プラモが光った。女の子になった。   作:ベースマテリアル

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日が昇る訓練

 ――某日、午前6時、朝日が昇り始めた空。

 

 とある住宅地の中にポツンと設置された小さな公園。小さな滑り台とブランコが1組ずつ、水道蛇口と砂遊び場が設けられた本当に小さな公園の入り口で、柔軟体操で身体を解している1人の青年――焦げ茶のスポーツウェアを着た源内 紅の姿があった。

 

「……よし、行くか」

 

 柔軟運動で十分に温まったのをしっかりと確認した紅はその身体を軽やかに走らせる。向かう先は自身が通う学校とは正反対、隣町へと続く歩道を走り始めた。

 

 まだ早朝も早朝、自身の友人どころか父親もまだ寝ている時間帯ということもあってすれ違う人は極僅か、朝の新聞を配達している名も知らぬ男であったり、自身と同じくこんな朝方から走り込みをして身体を鍛えようとする同年代かやや下の少年少女達。

 

 新聞の配達員は兎も角、朝方から同じく走り込みをしている方々とはかれこれもう【2週間】の付き合い、いつの間にか互いに顔を覚えてしまう程度の仲となり、紅も彼らとすれ違う或いは偶然にも走る先が同じだった時は軽く会釈をしたり一言二言挨拶を交わすようになっていた。

 

(慣れって怖いなぁ……)

 

 このランニングを始めてから2週間、最初こそこんな朝方に目を覚まし、早々に体力作りをしろと誠彦に言われた時は「絶賛帰宅部の俺にいきなり高ハードルッ!」と喚きもしたが、【継続は力なり】とは正にこのことか。最初の1日目こそ慣れない運動に早々に根を上げていた紅の身体は、気づけばこうして平然と朝のランニングを熟せる位には体力が増加していた。少なくとも2週間前の紅では【30分間走り続け、その間一歩たりとも足を止めずに維持し続ける】なんてことは出来なかっただろうと、紅自身も己の成長を確かに感じ取る。

 

「それもこれも【コレ(・・)】が理由――っと!」

 

 走り続けた先の住宅地の中でも比較的郊外地区、そして周囲に人の目が無いことを確認してから紅は自身の内なる力――【完現術者(フルブリンガー)】としての能力に意識を全力で集中させ、微かにでも感じる力を足底に凝縮させる。すると一瞬、紅の足元に微かな薄緑の光――【完現光(ブリンガーライト)】が生じる。

 舗装された歩道の【魂】が紅の歩を増幅させ、瞬発的に彼の移動を強化。踏み込んだその足を蹴った途端、紅の身体は一瞬にしてその身を前進させていた。

 傍から見ればまるで紅が瞬間移動でもしたかのようなその動きは明らかに人間が出来る動きではなく、そして紅からすればこの2週間で漸くコツと思しき感覚を掴み始め、成功率が3割を超えるようになった歩法――【完現術を使用した高速移動】であった。

 

「よし、成功!大分安定して出せるようになったな!」

「何が『安定して出せるようになった』ですか?」

 

 唐突に呼び声、それも聞き覚えのある声に歩法の成功の喜びが一瞬にして落胆へと変わるのを感じる紅。思わず足を止め、ランニングで荒くなった呼吸を整えながら後ろを振り返ると、そこには自分が通う学校の制服に身を包んだ、自身と同年でやや背が低い1人の青年――【要 九門(かなめ くもん)】が憐みの目で紅のことを見つめている姿があった。

 

「総合成功率30.26%、意図して実行しようとした場合の成功率26.22%、更にそこに自身が想定した場所への移動出来たという条件も加味した場合の成功率は23.69%……一体これの何処が【安定して出せる】なんでしょうねぇ?」

「リアルな数字出すなインチキ虫眼鏡」

 

 つらつらと無慈悲な数字を告げてくる九門に呼吸が整った紅がツッコミを入れる。九門の手にはいつの間にか虫眼鏡が握られ、そこから微かに【薄緑の雷光(完現光)】を走らせていた。

 

「寧ろ2週間っていう短い間にしてはかなり上がっただろーが」

「それはそうですが、せめて成功率70%超えくらいは軽く出来るようになってくれないと」

「だからハードルが高過ぎるっての!」

「何分、師匠譲りなものでして」

 

