プラモが光った。女の子になった。 作:ベースマテリアル
――某日、午後11時、曇天が漂う夜空。
「来たか、若いの」
重厚な造りと何処か歴史を感じる迎門の前に1人の老人が立ち、向かってくる1人の人物へ向けて短く言葉を告げる。60を超える老体の身体とは一切思わせない隙を感じさせない立ち姿、長く伸びた白髪を後方に結い束ね、翠色の和装と左手に【竹刀袋】を携えたその風貌は、月明かりが無いことも相まって不気味よりも異様さを漂わせていた。
「ええ、不本意ながら来ましたよ。しかもこんな夜中も夜中に」
「すまんな。何分、事が事であるが故だからの」
「だからって会っていきなり夜更けに改めて来いは無いと思いますけどねぇ…」
そんな老人に答え、不満げな言葉を返しながらも彼の前に現れたのは1人の青年。短い短髪の黒髪、白のシャツの上から茶色のジャケットを羽織り、紺色のジーンズで身を整えた姿は正に年相応。肩から下げたショルダーバッグも合わせて見ればどこからどう見ても唯の高校生の私服姿。傍からすればちょと夜遊びに出かけている不良生徒の1人にしか見えない姿であった。
「改めて名乗ろう。【
「その姿でただの老人は無理でしょ。【
今日の夕頃にこの迎門の中の邸内で交わしたやり取りを2人は再び行う。それを終えると誠彦と名乗った老人が「では、行くとしようか」と言い、唐突に歩き始めた。歩の進む先はこの住宅地の郊外、近隣から端れた未整備の林がある方向だった。
「随分といきなりですね」
「時間は限られている。それに久々というのもある」
「久々?」
「ここ最近は弟子に任せっきりだったからな」
「弟子?」
唐突に何のことだ。そもそも分かっていないことの方がまだ多い青年、紅にとっては誠彦の言葉は全てが意味不明だった。というより、そもそも俺は自分の身に何が起こっているのかを知りたいのであって、この爺が夕方に話した【
「あるぞ」
「……はい?」
「とぼけても無駄だ。自分と虚に何の関係が、とでも思ってたのだろう?」
見透かされた。誠彦の言葉に思わず息を飲んだ。やはりこの老人は只者ではない。虚と呼ばれる怪物を知ってることといい、俺に起きている現象を少なからず把握してることといい、単なる人間――そもそも
「此処に来るまでに見たか?」
「ホロウ、ってやつ…のことですか?」
「そうだ。お前さん程度の
「霊…?あ、えっと、その…」
またしても知らない単語。けれども一先ずその疑問は飲み込んで質問に答える。誠彦の言う通り、此処に来るまでの道すがらでも虚は見かけた。数にして3体、いずれも遠巻きではあったが、確かにその醜悪極まった体躯、白い仮面を付け、胸部に虚構のような穴を開けた怪物を見かけたことを告げる。
「ふむ、まだ未練を食う前の個体だったか。幸いだったな」
「一体何が幸いだったんですか。というかいい加減説明して下さいよ。煩わしいですって」
「そうか?なら分かり易く結論から言うぞ」
誠彦が歩を止め、紅へ振り返る。その顔は最初に会った時と同じく厳つく鋭い目、まるで彼の全てを見透かしているかのような表情で紅の困惑気味の目を見据え、単と一言だけ呟いた。
「死ぬぞ」
「………は?」
「何も知らず、何も関らず、何もしようとしない、そんな今のお前さんは死ぬと言ったのだ。それも遠くない未来、下手をすれば明日には死んでしまうやもしれんな」
死ぬ?
俺が??
一体何で???
何が理由で????
誰に?????
どうやって??????
どんな風に????????
どうして????????
遠くない未来??????????
何で???????????
何で俺が?????????????
