世界を越えてあなたを想う   作:剣 紅夜

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中編

 

 

 

「はい、これで終わりましたよ」

 

 

そう言いながら静は自分の処置室にやって来たクルーの頭に包帯を巻き終える。

 

 

「ありがとうございます」

 

「怪我人はあなたで終わりですか?」

 

「ですね。そう言えば静さん、聞いたんですけど……あのドラゴンに乗ってくる女の子と友だち」

 

「な訳ないでしょう」

 

「ですよねー」

 

 

使った道具を片付けながらピシャリと静はクルーに向かって言い放つ。

 

 

「彼女…可愛いとは思うけど、毎日毎日飽きずに来るんですよ?船はカモフラージュバリアで隠せているけど見つかるのも時間の問題です」

 

「あー、あの子船を探してるって言うよりは、静さんを探してるみたいなんですけど…」

 

 

その言葉に静は手を止め、クルーを見る。

 

 

「知らないですよ」

 

「この間めちゃくちゃ落ち込んで帰って行きましたよ?」

 

「だから知らないってば……勝手に懐いたんです、犬みたいに」

 

 

道具を片付けた後、治療したクルーと共に管制室へ戻る。管制室の自動ドアが開き中へ入った瞬間。

 

 

〈静様ー!!〉

 

 

モニターでドアップで映るロゼッタに、静はガクッと脱力し驚き、目を見開いて口がポカンと開いた。

 

 

「静、様…て……」

 

「っ~……」

 

 

苦笑いしながらクルーは静を横目で見る。

もちろん彼女は頭が痛くなったらしく右手で額を抑えていた。

 

カノープスに乗り船の近くでメガホンらしき何道具を片手に静の名前を呼んでいた。

 

 

〈どこー?話ししようよー!〉

 

 

他のオペレーターたちは静に同情の視線を向け始め、1人のオペレーターが近づいてきて無言で静の肩に手をポンッと置いた。

 

 

「諦めましょう」

 

「はぁ……そうね」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

カモフラージュデバイスを手に持ち、自分の姿を消してから外に出る。

ある程度船から離れてからデバイスの機能を解除して、森から自分の姿が見えるだろう木があまり生えていないひらけた場所に立つ。

 

その直後に空からカノープスの影が映り、空を見上げると。

 

 

「せーいーさーまー!」

 

 

声と共にロゼッタがカノープスから飛び降りてきた。それに驚いて静は慌ててロゼッタが落ちる方へ走り、落ちてきたロゼッタを静はギリギリのところで受け止め、2人は草原の上に転がり倒れる。

 

 

「あなたは馬鹿なんですか!?飛び降りなんて!」

 

 

普段から医療班として怪我人の治療をしているからこそなのか彼女の行動は信じられないらしくロゼッタを叱った。

 

しかしロゼッタはキョトンとした顔をしたが、直ぐに二パァと笑顔を見せた。

 

 

「あれくらいの高さから降りても魔法を使ってちゃんと着地できるよ?でも、受け止めてくれてありがと~♪」

 

 

ニコニコと変わらない笑顔で静に向かっていうロゼッタに静は脱力した。

この世界は静の時空世界とは違い、魔法がある。その代わりに静の時空世界にある技術文明などがあまり発展していない。

 

 

「あとね静様。お願いがあるんだけど」

 

「はい?」

 

「そろそろ離してくれると嬉しいかなぁ…」

 

 

少し頬を赤くして言うロゼッタに、静は「あ…」と現在の状況を思い出した。

受け止めるとはいえ抱きしめて草腹に転がり倒れ込み、そのまま静がロゼッタの上に覆いかぶさる様になった……絵面としては静がロゼッタを押し倒しているように見えた。

 

状況を思い出して一気に顔に熱がやって来て静はロゼッタから離れて立ち上がり、片手で顔を隠しながら背を向けた。

赤くなった顔を見られたくはないらしいが、内心では。

 

 

(この子ほんと…!可愛い!!)