 そう言いながら笑みを浮かべる九門に「それ言えば大抵許されると思ってるだろ?」と答えながら、紅は再び走り始める。今度は今までとは反対方向に、つまりは引き返す形で走っていく。それを追う様に九門も制服姿のまま走り始めた。

 

「で、こんな朝から今日は何だ?」

「師匠からの伝言です。『今日の放課後は実戦形式だ』、とのことです」

「oh…ジーザス……」

 

 九門の言葉を聞いてガックリとしたように紅は首を倒し、走りながらに大きく溜息を零す。一方の言った側の九門はケロッとした様子で、寧ろ「何かしましたか僕?」というような感じに首を傾げていた。因みにこの間も紅は走り続け、感覚があれば即座に【完現術による高速移動】を行っているのだが、それでも九門のは平然と、それどころか常時足元から完現光を発生させながら紅に付いてきていた。

 

「では!伝えること伝えたんで僕はお先に失礼しますね!」

「おう、前もって教えてくれた礼だ。今日の古文の小テストのカンニングペーパーは没収な」

「なしてー!?」

「冗談だ、3限目の休憩時間に下駄箱に入れといてやるよ」

「わーい!それじゃあまた学校で!」

 

 最後にそんなやり取りとし終えると九門はその場から大きく跳躍。完現術を用いた跳躍増幅によって天高く飛び上がったかと思ったら、次の瞬間には微かな完現光の跡を残してその場から消え去った。

 

「…俺も早くアレ、出来るようになりたいなぁ」

 

 「遅刻しそうになった時に使えそう」という若干邪な動機を抱きながら紅は走る速度を上げ、家へと戻っていく。この後はクールダウンの柔軟とシャワー、それから朝食に学校の準備と、この2週間で激変となった朝の生活を紅は慣れた手つきで熟していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか、源内」

「ええ、実戦形式といわれて今日はガチ目の近接特化のキットを持ってきましたよ」

 

 その日の放課後、紅は総見道場に訪れた。この2週間、正確には3日に1回という間隔で紅は此処を訪れている。因みに休日は基本的に朝から夕まで此処に通い詰めという状態という、紅の私生活はこの短期間の間に文字通り一変し、紅自身もそんな生活に気が付けば適応していた。

 

「宜しい。では、今日も始めるぞ」

「…九門がまだ来てませんが、良いんですか?」

「先程連絡があった。【虚を数体見かけたので討伐してから来る】だそうだ」

「分かりました。では、お願いします」

 

 短いやり取りを終えると、誠彦が手にしていた竹刀を媒体に完現術【我流・総見試合】を発動、道場内に結界を発生させ、周囲の空間と隔絶された【試合場】を形成する。同時に彼が持つ朽ちた竹刀が翠の刀身の太刀へと形状を変化させ、同時に老体の身体から並々ならぬ霊圧が発せられる。

 

「っ…」

「ふむ、大分霊圧の感覚にも慣れたようだな」

「そりゃあ毎回毎回こんな殺気みたく圧力をぶつけられたら否が応でも分かりますって」

 

 これまた誠彦の立ち振る舞いに慣れたように答えると、紅は羽織っていたジャケットのポケットから1体のプラモデル――紅の完現術の媒体である【フレームアームズ・ガール】の1体を取り出し、完現術を発動する。

 

「【フレームアームズ・ガール展開(セッション)――【迅雷(じんらい)】】!」

 

 その言葉と同時に紅の手にしているキット――【FA:G 迅雷】から黒色の霊圧が展開され、それが紅を覆う様にして纏わりついていく。ものの数秒で収まったその霊圧は紅へと収束し、その場に残ったのは紅ではなく、全身に黒い機械を纏わせた1人の少女。

 

 薄紫の髪をポニーテールで纏め、頭部には【FA:G 轟雷】と類似した形状のヘッドギア。軽量機がモチーフなのか、全身の装甲量自体は少なく、上半身の主だった装甲箇所は肩部と胸部から腹部にかけてのみ。それも最低限といった具合に小さく薄い装甲で覆われ、両腕の上腕は機械へと変化こそしているものの、そこには装甲はなく、フレームそのものといった印象を受ける。

