プラモが光った。女の子になった。 作:ベースマテリアル
――〇月◆日
春華から教えられたという1人の青年が来た。
彼女が自分を紹介されたということは、即ち霊的現象にでも巻き込まれたのだろう。
青年を客間へ先に通し、そこに自分が行くと文字通りの青年。黒髪で落ち着いた感じの、今時は見かけなくなった模範的とな学生という印象を抱いた彼が、客間のソファにやや縮こまった様子で座り、自分を見た瞬間にすぐに頭を下げて挨拶をしてきた。
源内 紅と名乗った青年はこれまた丁寧な事に菓子折りまで用意しており、それを受け取ってから話を聞くことにした。春華が自分に対し何も伝えていないことから、この時点では恐らく「幽霊が見えた」か「オバケについて何か知ってませんか」のような、たかが知れているような問いが来ると思っていた。
が、その想定は直ぐに取り消した。菓子折りと共に彼が鞄から取り出した女性…いや少女か、掌に収まるほどの大きさの人形を机に置いた瞬間、微かではあったが彼の手とその人形との間に光が走った。
【
発光の状態と程度を見るに完全な能力の覚醒には至ってはいないそれではあったが、それとこの場で、それも自分を前にして意図的にそれを取り出して置いたということは、恐らくは自覚症状はあるものの理解できていないのだろう。
この時点で彼が春華と同じ、そして自分と同じ完現術者の素養がある存在だと想定が出来た。ともすれば、彼が尋ねたいことも想定するのは容易かった。
案の定、彼は「ここ最近になって白い仮面を付けた怪物が見えるようになったんですが、アレ等が一体何なのか、ご存じありませんか?」と、想定通り【虚】について問いかけてきた。成程、春華が事前に何の連絡も無しに自分を彼に紹介しただけのことはある。これは確かに急務な案件だ。
完現術者は虚に狙われる。自分も理由は不明だが、それはこの数十年間の間で自分でもよく分かっている。そして彼も完現術者の素養が見て取れたということは、虚に狙われるということに他ならない。彼が最近になって見えるようになったということは霊力にも覚醒しつつある状態なのだろう。
自分は彼が見たという怪物、つまりは虚について説明した。
理由は様々だがその正体は人間の魂が堕ちた存在。人の魂魄を主食とし、まだ虚に落ちていない人の魂を喰らい、そして時には生者さえも襲い、死に至らしめる。その光景は霊力に目覚め、虚を認識することが出来ない存在なら不審死にしか見えないであろう。
彼らはこの世界――正確には現世と呼称する自分らが生きている世界と
当然、口で説明しただけで理解出来る筈もなく、彼は終始訝しむように自分の話を聞いていた。無理もない。常人からすれば与太話しか聞こえないような内容だ。聞いてすぐに分かるようなものではない。しかし、彼自身にまだ自覚が無いとはいえ、彼も完現術者の素養がある以上、強引にでも理解してもらうほかにない。
「遠くない未来、お前さんも狙われるぞ」
そう告げると彼は一瞬呆然とし、そして明らかに態度を悪くしたが強引にでも話を進めた。そして同時に事に至っては止むを得ないと考え、私は今日の夜に再び自分の所へ訪ねるよう彼に伝えた。
百聞は一見に如かず。
実際にその目で見た方が理解も早いだろう。幸いにしてここ暫くは春華も虚の間引きは行っていないらしく、丁度行おうとしていたいたことを今しがた電話で連絡を取って確認した。
虚の間引きを春華に任せるようになって数年、久しく使わず、けれども手入れは欠かさなかった愛刀を持ち運ぶ竹刀袋に用意し、今こうして日誌を綴っている。
この後、彼と共に虚の間引きを行いに行く。自分の完現術であれば彼を守りつつ虚を倒すことは難しくない。久しく身体を動かしていないので不意な出来事が無ければ特に問題は無いだろう。
時刻を確認すればそろそろ約束の時間だ。彼には先程訪ねてきた人形を一応持ってくるように伝えた。といっても彼を戦わせる為ではなく、あくまで完現術の説明をするためだ。状況からして完現術の覚醒はまだであろうが、恐らくはあの人形が彼の完現術発現の媒介なのだろう。分かり易く説明する為には必要だと判断した。
さて、切りも良いのでここまでとする。
何事も無く虚の間引きと彼への説明が出来ると良いのだが。
――〇月Ω日
さて、何から書けば良いのか…
そう思ってしまうくらいに昨晩は動乱であった。
本日の出来事ではないが書かずにはいられない。整理も兼ねて書き連ねていく。