 

「???」

 

 

実を言うと静は普段から仕事以外の時間はゲームなどで仕事の疲れを癒していた。

特に可愛い女の子が出るようなゲームで。

 

1人悶えてる静にロゼッタは身体を起こして首を傾げていた。

「静様?」と名前を呼ばれればハッと我に帰りわざとらしく咳払いをした。

 

 

「それで、ご用件は?」

 

「だから、静様とお話ししようと思って」

 

「……あの、ドラガリオンさん」

 

「ロゼでいいよ?」

 

「あなたはこの世界の人です、あまり異世界人である私とこうして会うのはやめた方がよろしいです」

 

「なんで?」

 

 

首を傾げて静を見るロゼッタに静はため息をついた。

 

 

「あのですね、こうして2つの世界が交わる事は本来あってはいけないんです。国に法があるように、世界にはその世界だけの秩序があります。2つの世界が交わってしまえ、世界の秩序はぶつかり合い、崩壊、つまり大崩落(フォールダウン)が起きてしまうんです。大崩落は時空世界の研究者たちが他の時空世界に広めているはずですよ。ご存じないのですか?」

 

「すぴぃ…」

 

 

座った状態でロゼッタは眠っていた。

 

 

「起きなさい!!」

 

「ふえ…!」

 

 

静の一喝でビクリと身体を跳ねさせてロゼッタは右手で目を擦る。

 

 

「ですので、もう会わない方が」

 

「えぇ…」

 

 

嫌そうに声を上げるロゼッタをジロリと睨むように見る静は「いいですね?」と圧を込めて言い放つ。

 

 

「話し、出来ないの…?」

 

 

涙目で静を見つめるロゼッタに静はビシリと身体を固まらせる。

 

 

「私は静様と話ししたいよ…」

 

「う、ぐ……っ…」

 

 

キラキラしたまるで捨てられた子犬のような目でウルウルとロゼッタは静に言う。

 

 

(あーもー!この子可愛いな!!)

 

 

何も返事を返さない静にロゼッタは俯いて、見てわかる通りシュン…と落ち込んでいた。

 

深くため息をついて静は仕方ないと言わんばかりにロゼッタの頭を撫でた。

 

 

「少しくらいなら…」

 

「本当!」

 

 

キラキラと嬉しそうな目でロゼッタは静を見る。静の視点では完全に嬉しそうに尻尾をブンブン振っている子犬にしか見えなかった。

 

 

「……ちょっと待っていてくださいね」

 

「うん!待つ♪」

 

 

ニコニコ笑うロゼッタに背を向けて少し離れ、静は耳に付けているインカムから船へ通信を取る。

 

 

「こちら星科、聞こえてますか?」

 

〈個人通話にかけてくるって珍しいですね。何かありました?〉

 

「少しドラガリオンさんと話しをするので戻りが遅くなります。申し訳ありませんが…」

 

〈気にしなくてもいいのに。エネルギー補填が完了するまでは動かないし、オペレーターはほとんど暇していますから。ゆっくりして来てください〉

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言い通信を切り、静は念の為インカムを外した。

が、そのインカムにロゼッタがキラキラした目で見ていた。

 

 

「なにそれ!さっき人の声がしたけど、念話魔法か何か?」

 

「通信用の端末です。こちらの世界にはないのですね」

 

「うん。やっぱりいいなぁ、外の世界。ロゼも外の世界に行ってみたいよ」

 

 

ぼやくロゼッタを置いて、静はポシェットベルトのポシェットの中にインカムを入れる。

 

 

「船からは許可を得ました。答えられる範囲ならばお話しします」

 

「わかった!じゃあ場所変えようよ。美味しいケーキ屋さん知ってるんだ♪」

 

「はい?」

 

 

ここではないのか?と静が聞く前に、ロゼッタは静をいきなり横抱きに抱き上げ何かを呟く。

同時に足元には魔法陣が浮かび上がりロゼッタは静を抱えたまま空を飛び空で待っていたカノープスの背に乗った。

 

 

「あ、あの?ドラガリオンさん?」

 

 

困惑し、青ざめる静を置いて…

 

 

「しっかり捕まっててね!かのぷぅ、街までGo!」

 

 

ロゼッタがそう言いながら手綱を持つとカノープスは離れている街、カリーナ王国の王都へ向かった。

もちろんドラゴンに乗り、直で上空での移動なんて体験したことのない静はどんどん上がって行く高度とスピードに顔を青くする。

 

 

「いやぁあああ!!」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「静様、大丈夫?」

 