 腹部より下はさらに顕著で、脚部こそそれなりに重厚な装甲が両膝と大腿を保護しているが、膝から上は装甲が皆無、少女の柔肌が完全に露出し、鼠径部周辺に至っては【視覚的(・・・)】な意味合いでの最低限度の保護しかない。足先も腕と同様に機械化しているものの装甲は無く、これまたフレームのみといった印象。総合して、機動力と運動性能に特化したような外見をした少女であった。

 そしてそれを裏付けるように装備している武装も極端で、背面に鞘ごと装着された大太刀が一振り、両肩と両脛に大判の手裏剣が1丁ずつの計4丁という、これまた近接戦に用いられる装備類が全身に装着され、如何にも近接戦特化と言わんばかりの装備構成の姿であった。

 

「…痴れ者?」

「それ言ったら戦争だろうがっ!」

 

 彼の完現術の姿、正確にはFA:G 迅雷の姿に思わず零れた誠彦の言葉に食って掛かるようにして紅は相対状態から一気に駆け出して誠彦へと接近、背面の太刀を引き抜き、その刃を勢いそのままに問答無用で振り下ろした。

 

「甘い」

 

 が、その斬撃は空を斬る。紅の斬撃が届く直前に誠彦はその場から瞬間的に移動――完現術を用いた高速移動で回避、すんなりと紅の背後へと回り込んだ。

 

「くそっ!」

「最初のそれよりもよく動ける…だがっ!」

 

 誠彦がその手に構える太刀をお返しと言わんばかりに横なぎに振り放つ。紅は無理矢理にでも振り返り防御を試みるが一歩間に合わず、放たれた斬撃が容赦なく紅に襲い掛かる。

 

「ちっ!」

 

 紅は咄嗟に大太刀を放り捨てて両腕を全面で交差させて防御。振りぬかれた太刀が両腕に接触し、鈍い金属音と火花を散らせると同時に、紅を後方へと吹き飛ばす。

 けれども紅もやられっぱなしはない。吹き飛ばされざまに周囲の空気を完現術して姿勢を制御し、両肩の手裏剣を手にして即座に投擲。更には間髪入れずに両脛の手裏剣も投擲してから道場の木目板に着地した。

 

「ほう?返し手も大分使えるようになったな」

「マジかよ…結構自信あるカウンターのつもりだったんですけどねそれ…」

 

 かなりの速度で放たれ、途中から黄色の閃光を描きながら迫りくる4つの手裏剣を悉く叩き落し、その全てを難なく防ぎ切った誠彦が淡々と告げる。紅は手裏剣が防がれたことに愕然としつつも、無手になった両手に意識を集中させる。

 

(迅雷付属の武器…たしかマチェットとかナイフとかが色々あった筈)

 

 虚空の両手に黒色の霊圧が収束し、それらが武装の形状と変化していく途中でそれは起こった。

 

「だが、時間切れだな」

「えっ…ぁ……っ!?」

 

 紅の両手の霊圧が霧散、更には彼の顔色が途端に真っ青になって思わずその場に力なく崩れ落ちる。同時に紅の完現術も解除され、そこに残ったのは両手両膝を付いて呼吸を荒げて蹲る元の姿の紅と、その傍に転がるFA:G 迅雷のキットであった。

 

「はぁっ!…はぁっ!…はぁっ!……はぁ……」

「凡そ1分と少し、まだまだ使いこなせているとは言えんな」

 

 平然とした様子のまま、自身も完現術を解き、展開していた結界を解除する誠彦。すると結界を解除した先、道場の入り口にまるで待っていたかのように私服姿の九門が、「うわぁ…」と言いたげな表情で立っていた。

 

「あれまぁ…これは酷い有様で」

「来たか九門。丁度いい、今の源内の状態を見てやってくれ」

「了解です師匠」

 

 九門は徐に虫眼鏡、自らの完現術の媒体を取り出すと共に、そのレンズの先を尚も蹲って動けそうにない紅へと向け、己の完現術を発動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ターゲット・イン・サイト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が構える虫眼鏡に完現光の雷光が迸り、観察器具のそれは瞬く間にしてその形状を黒鉄色の1丁の銃火器である【拳銃】へとその姿へ変える。

