイン!〕と悲鳴をあげる狼、劇薬と言っても中身はアンモニア液で臭いに敏感な狼ならば多少は足止めできるだろう。
爆発で外に投げ出されて、運良く軽傷で済んだはいいが、静の頬からは狼から逃げる際に枝で切ったのか血が流れていた。
身体が擦り傷や打撲で痛み、呼吸する度、脈を感じる度に身体が痛む。
苛立ちまぎれに髪をかき上げながら静は舌打ちした。
(ただでさえ三徹明けだってのに…なんなの…?)
振り返ると未だにこちらを見て威嚇する狼たちがいる。それを見てため息をつく。
(よく考えたら、なに必死になってるのかな私……。生き残って船に戻ってもブラック労働させられるだけだし……)
このまま死んだ方が、まだ楽かもしれない。
「今流行りの転生ってあったらいいなぁ…」
と、ぼやいていると。
「かのぷぅ、Go!!」
空から澄んだ女の子の声がして静は「え?」とそちらを見ると。
白いドラゴンに乗った女の子がやってきて、ドラゴンは口を開き氷の光線を吐き出したのだ。
それに驚いて慌てて飛び込むように静は回避した後、狼たちを警戒し後ろを見たが。
そこには氷塊の中に閉じ込められた複数の狼たちがいた。
「え?」
「そこのお姉さん、大丈夫?危なかったねー、この辺りの森狼たちって人はあんまり襲わないんだけど………あなた変わった格好してるね」
ドラゴン、カノープスから降りてきたロゼッタに手を差し伸べられながらそう言われて(あなたに言われたくない……)と静は内心でツッコミを入れて、手を借りずに立ち上がる。
「助けてくれてありがとうございます。ですが問題はないので、失礼します」
「そっか。でもボロボロ……かのぷぅ、《ヒールブレス》」
ロゼッタがカノープスにそう言うとカノープスは静に顔を近づけて、フー…と静に息を吹きかせる。
「……傷が」
目立った外傷が消えていた。
「まだ身体が痛いなら、はい!ポーション」
「ポーション?」
「え!?知らないの?!」
「はい、存じ上げません。最新の液状の飲薬でしょうか」
驚くロゼッタにポーションの入った小瓶を受け取った静は中に入った黄緑色のポーションを見た。
「とりあえず飲んでよ、元気になるから。その後お話聞かせて」
「話し?」
「あなた外の世界の人でしょう?あの鉄の船からやって来た」
ポーションを飲むふりをして、静はそっとそれを白衣のポケットにしまいながらロゼッタの言葉を聞き流していた。
「いいなぁ、外の世界。やっぱり時空世界ってロゼたちの現行世界とは違うんだね!あ、私はロゼッタ・ドラガリオン。あなたは?」
「……言えません」
「なんで?」
「守秘義務です」
「じゃあなんて呼べばいいの?お姉さん?外の人?」
「ねえねえ」と静の近くで子どものように聞いてくるロゼッタに対して(狼よりめんどくさいなこの子…)と、内心で静はめんどくさそうにため息をついて、観念した。
「星科」
「ホシナ?変わった名前だね」
「……名前は静。星科はファミリーネームです」
「じゃあ静様だね。よろしくね、静様」
「はあ…えっと、よろしくお願いします」
彼女への第一印象は、あまりいい印象を持っていない。
2つの世界が交わり、初めて出会った2人。
その様子を1匹の小さな赤いドラゴンは〔くぴ〕と小さく鳴いた後、空の何処かへ消えていく。
to be continued…