 

王都に入る手前でカノープスから降りたロゼッタと静。地上に降りた途端にその場に静は座り込み顔色を悪くしていた。

 

 

「ごめんね?ドラゴン酔いしちゃったかな」

 

「だ、大丈夫…です……」

 

「かのぷぅ。また呼ぶからどこかで休んでていいよ」

 

 

伏せた状態で待っていたカノープスの顔を撫でながらロゼッタは言うとカノープスはわかったと言うふうに〔くるるる〕と鳴き、空に飛び去って行った。

 

 

「静様もゆっくり休めるところに案内するよ。お店はまた今度だね、かのぷぅのスピード、次は抑えめにするから」

 

「は、はあ、今度…ですか?」

 

「うん。とりあえずいこっか」

 

 

静の手をとって立たせ、ロゼッタはそのまま静の手を引き王都の中へ連れて行く。

 

 

「あの、ドラガリオンさん」

 

「ロゼッタ。あ、ロゼでもいいよ」

 

「……ロゼッタさん、手を離してくれませんか?1人で歩けます」

 

「……だめ?」

 

 

また同じように捨てられて子犬の表情で静を見るロゼッタ。それに固まる静だが、ロゼッタを見ないように顔を逸らす。

 

 

「…っ……ダメですっ」

 

「ちぇー…」

 

 

名残惜しそうにロゼッタは静の手を離して代わりに隣を歩き始める。

 

チラリと横目で静は街の雰囲気を見て平和そのものだ。

静が知る街とはどこか違う暖かさがある。生きるのに必死になっている人はいない、みんな楽しそうに笑い、生きていた。

 

 

「違うんだ…」

 

 

ボソリと呟く静の声は誰にも聞こえない。

 

自分の生まれ育った街とは違う。

人が笑っているのも普通だったが、この街の人たちのように心から楽しみ笑い、生きていたわけではない。

自分勝手で、思い思いに生きていて。私利私欲の笑いしかなかった。

 

そんなところにいたくなくて…静は今の宇宙飛行艦隊にいる。でも結局のところ、居心地の悪さは変わっていなかったりする。

 

 

「あ、静様こっちこっち」

 

 

街の人たちを遠目で見ていた静にロゼッタが声をかけ、呼ばれるがまま静はロゼッタの方へ歩いて行く。

 

行った先はひらけた草原があり、花畑も見え街の子どもたちが置いてある遊具で遊んでいた。

 

 

「私のお気に入りの公園なんだよ。ドラゴン酔いはもう大丈夫?」

 

 

日陰の方にある木の下へ向かい、ロゼッタはそこで座る。

ロゼッタに促されるように静も隣に座り「なんとか…」と返事を返した。

 

帰りもカノープスに乗ると考えただけで先ほどのことを思い出してしまい、静は口元を片手で覆う。

 

 

「静様って何してる人なの?私はねー」

 

「どうして異界人の私に話すのですか?私が上官に話してこの国を襲撃するかもしれないんですよ?」

 

「え?静様はそんなことしないでしょ?」

 

「何故そんな言い張れるんですか」

 

「だって、静様はさっき私のこと心配してくれたから。静様が優しい人だからああやって心配してくれたんだよね」

 

 

静の方を見てニコニコと嬉しそうに笑うロゼッタに静は理解できずに困惑した。

 

聞こうと口を開くと、コロコロとサッカーボールが転がって来た。

ボールを取りにやって来た女の子がロゼッタを見て笑った。

 

 

「あ!ロゼちゃんだ!」

 

「ホントだ!ロゼちゃんだ!」

 

「ねぇねぇまた一緒にあそぼ!」

 

 

ワラワラと一瞬のうちにロゼッタの周りには子どもたちが集まってくる。

ロゼッタは1人1人の頭を撫でながら「ごめんねー」と謝った。

 

 

「ロゼお姉ちゃんは今静様と一緒にいたからまた今度ね♪」

 

「だれー?」

 

 

子どもたちの視線が一気にロゼッタの隣にいた静に集まる。不思議そうに見つめてくる子どもたちに静はたじろいだ。

 

 

「わかった!ロゼちゃんの「こいびと」ってやつだ!」

 

「キャー!」

 

 

女の子たちがそれを聞いて楽しそうに会話し始めロゼは慌てて止めた。

 

 

「違う違う!まだそうじゃないから!」

 

(まだ?)