 銃本体の形状は至ってシンプル。これといった変な箇所や奇妙な部位も無い、後に九門に聞けば「見た目は単なる【FN ブローニング・ハイパワー】ですよ!」というくらいには銃側にはこれといったおかしな変化は無い。もっとも、虫眼鏡が拳銃へと変化している時点で既におかしいことに変わりは無いのだが。

 問題なのはその拳銃に装着されたオプション――【ドットサイトとスコープ】だ。ドットサイトとスコープが合わさったそれは拳銃には似つかわしくない装備であり、ドットサイトは拳銃の幅よりも広角な大きさを持ち、スコープは単なる2倍率程度の大きさのスコープだが、その実は完現術で16倍まで倍率を上げられるという何とも奇天烈な仕様となっている。

 

「どれどれ…っと」

 

 そんな部相応で物騒なその銃口、正確にはドットサイトの中央に紅を捉えるように九門は拳銃の狙いを定める。無論、今も動けそうにない紅へ発砲する為ではなく、この拳銃――【ターゲット・イン・サイト】の完現術の能力を使用する為だ。

 

「う~ん……霊圧はそこそこ上がったみたいですね。体力、身体能力も上昇傾向ですね」

 

 ドットサイト越しに紅を見つめる九門の瞳が完現光のように淡い薄緑の輝きを灯す。それを暫くの間続け、更に自身の完現術から得られる情報(・・・・・・・・・・・・・・)を整理し、それを誠彦へ伝えるように声に出していく。

 

「ですが完現術は以前覚醒途中の状態。霊圧の消耗……いや、これ霊圧の燃費というよりかは彼の完現術が彼自身の霊圧に最適化してない感じですかね?」

「というと?」

「【自身の完現術が自身の魂魄に不適合】、若しくは【完現術を本来の使用法方法で使用できていない】、最悪の場合ですと【完現術が魂魄を汚染しようとしている】……このどれかかもしれないって僕の完現術は僕に教えてくれていますね」

「最…悪……だな………」

 

 そこまで聞いて漸く立てるくらいには回復したのか、ヘロヘロで立つのもやっとといった具合で紅が聞き返してきた。

 

「お前の能力で、その中のどれが理由なのかまでは分からねぇのか?」

「いやぁそれがですねぇ、一見便利な俺の完現術ですけど、こう見えて結構制約があるんですよ。調べられるというか得られる情報に限りがあるとでもいいますか」

 

 

 

 九門の完現術、【ターゲット・イン・サイト】

 その能力は【サイト或いはスコープに捉えた対象の情報を得る】という、幼き頃から九門が自然と抱き続けていた【探求心(・・・)】が完現術に反映されたような能力であるとのことらしい。完現術は術者が内心的に抱いている願望或いは能力発現時の心象状況が色濃く反映される傾向にあるというのは、以前聞いた話だと紅は思い出していた。

 そして本題である九門の完現術の能力はサイト或いはスコープに捉えた対象の情報を得る、具体的には【対象の名前】【対象の家族構成】【対象の能力の有無】【対象の能力の状態】【対象の霊圧】【対象の弱点】【対象の核となる箇所】等など、調べようとすれば捉えた対象の有象無象を全て把握することだって可能という恐るべき能力だ。そして、得られる量とそれに掛かる時間は対象との距離に比例にし、対象を捉え続ければ続けるほど、そして対象と近ければ近いほど、多くの情報をより短時間で得ることが出来る。

 但し、例外として【対象が自身よりも能力的に格上の場合は制限が掛かってしまう】とのこと。自分よりも能力に秀でていた場合や、霊圧などの霊的能力が相手の方が上回っている場合は得られる情報に制限というより枷が掛かったかのように限りが出てしまうという。実際、九門が誠彦の完現術の能力を自身の完現術で調べようとしても【我流・総見試合の解除方法】や【竹刀から太刀へと変化した媒体の攻撃力】、【誠彦自身の詳細な霊圧】は知ることが今も出来ないらしい。

 

 

 

 つまり、何が言いたいのかというと、

 