あの後、彼は約束通りに彼は来た。そしてすぐにこの郊外の未整備地区、普段から春華が虚の間引き場として使っていると言っていた場所へ赴いた。その道中、彼に再び虚が見えたか確認したところ見えたとのこと。数や体躯の形状まで見えたことから、霊力自体はほぼ完全に覚醒したであろうことが分かった。
予定場所に到着し、彼を視認できる手近な木陰へ隠れるように指示し、愛刀を取り出す。すると自分や彼の霊圧に呼び寄せられるかのように虚が出現した。
最初の1体目はそれなりの規模…
その個体は見かけによらず脆弱で、結果だけで言えば背後に回り込んで一撃で仕留めることが出来た。その際、木陰で固まっていた彼は呆然とした様子で自分を見ていたことに気づき、自分の能力とその特性を告げた…相変わらず最初はポカンとしていたが。
それから複数体の虚を討伐し、一段落したところで彼に完現術とそれを操る完現術者について説明した。その内容に彼は酷く混乱、特に生まれる前に母体が虚に襲われることが完現術者に共通すると話した時の憔悴感は酷く、本来であれば彼の完現術も見る予定ではあったが、彼の様子から今日はこれ以上は無理と判断し、その日は切り上げようとした。
今思えばそのわずかな隙と油断、そして慣れているという驕りがあったのだろう。
自分の完現術を説いた瞬間に2体の虚に襲撃された。自身の完現術である【我流・総見試合】はその性質上、外部と内部を隔絶する為、中から外の状況を事前に把握することが出来ない。恐らくは倒された同胞の残り香に寄せられてきたであろう虚に、自分達はまんまと奇襲されることとなった。
お世辞にも既に老体の身。完現術で身体能力はいくらか補助できるとはいえ2体同時、それも彼を庇いながらそれらを相手取ることは困難であり、深手の反撃を受けるのも止む無しと再び愛刀を構えた瞬間だった。
彼が持ってきていた鞄。その中に彼が手を入れたかと思えば、そこから溢れんばかりの完現光と彼から発せられた強大な霊圧。虚はおろか自分も思わず目を背けてしまい、それらが収まったかと思えば彼が立っていた場所に彼はおらず、そこには彼とは似ても似つかない1人の謎の少女…ロボット?アンドロイドというのか?が立っていた。
今でこそ分かるがそれが彼、源内 紅の完現術の能力。その少女から感じられる霊圧は彼のそれと若干の違いこそあれど同じもので、けれども先程までの霊力に目覚めただけの一般人のそれを確かに上回る霊圧を、その小さな身体の内から発していた。
彼の完現術が覚醒した。それを証明するかのように彼…彼女?は瞬く間に襲い掛かった2体の虚を倒して見せた。その光景に思わず言葉を失ってしまった。この年になって心の底から驚愕するとは、春華の時ですらなかったというのに、やはり人生というのは何があるか分かったものではないと今だからこそ思う。
まあその後、両腕の重火器を使った反動で両肩が脱臼したという彼女には別の意味で驚愕したが。大急ぎで肩をはめ直し、一応の応急処置を行い事なきを得たが、その過程で彼(彼女)に触れたことで分かったこともあった。
彼の完現術は【
これは長い時間、春華のそれよりも慎重かつ丁寧に能力を成長させていかなければと即座に確信した。この完現術は強力だ。目の前で見せたように、空想上でしかありえないような武器を実体化させ、それを意のままに操るという、単純に見れば自分のそれよりも遥かに攻撃力は高いだろう。
けれどもそれだけの攻撃力を発せられる、それも扱いと成熟が難しい
今日、改めて春華に連絡を付けた。頼みは彼の訓練の協力と、
明日、彼が再び自分の下を訪れる予定だ。春華も合わせて来てもらうことになっている。さて、久しぶりに本腰を入れて指導をしていくこととなる、自分も気合を入れ直さなければならないな。
◎追記
あれから彼の完現術の姿が気になって春華に尋ねてみたところ、とある企業が作っているプラモデルの一種とのこと。最近のプラモデルというのは少女まで作るというのに驚いた。
しかしその…あの外見はちと破廉恥が過ぎると思うのだがもう少しマジな格好のものはないのだろうか?昨晩は気にならなかったが、今思い返すとあの時の彼の姿はかなりあられもない姿だったと感じる。年端もいかない女子が下着を見せる姿というのはいくら何でもおかしいのではないか?
改めて春華へ尋ねると「公式設定ですよ!」とのこと…この国の企業は変態であったか……