「言っただろう、【
呆然と立ち尽くす紅にそう言うと誠彦は再び歩を進め始める。
「最早逃れられん運命だ。ならばお前さんはそれに抗うしか無い。その術と手段は可能な限り教えてやる。弟子と同じく使いこなせるかはお前さん次第だがな」
尚も立ち尽くす紅に言葉を続けながら誠彦は進み続ける。それでも動かない、動こうとしない、動けない紅を背後に見た誠彦は「はぁ…」と溜息を零すと、再び口を開いた。
「安心しろ。その術をお前さんに教えると言っただろう。だからとっとと足を動かせ、時間は限られていると言っているのだからな」
「―――えっ、あ…は、はい!」
その言葉を聞いて漸く我に返ったのか、紅は慌てて誠彦の後を追いかけた。といっても、そんなやり取りをしながらの2人は既に目的地の郊外の林のすぐ近くにまで辿り着いていた。
◇
「ここらで良いか」
住宅地の端にある未整備の林。その中でも僅かながらに開けた場所で誠彦は漸く足を止める。周囲を見渡し、人気が無いことを確認すると手に提げていた竹刀袋の封を開け始めた。
「あの、此処で一体」
「お前さんはそこから動くな。もし万が一のことがあれば俺より自分の身を守れ、良いな?」
「っ…はい」
有無を言わさない強い口調の言葉。誠彦に従う様に紅も彼と同じく周囲を確認し、一先ず手近だった木の幹に身を寄せ、拙いながらも警戒態勢を整える。
「さて…本当に久々だな、虚の討伐は」
誠彦が懐かしむような、それでいてどこか楽しそうな顔で竹刀袋から入っていたものを取り出す。そこには一振りの【ボロボロに朽ちかけた竹刀】が入っており、カビや染みで汚れた柄を見て再び懐かしむかのようにそれを右手で引き抜き、そしてすぐに構えを取った。
「そんなもので何をし」
「―――来るぞ」
紅が尋ねようとした瞬間にそれは
「っ…ぁ……!!」
「落ち着け、ゆっくりと深呼吸だ。その感覚に飲まれるな、身体の底から抗う様に呼吸をしろ」
一方の誠彦は平然と、寧ろ場慣れしているような様子で紅に声を掛ける。紅はその言葉に倣ってゆっくりと、そして深く大きな呼吸をして、兎に角この感覚に押し潰されないようにすることに注力する。
そうしていた時だった。誠彦が睨んでいた方向、林の木々の間の空間が突然黒く塗り潰されていくかのように滲み、そこから白い巨躯の腕が這いずり出てくるのが見えた。
「来たか…っ!」
竹刀の切っ先を這い出てくる巨躯へと誠彦は向ける。そこから出てきたのは白い仮面を付け、胸に虚構が開いたこの世ならざる怪物。
『―――――ッ!!!』
現世に蔓延る悪霊、虚の1体が言葉にならない悲鳴を発しながら姿を現した。対峙する誠彦を遥かに上回る巨体とその醜悪な外観、そして仮面の奥底の虚ろな煌めき。それらを真正面から、しかもこれだけの至近距離で初めて目撃した紅は自らの体温が一気に下がり、恐怖という感情に飲み込まれそうになった。
「これ、が…虚……っ!?」
「こいつは中々の大物だ。肩慣らしには十分過ぎるぐらいだ」
真の意味で虚と対峙し硬直する紅とは反対に、誠彦は虚の姿を見てニヤリと口角を吊り上げた。一方の虚は目の前の獲物―――
「良いか!そこから決して動くんじゃないぞ!」
「う、動くなっていっても」
そもそも恐怖のあまり動けない、そう紅が答えようとした矢先だった。
―――
誠彦が小さく呟いたと同時に、彼が構えていた竹刀に薄緑の光が走った。その光の輝きの色に見覚えがと紅が思った次の瞬間、再びその竹刀に光が、それも先程よりも明らかに強く眩い光が発生した。
ほんの一瞬。その眩しさから目を守る為に目を逸らしたほんの一瞬、気が付いたら周囲の光景が変化していることに紅は即座に気が付いた。
虚と相対する誠彦、正確にはその彼が有する竹刀を中心として半径約10~15mくらいだろうか、薄緑の光の結界のようなものが形成され、虚を含め自分らがその中に閉じ込められる、というより外部と隔絶されるような状態となっていた。
「何…だよ…これ……?」
「俺の【
何回目かになるか分からない新たな単語である【
「漸く動くか…だがっ!」
それを誠彦は真っ向から竹刀で
意味が分からない。
何故受け止めらる?
そんな老体の身体の何処にそんな力が?
というか何故そんな朽ちかけた竹刀で受け止められる?
何故竹刀は折れない?
お前は一体何者だ?
その竹刀は一体何なんだ?