「俺の完現術がお前より上回ってる可能がある?」

「はい、恐らくは」

「実感ねぇんだけど」

「いや実際ヤバいですからね紅君の完現術。何ですか?フレームアームズとかいう空想上の兵器を擬人化挟んでいるとはいえ実体化させるとか?SF作品をの現実化とかこの世の摂理捻じ曲げるのも体外ですよ?」

「然り。故にお前さんは少しでも早くその能力を制御せねばならない。その力はあまりに膨大で、そして危険性が高過ぎるのだ」

 

 やや引きつった笑みを浮かべる九門と相変わらず厳つく顔を顰める誠彦。そんな2人を息も整え切っていない状態のまま見返しす紅。そんなことを言われても、紅からすればまだこの力、完現術というものを知ってからたったの2週間。切っ掛けとなったあの日から考えても一月も経っておらず、今もどこか自身の能力に漠然とした感覚を感じている。

 

(俺からすれば誠彦の爺さんも、そんなインチキ染みたクソ強拳銃のお前の方がよっぽどヤバいと思うんだがな…)

 

 今のところ、紅が完現術を発動展開を行えるのは約2分。そこから更に全力戦闘までしようともなれば1分どころか下手をすれば30秒で完現術が解除され、今のように強烈な疲労感に襲われる。肉体的にもそうだが、完現術という霊的な能力の消耗は精神的な消耗も激しく、回復もそう簡単ではない。

 尚もそんな状態自分の完現術を称賛されたり危険視されても紅にはどうにもいまいち実感が湧かなかった。制御し切れていないのは分かるが、仮に完全に完現術を会得したとしても目の前の2人に到底届くような能力や力となるかと言われれば甚だ疑問であったからだ。

 

「さて、そろそろ回復しましたよね紅君?」

「えっ」

「2本目行きましょう!次は僕が相手です!」

 

 そう言いながら向けていた銃のトリガーに九門は指を掛ける。誠彦は無言のまま完現術を再度発動し、試合場を形成する。

 

「…拒否権は?」

「あるとお思いで?」

「だろうなぁっ!」

 

 回復し切っていない状態ながら紅も再び完現術を発動。手にしていた迅雷から発せられた霊圧を身に纏い、その姿を手にしていたキットの姿そのものへと変化させ、今度は背負っている大太刀ではなくどこからともなく生成したマチェットとコンバットナイフの2本の切っ先を九門へと構える。

 

「次は1分は耐えてくださいね?」

「上等!そっちこそその服切り裂かれても文句言わせねぇからな!」

 

 自身の声色がCV:樺山ミナミと化した紅が一気に踏み込む。足元に完現光が明滅し、一瞬にして九門を己の間合いに捉える。

 

「そうこなくっちゃ!」

「はああああああぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、更に誠彦と2回、九門とは3回の模擬戦を行い、結果は紅の全敗で終わった。更に言うのであれば、ここ2週間通算連敗記録を更新し、対誠彦戦は11連敗、対九門戦は14連敗という残酷な現実が紅に圧し掛かった。

 

「はぁっ………は…―――」

「師匠、紅君死にません?というか死んでませんコレ?」

「死んではおらん。寧ろ人の魂魄は死の淵に立たされればその分霊圧が活性化する。完現術の訓練は半殺し前提、何なら殺しても構わん程度でなければならなんのだ」

「相変わらず厳しいですよね師匠~」

「―――す、すこ…しは……た、たす、けても、良いん、で、です、よ……?」

 

 完全に道場に這いつくばっていた紅が掠れた声を上げるが2人は完全に無視。倒れ伏す彼を横目に、紅の完現術についての話を続けていた。

 

「で、お前さんから見たコイツ。どんな感じだ?」

「この2週間での伸びは悪くないです。身体能力もちゃんと伸びてますし、霊力も同じく成長傾向、完現術も不完全ながらある程度は理解と制御を行えている」

「お前さんよりも成長速度そのものは早い。もう2週間もすれば基礎的な完現術の技術は習得し終えるだろう」

「ええ。ですが肝心の彼の完現術本体が不完全覚醒…というより、今日の模擬戦で気が付いたんですけど…恐らく紅君、【中途半端な媒体で完現術(・・・・・・・・・・・)】を発動してると思います」