 

 

明らかに誤解を生む発言に静が口に出す前に子どもたちが反応する。

キリがないと判断したのか、ロゼッタが立ち上がり子どもたちからボールを取り上げて遠くに投げると子どもたちはボールを追いかけて行った。

 

 

「ごめんね静様」

 

「いえ、気にしていませんので」

 

 

腕時計で時間を確認しながら静は目を細める。

 

 

「そろそろ船に戻らないと」

 

「え、もう?」

 

「このままここにいると、日が暮れてしまいそうですから…」

 

 

シュン…と落ち込むロゼッタの姿を見て、静はロゼッタの頭を撫でた。

 

 

「……気が向いたら、またお付き合いしますよ」

 

「! うん!」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

その夜。

艦内にある数少ない娯楽施設のバーにひさしぶりに静はやって来た。

 

バーカウンターでは緑色の髪のバーテンダーの女性がグラスを磨いていた。

ドアベルの音に気が付いて顔を上げて扉の方を見て、静に笑いかけた。

 

 

「久しぶりだね。星科さん」

 

「お久しぶりです」

 

 

バーテンダーに静は会釈をしてカウンター席に座る。

 

 

「大変よね、この時空世界に不時着してから怪我人の相手ばかりじゃない?ご注文はハイボール?」

 

「はい。あ、アルコールは出来れば軽めで」

 

「あら珍しい」

 

 

磨いていたグラスをしまいバーテンダーは手慣れた動作でハイボールを作り始める。2つ分。

 

 

「飲むんですか?」

 

「少し星科さんの話が聞きたくてね」

 

 

 

出来上がったハイボールが入ったグラスを軽く当て、2人は乾杯しひと口飲んだ。

 

 

「私は、特に話すことはないんですけど」

 

「ないの?この世界の可愛い女の子のこととか。例えば、ドラゴンに乗っている女の子とか」

 

 

ピタリとハイボールを飲もうとした手が止まり、静はグラスを置いて彼女を見た。

 

 

「一緒に出掛けた後、大丈夫だった?」

 

「……」

 

 

静は昼間、ロゼッタとのやり取りを思い出していた。

『……気が向いたら、またお付き合いしますよ』

『! うん!』

なぜあんなやり取りをしたのだろう。

 

自分から異世界人との交流は止めた方がいいといったばかりなのに。

 

でも、なぜか。

彼女の笑顔が静の記憶の中で鮮明によみがえる。

自然と口角が上がりそうになる、どこか心が温かい…でも、どこか締め付けられるような感覚。

 

カラン…。と、グラスに入った氷が音を立てる。

 

 

「友だちが出来るのはいいことだとは思うけど。相手が異世界人であること、忘れちゃいけないですよ」

 

「分かっています、ちゃんと。……でも」

 

「でも?」

 

「でも………わかりません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、それは恋と呼びますね」

 

 

いつの間にか静とバーテンダー以外にバーに人がいた。

静から1つ席を開けたカウンター席に紅色、よりも明るい黄色交じりの赤色の髪をした背の低い女性がいた。ゴーグルを上にあげて額につけ、ニッと笑った。

 

 

「先輩、恋しちゃいましたね♪どう?!当たってるかなマスターさん!」

 

「お冷の水割りお待ちどうさまです」

 

 

バーテンダーはジョッキの水をジョッキごとその女性へ投げつけた。

もちろんガラスが割れるガシャーン!という嫌な音と共にその女性は後ろに倒れる。

バーテンダーの行動に静は驚いて声を上げた。

 

 

「ちょ、何してるんですか!?」

 

「いいんですよ。アレはこういう扱いで」

 

「んで、先輩やっぱり恋なんです?」

 

 

顔にジョッキの物らしきガラス片が刺さった状態で身体を起こして顔に付いたガラス片をブチブチ取り始めた。

「かゆー」と傷口を掻きながら。

 

 

「マスター救急箱!!」

 

「えー…」

 

「嫌そうな顔をしないでくださいッ!!あなたも傷口爪で引っ掻かない!!」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「はい終わりましたよ」

 

「おお、先輩流石ですね」

 