【
「良く見ておれ!これが!」
誠彦の足元に光が走る。先程と同じ薄緑の淡い光。それを視認したかと思った次の瞬間、紅の視界から誠彦の姿が忽然と消えた。
頭に浮かんでいた疑問が一気に吹き飛ぶほどの衝撃的な光景。同時に虚の巨躯の腕を止めていたそれが消えたことでその腕も空を切り、虚の体勢が大きく揺らぐ。
その直後、空気を切るような甲高い斬撃音と共に虚の頭部である白い仮面が一文字に両断された。仮面の上部がゴロリと地面へ落ち、やがてそれは文字通り消滅していく。そしてそれを追うかのように残された仮面の下部以下虚の身体が消滅していく。
消えていく虚の影から1人の人物が姿を現す。そこには一閃と言わんばかりに右腕を振るっていた誠彦。その手には【ボロボロに朽ちかけた竹刀】ではなく、【翠色に染められた刀身の太刀】が握られていた。
「――これが【
振るった太刀の刃を下げ、硬直して動けなくなったままの紅へ誠彦は淡々とした口調で答えた。曇天だった空が僅かに晴れ、そこから差し込む月明かりが、彼の持つ太刀の刃に反射し、その翠の刀身を静かに輝かせた。
◇
それからはある意味で淡々とした光景が紅の前で繰り広げられた。
虚を切り捨て、文字通り消滅させた誠彦は周囲に張っていた
虚が2体出現した時はその内の1体へ接近して完現術を発動。1体のみを空間内へ入れ、もう1体は空間の外に隔絶、対峙した1体を斬り捨てるや否や残る1体も即座に斬り倒すという芸当を見せた。
「ふむ、大体このくらいか」
数にして8個体目を倒した辺りで誠彦がそう言うと彼は完現術を発動。今度は大体半径5mくらいの小さな空間を形成し、その中に自身と紅の身を入れた。その頃には紅もある程度は落ち着いたのか、驚いた様子は見せつつも極端な動揺や困惑はしていない様子になっており、空間が形成されたのを確認すると彼も木陰から身を動かし、誠彦と相対する形を取った。
「…で、どこから聞きたい?」
「開口一番がそれかよクソジジイ」
即答だった。誠彦の問いかけに紅は突っ込むかのように即座に答え、同時に大きな溜息を吐いた。合わせて右手で髪を掻き毟り、何かもう色々と耐えかねた様子だった。
「ええ、ええ。虚については大体理解というか納得しました、というかします。目の前であんなの見せられたら納得しますし理解もしますよ」
「理解が早くて助かる」
「助かるじゃねぇよクソジジイ。分かっててやっただろうが」
「ハハッ!弟子の最初と同じ反応で益々助かるわ!」
「しばくぞジジイ」
先程まで刀を振るっていた猛者とは思えない笑みを浮かべる誠彦に紅の口調はボロボロだった。年長者に対する態度とか、目の前で怪物を倒してくれた恩人に対する態度のそれは一切無かった。
「……じゃあ、【
「そうだな。お前さんも元々は
そう言って誠彦は手にしていた太刀を紅に見せる。確かに最初はただの朽ちた竹刀だった筈のそれが、いつの間にか煌びやかな翠の刃を持った刀へと変化している。その理由をまず聞こうと思った瞬間、その太刀に再び薄緑の光が揺らめき、その姿が太刀から竹刀へと変化――というより、元に戻っていった。
「安心しろ。元に戻してもこの空間は消えん」
完全に元のボロボロな竹刀へと戻ったそれを見て紅が周囲を確認する。誠彦が言う通り自分達を覆っている結界は張られたままで、こうして周囲からの安全は保たれているようだ。
「さて、では話すとするか。最初に言っておくが少々長くなる上、専門用語も出てくるぞ?」
「上等です。適宜質問するので寧ろそっちこそそのつもりでお願いします」
「良いだろう。では話すぞ。俺のこの力、そしてお前さんに起きている現象――いや、発現した【能力】について」
竹刀をその場に置き、一度大きく深呼吸を挟んでから言葉を続けた。
「この力は【
「すいません。質問以前に日本語でおk」
◇
誠彦が説明した内容は紅にとって信じられない――訳ではなかったが、劇物ではあった。彼が話す懇切丁寧な説明と、適宜尋ねた質問の回答によって、最近になって自身に起きた謎のFAG化現象、つまりは自身の【
【
それは物質に宿る【魂】を使役し、引き出す能力。単純に【魂】といっても、宗教的なそれとは違い、道端の石やコンクリート片、雑草や土といった有機物無機物に関係なく、ありとあらゆる万物に宿っているという。
そして、自分と相性の良い使い慣れた道具であれば、その形状を変化させ、武器へと変化させたり更に特殊な能力を引き出すことも出来るとも説明された。
「それがこれ、俺の愛刀にして俺の
傍らに置いていたボロボロの竹刀を手に取り、再び薄緑の光が迸ったかと思えば、その形状が竹刀から翠の太刀へと変化させたそれを誠彦は見せる。