「何?」

 

 唐突な話、それも紅の完現術の根本的なことを言い出した九門に誠彦が目を剥く。無論、2人の背後で尚も倒れている紅にもそれは聞こえており、驚きで息を飲んだ。

 

「僕達完現術者は使い慣れた物、若しくは愛着やこだわりのある物を媒体に完現術を発動し、固有の能力を発現させます。ですが、どうにも紅君の完現術、それと完現術発動時の霊圧状態を見ると何か違和感があるんですよね」

「いわ…感……?」

 

 漸く立ち上がれるくらいにまで回復した紅が、息を荒げながら問いかける。すると九門は「そうですねぇ…例えて言うとすれば」と考え込み、ふと思いついた例えを告げた。

 

「【体格がLなのにSサイズの服を着ようとしている】!」

「…はい?」

「後は――そう、【棍棒で斬ろうとする】、【剣で殴りかかる】!こんな印象ですね!」

「……??」

「つまりですよ紅君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅君は【本来の媒体ではないもので無理矢理完現術を発動している】ってことです!」

 

 ドヤ顔で言い放った九門の言葉に紅は言葉を失った。紅だけではなく、誠彦もその考えは無かったと言わんばかりに驚愕の表情を浮かべていた。

 

「は…いや、だって、俺の完現術は」

「それは勿論分かってます。紅君の完現術は自分が制作したキット、その中でもフレームアームズ・ガールに限り、自身の姿をそのキットの姿へと変化させる能力。その際、制作したキットの付属装備も同様に実体化させる。【轟雷】であればバズーカとナイフ、今日持ってきた【迅雷】であれば複数のナイフやマチェット、何なら包丁もやろうとすれば実体化させられましたよね?」

「あ、ああ…」

 

 この2週間の完現術の訓練。それによって紅も自身の完現術【フレームアームズ・ガール展開(セッション)】のより詳細な能力を少しずつではあるが理解と把握することが出来ていた。

 

 まずは自身の姿。これは制作したキットのがそのまま自身に反映される――という訳ではなく、実際は少々異なっている箇所がある。具体的には頭部の髪、肘や膝といった関節部。これらはキットそのままの場合、プラパーツの一体成型や複数のパーツを用いた関節構造になっている。けれども、完現術で自身がFA:G化した場合、頭部は色や髪型こそキットのそれではあるが、髪質は人のそれと同じであり、関節部もキットと同様の構造ではなく、人間それと同じ不自然の無い人体の関節になっている。

 

 そして武装の類。結論から言ってしまえば、完現術によって姿を変えたFA:Gに本来付属している武装は虚空からでも展開と生成を行えた。【轟雷】であれば専用カラーのフリースタイル・バズーカとナイフ、【アーキテクト】の場合インパクトナックルを、それぞれ完現術発動中に意識すれば展開することが出来た。(後者は展開時にその重量に耐えきれずに再び肩が外れかけた)

 

(けど、【スティレット】で【轟雷】や【バーゼラルド】の装備は生成できない。【マテリア】に至っては何の装備も出せなかった…アニメだとM.S.Gの【ビーストマスターソード】とか【グラインドサークル】とか使ってた筈なのに…)

 

 前者は兎も角、後者の【モデリング・サポート・グッズ( M. S. G )】系統の装備も呼び出せないというのが紅の完現術にある種の制約を掛けていた。最初はキットに持たせていないからか?と【マテリア(ノーマル版)】に【ビーストマスターソード】を持たせて完現術を発動させた時もあったが、結果は不発。唯の痴女姿を誠彦を見せびらかすだけに終わるという悲しき事件もあった。

 

「無論、完現術の媒体は人によって様々。紅君のように複数個の媒体で完現術を発動させることが出来る完現術者が居てもまあ可笑しくは無いですね」

「ああ。だから俺はこうして」

「ですので、これは1つ提案なんですが」

 

 言葉を続けようとした紅を制し、九門が代わりにとあることを問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅君。完現術する前提のガール(・・・・・・・・・)――つまりは【専用機(・・・)】ってヤツ、作ってみてもらえませんか?」

 

 予想だにしない提案に、紅は手にしていた迅雷を手から零れ落としてしまった。

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