 

手持ちの端末機の液晶画面を鏡代わりで見ながら丁寧に絆創膏が張られた顔を赤毛の女性は治療後を見た。

静はチラリと彼女を見る。見覚えがない。クルーの制服が作業着なのだからメカニックか技術班の方の子だろうかと考えていた。

 

 

「なんです?先輩。俺の顔になんかついてますー?」

 

「え、いえ。何でもないです………?」

 

「どうしました?」

 

 

なぜかわかる。

恐らくこのアホな感じの女性のことなのだろうが、静には面識がない。

でも、彼女は自分の後輩で、技術班に配属されている。それはわかるが、いつからなのかはわからない。

 

 

「本当に最近この船の技術班に配属された子ですよ」

 

 

バーテンダーが面倒くさそうに語る。それに静は「はあ」と、あまり納得していないような返答を返す。

 

 

「で、なんの話です?やっぱりアレですか?禁断恋愛的なッ!!」

 

 

キラキラした目で静に聞く隊員に対して、バーテンダーが無言で笑顔でジョッキを持ったのが見えたのか隊員は「ナンデモナイデスー」と離れていく。

 

 

「ごめんね星科さん。ここの代金はコレに払ってもらいますから。今夜はもうゆっくり休んでください」

 

「は、はい。そうします……」

 

 

カウンター席から静は立ち上がりバーを後にしようとした時。

 

 

「後悔した後じゃ遅いですよ」

 

 

と、声がした。

振り返るとヘラヘラと彼女は笑っていた。

 

腑に落ちないが、静はその場を後にした。

 

 

 

 

 

バーでは隊員が氷をゴリゴリかみ砕きながらケラケラ笑っていた。

 

 

「星科さんと、この世界の子が?」

 

「そうですよ~。あなたはあなたの仕事をしてくれませんか?マスターさん」

 

「あなたが変なことをしなければこちらも楽なんですけどね」

 

 

怒気が込められた声にケラケラ笑い、絆創膏をベリッとはがした。

そこには傷跡も何も残っていない。

 

 

「変なことなんかしてないですよ。俺は調律するだけですから」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

それから、数日、1ヵ月と時が流れた。

 

静がロゼッタに誘われて王都に出かける回数も増え、それにつられてなのか何人かのクルーたちも船から降り、ロゼッタの案内で王都に向かう。

クルーたちは観光をする者もいれば、魔法技術が気になりロゼッタの紹介で魔法学者と意見交換をする者もいた。

もちろん自分たちの技術を話せる範囲も話しながら。

 

静はロゼッタの案内でいろんな場所を訪れた。

カノープスに乗ってカリーナ王国の領地で行ける範囲の街を見て回った。

時にはロゼッタと一緒にギルドの依頼も受けた。

 

日に日に、ロゼッタと共に過ごす時間が静の中では長くなっていった。

 

夜の森に戻るのは危険だからとロゼッタの住む部屋に泊めてもらったこともあった。

 

 

 

ある日の夕暮れ時。

静とロゼッタは王都にある高台にいた。

 

 

「今日も楽しかったー!」

 

「毎回思うんだけど、ロゼって本当は暇なんじゃないの?」

 

「そんなことないよ!確かにここ最近は調査任務ばっかりで暇してるけど…」

 

「調査任務?」

 

「うん。最近ね、森や山の方のドラゴンたちの姿が見えなくて、生態系に変化が起きちゃったのかって調査」

 

 

ロゼッタの言葉を「ふーん」と静は聞き流す。

 

 

「よっ…と」

 

 

ロゼッタの声に静はロゼッタを見る。

高台の縁に立ち、両手を広げて歩いた。

 

 

「ねぇ静様。今度会う時は次どこにいこっか」

 

 

笑顔でそう彼女は言った。

その姿に静は微笑みを浮かべて「そうね」と返す。

 

その時、風が強く吹いて高台の縁から足を踏み外し、バランスを崩してしまう。

 

ロゼッタはポカンと何が起きたのかわからずグラリと揺れた視界と、足が地面についていないことに顔を青くする。

その光景に静は目を見開いて、ヒュッ…と背筋が凍る。

 

 

「ロゼッタッ!!」

 

 