【
総見 誠彦の完現術。自身が高校生の頃から使用し、
ここまでは良い。説明の途中、人間の魂――【魂魄】と呼ばれるそれが有する霊的な力の源である【霊力】であったり、その魂魄から発せられる霊的な圧力である【霊圧】の説明もあったが、詳しく聞くだけで頭が痛くなったので紅は半ば聞き流すように聞いていた。
が、
「完現術者の霊圧は虚を引き寄せる」
「えっ」
「理由は定かではないがな。ただ、虚は何故か俺達の霊圧に引き寄せられる。それは確かだ」
これが誠彦が紅に虚の存在とその脅威を半ば強引な形で教えた理由にして、紅が自身に起きている現象――自らの完現術を理解し、制御しなければならない最もな理由であった。
「じゃ、じゃあ俺が今日まで生きてたのって」
「運が良かったな。下手をすればお前さん、訳も分からずに死んでたかもしれないぞ?」
思わず息を飲んだ。そんなとんでもない爆弾を内に抱えていた、しかも命に関わるようなものだったとは考えもしなかった、というより知らなかった紅は自身の血の気が引くのを感じた。
「で、でも!虚というか、幽霊というか…その、霊感に目覚めたのはほんの最近ですよ!?」
「そりゃあ完現術の素質が発現したからだ。自分の霊的な能力を未熟なりでも知覚したお陰だ」
「……もし、完現術が発現してなかったら?」
「理由も分からず、何も見えず、理不尽になぶり殺しにされていたかもな」
「マジですか…」
紅は頭を抱えた。運が良いのか悪いのか、この場合巻き込まれたというこを踏まえると悪いと捉えるのが正しいのであろうが、それでも一先ずは理不尽に謎に死んでいくよりかは良かったと捉えることにした。
「ああ、忘れてた。付け加えになるが、完現術は虚に由来する能力でな」
「おい待て今何さらっと付け加えた!?」
「完現術者は生まれる前に、母体が虚に襲われたことがあるそうだ」
「………は?」
頭を痛めていた紅は今度はガツンと頭を殴られたような感覚に襲われた。生まれる前に母体が虚に襲われる?つまりは母が自分を生む前に虚に襲撃された?
「心当たりは?」
「……母は、その、俺が小学校に入る直前に事故死したので」
「む…済まない、悪いことを聞いてしまったか」
「いえ、もう10年近くも前の話なので…大丈夫、です」
ここに来て更なる驚愕の新事実。流石に現状は何も分からないが、この件は放置することは出来ない。明日以降、それとなく父に話を聞いてみる必要が出来てしまったと紅は先程からの情報量で一杯な頭を抱えながら考えていた。
「……間が差してしまったな。今日はもう帰りなさい」
「えっ?いやあの、俺の完現術については」
「また後日に来なさい。今日は色々とあって頭も追い付かないだろう?それにもう時間もかなり経ってしまっているからな」
そう言いながら腕時計を見せる誠彦。時刻は既に深夜の1時を回り、明日も学校がある紅にとっては日常生活に差支えが生じ始める時間だ。何なら朝の5時には父が帰宅してくる。自然を装う為には確かにここが今日の瀬戸際だった。
「…それじゃあ、明後日の放課後。また伺わせて頂きます」
「分かった。俺の弟子にも話は通しておこう。その方が君にも都合が良いだろう」
「お弟子さんって最初に言ってた人ですよね?この虚討伐をやってる」
「ああ、君と同じ高校1年だ。同年代だよ」
「マジですか!?」
最後の最後でまたしても衝撃的なことを言ってきた誠彦にツッコミを入れ、それに「ハハハッ!きっと会ったら驚くと思うよ」と笑いながら答え、彼は完現術を解除し、隔絶していた空間を開放する。
―――その直後だった。
『―――オオオオォォォッ!!!!』
『―――ガガガガァァァッ!!!!』
空間が解除された瞬間、まるでその隙を待ってましたと言わんばかりに突如として2体の虚が同時に現れた。
「うわぁっ!?」
「なっ!?まだ居たというのかっ!?」
咄嗟に完現術を発動し、【我流・総見試合】の空間のを展開しての分断を試みようとする誠彦。だがあまりに唐突、そして狙い澄ましたかのような同時襲撃にとてもではないが反応し切れない。出来たとしても虚の片方を自身側に引き込むのが精一杯、しかもそこに紅を巻き込むようにして囲い込むことは出来ない。つまりはもう1体が完全にフリーとなり、そいつが紅を襲うのは明らかだった。
(ともすれば手は1つのみっ!反撃を受ける前提で同時に相手取る他に無しっ!)
誠彦が2体を同時に相手をすることを覚悟した一方、虚が突然襲い掛かってきた事に対して紅は完全に混乱していた。
(何でっ!?どうしてこんな急に!?)
余談になるのだが、この2体の虚が同時に2人へ、それも空間の解除と同時に襲撃を掛けたのは、直接的ではないが誠彦の完現術が関係していた。誠彦の完現術である【我流・総見試合】は外部と内部を隔絶する能力だが、これはつまり内外共に向こう側の状況を感知、把握することが出来ないことを意味している。敵の数を把握し、1体ずつ各個撃破をしていくように能力を使用すれば強力なのだが、把握外からの敵、つまりは伏兵や奇襲といった相手には対処のしようが一切無いのだ。それこそ能力者本人である誠彦であっても。
この2体の虚は同族が消された場所に引き寄せられるように集まり、そこにあった謎の干渉することが出来ない障壁が解除されるのを、今か今かと待ちわびていたのだ。
(片方は総見さんがっ!!けどもう1体は俺に…っ!?)
「いかん!逃げろ源内!」
1体の矛先は誠彦へ、そしてもう1体は明確に紅を狙ってきている。逃げろと叫ばれたが恐怖の所為か紅の足は少しも動かず、ただ己へ向かって襲い掛かってくる虚を見るしか出来ない。
(だ…め……死……―――)
―――【
紅の手が吸い込まれるようにショルダーバッグの中に入れられ、彼は無意識のままにその中に入れられた【FA:G スティレット】を手にし、そして無我夢中で叫んだ。
「【
刹那、彼の鞄の中から薄緑の光―――【
「
2体の虚が動きを鈍らせ、誠彦も思わず動きを止めてしまった光と霊圧。それが一瞬、ほんの僅かなを閃光を残して消えたかと思えば、その光の中心にいた筈の紅は
薄水色の髪をロングツインテールで後方に纏め、その頭にはブレードアンテナを想わせるヘッドギア。両肩部、両脚部はこれまた戦闘機の思わせるスタビライザーや翼状の装甲パーツ。背部はその戦闘機の要素を象徴するかのようにジェットエンジン型のブースターが甲高いエンジン音を小さく響かせている。
少女の如何にも華奢そうな、それでも装甲によって纏められた故に堅牢な右腕には不相応な、それでも何処かしっくりくる巨大なガトリングガンが、左腕には自身の二の腕のそれに匹敵する大きさのミサイルが2基装着されており、そのどちらもまだダラリと力が入っていないかのように下げられた状態で少女の腕にそれぞれ収まっている。
―――フレームアームズ・ガール
目を閉じていた少女が小さく呟くと同時に、その目を開ける。自身が纏う機械装甲と同じく青色の瞳は、眼前で硬直していた虚に向けられた。
『オオォッ!!』
『ガガァッ!!』
そこで漸く怯みから解放され、誠彦に向かっていた側も含めた2体の虚が一斉に少女へ襲い掛かる。しかし、それよりも少女の方が素早かった。
「遅いっ!」
両腕に携えた武装、ガトリングガンは右側の、2連装ミサイルは左側の、それぞれ襲い掛かってくる虚へ構えたと同時にそれらは一切の躊躇なく火を噴いた。
ガトリングガンから放たれた無数の弾丸は迫りくる虚の仮面に何発も直撃し、瞬く間にその仮面を穴開きチーズのようにボロボロに崩壊させていく。放たれた2発のミサイルは寸分狂わずもう1体の虚の仮面に直撃し、その仮面を頭部諸共爆散させた。
片や仮面を無数に撃ち抜かれ、片や仮面を吹き飛ばされた虚はどちらもその場で力なく崩れ落ち、そのまま消滅していった。その光景を信じられないかのように目を見開いたまま微動だにしない誠彦、そしてそれをやってのけた薄水色髪の機械少女――【フレームアームズ・ガール スティレット】だけがその場に残り、僅かな沈黙だけがその場に残った。
「源…内……なの、か?」
沈黙を破ったのは誠彦。武装を構えた状態のまま、未だに微動だにしようとしない少女へ向けて尋ねる。既に虚は2体とも消滅した。にも拘らずかの少女――恐らくは紅の完現術はその両腕を下げようとせず、というより一切動く様子が無かった。
「それが、お前さんの完現術……」
「ごめんなさい総見さん!!何か両肩どっちも外れような感覚がして絶対に動きたくないんですけど!!どうしたら良いですか!?というかこれってどうやって解除すれば良いんですか!?」
「はあっ!?」
強気なのか弱気なのか分からない少女の助けに誠彦は困惑する他なかった。
設定だけ見れば明らかに強い筈の
それが死神代行消失篇でどうしてあんなワンサイドゲームになってしまったのか……
え?潜ってきた修羅場の数と傲慢?それはそう(諦観)