声を上げ、静はロゼッタの手を取り自分の方へ引き寄せ、抱きしめた。

 

 

「せい、さま…ありがと」

 

 

混乱したロゼッタは絞り出すような声で静に向かって言うが、静はロゼッタを離そうとしない。

彼女の手はわずかに震えていた。「ロゼ…馬鹿、本当に…」と今にも泣いてしまいそうな、か細い声で静は呟いた。

 

 

「静様、大丈夫だよ」

 

 

静の背中をポンポンと優しく叩いてロゼッタは静を落ち着かせる。

そして…

 

 

「ロゼ…」

 

 

名前を呼ばれ、ロゼッタは静を見る。

静の右手がロゼッタの頬に添えられる、静の顔が近づく。

今にも、2人の唇が触れそうになる。

 

 

「静、様…」

 

 

ロゼッタの声にハッと静は止まる。

しばし静止したのち。

 

 

「な、なにかしらね、この距離」

 

「し、しらにゃい…」

 

 

互いの顔が近い。

顔に熱が籠る。

 

きっと夕日のせいだ。夕日の熱のせいだと言い聞かせるように静はロゼッタから顔を逸らし、離れた。

 

 

「えっと、船まで、送る、ね」

 

「うん、ありがとう」

 

 

2人は気まずい空気の中、カノープスに乗って宇宙飛行艦が不時着した場所から少し離れた場所で別れた。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

その夜。

自室に戻った静は、ネクタイを解いて上着を椅子に掛けた後ベッドの上に仰向けになる。

 

ロゼッタの笑顔を思い出し、触れた彼女の温もりを思い出し、むず痒いような感覚が胸を締め付ける。

ロゼッタが高台から落ちそうになったのを思い出し、苦しくなり息を吐き出す。

 

あの時、失いたくないと思った。

失いたくない、だから……。

 

自分の取った行動と、この感情に静は解いた髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる。

 

 

「違う」

 

 

否定する。

 

 

「違う…!」

 

 

否定する。

 

 

でも苦しい。

 

頭から離れない。

 

初めてロゼッタに会った時、助けられた時。

異世界人と知りながら助けてくれた。

 

冷たくする自分にずっと笑顔を見せてくれた。

生きていた空間がモノクロだった空間に、色付けてくれたロゼッタの笑顔を思い出す。

 

 

「違うのに……」

 

 

否定する自分がいて、船が動くようになればもうロゼッタに会えなくなるのに。

ロゼッタの笑顔が頭から離れない。

 

心臓の音が聞こえてくる、体中の熱が顔に集中する。

 

したいと思った。

静は自分の唇に触れる。

 

思い出してしまう、ロゼッタに、キスをしてしまいそうになったことを。

 

 

「はぁ…」

 

 

ため息が出る。

こんなにも、複雑なものだとは分からなかった。

 

自覚した以上、蓋をしなければいけない。

自分は、ロゼッタを……。

 

 

「ロゼッタ……」

 

 

誰にも聞かれないよう、1人しかいない自室で静は小さくロゼッタの名を呼んだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

〔くぴぃ〕

 

 

ロゼッタが使う部屋に続く窓に小さな赤いドラゴンが現れる。

鳴き声に気が付いてロゼッタは窓を開けた。

 

 

「また来ちゃったんだね。森にいるのは寂しかったの?」

 

 

ロゼッタの言葉を理解していないのかドラゴンは首を傾げた。

 

 

「ふふふ、ね。聞いて。今日も静様と一緒にお出かけしたんだぁ。もっともっと、カリーナ王国のいいところを教えてあげたいの。」

 

〔ぴぃ〕

 

「いつか、静様は帰っちゃうとは思うけど…ずっといてほしいって思っちゃダメかな」

 

 

それにドラゴンはしばらく黙った後、〔くぴ~〕と首を横に振ってロゼッタの言葉を否定した。〔一緒にいたいと思うことは、ダメじゃない〕と。

「ありがとう」と、ロゼッタはドラゴンの頭を撫でる。

 

 

「決めた。次、静様に会ったら言ってみるね………静様のこと、大好きだよって」

 

 

顔をほんのり赤くさせ、ロゼッタは静がいるだろう船が墜落した方向を眺めながら言った。

 

 

 

 

to be continued…

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